2022年2月21日月曜日

「書」の成立ちと由来:書の本義は記録。しかし書は単なる記録手段ではなく、漢字・仮名の文字を書くことで表現される造形芸術。


漢字「書」の成立ちと由来:書は記録の為だけではない独特の文化の構成要素である
 書とは何かの問いに「書とは文字による記録である」というのが、もっとも原則的な回答ではないだろうか。 しかし、近年文字だけではなく、絵画、漫画等による記録も出現し新しいジャンルとして認知されるようになってはいる。またかなり古くから、「書」を記録として重視するよりも、表現媒体として、記録は結果としてだけ捉える考え方もあり、いわゆる『書』として、独特のジャンルが確立されている。
因みに日本大百科全書(ニッポニカ)による「書」(ショ)の解説は以下の通り
 筆・墨などを用い、漢字・仮名の文字を書くことによって表現される造形芸術。書は中国と日本で発達した独特の芸術で、漢字のもつ造形的な要素と密接な関係がある。
 中国では古くから六芸(りくげい)(礼・楽・射・御・書・数)の一つに数えられ、官吏や知識人の必須の教養科目であった。運筆、構成、墨色、配置などの美や、作品に現れた筆者の風格が尊ばれ、筆道ともいった。
 書は文字を表記の手段としてだけでなく、筆者の芸術的創作として鑑賞の対象とする。
ここではあくまでも、文字の記録を主たる目的とする「書」に焦点を当てて考えることとする。


漢字「書」の楷書で、常用漢字です。
 聿(いつ)と者に従う
書・楷書


  
書・甲骨文字
手で筆を持つ象形と記録を入れる器(曰:えつ)で構成される
書・金文
甲骨文を踏襲するが、なぜかくも複雑になったのか
甲骨から金文になる間、何か大きな変化があったのかも知れない
書・小篆
金文を基本的に承継する


    


「書」の漢字データ
 

漢字の読み
  • 音読み   ショ
  • 訓読み   か(く)く
意味 
  • 文字や符号を筆やペン等で記す・目に見える形で記録する  (例:名前を書く)   
    文章を作る  例:作文を書く
  •  
  • 印刷された 本 例:書物、書籍、
    記された文字(筆跡) 例:王羲之の書、書跡、手紙 
    墨、筆などで書かれた特別な様式で書かれた文字
    「文字」   例:楷書、草書、隷書
  •  
  • 文書、記録、、帳簿(金銭・物品の出し入れ等、事務上の必要事項を記入する為のノート)

漢字「書」を持つ熟語    書類、文書、書籍、内申書、書記、秘書


引用:「汉字密码」(Page、唐汉著,学林出版社)
漢字「書」の字統の解釈
 会意:正字は聿(いつ)と者とに従う。
者は祝禱の器である曰(えつ)を土中に埋め、その上を小枝や土で覆う形で、古くは集落の周囲の土垣の中にこれを封じた。その垣を堵というという。この呪能によって外部からの邪悪なものを杜絶しうるとしたのである。
 その祝禱の器の中に置かれた呪符の文を書という。即ち者は書の初文。後に者が多義化するに及んで上に聿(筆)を加えて器の中の書を示す字とした。書とは呪禁として用いる文字、祝詞をいう。文字には呪能があり、祝詞の持つ言霊的なちからはここに安定的に宿るものとされた。


漢字「引」の漢字源の解釈
 形声:「聿+音符者」で、ひとところに定着させる意を含む。筆で字を書きつけて紙や書簡に定着させること


唐漢氏の解釈
 甲骨文字の「書」は会意文字である。上部は人の手が筆を持つ形をしている。下部は、筆で言葉を記録している様を表示している。
 伝説では上古時代の先民はかつて竹で漆の点を打って書としていたという。この種の状況は大概卜官が王の占辞を記録していたことから来るだろう。
 甲骨文字の書の字はこのような生活の現実から来ている。金文の書の字は、筆を持つ手と口の間にいくつかの点が加えられ、変化している。者の本義は漆で器皿に塗ることであり、この事からそれを用いて塗るの意味が出て来て、筆と墨で言葉を記録することを表示した。小篆の書の字は金文と構造的には同じで、形は均整がとれている。楷書は書と書いて、現在では簡体字になっている。 

 
まとめ
 会意文字であるようだが、甲骨文字にせよ、金文にせよ、まるで象形文字であるかのように生き生きとした人々の姿が描写されている。文字の形に簡略化し、無駄を省いたデッサンとなっており、実に素晴らしい記号化、抽象化がなされていると思う。


漢字「書」を含む故事、成語、ことわざ ☜ については、こちらが詳しいです

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2022年2月10日木曜日

漢字「在」の存在感は無くなりつつあるのか。仮想の世界に存在することとリアルの世界に存在することは別?


漢字「在」の成立ち
 「在」という概念は実は非常に難しい。デカルトは「我思うに我あり」と悩み続けたし、「見えるからあるのか、あるから見えるのか」という詭弁的な論法によく登場する。
 また近年、バーチャル的な世界に存在するのと、リアルの世界にぞ存在するすることを一般人である我々ですら分けて考えなければならなくなった。


 
 神聖の地であること、神のあることを示す字である。士は鉞頭の形。鉞頭や斧は儀器として王、士、父などの身分を示す。在は鉞をもって聖器として才を守るものであり、才の繁文である。存は材と同じ意味に用いるが、存は時と所ではなく人に関する字である。

 コンピュータの世界で問題視されるがるが、Virtualな世界とRealの世界をどう定義づけるか問題となる。
在・楷書


 
  
才・在の初文
才は神聖を示す榜示の木で、神聖の地であること、神のあることを示す字である。
在・金文
在は鉞をもって聖器として才を守るものであり、才の繁文である。
在・小篆
小篆の「Zai」は「士」が変化し土に変えました。隷書の変化後、それは現代中国人の楷書の「在」になった
    


「在」の漢字データ
 

漢字の読み
  • 音読み   ザイ
  • 訓読み   あ(る)

意味
     
  • 存在する ~にある ~が場所の場合は~に存在する(潜在する)という意味になる  居る 住む 例:滞在 
           ~が人、物などの場合は、所在を示す(例:責任の所在)
  •  
  • 制約を受けないで自由に動く  例:自在 
  •  

漢字「〇」を持つ熟語    存在、在任、在籍、駐在

引用文献  「汉字密码」(唐汉著,学林出版社)
漢字「在」の字統の解釈
 会意文字:才と士に従う。才は神聖を示す榜示の木で、在の初文。

 神聖の地であること、神のあることを示す字である。士は鉞頭の形。鉞頭や斧は儀器として王、士、父などの身分を示す。
 在は鉞をもって聖器として才を守るものであり、才の繁文である。存は材と同じ意味に用いるが、存は時と所ではなく人に関する字である。白川氏は「在」と土は関係ないと断定する。

 



漢字「在」の漢字源の解釈
 会意兼形声:「才」の原字は 川の流れを止める堰を画いた象形文字で、その全形は災などに含まれる。才はそのセキだけ取って描いた象形文字で切り止めるの意味を含む。在は「土+音符「才」で土でふさいで水流を切り止め、進行を止めることなど諸説紛々としています。

 その字の発生の謂れはどうであっても、この字の重みは消えることはありません。哲学の認識の中心問題であるからでしょう。デカルトの「我思うゆえに我あり」という認識と認識と存在とは別個に存在するという唯物論の立場によって、世界観が大きく異なってきます。


唐漢氏の解釈
 「在」は、甲骨ではの「在」という意味です。「才」は「在」の初文です。
甲骨文の「王オ亳」は、王が亳地方にいるということです。金文の時期には、旁の部分に男性の生殖器のシンボルである「士」を追加し、たった今という意味と「存在」の2つの意味の違いを顕示することになりました。


まとめ
 会意文字:才と士に従う。才は神聖を示す榜示の木で、在の初文。



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漢字「怒」の成り立ちと由来:漢字の構成要素「女+又+心」は何を意味する?


漢字「怒」の成り立ちと由来

漢字「怒」の成り立ちと由来:手を付けられた女の気持ちは怒りとなって噴出する

 

まえがき

「怒」は「女+又+心」という漢字から成り立ちます。ここで「又」は古代では「手」を意味します。この3つの文字の会意で、手を付けられた女が持つ心」を表しています。その心は「怒り」です。古代から虐げられた女は怒っているのですね。
  漢字「怒」は、今世間を賑わしている「セクハラ」に対する世間の怒り・特に女性の怒りをそのまま字にしたような字です。セクハラの怒りは3000年前からあったことをこの字は示しています。

 甲骨文字や金文などの古代文字が何とも面白い。漢字の元となるこういった文字は、直感的に、見たまま、感じたまま捉え表現している。そこには『忖度』などは、入り込む余地はない?

 人間の認識というものは、本来こういうものではなかったろうか。勿論太古の昔と今ではまるっきり違っているともいえるが、人々の根底に流れるものは、古今東西変らないのではなかろうか? 漢字「怒」を見ていてそんな気がしてきた。

目次

  1. 漢字「怒」の成立ち
  2. 漢字「怒」の解釈
    唐漢氏の解釈
     字統の解釈
     漢字源の解釈
  3. Chat GPTに漢字「怒」の成立ちと由来について聞いてみた
  4. まとめ


漢字「怒」の今

「怒」の漢字データ

漢字の読み

  • 音読み   ド、ヌ
  • 訓読み   いか(る)、おこ(る)

意味

  • おこる
  • 腹を立てる 
  • 憤る

同じ部首を持つ漢字

    奴、努力、奴隷、奴婢

漢字「怒」を持つ熟語

    憤怒、怒号、忿怒

漢字「怒」の成立ち

引用:「汉字密码」(P499、唐漢著,学林出版社)

漢字「怒」の解釈

唐漢氏の解釈

 古文の「怒」の字は左上部は女で、右上部は手に点を2点追加した形を示している。乃至古文の「掻」の字である。下辺は心の象形字である。3形の会意で、女の人が手で掻いて心に怒りが生まれていることを示している。小篆の「怒」の字は手の中の2点がなくなって心と奴の発声からくる形声字になっている、また「怒」の字が持っていた十分な趣もなくなってしまっている。

 大方のこの時期の貴族たちは、全ての奴僕の心中に怒りがあることを知っていたのであろう。このため「怒」の字は意味が変わった。楷書は小篆を受け継ぎ、「怒」と書くようになった。

 当時の貴族たちが奴隷の心中まで推し量っていたとは到底思われない。。多分に後付けの説明のような気がするが・・。
 あるいはこの漢字を文字要素の通り解釈すると「手を付けられた女の心の心中をそのまま文字に表した」と解釈すれば、今世の中を覆いに騒がしているセクハラに対する世間の気持ちをそのまま文字にしているとも読み取れる。勿論古代と現代では優に3000年の差はあるが、虐げられたものの怒りや恨みは悠久の年を越えて今に共感するものかもしれない。

字統の解釈

 形声:声符は奴。奴に努など、激しく勢いを加えてことをなす意があり、怒もそのような心意の状態をいう。

漢字源の解釈

 会意兼形声。 奴は力をこめて働く女の奴隷のこと。「怒」は「心+音符・奴」で強く心を緊張させること。


ChatGPT(Chat GPT;AIチャット)に漢字「怒」の成立ちと由来について聞いてみた

成立ち:
 漢字「奴」は、「女」(おんな)と「又」(また)という2つの偏(へん)から構成されています。上部の「女」は女性を表し、下部の「又」は手を表しています。この字は、女性の手を持つ人や僕人(しもべ)を意味する漢字として成り立っています。

由来:
 「奴」の由来については、古代中国の社会で奴隷制度が存在していたことから派生したと考えられています。奴隷や奴僕を指す字として用いられました。また、後には「奴」は卑屈な人を意味する言葉としても広まりました。

意味するもの:
 漢字「奴」は、元々は奴隷や奴僕を指す意味で使用されました。しかし、現代の日本では差別的な言葉として認識されることが多く、一般的には避けられるようになりました。現代の日本語では、「奴」の代わりに「人」や「者」といった言葉が使われることが一般的です。


 なお、漢字の意味や由来については、時代や文化によって異なる解釈が存在する場合もあります。上記の情報は一般的な解釈に基づいています。

  また、この解釈では「奴+心」がなぜ怒りになっているのかの説明になっておらず、さらなる考察が望まれます。

まとめ

 漢字「怒」の成り立ちと由来:手を付けられた女の気持ちは怒りとなって噴出する。虐げられたものの怒りや恨みは悠久の年を越えて今に共感するものかも知れない。

 最近、なにかと話題の多いChat GPTを使ってみたが、Chat GPTを使う際に、留意すべきこととして、Chat GPTは問いかけに対して、全方位的にこたえるものではなく、問いかける側が、それなりの見識を持って臨むべきことは当たり前のことだが明らかなことです。Chat GPTは全能のAIではない。


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2022年2月8日火曜日

漢字「徳」の生成の謎、その成り立ちと由来はいかに


漢字「徳」の成り立ちと由来:「徳」という概念は古く甲骨文字にも表れている。
漢字「徳」の生成の謎、その成り立ちと由来はいかに。「徳」という概念は古く甲骨文字にも表れている。このような高度な概念が、甲骨文字に既に現れていることは驚きである。単なる後付けの結果なのか。殷周の古代の呪術が支配する時代において、「徳」のような概念が生まれる余地はあったのだろうか。

 徳は字統の解釈にせよ唐漢氏の解釈のいずれにせよ、自分の考えを客観視する姿が字に表されている。殷周の時代と言えばエジプト文明の新王国時代に当たり、この時代に人間の内面にまで思考が及んでいたとは考えにくいのだ。だが目の前に出された歴史的証拠からはその可能性が否定できない。


漢字「徳」の楷書で、常用漢字です。
 左側は「彳」で右辺は省と心に従う
徳・楷書


  
徳・甲骨文字
道路を指す符号と眼が前方を直視している符号から成る
徳・金文
「直」の下に心の象形を加えて、まっすぐ見て幹線道路を歩く
徳・小篆
金文を継承している


    


「徳」の漢字データ
 

漢字の読み
  • 音読み   ソク
  • 訓読み   つなぐ

意味
     
  • 人の持つ性格で、良い性格を指す、善良な人間性   人徳
  •  
  • 教え
  •  
  • 利益、もうけ    

漢字「徳」を持つ熟語    道徳、悪徳、陰徳、人徳、功徳

引用:「汉字密码」(Page、唐汉著,学林出版社)
唐漢氏の解釈
 「徳」は会意文字です。甲骨文の徳の字は、道路を指す符号と眼が前方を直視している符号から成る。両形の会意で目は斜視でhなく両脚は道路から離れず目標に直達する。金文の徳は「直」の下に心の象形を加えて、まっすぐ見て幹線道路を歩くという原則に従って「歩く」だけでなく、このように「考える」ことも必要だと強調した。小篆は金文を継承し、楷書では「徳」と書く。

 



漢字「引」の漢字源の解釈
 会意兼形声。その原字は「悳」(トク)と書き、「心+音符・直」の会意兼形声文字で、もと本性のまま素直な心の意。徳は後それに彳印を加えて、、素直な本性に基づく行いを示したもの


漢字「徳」の字統の解釈
 彳(テキ)と省と心に従う。篆文の字形は悳(トク)に従い、悳の声。説文に升るなりとあるが、字の本義ではない。徳の初形は省と極めて近く、省から展開している字と考える。省は目の上に呪飾をつけて、省道即ち除道を行うことを意味する字で、徳とはその省道によって示された呪的な威力をいう。


まとめ
 「徳」も儒教の根本思想。しかし徳はある意味では儒教思想の器のようなもの。器の中身は、「仁義礼智信」としている。



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2022年2月6日日曜日

漢字 「残」 の成立ちと由来:残ったものを有用物と見るか、カスと見るかで、漢字の意味も変わってきます


漢字「残」の成立ちと由来:「歹」(動きの取れない脚+「戔」二つの戈(ほこ)からなる。激しい戦闘で傷つき動きの取れない状態を示す
 漢字「残」の成立ちと由来:「歹」(動きの取れない脚)+「戔」二つの戈(ほこ)からなる。激しい戦闘で傷つき動きの取れない状態を表しています。

 2022年2月5日から北京でオリンピックが開かれる。中国語で奥运会という。また3月4日金曜日~3月13日日曜日の10日間パラリンピックが開かれる。このことを中国語で『残疾人奥运会』という。
 パラリンピックの中国語訳はどうもしっくりこない。日本でいうと廃疾者であり、完全な差別用語のような気がする。なぜオリンピック委員会は異議を唱えないのか不思議た。あれほど人権人権と騒ぎ立てるにもかかわらず、このような呼び名をそのままにしておくとは。
 もちろん中国語を日本語で解釈することはできませんが、少なくとも、中国語を中国人自身がいかに解釈しているかを深く話し合いすべきだと考えます。


漢字「残」の楷書で、常用漢字です。
 左の部分は「歹」、右は「戔」で両形の会意で激しい戦闘で傷を負って動けなくなった状態を示しているとされます。
 このように元々は「廃疾」のように使われていたのかも知れませんが、後世の使われ方は、いわゆる「残る・残留・残滓」という意味に使われているようです。
残・楷書


  
残・甲骨文字
上と下の2つの「戈」の形をしており、兵の刃で近接して互いに殺戮の戦いの意味を示しています。
残・金文
甲骨文字を引き継いでいますが、戈がより明示的になっています
残・小篆
左の部分は足を緊縛され、動きが取れないことを示しています


     「残」の漢字データ
 

漢字の読み
  • 音読み   ザン
  • 訓読み   のこ(る)

意味
     
  • そこなう ・・「殺す」(例:残骸)
    傷つける、切る・切断
      壊す  破る  
  • 傷・痛み
  •  
  • 酷い、むごい

同じ部首を持つ漢字     死体、
漢字「残」を持つ熟語    残虐、残酷、残念、残渣、残像、




引用:「汉字密码」(Page、唐汉著,学林出版社)
唐漢氏の解釈
 「戔」は「戋」の繁体字です。 「戔」は「残」の本字でもあります。甲骨文字の「最初の」キャラクターは、上と下の2つの「戈」の形をしており、兵の刃で近接して互いに殺戮の戦いの意味を示しています。

 



漢字「残」の漢字源の解釈
 会意兼形声:「戈+戈」の会意文字で、刃物で切って小さくすること。残は「歹(ほね)+音符」で小さく切りとって、小さくなった残りの骨片


漢字「残」の字統の解釈
 旧字は残につくり、戔声。戔に浅小軽薄のものの義があり、残とは残骨・残片の意である。「説文」に賊と人を害する残賊の義とする。


まとめ
 会意文字であるようだが、甲骨文字にせよ、金文にせよ、まるで象形文字であるかのように生き生きとした人々の姿が描写されている。文字の形に簡略化し、無駄を省いたデッサンとなっており、実に素晴らしい記号化、抽象化がなされていると思う。




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2022年2月5日土曜日

漢字「仁」:儒教の根本思想。それは今や中国文化の土壌となった。これからも中国の行く末にいかなる力を及ぼすのか


漢字「仁」:儒教の根本思想。それは今や中国文化の土壌となった。中国共産党は、共産主義から逸脱しつつある。果たして科学的社会主義たる共産主義の流れに回帰できるのか
 儒教の根本思想。中国共産党もその桎梏から逃れられずに共産主義の本流とは違う流れに流されつつある。 以前にこのブログで「仁」を取り上げたとき、これが、『儒教の根底をなす思想に「仁」という言葉がある。儒教は基本的に君子論である、』と言ったが、この考え方に今も変わりはない。そして、2000年を経て、今日『思想的に変節をして、今では生き残れるはずはない』と述べたが、この考えは、誤りであったと認識している。
 そればかりか、中国のみならず、韓国、日本で、人々の思想的土壌となって息づいて、今日でも東アジアの人々の考えの根底に脈々と流れていることを認めざるを得ない。

例えば、「仁」をいう語を使った成語に、『志士仁人』というのがある。この心は、「仁を害することを以て生を求めることなく、仁をなすことを以て身を殺すことあり」というものであるが、このような滅私奉公的な考えは、中国人、朝鮮人、日本人の中に色濃く残っている。近年においても中国の体制の中でも、しばしば、革命運動を推進する人々の革命的な精神を称賛するものとして繰り返されてきている。

 人間の在り方を規定する言葉
 西欧における『個』、中国における『仁』が、中国の革命運動と、西欧の革命運動の違いを特徴づける点だと考える。またこのことは革命運動のみならず、中国の文化の原点みたいなところでもあり、とにもかくにも中国文化は自己埋没的な文化ではないだろうか。そして、このことは中国だけではなく、朝鮮、日本の文化の特徴であるとも言えるのではなかろうか。
 このことから導き出せるもう一つの結論として、中国の共産主義というのは、共産主義を標榜しているにもかかわらず、いわゆる『共産主義』とはずいぶん違う性格を持っているような気がする。

 ここで最も重要な結論になるが、中国革命の大きな使命とは、「中国革命の中での人民の開放とは、西欧的意味での『個人の開放』、『自由の実現』というものではなく、人民の開放とは個人ではなく、あくまでも共同体に重点を置いたものであり、個人は共同体に帰属することを通してしか自由を実現できない、そこにしか真の解放はないと考えられているのだ。

中国共産党は自らの使命を全うできるのか
 しかし、本当にそれでいいのか? 中国人民を中国共同体に押し込めることで、本当の意味での人間性の開放に導けるのか。中国は今後もますます発展するだろう。やがて資本や私的所有からも解放される時代が来るであろう。その時においても、共同体に固執できるのであろうか。

異なる人間性の解放の概念が交わること或いは融合することは可能なのか
人間性の在り方に以上みてきたように違いが存在することは、結局二つの価値観が融合することはなく、相手を互いに認め合うことが難しいように感じる。しかし、ヘレニズム文化の中で、価値観の異なるものが存在することを発見し、それを認めうることによること以外に人間が存続することはできないことが分かってくるだろうと思うし、きっとわかるに違いないと信じる。


漢字「仁」の楷書そで、常用漢字です。
 上部は「千」で、人の足の下に横線がある。下部は心の象形文字である。両形の会意で、仁の字は千個の心眼であり、或いは千種の思索の聡明な人である。
即・楷書


  
仁・古文
仁には心という字が明示されている
仁・金文
古文と金文の間に何があったのか
仁・小篆
文字化の過程で簡素化されている


    


「仁」の漢字データ
 

漢字の読み
  • 音読み   ニン・ジン・レン
  • 訓読み   に、ひと

意味
     
  • 「いつくしみ(かわいがって大事にする事)」、「いつくしむ」(例:仁愛) 
  •  
  • なさけ  
     思いやり  
     かわいそうに思う心 
  •  
  • ひと  人格が備わり、わきまえており、教養もある人、
    人の心

漢字「仁」を持つ熟語    仁愛、仁義、仁術




引用:「汉字密码」(Page、唐汉著,学林出版社)
唐漢氏の解釈
 仁は孔子の儒学的核心の概念で、許慎は『説文』の中にあるように、「仁」は古文と小篆の2つの款があり、最初の仁の字は会意文字で、上部は「千」で、人の足の下に横線がある。下部は心の象形文字である。両形の会意で、仁の字は千個の心眼であり、或いは千種の思索の聡明な人である。

 別の1款の「仁」の字は甲骨文字の仁とよく似ており、右の上部は人の象形のデッサンである。その左下の部分は即ち古文の「上」の字である。両形の会意で仁と人を表す。即ち上層階級の人の意味である。

 楷書は隷書への変化の中で「仁」となった。仁の本義は心眼が多くある、深く思索し頭を働かす人の上に立つ人の上等な人で、小人、下民に相対的な上人、大人を指します。

 この文字が儒教の核心的な文字となったということから見ても、儒教がよく言われるように体制的、保守的な宗教であるのにはそれなりの理由となりそうです。

 


漢字「仁」の字統の解釈
 人と二とに従う。《説文》に「親なり」と親愛の義とする。儒家が人の最高の徳とするもので、『孟子、尽心』に「仁は人なり、仁と人は声義相同じとする。


まとめ
 儒教の根幹をなす思想。封建社会の中の「上人」(古代帝王)たちが備えている徳行のことをいう。
「仁」及び「上人」は彼らは自分を国を治め、民を治め、文化を治める士大夫と自ら任じ、まさに自分を人類の精華とみなしている。儒教のこの考えが長きにわたって、東アジアの人々の価値観として染みつき、上に立つ人は、教養も備え立ち居振る舞いも優雅であるはずだとされてきたが、現実と思い込みの乖離から、上に立つものは、そのことだけで、賓こううぉ旺盛でありえないことが認識されるようになった。

中国人と儒教の根幹「仁」の起源と由来・・仁についてのもう一つの考察 ☜ については、こちらが詳しいです


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