2021年7月12日月曜日

急速に老齢化が進む社会。漢字「老」と西洋の「老」、そしての漢字「老」の 起源と成り立ちを考えてみよう


漢字「老」の起源と由来 
 漢字「老」は単に「老い」という事実だけを、形象化したもので、その老いの中身については当然触れられていない。 従って、老いの中身について言及するときは、形容詞的、副詞的な言葉を入れた熟語にして、表現することになる。そこで、熟語を調べてみて、「老い」をどうとらえているのか見ることは、社会学的にも有用な方法だと考える。



引用:「汉字密码」(P483、唐汉著,学林出版社)

唐漢氏の説明
本義は年老いた女性である。即ち年齢が高い婦人を指す。甲骨文字の老の字は腰が曲がった猫背の髪の毛が茂った老人が杖を支えにしている様子である。

 「考」の字の長髪がまばらになっている様子と鮮明な対比をなしている。これは老年男女の間の一種の形象の差別である。男は年をとればとるほど髪の毛は少なくなり、女は年を取っても髪の毛はまだ多い。金文の老の字は上部の髪型は「考」によく似ている。但し下部に一個の倒置的な匕の字を加えて、言葉の意味を強化し、女の老人を表わしている。小篆の老の字は金文を受け継ぎ、楷書ではこのことから老と書く。



唐漢氏の説明の矛盾
唐漢氏は「老」が年老いた腰の曲がった杖をついた女性を表すのに対し、「考」はやはり老人ではあるが男性だと説明する。その差は髪の毛の長さと多さだという。しかし、両方の文字を比べてみても、両ヒエログラフからはどうしても、唐漢氏のようには読み取れない。ここは、日本の白川、藤堂両氏の解釈に軍配を上げざるを得ない。

字統の解釈
 老は長毛の人の象で、老髪を垂れている形。匕は化の初文で、衰残の人をいう。《説文》に「考なり。七十を楼という。人毛ヒに従う。須髪の白に変ずるをいう。」とするが、化するものは髪の色のみではない。匕はもと死という字で、死に近づくをいう。


「老」を含む熟語の考察
 NHKの2021年7月放送の「100分de名著」で、ボーボワールの「老い」を取り上げていた。その中でボーボワールが、サルトルをはじめ、その時代に生きた様々な人を取り上げ、その老い方を論じていた。その中で時代的制約もあろうが、彼女の「人間の老い方感」は総じて、否定的な捉え方をしているように感じた。 彼女で以て、西洋の1900年代半ばの時代を代表しているとはとても言えないが、その番組の中で感じたのは、西洋と東洋では老いに対する感じ方が随分違うのではないかということだ。日本や中国やアジアの社会は西洋のそれに比べ保守的ではないかと思われるので、その保守的な部分だけ「老人」が相対的に大きな位置を占めているように感じた。歴史的に言えば、西洋より東洋の方が古く、長い歴史を持っている。それだけに一般的に古いものに対する評価が高く、人間にも同じことが言えるのではないかと感じている。

 では漢字の世界では一体どうなっているのだろう。「老」を含む熟語をpickupしてみた。 老を含む熟語の中で、否定的な意味を持つものが相対的に少ないように思う。西洋と日本で一概に比較対象には出来ないが、言葉は社会を映し出すバロメータと考えれば、漢字の分析もひとつの指標といえるのではなかろうか。この考察が意味があるのかについてはあまり自信はないが、虚心坦懐に眺めて見るの面白い。
遺老 黄老 敬老 月老 元老 孤老 国老 三老 寿老 宿老 初老 助老 少老 早老 相老 尊老 村老 退老 大老 中老 長老 白老 不老 幕老 野老 養老 老妓 老菊 老脚 老屈 老君 老人 老兄 老健 老境 老犬 老後 老公 老功 老巧 老骨 老妻 老残 老子 老師 老死 老視 老疾 老実 老舎 老者 老者 老若 老弱 老朽 老境 老躯 老手 老医 老王 老翁 老化 老害 老冠 老漢 老眼 老顔 老酒 老儒 老寿 老樹 老醜


 


「漢字の起源と成り立ち 『甲骨文字の秘密』」のホームページに戻ります。

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