2021年4月29日木曜日

漢字「菜」の成り立ちから何が見える:「菜」の原字は「采」、両者の間には決定的な生活様式の変化が!


漢字「菜」の成り立ちと由来の意味するもの:「菜」(野菜の摘み取り)の原字は「采」(果物の摘み取り)両者の間には決定的な生活様式の変化があった!(採取生活から農耕生活へ)
漢字「菜」の成り立ちから何が見える:草カンムリが付いただけではない!古代の人々の生活様式の変化を見た!文字の変化の中に採取生活から農耕生活への変化が刻み込まれている。

漢字「菜」の楷書で、常用漢字です。
この「菜」という漢字が生まれた時代はどのような時代だったのでしょうか。

 商周の時代、次第に生産力は発展し、農作物の品種も増加して、産量も高まった。五谷即ち粟、豆、黍、麦、稲の植え付けも出現した。また豆類、葱類、麻類も植え付けられた。

 奴隷制社会の国家的発展は農業を発展させ、「井田制」の共同農業で、労働生産性も高まり、灌漑・排水のシステムも整備されてきた。

このような社旗的、時代的背景の上に人々の生活が充実し、文化が芽生えていくのだろうと感じる。
菜・楷書


《説文》には草カンムリは草の食うべきものとあり、菜食を示す
つまり甲骨文字と小篆の間には、果実の採取と野菜の摘み取りという決定的な違いがある。  
采・甲骨文字
「爪」(手)+果実によって、果実を摘み取ることを示す。
「菜」・小篆
草カンムリが加えられ、採取の意味を表す字と分離した。
菜・楷書


    


「菜」の漢字データ
 

漢字の読み
  • 音読み   サイ   
  • 訓読み   な

意味

  •  あおもの(青色の野菜)、野菜
     食用とする葉や茎または、根など草の総称
  • おかず  例:一汁三菜、前菜


熟語   菜種、青菜、若菜、高菜、菜園、野菜、山菜、根菜




引用:「汉字密码」(Page、唐汉著,学林出版社)
唐漢氏の解釈
 「菜」は「采」の声で、説文には「食べることが出来る草、古くは采で「菜」を表した。甲骨文の采の字は「爪」と果(甲骨文の果の初字の合成した会意文字である。爪は手で、手が樹果の上にあって、摘み取ることをあらわす。小篆の時期には采の上に草カンムリが追加され動詞の采と分離した。

 字の出どころは古代の蔬菜がその多くが野生の葉を摘んでいたことにある。菜は本は副食品を作ることができる植物の茎、葉、根即ち蔬菜を指す。

 

漢字「菜」の字統の解釈
 旧字は采に作り、采声。野菜をいう。


まとめ
 文字の成り立ち、変化を調べることは、単に文字学を極めることに留まらす経済発展、生活様式が面白いようにあぶりだされてくる。



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2021年4月28日水曜日

漢字「暴」の成り立ち:漢字「暴」の古代文字は、古代人が日焼けを怖れていたことを思わせる!!


漢字「暴」の成り立ち:漢字「暴」は日に曝されるという意。古代人にとっても日に曝されることは重要な関心事であったのか

 な、なんと、古代人が日焼けを怖れていた!! 本当?

このページは、2011年12月15日に掲載した記事を観点を少し変えて書き直したものです。
 「漢字:「暴」の起源と由来:光に麦の穂が晒されているのを表現したもの」


 漢字「暴」の楷書で、常用漢字です。

 暴言、暴行、暴力、暴政世の中が騒がしくなったせいか、やたらこのような言葉が飛び交うご時勢である。

 「暴」の字の本義は金文や小篆からも明らかなように、「暴力」というより、日に曝すことが原義である。日焼けするということが、いかに凄いことであることかが、字に込められている。

これからの季節太陽の光はますます強くなり、温暖化現象、オゾンホールの出現などで、太陽光・紫外線にバック蘆されることが多くなる季節に突入する。
 女性はもちろんのこと男性も、くれぐれもご注意あれ!
即・楷書




  
暴・金文
日の光が下に向かって照射している様を表している。
暴・小篆
形の変わった両手が太陽の光のもとに米を晒している様を示している
曝・楷書
後に日にさらすという意味を明らかにするため「曝」という漢字が生まれた


    


「暴」の漢字データ
 

漢字の読み
  • 音読み   ボウ、 バク
  • 訓読み   あば(く)、あば(れる)

意味
  • あばれる 
    強く激しく行動する(荒々しい)、優しく扱わない。 (例:子供が暴れる、乱暴)
    危険や困難を恐れず、積極的に事を行う (例:国会で大いに暴れる)
  • あばく
    土を掘って取り出す (例:墓を暴く)
    人が隠している事、気づかないでいる事を探り出して公にする(多くの人に知り渡らせる)。明らかにする
  • 程度が普通の状態を遥かに超えている(例:暴風、暴利)
  • 日にさらす。外に出しておく。(曝す)
  • 激しく虐げる(例:暴政、暴圧、暴虐)
  • 「知れる、他の人に知らせる。 例:暴露

使い方  嚗、瀑、曝、爆、襮、㬧
     爆 爆弾の爆ですが、原子爆弾を意味することも多い。
     「被爆」とは、放射能に曝されるという特別な意味を持っている。

熟語
  • 強く激しい    凶暴、乱暴、兇暴、暴漢、暴虐、暴動
  • 度を越している    暴飲、暴雨、暴挙、暴言、暴食、暴走、暴投、暴騰、暴落、暴利
  • 暴く  暴露




引用:「汉字密码」(Page、唐汉著,学林出版社)
唐漢氏の解釈
 「暴」この字は一種の会意文字である。金文の「暴」の上辺は日の光が下に向かって照射している様を表している。下辺は突出した麦の穂が成熟した形である。あたかも日の光が降り注ぎ、麦が熟しているときの描写である。小篆の暴の字は形の変わった両手が太陽の光のもとに米を晒している様を示し、楷書・殻隷書に変化する過程の中で、再び形が変わり暴の字となり、形は似ているが雰囲気が失われた会意文字の形になった。

 「暴」の字の本義は「晒」である。即ち太陽の光に照らされている意味である。《周礼》にあるように春に絹を晒す。ここではおよそ色を染めるには絹を晒す春の日が必要であるという意味だ。日に晒すということから引き出されてくるのは「顕露、顕示」の意味で、暴露と同じである。赤い日が空に当たり、強烈な日差しが火に似ていることから「慌ただしい、猛烈」ということが引き出され、「暴雨、暴怒、暴躁」等の言葉が出来た。また「残忍、残酷」の意味も表わされ、暴虐、暴行、暴徒等の言葉にもなった。 
 

 

漢字「暴」の字統の解釈
 会意文字である。日と獣屍の形に従う。 即ち曝死の象である。

 字形は「獣屍の上に日を加えたもので、暴露の意。 骨を曝す」というのが、字の初義である。その暴露して色が抜け、皐白となったものを皐といい、雨ざらし、日ざらしの獣皮の象形である。暴は日照りにさらされているものであるから暴疾の意となる。


まとめ
 「暴」の古代文字を見ると、この文字が実は、日に曝されることを示していたことが分かります。なぜ日に曝されるということを漢字にまで取り込まなければならなかったのかその秘密は今はまだ分かりません。ただ漢字のつくりがその事実を示していることだけは確かです。
古代は今よりずっと太陽光線はきつかったのかも知れません。事実、中国の北部(今の中原)には亜熱帯の猛獣が闊歩していたということもあったようですから、この漢字の意味することは重要な事実を物語っているのかも知れません。



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2021年4月26日月曜日

漢字「来」の由来の意味するもの:「来」は麦の象形であった。この「来」と「麦」はどうしても結びつきません


漢字「来」の成り立ちと由来の意味するもの:「来」は麦の象形であった。この麦こそ、黄河文明を誕生させた立役者とともいうことができる
 漢字「来」は麦の象形であった。この「来」麦のお陰で、荒ぶる黄河の流域に穀物が豊富な黄河文明を来たした。しかしこの「来」と「麦」はどうしても結びつきません。「来」はどこから来たの?
 その謎は甲骨文字などの太古の文字を見れば解ける!
漢字「来」の楷書で、常用漢字です。漢字「来」は実は大麦だったのです。大麦の原産地は今のイランやイラク辺りだったということですが、3800年ぐらい前の新疆ウイグル地区の遺跡からこの種子が発見されています。
 夏商時代に西から伝播し黄河の流域で種をまかれ、栽培されたのではないかと推察されています。
「来」・楷書
このデッサンから、大麦ではなかったかと推察されている。




甲骨文字から、小篆の時代までおそらく1000年近くの時の流れがあったろう。その間の文字の変化は、社会の変化であったろう  
「来」甲骨文字「来」・金文
「来」・小篆


    


「来」の漢字データ
 

漢字の読み
  • 音読み   ライ
  • 訓読み  く(る)、きた(る)、きた(す)

意味
  • 来る  単純に行き来の「来る」(「去る」の反意語)
  • きたる(近いうちにという意味を表す)
  • きたす  結果として、ある事柄を生じさせる。結果になる

熟語   家来、未来、本来、旧来、従来、由来




引用:「汉字密码」(Page、唐汉著,学林出版社)
唐漢氏の解釈
 今から3800年ぐらい前の新疆孔雀河畔の古墳中にある。専門家たちは夏商時代、麦が次第に東方に伝播され、黄河流域の古代の先民が種植したと認識している。中国最古の典籍の一つの《書経》に記載によると「麰」が来たことを記されており、ここの麰は大麦で、「来」は小麦のことだ。


 

漢字「来」の字統の解釈
 象形 麦の形に象る。《説文》に「周受けるところの瑞麦・来麰なり。・・芒朿の形に象る」とある。周の后稷が楚の瑞麦嘉禾を手に入れて周が勃興するに至ったという伝承がある。周の后稷は農業神であり、周の始祖でもあるからこの伝承は古いものであるとしている。


まとめ
 漢字「来」の由来が面白い。原意は、麦の象形文字であったろう。しかし、この「麦」が、古代中国の農業生産に革命的役割を果たし、夏殷帝国に繁栄をもたらしたことから、「来る」という意味を持つようになったのであろう。ここにも生産力の発展が文字に与えた影響を見て取ることができる。



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2021年4月25日日曜日

漢字の成り立ちと由来の意味するもの:「幹」:古代の人々は樹木の生長から、根や幹の役割を認識し、自分たちの集団行動の規範を作っていったのだろう


漢字の成り立ちと由来の意味するもの:「幹」:古代の人々は樹木の生長から、根や幹の役割を認識し、自分たちの集団行動の規範を作っていったのだろう
以前に、このブログで「干支」との観点から、漢字「幹」と「枝」につて考えたが、ここでは十二支から離れて、純粋に漢字学の観点から改めて、「幹」と「枝」について考察する。
参考ページ:「「支」(木の枝)と「干」(木の幹)から古人は年月の数えるのに干支(えと)を考え出した」


漢字「幹」の楷書で、常用漢字です。「幹」と「枝」は字の生成から見る限り、幹から切り取った象形(会意)になっており、字の生成か手を跡付けるのも興味深いものがあります。
幹・楷書




  
「幹」金文
「幹」・小篆
「幹」の原字は「倝」(かん:旗竿に吹き流しを付けた形)
幹・楷書


    


「幹」の漢字データ
 

漢字の読み
  • 音読み   カン
  • 訓読み   みき

意味
  • 物事の最も大切な部分
  • 中心となるもの
  • 全体に支配的な影響を及ぼす部分・人

熟語   幹部、基幹、根幹、語幹、幹事、幹線、体幹




引用:「汉字密码」(Page、唐汉著,学林出版社)
唐漢氏の解釈
 「幹」は木の幹の主要部分で木の先を支える役割も持つ。拡張されて事物の主体、重要部分を表わす。体の幹、幹線など。
 現代漢語中で「材干、骨干」の字句はここから来る。「幹」は木の幹である。小篆の幹の字は会意文字である。樹木に力を与え、上に伸ばすことも含め、太陽の光を争う意味である。

 又古代古墳の時代、板を両辺から支え手立てておき固定するのに用いた杭からとったものだという人もいる。節や傷がなくまっすぐで、樹木の幹の部分からとる。後々まで長く使え、後来幹を木の根幹の部分を言うようになった。
 

 

漢字「幹」の字統の解釈
 形声文字である。「幹」の初文は「「倝」」で、旗竿に吹き流しを付けた形で、発声は「かん」。さらに木を加えて根「榦」の字となった。


まとめ
 「幹」:古代の人々は樹木の生長から、根や幹の役割を認識し、自分たちの集団行動の規範を作っていったのだろう。よく言われる「十干」という概念が、この「幹」という漢字との関係にはまだしっくり行かないものがある。



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2021年4月24日土曜日

漢字「広」の成り立ちと由来が意味するもの:「広」は昔、「廣」と書いた。「廣」の成長を跡付ける


漢字の成り立ちと由来から何が分かる
漢字「廣」の成り立ちと由来が意味するもの:「広」は昔、「廣」と書いた。「広」の成長を跡付ける。古代の建築技術の発展が読み込まれている?
・・・漢字「廣」は甲骨文字から金文への過程で、大屋の壁がないものに表現されている。つまり、壁がなくても柱だけで大きな屋根を支える事が出来るようになったと考えられる。それは、長屋のような建物の中にオリンピック・スタジアムを作るような驚愕の出来事ではなかったろうか。

 もちろん文字の変化だけで結論付けるにことはできないが、将来遺跡の発掘などでこの裏付けが為されるのでは、期待している。


漢字「広」の楷書で、常用漢字です。第2款は「広」の旧字体です。
新字体になってからは、漢字が生まれてからずっと継承されてきた漢字「廣」の持つ意味合いが薄まれてしまってはいますが、時代の流れであり仕方がないことです。広く漢字が使われていくためには、喜ばしいことかもしれません。

 同じような意味を持つ漢字に「弘」があります。弓を引くときに両手を大きく広げることから、「広い」という意味を持つようになったのかも知れません。
広・楷書、簡体字廣・楷書、繁体字 




  
「廣」甲骨文字
殿の大屋の中で火矢の形が表示されている。
「廣」・金文
殿の大屋が广(まだれ)に変って、大きく解放された様子に変化している
建築の技術が発展し、壁のない大屋が出現し、文字でも大きさ・広さを強調しようとしたのだろうか
「廣」・小篆
文字としての体裁を整え、且つ概念も抽象化により明確にしようとしたのだろうか


    


「広」の漢字データ
 

漢字の読み
  • 音読み   コウ
  • 訓読み   ひろ、ひろ(い)、ひろ(まる)、ひろ(がる)

意味
  • 「ひろい」 形容詞的用法
     大きい空間、場所    例:広大な平原
     間隔に余裕がある、   例:広い道路
     大きい範囲に行き渡っている 例:広い知識
     他人の意見をよく取り入れ、思いやりがある 例:度量が広い
  •  ひろげる  動詞的用法
      空間・幅・範囲を大きくする。ひろめる。ひろくする。    (例:道を広げる)
      範囲を大きくする。ひろめる。ひろくする。
       例:商売を広げる、広告
      包んだり畳んだりしてある物や閉じてある物などを開く。 (例:荷物を広げる)
      たくさんのものを辺りいっぱいに並べ置く (例:店を広げる‥比喩)
      
  •  大きな屋根があり、四方の壁のない建物
  •  直径・さしわたし  円または球面上の端から端までの距離」
  •  中国の広東省の略称(ナンバープレートに表示されている)

使い方  黃、磺、橫、廣
熟語   広域、広義、、広告、広範、広報、広場、、末広 、幅広




引用:「汉字密码」(P741、唐汉著,学林出版社)
漢字「広」の字統の解釈
 旧字は「廣」で、黄声。「説文」に殿の大屋なり」とあり、四方の壁のない建物をいう。引伸して広大の意とする。
 

 




 
「黄」・甲骨文字
漢字の成り立ちは、「广(まだれ)」+「黄」
广(まだれ):広、府、庁など。建物に関する漢字に使われる

漢字「黄」の字統の解釈
因みに字統では「黄」について、下記の説明をしている。
 「甲骨の形は火矢の形に見え、金文の字形は佩玉の衡のようである。甲骨文の字は矢の鏃の部分が大きく描かれ、易書に言う黄矢の徴で、黄とはその火光をいう字であるとある。


唐漢氏の解釈
 「広」は「廣」の簡体字です。甲骨文の「廣」の字は会意文字です。上部は屋室の形であり、下の「黄」は母親が産み落とした皮膚の黄色の多くの子供を指している。したがって、「多い」という意味を持っている。

 私はこの解釈に全く同意できない。交通の発達した現代ならいざ知らず、太古の昔に自分たちが、「黄色人種」と認識できたであろうか。黒人や白人など色々まじりあって初めて、自分の肌は黒いの白いの黄色いのと自覚できるのであって、人種もまじりあっていたようには思えない時代に、人は肌の色が黄色なんてことは認識できていなかったはずだ。つまり、人間の認識が客観的になるには、もう少し時間が必要だったように思うのだが・・。


まとめ
 漢字「広」は旧字は「廣」といった。「廣」が古代の社会で自らの姿を変えた背景には、その時代の建設技術の発展があったのではないか?



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2021年4月21日水曜日

漢字「良」の意味するもの:穀物の袋・器もしくは計量器のこと。蓄えることが「良い」という概念の誕生に繋がった。生産力の発展があった?


漢字「良」の成り立ちと由来が意味するもの:両端に口のある穀物を入れる袋・器を表し、貯蓄できるものから「いい、良い」という字義がうまれた。つまりそれだけの生産力の発展があったのでは?
漢字「良」の楷書で、常用漢字です。漢字「良」の成り立ちには、諸説ありますが、今のところは白川博士の説が最も科学的であるように思います。

 ただ、藤堂博士にしろ、唐漢氏の説にしろ、それぞれに論拠があるので悩ましいところです。ここは考古学の出番となるのでしょうね。今後の研究の成果に期待がかかります。

 しかし前にお話しましたように、このブログは学説の是非を議論するところではなく、単に文字学ということではなく、文字を通して、社会的、歴史的な発展を推し測ることを使命と考えますので、今後も自分の立場をわきまえたいと思っています。
良・楷書




  
「良」甲骨文字
真ん中の□は穀物を入れる袋、
壁に開けた穴即ち窓、穀洗の噐の説で、
3説共通するのは、比較出入りの頻繁な空間だということだ。
「良」・金文
字形を見ていると、入れ物の使い道が
はっきりしてきたようで、上から注いで、下に排出する器に関係しているように思える
「良」・小篆
金文を受け継いで、文字としての体裁が整えられ、文字として進化を遂げている。
ただ、象形から「よし」という抽象的な概念に行きつくには、そのような容器の更なる使い込みがなくてはならないと思う


    


「良」の漢字データ
 

漢字の読み
  • 音読み   リョウ
  • 訓読み   よ(い)

意味
  • 「よい」、「いい」(反意語:悪い)
     優れている、まさっている
     富んでいる(金持ちである)、豊かである
     めでたい(喜ばしい)
     やすらか、おだやか
     素直、おとなしい
     
  • 形容詞   よく(同意語:善)、 正しく、上手に、立派に(例:良くできました)
  • 親切に、丁寧に
  • 多く、しばしば、~しがち  
  • 十分に、非常に
  • できる、まことに(本当に、実に)、やや(少し、しばらくして)
  • すぐれた人・馬

使い方(要素) 娘、浪、郞、朗、狼
熟語   良案、良貨、良好、良港、良妻、良才、良策、良識、良質




漢字「良」の字統の解釈
 象形。袋の上下に流し口を付けて、穀物などを入れその量を測るものをいう漢字「量」も袋の上に流し口のある形で、穀物を入れその量をはかるものであるから、良・量その字形と声義に通ずるところがある。良は上下に口があり、上下に打ち返すことができるものである。

 良は穀量の器であるが、その良善なるものを選ぶ意があり良穀の義から物の良しあしをいう言葉となったのだろう。

漢字「良」の漢字源の解釈
 良は粮(きれいにした穀物・糧の簡体字)の原字




まとめ
 漢字「良」はその意味するところは、そもそもは穀物を入れる容器だった。単なる容器の呼び名が、「良きこと」という概念に発展する。その背景には、その容器を生み出し、使い込むだけの社会の生産力の発展があったのではないか。また「良」は、穀物の良を計る袋にその由来を持ち、穀物の中身の良善を選ぶという現実的なことから生まれている。その関係か、「良」はいかにも平易な優しい雰囲気と趣を持っている。おもしろいものだ。



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漢字「善」と「良」の成り立ちと由来の意味するもの :「善」と「良」の違いってなんだ?


漢字「善」と「良」の成り立ちと由来の意味するもの・・共に「良きこと」「善きこと」を語義に持つがここに漢字の出生の秘密のベールがはがされる
漢字「善・良」の楷書で、常用漢字です。両者共に意味は「良きこと」となるが、その成り立ちはずいぶん異なる。
 「善」は神(神羊)の前の審判から生まれた漢字で、古代中国で行われた審判(裁判)がそのまま字になったものです

 一方良は、両端に口があり、穀物を入れてその量を計る(袋)のことであり、その穀物の良しあしを計ることから、「良」という意が生まれたものといわれている。また「良」は天与のものとされ、先験的に善を認識する能力をいう。
善・楷書良・楷書




  
「善」甲骨文字「善」・小篆
神羊+二つの言(被告と原告の両者の針を指す辛とそれぞれの祝禱である器)で、神羊の前で白黒を争った審判をしめす
良・甲骨文字
良は穀量の器であるが、その良善なるものを選ぶ意があり良穀の義から物の良しあしをいう言葉となったのだろう。
良・小篆
  


    


「善」の漢字データ
 

漢字の読み
  • 音読み   ゼン
  • 訓読み   よい

意味
  •  行いや性質などが好ましい。よい。よいこと。
  • 「正しい」、「道理にかなっている」(例:善道) 
  • 「優れている」、「立派」

使い方
  • 「善」・・道徳的に手本になる  
  • 「良」・・優れている

熟語   善悪、善意、善行、善処、善戦、善良、改善




引用:「汉字密码」(Page、唐汉著,学林出版社)
唐漢氏の解釈
 「善」という言葉は、甲骨文字では羊の頭の下に描かれた一対の目で、羊の目によって表される柔和さを意図的に強調しています。
 漢字の進化により、羊の目の下部は「誩」になり、「羊と誩」の意味を持つ言葉になりました。通常の楷書の進化の過程で、簡略は「良い」だけで、下辺は一つだけの「言」を持つ漢字「善」になった。 「善」の字の構成中、「誩」または「言」はすべて、羊の表音を表している。これは、このおそらくこの種の「咩咩」の呼び名、または目に見える柔らかさや無力感が、 羊は「善」の象徴のような存在になったからです。

「善」の本来の意味は、善と親切です。 「良い」という言葉は動詞として使用され、「いいね」、「愛」、「優しさ」、「良い」を意味します。

 

漢字「良」について
漢字「良」については、別のページに纏めました。下記のリンクを参照ください。
 「漢字「良」の成り立ち:穀物の袋・器である「良」から「良い」という概念の誕生の背景には、生産力の発展があったのでは?」


まとめ
 漢字「善」と「良」はその意味するところは、共に「良きこと」であるが、その成り立ちはずいぶん異なる。「善」は「神羊」の前で善悪を争う、古代の審判・裁判にその由来を持つ。その一方、「良」は、穀物の良を計る袋にその由来を持ち、穀物の中身の良善を選ぶという現実的なことから生まれている。その関係か、「善」の方が「良」に比べ字面がどちらかというと精神主義的な趣を持っている。一方の「良」はいかにも平易な優しい雰囲気と趣を持っている。おもしろいものだ。



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2021年4月18日日曜日

漢字「陽」の中に、陰に陽に込められた陰陽の成り立ちと由来の謎


漢字の成り立ちと由来の中に陰に陽に込められた陰陽の謎

 このページの表題は、一見いかにもいかがわしい印象を与えます。現代の実証主義的な考え方にならされた私たちは、陰陽と聞くと、即座に陰陽道の「安倍晴明」の名前が浮かび上がり、何か得体の知れないものを感じ取って、それだけで拒否反応を示してしまいます。
 しかし陰陽説は、春秋戦国時代に生まれましたが、それとは別に独自に生まれた五行説と融合し、陰陽五行説として、理論的にも確立されています。

 勿論科学の分野で言えば、多々批判はあるとは思いますが、陰陽五行説を単なる観念論として葬り去るのではなく、シッカリ捉えなおす必要はあるのだろうと思います。このことは西洋哲学において唯物論と観念論の論争の中で、ヘーゲルが弁証法を提唱したときの出来事と同じような様相を呈しているとかんがえます。

 前置きが長くなりましたが、陰陽五行説も、今日まで、特に中医学の分野で、中心的理論として大きな役割を果たしている現実から見て、一概に観念論として片付けてしまうわけにはいかないような気がします。


 漢字「陽」の楷書で、常用漢字です。陰という漢字も並列しましたが、両者とも「阝」(こざとへん)を持っています。これは神梯を表しており、神と現世を繋ぐものと考えられ、神が現世に降りてくるもしくは神が天上に上るときの橋とも考えられています。
 そしてこれらの漢字の旁は、それぞれ、霊気を強めるものと霊気を封じ込めてしまうことをあらわす全く二つの機能で構成されています。4000年前の人々はある意味このような世界観を持った人々だったといえると思います。
陽・楷書陰・楷書




  
昜_甲骨
「昜」は陽の原字で陽光が照射するさまを表した、
陽・甲骨文字
神梯の前で玉光の放射によって、霊威を崇めることを示す儀式である、魂振りの儀礼を示す
「陽」・金文
甲骨文字の陽光の表現がよりそれらしくなっている
  


    


「陽」の漢字データ
 

漢字の読み
  • 音読み   ヨウ
  • 訓読み   ひ

意味
  • ひ(日)・・(例:太陽)、ひなた(日の当たる所)、陽光
  • 天・春・夏・日・天子・君主・父・夫などのように、主に積極的・男性的な性質を持つもの」(反意語:陰)
  • 現れる・・ 陽転
  • 明らか・・陽性
  • 目に見える・・陽動作戦
  • 高く、大きい
  • 男性の生殖器(反意語:陰)
使い方
  • 「ひ(日)」  太陽、陽光
  • 「現れる」・・陽転

熟語   陽炎、陽気、陽光、陽性、陽転、陽動、陽石、陽子




引用:「汉字密码」(Page、唐汉著,学林出版社)
唐漢氏の解釈
 「陽」は会意文字である。甲骨文字の左辺「阜」の原本は上古時代の梯子の象形デッサンである。この表示にはいくつかの階段状の山波があり右側には「日」で、太陽だ。下部は陽光が反射する符号Tがある。字形全ての会意で、陽の光が山波の上に照射している状態だ。いわゆる陽の本義は陽光の照射だ。このことから拡張して、山の南面に向かって日の指すところ、山の丘の出っ張った場所を示している。小篆の「陽」の字は変化し阜と陽とで形声字となった。楷書はこの関係から「陽」簡体化して「阳」となった。

 

漢字「陽」の字統の解釈
 声符は昜(よう)。昜は玉光が下に放射する形。玉光には魂振りとしての呪能があるとされた。それを神梯の前に置く形である。陰陽はもと侌昜と記した。昜の日は珠玉の形、下はその光の放射する意。玉光によって清め、霊威を高めることを示す。その霊の働きをまた陽という。


まとめ
 会意文字である。漢字「陰」と共に、真逆の意味を表している。その意味は、明るいというだけの意味ではなく、明暗、物理的なプラス・マイナス、などいろいろな意味を内包している哲学的な言葉である。

 先入観に捉われることなく、虚心坦懐にこの「陰陽」という概念を捉えなおすことも大切なことであると思う。



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