2021年7月27日火曜日

漢字・疑の成り立ちと由来:自分はどうすべきか、凝然と立ち尽くす様を示す。この文字の語意は「迷う」ことである。では疑うを示す漢字は何?


漢字「疑・嫌」はいずれも「疑い」示すことは疑いようがない。この二つの言葉の真の違いが今明らかになる。
 漢字・疑の成り立ちと由来:人は疑う動物である。3500年前から今に至るまでDNAに受け継がれている。今や疑惑の時代言い換えればフェイクの時代!

 漢字・疑の成り立ちは自分はどうすべきか、凝然と立ち尽くす様をしめす。この姿は甲骨文字から一貫して今も全く変わらない。今でも人は進むべきか留まるべきか迷い続けている漢字を見れば歴史がわかる。人の世の移り変わりが分かる。この漢字「疑」も甲骨文字では、人が単に立ち止まって凝然としている様をあらわしていたものが、金文になると道が加わり、道路が整備されたことがわかり、さらに「牛」まで付け加えられ、失われた牛を探すと言う有様まで表すことから、世の中で農業が盛んになり牛を農耕に使うようになったことが推察されます。

 このように一つの漢字だけからでも人るの歴史物語が出来てしまいます。


漢字「疑」の楷書で、常用漢字です。
 甲骨文も、金文も一様に人が立ち止まり凝然として行く手を決めかねている様が生き生きと描かれている。まさに百聞は一見に如かずである
疑・楷書




  
疑・甲骨文字
人が後ろを向いて凝然と立ち杖を立てて進退を決めかねている様子
第2款・・道路を表す「符号」を追加して、意味をより明確にしている
疑・金文
甲骨文を継承し、左辺には牛の記号が付け加えられ、右辺下部に「足」を追加して、歩いていくことを意味しています
疑・小篆
金文では牛を探したものが、小篆では子供を探すさまが付け加えられている。人々の視点が農業から人間社会に変化したと考えられる




    


「疑」の漢字データ
 

漢字の読み
  • 音読み   ギ
  • 訓読み   うたが(う)

意味
     
  • うたがう (動詞)  本当かどうかあやしく思う
    迷う、ためらう  
    怖がる、不安になる
  •  
  • うたがわしい(形容詞)  本当かどうかあやしい  
  •  
  • うたがい(名詞)

同じ部首を持つ漢字     凝、擬、嶷
漢字「疑」を持つ熟語    懐疑、危疑、疑義、疑獄、疑心、疑惑




引用:「汉字密码」(Page、唐汉著,学林出版社)
唐漢氏の解釈
 「疑」の本意は、惑わされることを指し、確定する方法がないことを言う。甲骨文の「疑」という言葉は、杖をもって出た人が左右うろうろと、道に迷い、どこに行けばいいのかわからないことを示しています。甲骨の別の書き方では、道路を表す「符号」を追加して、意味をより明確にしています。

 金文は甲骨を継承していますが、下部に「足」を追加して、歩いていくことを意味しています。加えられた「牛」は失われた牛を探すことを意味します。これにより、「疑い」という言葉の構成がより鮮明になり、金文の時期に農耕が重要な地位を占めていたことを反映してます。
 小篆は変化を遂げていく過程で、人が振り返った人の頭の形を「匕」とし、人の形の「大」は「矢」に変化し右の牛の形も変化して「子」になっています。次第に今日の楷書の「疑い」になります。

 「疑」とは

漢字「擬」の漢字源の解釈
 子供に心が引かれ、親が足を止め、どうしようかと思案する様

 「疑」と同様の意味を持つものに、「嫌」(うたがう)がある。こちらはこうではないかと気を回しておもう、悪い方へと連想する。今日われわれは疑うというと、こちらの意味に使うことが多いように思う。


漢字「疑」の字統の解釈
 象形文字 初文は「ヒ+矢」(ギ)人が後ろを向いて凝然と立ち杖を立てて進退を決めかねている様子で、心の疑惑している様を示す。後にまた足の形を加えて今の字形となったが、初形はかなり失われている。

説文の解説は既に字形の初形を失っている篆書の字形によっていうもので、そこから字形を解くことはできない。


まとめ
 単なる思い付きであるが、漢字の生成時期はいくつかのステージに分かれると思っている。即ち、文字の創成期、文字の広範囲に使われる時代、卜文などで、権力に取り込まれる時代そして、完成期。思い付きが、確証になることを望む。漢字「疑」は、迷うと考えた方が原義に近い。いわゆる人を「うたがう」という意味では、「嫌」に近いようである。



「漢字の起源と成り立ち 『甲骨文字の秘密』」のホームページに戻ります。

2021年7月25日日曜日

漢字の口は象形文字。古代人たちは事物をありのままに描いて情報伝達をしていた。やがて甲骨文字や金文となって結実する


漢字「口」は、祝禱を入れるサイなのか、或いは食べたり、話したりする普通の口なのか
 「口」という文字は、象形文字でその形状は非常に単純で、容器以外考えようがない。形状から見ると、祝禱や固形物を入れるよりも液体を入れる容器のように思える。

 しかし、わが国の漢字学の権威の白川静氏は、これをサイと呼び、祝禱を入れる器と解釈した。

 氏は「従来の説文学において、口耳の口に従うと解するために字形の解釈を誤るものは極めて多く、古・召・名・各・吾などに含まれる「口」は全てサイと解釈すべきものを誤解したものだ」と喝破されている。しかし、私には、この単純な「口」という文字が、逆に、ほとんどがサイと呼ぶべきものとは到底考え難く、之こそが大いなる誤謬というべきものと考えざるを得ない。この点、字統では、「口という字は早くから用いられているが、卜文金文にその明確な用義例がなく祝禱の器の形である(サイ)との異同を確かめることはできない。」との解釈をしていることを考えても、「口」を「サイ」であると断定をすることは不可能のように思うのだが・・。


漢字「口」の楷書で、常用漢字です。
 象形文字であり、甲骨から金文・小篆に至るまで、その文字の形体は一貫しておりいささかも変化が見られない。

 この文字記号の生成から後世のかなり使い込まれた時代に至るまで、その形体上にほとんど変化が見られないということそのものが、この記号が時代を経ても一貫して同じ意味合いで捉えられていたというっ証左であり、一貫して「口」であり続けたのだ。
口・楷書


  
口・甲骨文字
口の象形文字。
口・金文
口にしては口角が上がっており、液体を入れる容器のようにも感じられる。
口・小篆
甲骨・金文を引き継いでいる。これをサイと認識するには社会通念上の大きな変ぼうが必要である気がする。


    


「口」の漢字データ
 

漢字の読み
  • 音読み   コウ、ク
  • 訓読み   くち

意味
     
  • くち(飲食し、音声を発する器
  •  
  • 入口、穴、港
  •  
  • 量詞  例)一口、 

同じ部首を持つ漢字     咽、員、右、唄、可、嚇、各、喝、喚、含、喜、器、吉、喫、吸、叫、吟、句、君、啓、古
漢字「口」を持つ熟語    口外、口蓋、口唇、口頭、悪口、陰口、口語、口誦、口説、口調、口座 




引用:「汉字密码」(P418、唐汉著,学林出版社)
唐漢氏の解釈
 「口」の形状は、まさに人や動物の口である。《説文》は「口」を解釈して、「人が話したり食べたりするところなり」。意味するところは、「口は人と動物が発声したり食べる器官である。

 この為に「口」は食べたり話したりすることに関係する偏・旁の字に多い。「可、听、吟、号、咆」並びに吃、味、 吐、吮」等など。

 


漢字「口」の漢字源の解釈
 象形文字:人間の口や穴を描いたもの。


漢字「口」の字統の解釈
  •  象形文字「口の形」 説文に「人の言食する所以なりという。卜文・金文に見る字形のうち、口、耳の口と見るべきものはほとんどなく、概ね祝禱の器の形であるサイの形に作る。
  • 従来の説文学において、口耳の口に従うと解するために字形の解釈を誤るものは極めて多く、古・召・名・各・吾などはみな祝禱の器を含む形。
  • もっとも「口」という字は早くから用いられているが、卜文金文にその明確な用義例がなく祝禱の器の形である(サイ)との異同を確かめることはできない。

 白川氏が言うように「口」が「サイ」であったとすると、古代人は人間の食べたり話したりすることをどんな漢字で表現していただろうか。
 人間の食。発声という行動は、基本中の基本であり、このことを言い表さずして人間のいかなる行動も表すことができないと考える。これが白川氏の主張に違和感を覚える最大の理由である。


まとめ
 漢字「口」は基本中の基本の言葉である。それだけに文明が高度になる前に、古代人の間では広く使われていたと考える。勿論最初は、象形文字というより、得に過ぎなかったかもしれない。文字を使って情報を伝達する高度な文明の前に、古代人たちはものをそのまま絵にかいて、相談をしたり、意思を伝えあっていただあろう。文字が最初から権力者たちの専有物であったと考えるのは妄想に過ぎなかったのではなかろうか。



「漢字の起源と成り立ち 『甲骨文字の秘密』」のホームページに戻ります。

2021年7月20日火曜日

漢字「名」の由来:全てのものに名前がある。存在しないものにすら名はある。「名」は認識の基礎をなすものであり、社会の基本的な概念である


「名」の由来は、子供の名を家廟で報告することから生まれた。そしてこのことは人が自己を認識するための基礎の基礎となった。
「名」は全ての事物のアイデンティティーである。名前のないものはこの世の中にない。逆にこの世の中に実在しないものにすら名はある。

 太古の人々は、生まれ落ちてから3か月で、祖先にこの子が家族の一員となるとことを報告し、名前を付ける。それはあくまで氏族共同体と構成する要員であるからこそ名前も付けてもらえたのだろう。もし新しく生まれてきた子が、奴婢の子なら当然固有の名前など付けてくれなかったに違いない。おそらく家畜と同様に名もなく使われ、一般名称で一生を終えたに違いない。 彼らは名前をもらえる代わりに、焼きゴテや入墨で奴婢であることのアイデンティティーを刻み付けられたに違いない

 だからこそ、名前を持つことがいかに大切なことであったことは容易に理解できる。この「名」という漢字を見ると、家族の一員としての子供が生まれ、祭肉と祝禱を神前に供え、家族全員で喜び合う姿が目に浮かんでくる。古代の素朴な家族の姿が目に浮かび思わず笑みがこぼれる。

 この名というのは古代から現代にいたるまで、ほとんどすべての認識の基礎をなすものであり、社会の基本的な概念であるといっても差し支えない。
 「名」という概念がいつ生まれたのか、考古学的に解明されなければならない。漢字「名」と同時なのか、名という実体が先にああったのか興味のある処である。

 太古の祖先たちは、自分の子供に名前を付けることを覚えるまでは、一番目の男の子、2番目の男の子というような呼び方ではなかったろうか。祖父は父親の父親、祖母は父親の母親という感じで関係を連ねていったのではなかろうか。これであれば、語彙は少なくてもいいし、関係は明らかになってくる。ただ非常に冗長になるのは避けられないが・・。


漢字「名」の楷書で、常用漢字です。
 子が生まれて三月になると家廟に告げる儀礼が行われる。
 その時、祝禱を器(サイ)に収め、祭肉を添え、子が生まれたことを報告し、子供に名前を付ける。漢字「名」の由来はこの家廟の前での儀式である。
名・楷書


  
名・甲骨文字
祝禱を入れる器と祭肉からなる
名・金文
甲骨文字を引き継ぎ、その意味を一層明らかに漢字で表した
名・小篆
漢字として汎用性、体裁が整えられている


    


「名」の漢字データ
 

漢字の読み
  • 音読み   メイ、ミョウ、ベイ
  • 訓読み   な

意味
     
  • な   ある事・物を他の事・物と区別するために、それに対応するものとして与えるもの、
        言語による記号。呼び方。めい   (例:名前、花の名、姓名)  
  • 評判、うわさ  (例:名が広がる、有名になる、世間で名前が知れる
  •  
  • 数詞 人の人数を表す  例) 2名(2人) 

漢字「名」を持つ熟語    名前、宛名、名字、威名、異名、名跡、浮名、汚名、仮名、雅名、戒名、改名




引用:「汉字密码」(Page、唐汉著,学林出版社)
唐漢氏の解釈
 「名」という字は会意文字である。甲骨文字の字形は左辺は「口」で右辺は夜の晩の「夕」を表している。夜人々が会ったときおぼろげな中で相手をはっきり見えないさまを表している。また相手が誰か分別できず相互に自分の名を知らせる必要がある。これが「名」の由来である。名の本義は自分の姓名を知らせる意味である。《説文》ではこのことから「名、自分の命である。口と夕からなり、夕者は暗きなり。暗きて相見えず、故に口で自分の名をいう。」

 古代社会では嬰児が出生後3ヶ月で命名する。

 この説明はさもありなんという部分も無きにしも非ずであるが、ただあまりに後からとってつけた感があり、すっきりと腑に落ちない。





漢字「名」の字統の解釈
 会意 祭肉と祝禱を収める器の形に従う。口はその祝禱の器の形。子が生まれて三月になると家廟に告げる儀礼が行われる。この時名をつけ、初めて家族の一員になる。


まとめ
 人類史上、名前という概念が生まれたことは、非常に重大な出来事であった。



「漢字の起源と成り立ち 『甲骨文字の秘密』」のホームページに戻ります。

2021年7月13日火曜日

現代社会の基本である商は3500年前に中国で栄えた荒ぶる民族国家「商」(殷ともいう)という国名に由来していた


漢字 商の成り立ちと由来から見えるもの:古代中国の中原で強国「商」を作り上げた荒ぶる殷商王朝が浮かび上がる
 甲骨文字を最初に生み出し、強大な国家を作った殷の国は自らを「商」と呼んだ。

 この商という国は今の中国の湖南省・安陽という年にその国家の礎を定め、自らを商と名乗る。
 この商という名前そのものが、荒ぶる民族国家の成り立ちを物語るものである。

 殷商民族は、兵器の製造に熱中し,南征北伐を愛した。

 領土、人口、政権は国家の三要素をなす。ただし厳格に言えば「領土」とは武力コントロールあるいは占領下にある土地のことであり、「人口」とは武装統治にある民衆のことである。政権はすなわち武力を運用できる能力のある機構のことを言う。武力はあるもは専ら征伐を行使する常備武装のことをいい、国家の元である。

 殖民統治に伴うもろもろの実践の中で、「国」の字は血なまぐさい洗礼の中で生まれた。現有実物の査証から甲骨文の記載からいうと、ただ「商」だけが国家の真の意味を表している。とうぜん漢字はその遺伝子の暗号で以ってさらにその形象をなし、さらにその真実をわれわれに告げている。殷商はつまるところいったいどのような国家だったのだろう。

 商の時代は、生産技術はそれほど発達していなかったためか、国力の増強は専ら侵略による捕虜の獲得に頼ったのかも知れない。


漢字「商」の楷書で、常用漢字です。
 「商」は、本は殷商民族が、自己の王国の都城の呼称としたものである。即ち「大邑商」(現在の河南省安陽の小さな村)である。商民族が自己の民族と国家の呼称であった。甲骨卡辞中の「今岁商受年。」然るに甲骨文の商の字の形象を見てみると戦争捕虜と関係がある。どうして戦争捕虜を押し込めておく場所に商朝の都城を選んだのか。どうして地名の商を殷商王朝の名称に合わせたのか?
商・楷書


  
商・甲骨文字
戦争で奪ってきた捕虜に入墨を入れ支配を明示した。その入墨の針器を台座の上に建て、祝禱と共に神に祈ることで、更なる侵略の成功を祈った
商・金文
甲骨文字を承継しているが、経済を示す貝を付け加えることで、富の蓄積を誇ったのかも知れない
商・小篆
小篆が使われる時代には商という国は消滅し、殷商人の末裔である商人か活躍した。
国名と一般名称の乖離


    


「商」の漢字データ
 

漢字の読み
  • 音読み   ショウ
  • 訓読み   あきな(う)、はか(る)

意味
     
  • 品物を売買して利益を得る事(あきなう)、商売をすること
  •  
  • 商売人、商人(あきんど)、「行商人」(例:隊商)
  •  
  • はかる(良し悪しを明らかにする) 

漢字「商」を持つ熟語    商人、商業、商売、商量、商事、商圏、商談、商団




引用:「汉字密码」(Page、唐汉著,学林出版社)
唐漢氏の解釈
  甲骨文字の上部は軍の符号です。即ち「辛」の初文です。上古時期は捕虜を押さえつける刑具でもあった。下部は「内」の符号で、即ち丙の初文でもあった。それは地面に掘った軍の穴の牢獄の縦断面の図形である。甲骨文の後の一種の図形となり、また口を加えて地面の穴の入り口を示しこの種の牢獄の描写となった。

 金文中の「商」の字は、甲骨文を受け継いでいるが、但し下辺に貝の字が付け加えられ商の字となっている。

 約3300年前商民族は安陽の小さな村を捕虜を押し込めておく場所に選んだ。捕虜を押し込めておくために常備的な武装兵士を駐在させないわけにはいかない。軍事連盟の首領の商王は常備の武装兵士を指揮しコントロールするために移送させるわけにはいかない。このようにして事実上政治軍事の中心となった。捕虜中の工匠に対しては青銅の戈の上の図形文字には、飢餓と死亡の威嚇の下、必至に手工芸労働に専心し、兵器弓矢、玉器、精美を凝らした青銅器などを絶えることなく不断に製造することができたとき、大邑商は事実上王国の都城となった。


漢字「商」の字統の解釈
 商とは、辛と台座と口(サイ)に従う。辛は取っ手のある大きな針器。この入墨に用いる刑具を立てた、台座に祝禱を収める噐を据え付け、これに祈って神意を問う意であるから、商(はかる)ことを原義とする。古代王朝としての商は殷の正名でその都は大邑商といった。商はその神政的な支配を示す国号であったと思われる。

 商は神意を計ることを原義とし、そこから商量の意が生まれ後通商の意となったものであろう。


まとめ
 今我々が日常不断に使う「商」という漢字は、古代中国の「商」という国に由来する。この国は国名からして、血塗られた侵略と構想のの中で生まれ育った。人類は、このようにして戦いと侵略の歴史を繰り返してきた。それから後の生産力の高揚と相まって、血なまぐさい戦争の繰り返しから脱して、平和に生活することが出来るようになった。我々はこの人間の歴史からともに共存するという生活様式・生き方を今後とも大切にしなければならない。



「漢字の起源と成り立ち 『甲骨文字の秘密』」のホームページに戻ります。

2021年7月12日月曜日

急速に老齢化が進む社会。漢字「老」と西洋の「老」、そしての漢字「老」の 起源と成り立ちを考えてみよう


漢字「老」の起源と由来 
 漢字「老」は単に「老い」という事実だけを、形象化したもので、その老いの中身については当然触れられていない。 従って、老いの中身について言及するときは、形容詞的、副詞的な言葉を入れた熟語にして、表現することになる。そこで、熟語を調べてみて、「老い」をどうとらえているのか見ることは、社会学的にも有用な方法だと考える。



引用:「汉字密码」(P483、唐汉著,学林出版社)

唐漢氏の説明
本義は年老いた女性である。即ち年齢が高い婦人を指す。甲骨文字の老の字は腰が曲がった猫背の髪の毛が茂った老人が杖を支えにしている様子である。

 「考」の字の長髪がまばらになっている様子と鮮明な対比をなしている。これは老年男女の間の一種の形象の差別である。男は年をとればとるほど髪の毛は少なくなり、女は年を取っても髪の毛はまだ多い。金文の老の字は上部の髪型は「考」によく似ている。但し下部に一個の倒置的な匕の字を加えて、言葉の意味を強化し、女の老人を表わしている。小篆の老の字は金文を受け継ぎ、楷書ではこのことから老と書く。



唐漢氏の説明の矛盾
唐漢氏は「老」が年老いた腰の曲がった杖をついた女性を表すのに対し、「考」はやはり老人ではあるが男性だと説明する。その差は髪の毛の長さと多さだという。しかし、両方の文字を比べてみても、両ヒエログラフからはどうしても、唐漢氏のようには読み取れない。ここは、日本の白川、藤堂両氏の解釈に軍配を上げざるを得ない。

字統の解釈
 老は長毛の人の象で、老髪を垂れている形。匕は化の初文で、衰残の人をいう。《説文》に「考なり。七十を楼という。人毛ヒに従う。須髪の白に変ずるをいう。」とするが、化するものは髪の色のみではない。匕はもと死という字で、死に近づくをいう。


「老」を含む熟語の考察
 NHKの2021年7月放送の「100分de名著」で、ボーボワールの「老い」を取り上げていた。その中でボーボワールが、サルトルをはじめ、その時代に生きた様々な人を取り上げ、その老い方を論じていた。その中で時代的制約もあろうが、彼女の「人間の老い方感」は総じて、否定的な捉え方をしているように感じた。 彼女で以て、西洋の1900年代半ばの時代を代表しているとはとても言えないが、その番組の中で感じたのは、西洋と東洋では老いに対する感じ方が随分違うのではないかということだ。日本や中国やアジアの社会は西洋のそれに比べ保守的ではないかと思われるので、その保守的な部分だけ「老人」が相対的に大きな位置を占めているように感じた。歴史的に言えば、西洋より東洋の方が古く、長い歴史を持っている。それだけに一般的に古いものに対する評価が高く、人間にも同じことが言えるのではないかと感じている。

 では漢字の世界では一体どうなっているのだろう。「老」を含む熟語をpickupしてみた。 老を含む熟語の中で、否定的な意味を持つものが相対的に少ないように思う。西洋と日本で一概に比較対象には出来ないが、言葉は社会を映し出すバロメータと考えれば、漢字の分析もひとつの指標といえるのではなかろうか。この考察が意味があるのかについてはあまり自信はないが、虚心坦懐に眺めて見るの面白い。
遺老 黄老 敬老 月老 元老 孤老 国老 三老 寿老 宿老 初老 助老 少老 早老 相老 尊老 村老 退老 大老 中老 長老 白老 不老 幕老 野老 養老 老妓 老菊 老脚 老屈 老君 老人 老兄 老健 老境 老犬 老後 老公 老功 老巧 老骨 老妻 老残 老子 老師 老死 老視 老疾 老実 老舎 老者 老者 老若 老弱 老朽 老境 老躯 老手 老医 老王 老翁 老化 老害 老冠 老漢 老眼 老顔 老酒 老儒 老寿 老樹 老醜


 


「漢字の起源と成り立ち 『甲骨文字の秘密』」のホームページに戻ります。

2021年7月7日水曜日

漢字「何」の使われ方は我々に何を教え、何を語るのか、人間は漢字・何から何を学び、何を残すのか


漢字「何」は、人間社会の変化から何を語り、何を伝えるのか?
 人々が肩に戈を担いでウロウロしていてもそれほど違和感を覚えることなく、単に「肩に戈を担ぐ人」と表現していた社会が、時代が下って小篆の時代になると、矛を肩に担いでどこかに行く人を見ると「あんた何やねん?」とか、「何処へ行くねん?」と問わずにはおれなくなるような違和感を感じる時代に移行したと考える。この間の時代の変遷は一体何だろう?

 もちろんたった一つの事象で物事を決め付けるわけにはいかない。しかし歴史的考証を積み重ねることで、その変化を何かの確かなものに確認することができると信じる。

 私はこの漢字考古学が歴史を確かなものに認識する重要な武器になると信じる。


漢字「何」の楷書で、常用漢字です。
 象形字です。甲骨文と金文の「何」の字は戈を担いでゆく有様です。この評価は、現在では定着しているようで、」度の学者も戈を担いで行く形象であると論じています。そしてそのことから「誰何」という問いかけに「用いられたと考えられています。

 この見立ては、確かに納得できます。

 大きな戈を担いで歩いていたら、誰でも「そんなものを担いで何処へ行く?」とか、「何をするつもりだ?」とか、問いかけたくなります。「何」とか「何者」という疑問師がここから生まれたことは極めて納得いく話ですよね。
何・楷書


  
何・甲骨文字
本義は戈を担いで行く事です
何・金文
字の本義は戈を担いで行く事です。その発声は更新中の兵士の叫び声に関係がある。このことから負荷、承荷に拡張される。漢語の発展中あるいは使用中その意味の「荷」が表示されるようになり、且つ「何」が多用されるようになった
何・小篆
「何ぞ」の義は可に従う字で、荷戈の字とは字源が異なり、可の字義を承ける。可には呵責誰何の義があり、それより疑問視となった。


    


「何」の漢字データ
 

漢字の読み
  • 音読み   カ
  • 訓読み   なに、なん

意味
     
  • なに、なん、なんの
      いずれの、どれかの
  •  
  • いずく、いずくにか(疑問・反語の助字→どこに~か
  •  
  • どうして、何故

同じ部首を持つ漢字     荷、苛
漢字「何」を持つ熟語    何、誰何、 何時、何者、何処、何人、何程、幾何、如何




引用:「汉字密码」(P601、唐汉著,学林出版社)
唐漢氏の解釈
 「何」原本は象形字です。甲骨文と金文の「何」の字は全て方に矛を担いでゆく有様です。口の中で何か叫んでいる様子です。小篆の「何」の字は「人と可の発声からなる。その中で人の字は分離して、大きく張った口と矛が合一して可となった。

 



漢字「何」の漢字源の解釈
 象形文字:人が肩に荷を担ぐ姿を描いたもので、後世の負荷の荷(になう)の原字。
 しかし普通は一喝するの喝と同系の言葉に当てて喉を掠らせてはアッと怒鳴って、行く人を押しとめるの意に用いる。
 「誰何する」という用例が原義に最も近い。転じてひろく相手に尋問する言葉となった。


漢字「何」の字統の解釈
 声符は「可」卜文の字形は戈を荷う形につくり、それが初形であろう。即ち荷の初文。「説文」儋ふなり」とする。「何ぞ」の義は可に従う字で、荷戈の字とは字源が異なり、可の字義を承ける。可には呵責誰何の義があり、それより疑問視となった。


まとめ
 一つの漢字でも、それが生まれて、色々な人々に使われ成長し、老成していく。それは社会の発展でもある。漢字の変化を通して、社会の発展を跡付ける。漢字から歴史を見つめるのは面白い手法ではないだろうか



「漢字の起源と成り立ち 『甲骨文字の秘密』」のホームページに戻ります。

2021年7月5日月曜日

漢字「賓」の成り立ち:本来は男女の密会という関係示していたが、財力や社会における優位性が尊重される関係に変化したことを顕示している


 漢字「賓」の成り立ち:本来は男女の密会を表していたのが、経済発展に伴い、財力のある男(客)が訪れることを「賓」と称するようになった
 甲骨文字では女の居住する家に男が訪れることを「賓」といっていたようだが、社会ン変化につれ、財を持った客が訪れることを「賓」という漢字で表すようになった

漢字「賓」の楷書で、常用漢字です。
 殷商時代は「王権母系制が占める種族奴隷制社会である。この時はただ成人した女性だけが専用の個室を持てて、成年男子は共同の集団生活をしていた。

 しかし時代が下り、男性優位の社会で、なおかつ財力が力を持つようになると漢字もそれにつれ変化をした。この「賓」という漢字も社会の変化の波に飲み込まれることとなった。
賓・楷書


  
賓・甲骨文字
「上部は「ヤネ」、その下は二人の男女+足ですべての会意で、男女の密会を表している。
賓・金文
屋根の下の女性がなくなり、男と子安貝となっている。即ち金のある男が居室にいることを示す
賓・小篆
小篆の「賓」の字は、金文を受け継ぎ、隷書化の後、楷書の「賓」となった。「賓」は説文は「賓」は敬うことなりとしている。


    


「賓」の漢字データ
 

漢字の読み
  • 音読み   ヒン
  • 訓読み    ー

意味
     
  • 上客、訪ねてきた人 例:主賓、来賓   客として泊まる  客としてもてなす
  •  
  • 従う   従える
  •   

同じ部首を持つ漢字     儐、嬪、濱、擯
漢字「賓」を持つ熟語    賓客、来賓、国賓、公賓、迎賓、主賓、貴賓




引用:「汉字密码」(Page、唐汉著,学林出版社)
唐漢氏の解釈
 殷商時代は「王権母系制が占める種族奴隷制社会である。この時はただ成人した女性だけが専用の個室を持てて、成年男子は共同の集団生活をしていた。よって「賓」は男性が伴侶を訪ねることであり、男子の角度から見て、「賓」は女性の伴侶の部屋の中に客として入ったことを示す。

 金文の「賓」の字は女性と足の記号が省かれ、居室の下は男性と貝だけになっている。「貝」は古代社会の一種の貨幣であり、この種の形の上での変異は両性の間の係わりを示している。既に財を作る媒介が必要とされることが顕示されている。即ち男子の居室を占有していることを示している。時は既に「王権父権制社会」に入っている

 古漢語中の主客との関係で「賓」は、まだ服従・教順を示している可能性がある。



漢字「賓」の字統の解釈
 会意:宀と万と貝に従う。万の形は犠牲の下体の象形で、廟中に犠牲を供えて神を迎える意である。賓とは客神をいう。「賓は原型に貝を加えた形であり、もともと賓は客神を意味していた。


まとめ
 字統では賓の起源を「宀+万」としているが、唐漢氏は賓の甲骨文字を「宀+男+女+足」の会意としており、全く成り立ちをするものが異なる。このブログの性格上両説の是非を云々する立場にはないので、そのような意見もあるという紹介にとどめておく



「漢字の起源と成り立ち 『甲骨文字の秘密』」のホームページに戻ります。