2023年7月30日日曜日

来年の干支は「卯」 三年先には丙午(ひのえうま)がやってくる。干支の呪縛から解放され、真に自由な人間になろう!!


三年先には丙午(ひのえうま)がやってくる。干支や宗教の呪縛から解放され、真に自由な人間になろう!!

導入

前書き

 毎年、年の後半になると翌年の年賀状の図柄が巷に溢れ、年の暮れにもなると翌年の干支に関する話題が止めどもなく溢れ出てくる。
 翌年の賀状だけの話であればそ、それほど問題はないが、出生率の話に及ぶと問題は深刻になってくる。出生率の話というのは、「丙午(ひのえうま)」には、出生が著しく低下することである。これはひのえ午生まれの女性は気が強く手がつけられないという根拠のない風評により、出生を控えるということが背景にあり、長きにわたってその愚が繰り返されてきた。前回の丙午は1966年(昭和41年)で、次に巡ってくる年は2026年(令和8年)となる。

  現代の日本では出生率が低下し、今や危機的状況にあるという認識でほぼ統一されている。そのような状況のなかで、3年先にはこの出生率が著しく低下することが巡ってくる。
これ以外にも、様々な風評、宗教的理由などに、人々が縛られ、本来あるべき行動から乖離せざるを得ない事象が日常茶飯事である。人間が月にも行く時代、人間がその活動によって地球をも壊滅してしまう時代に、いつまでこのような愚を繰り返すのだろうか。今や思い切って、過去の慣習や呪縛から解放され、真の自由な人間を取り戻すことが何よりも求められている。

これは人間一人一人の問題である。
本記事は以下の記事をバージョンアップしています。『漢字「卯」:2024年の干支は「卯」うさぎ年ならば、身の安全はウサギの保身術を見習ったら』

目次




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漢字「卯」の今

 2023年の干支は「卯」我が唐漢氏は『古代人は、天体の規則性を人間の出生から始まる身近な事柄に当て嵌めていた。それが十二支の原義である』と説いた

漢字「卯」の解体新書

 「卯」という漢字は、「う」と読みます。
 甲骨文字は中国の商朝から周朝の時代にかけて使用された文字で、占いや祭祀のために甲の骨や亀の甲羅に刻まれていました。その中に「卯」という形をした文字が見つかっていますが、その意味や使われ方ははっきりと解釈されていません。
 また、「卯」の字形は、ウサギの姿をかたどった象形文字とする説もあります。ウサギは中国の伝統的な十二支(干支)の一つであり、「卯」はウサギの干支を表す漢字としても用いられています。

 由来については、前述のようにはっきりとした起源は分かっていませんが、古代中国の文字や宇宙観に深く関連していると考えられています。干支の一部として、暦や占いに使用されることが多く、その意味合いは時間や季節とも関連しています。

 なお、「卯」は日本でも使われる漢字であり、特に干支として使われることが多いです。
卯・楷書
卯・甲骨
金文に於いても 殆ど変化ない
卯・小篆
文字化の過程で体裁が整えられている



 「卯」。これは象形表意文字だ。「子丑・・」から初めて4番目に位置する。

 

「卯」の漢字データ

漢字の読み
  • 音読み   ボウ
  • 訓読み   う、さく

意味
  • 午前6時を指す
  •  
  • 方角では東、五行では木
  •  
  • 十二支の「う」に用いるのは仮借
  •  
  • 動物では、ウサギを指す

同じ部首を持つ漢字     印、即、卵
漢字「卯」を持つ熟語    卯、卯月、卯槌


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漢字「卯」成立ちと由来

引用:「汉字密码」(Page、唐汉著,学林出版社)

唐漢氏の解釈

  唐漢氏は『古代人は、天体の規則性を人間の出生から始まる身近な事柄に当て嵌めていた。それが十二支の原義である』と説いた。
 この説は、通俗的であり、感覚的に受け入れ易いものである。しかし、天体の規則性を認識することと、身近に起こる出来事を結び付けるには別問題で、体系的な認識が必要で、直感的にできるものではない。
 甲骨文字の字形は嬰児と胎盤が母体から出ているが、両体が共存する状態からの母親と嬰児の間の分離を見ることができる。卯の字は育産を体現しており、この苦痛であるが偉大な過程が完成した状態を示しており、一個の新しい生命の誕生を表示している。金文の卯は甲骨文字と同様であり、小篆は字形に美観と丸みを持たせ上部に横に広がりが出ている。楷書は簡単さがなくなり、繁雑になって、模倣して(猫をまねて虎を描くということわざがある)卯になった。 

 人間の胎盤はおおよそ400-500gで嬰児の6分の1程度である。卯の本義はもともと母と嬰児、胎児と胎盤の分離である。だから「分」と「産」の意味である。これが即ち卯の字が物象の源であると説く唐漢氏の考えである。

 卯は卵の形の上の基礎になっており、卯を知らずして卵と識別する方法もない。分体の意味は子供を産むことの完成であり、だから原義は拡大され「止」の意味を持ち、ないし「留」形の源にもなっている。胎児と胎盤の割断から、拡大解釈され「殺」の意味を持ち、「劉」の繁体字の由来でもある。


漢字「卯」の字統の解釈

 牲牛の肉を両分する形。
 卜辞に犠牲を卯す(ころす)意に用いており、それが字の初義である。
 説文に「冒なり」と同声の字をもって訓し、卜文と金文の字形は牲牛の肉を両分する形と見られる。我が国の俗説はふ古く卯の日の信仰から来たものと考えらえる。

漢字「卯」の漢字源の解釈

 指事。門をむりに押し開けて、中に入り込むさまを示す。この解釈は、小篆の字形からの解釈によるもので、甲骨や金文の字形からの解釈とは異なるという批判がある。



漢字「卯」の変遷の史観

文字学上の解釈

漢字「卯」と兎
 漢字の卯は動物のうさぎのことだと伝えられてきている。新年を祝う年賀状の中でもうさぎの絵柄は可愛らしさを持って新春の喜びを伝える賀詞の役割を果たしている。

しかし、今まで見てきたように卯と兎の文字の甲骨文字の形状は全く異なり、両者はまったく別の漢字と言わざるを得ない。漢字が基本的に象形文字である限り、まず象形文字が誕生し、諸々の抽象的概念はその後複雑な発展過程を経ながら生成されていくもので、漢字「卯」と「兎」はこれを見事に表現したものと考える。
 兎は人間の直感を素直に表現されていることから、まず兎が生成されたものであろう。

 唐漢氏の解釈は太古の人々は、全体の運動を人間の一生サイクルと捉えて胎児が産道を通って生まれるまでの過程になぞらえている。さもありなんという説ではあるが、天体の運動の規則性を人間の誕生の過程を結びつけるには論理の飛躍があると考えている。


まとめ

   「卯」は十二支を構成しており、十干と合わせて干支と呼ぶ。十干十二支は戦国時代に作られた陰陽五行説よりもはるかに古い起源をもつので、陰陽五行説による説明は後付けである。
 また生命消長の循環過程とする説もあるが、これは干支を幹枝と解釈したため生じた植物への連想と、同音漢字を利用した一般的な語源俗解手法による後漢時代の解釈である。

 鼠、牛、虎、卯…の12の動物との関係がなぜ設定されているのかにも諸説があるが、詳細は不明である。 以上のことから十二支の「卯」と動物のウサギには何の関連性もないものである。
  


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2023年7月29日土曜日

漢字「冦」の意味するものは?春秋時代から繰り返されてきた蛮行(蛮冦) 私たちは歴史から何を学んだか


漢字「冦」に見る「歴史は繰り返される!」司寇、元寇、倭寇・・春秋時代から繰り返されてきた蛮行(蛮冦)

 今ウクライナで蛮行は、露冦と形容できるかもしれない。

ここで取り上げた漢字「冦」は実は春秋戦国時代には出来上がっていたようだ。

   それから実に2500年もの間、繰り返し使われ、そして、今この時点でも、立派に再現されている。ロシアのウクライナ侵攻が、まさにこの「冦」にあたる。
 2500年もの間名付けられた蛮行は、「司寇、元寇、倭寇」という名で登場し、これ以外に無数の蛮行が繰り返されてきた。そして今新たに「露冦」という名前が、歴史に刻まれたと言っていい。

 歴史に学べと言われるが、人間はこれまでの歴史から一体何を学んだのだろうか??


導入

前書き

 屋内に入り込んで人の頭を棍棒でぶん殴るという流行りの連続強盗のまんまを表している。

 この記事は2012年のもの「漢字「寇」は何を意味するか。」をバージョンアップしたものであるが、前載「倭寇と日本人のDNA:司馬遼太郎氏の深い洞察に学ぶ」をさらに、人間の業というべきものに迫りたい。

目次




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漢字「冦」の今

漢字「冦」の解体新書


「寇」の漢字の構成

 「冦」は人の住む家を示す「完」+小枝を手にもって殴る様を示す漢字「攴」の会意文字である。攴は古くからある字で、人々が人や動物に対して早くから殴りつけてつけていたことを示す。一方家の方は、屋根が明確に示されていることから、住環境がある程度整ってから出来た漢字と思われる。
冦・楷書
家の中の人を、こん棒で攻撃することを示す
完・金文
家の中に人が居る有様
攴(ボク)・甲骨
こん棒で攻撃することを示す


 

「冦」の漢字データ

漢字の読み
  • 音読み   コウ
  • 訓読み   あだする・せめいる・かたき

意味
  • 暴行を加える
  •  
  • 略奪する
  •  
  • 主に身内以外の者に対する暴行をいう

同じ部首を持つ漢字     攴、攻、放、牧、敵
漢字「冦」を持つ熟語    冦、元寇、倭寇


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漢字「冦」成立ちと由来

「寇」の漢字の由来については、古代の中国の歴史的背景に関連しているとされています。
 以下の説があります。

  1. 説1: 侵略者や略奪者を指す説
    「寇」は、古代中国において侵略者や略奪者を指す言葉として使用されたという説があります。古代中国では、他国や他地域から侵略されることが多く、そのような侵略者や略奪者を「寇」と呼んでいたとされています。
  2. 説2: 略奪や侵略を意味する説
    「寇」は、略奪や侵略を意味する漢字であるという説もあります。古代中国では、戦乱や略奪が多く、略奪や侵略を表現する漢字として「寇」が使われたとされています。
  3. 説3: 神秘的な敵を意味する説
     また、「寇」は神秘的な敵を指す語としても使用されたという説もあります。古代中国では、異民族や外敵を神秘的な存在として捉えることがあったため、そのような敵を指して「寇」という漢字が用いられたとされています。

  4. 以上のように、諸説あるため確定的な由来を特定することは難しいですが、これらの説を参考にすることで、「寇」の漢字が持つイメージや意味を理解することができます。


引用:「汉字密码」(Page、唐汉著,学林出版社)
「寇」は建屋の中で行われる暴行を表す

唐漢氏の解釈

 「寇」は会意文字である。甲骨文字の寇の字は上部は建屋を表す。屋内の右には一つの棍棒を持った手、まるで左の人をまさに殴っているようである。しかし、ここでのウ冠は、屋内というより、「内部」という意味合いが強いのかも知れない。つまり内側に入り込んでくるという感覚なのか。


漢字「冦」の字統P305の解釈

 冦: あだする・せめいる・かたき
 会意 完と支とに従う。 冦は廟中に人のある形。元は結髪している人で、元服の式を冠という。
 寇は虜囚として廟中に連行されたもの。これを祖霊の前で殴つのは、外賊に対する呪的な意味をもつ行為であろう。〔説文〕 に「暴なり」と訓するも、ただの暴力行為ではない。[慧琳音義」などに引く〔説文〕に、「その完聚するに當りてこれを寇つ」 とするが、この字形中の完は、首を全うして虜囚となったものをいう。
 武力 による寇略のみでなく、財物を掠取することをも寇といい、農作物を掠取したことをいう。
 〔左伝] 文七 年 「凡そ兵、内に作るを亂と爲し、外におけるを寇 と爲す」というように、外寇を意味する字である。




漢字「冦」の漢字源の解釈

 会意。「完(周囲を完全にとり巻いた家)+(こわ す)」で、防ぎを破って家をこわすことを示す。



漢字「冦」の変遷の史観

文字学上の解釈

「寇」の漢字の発展

 この種の屋内での凶行は却って略奪の行為を「寇」とするのに適している。小篆の「寇」の字は将に屋内の左に立つ人が変化して「元」の字なっている。「元」は古文字では、頭を突出した人の形で、棍棒を用いて頭部を攻撃して、残虐に殺す意思を含んでいる。楷書は小篆からきて、一脈引き継いでおり、形も似ている。


「寇」の使われ方

 「寇」の本義は屋内の暴行、即ち盗賊や匪族の意味である。盗賊ないし侵入者はこの為「寇」または侵犯の意思を含んでいる。杜甫の詩「復愁」の如く、その中に「万国なお防寇あり」、この寇は侵入者を指す。明代に将に侵入してきた日本の浪人たちは倭寇とよぶ。抗日戦争当時、中国人民は将に日本の侵略者を「日寇」と称した。全て侵略者の意味である。
冠と寇し、その中の寸は手であり、その手で持って、帽子をかぶるのを冠という。冠と寇は意味と音は全く異なるのだ。つまり一方は冠で、もう一方は侵略者だ。


引用:司馬遼太郎「日本人と日本文化」

  対談本「日本人と日本文化」の中で、司馬さんは室町中期から秀吉の辺りまで倭寇が活躍?していたことについて触れ面白いことを言っている。少し長いが引用する。

倭寇と日本人のDNA

   彼らは世界の中の日本の位置づけを知らないので、ただ荒らしまわるだけで自らビジネスに出来ない。大体が情報を握っている中国人の手下で働き、いわば暴力労働者の様な形になっていたという。
 五島列島の倭寇は中国の杭州湾口にある船山列島を明軍と戦い占領したことがあった。
 占領したら自分のものにしたらいいのだけれど、彼らは3カ月程すると故里が恋しくなって日本に帰っていくことを繰り返していたらしい。土地の人々も、倭寇が来てもほったらかしにしておればいいといわば泰然と構えている。「いずれ彼らは帰って行くんだ」と。
  倭寇には土地を占領してそこを治める政治力が育たない。

  これとある意味全く同じようなことが、太平洋戦争でもあったと司馬さんは言っている。
 当時海軍にいた司馬さんの遠い親戚の人から聞いた話として、「当時の海軍には真珠湾を攻撃することはできるが、しかし攻撃した後どうするかという戦略がなかった。それは海軍に留まらず日本国全体が持っていなかった。」
   彼はアメリカは非常に強い。どうせ負けるのであれば、「倭寇で行きましょう」と進言したということである。つまりどういうことかというと「真珠湾を攻撃し、そしてアメリカ沿岸を空襲して帰ってくればいい。ただそれだけのことです。」

 明治の戦争以外は日本人には倭寇の時と同じで、欲望表現としての戦争があっただけで、戦後の処理をどうするかという戦略も持たずに突入していった。当たり前のことではあるが、倭寇のDNAと日本の主導者のDNAは同じであり、まったく同じ過ちを繰り返していると司馬さんは分析している。
   これを読んで、目からうろこが落ちるという印象を否めなかった。これは、ある意味今でも脈々と受け継がれている。
原子力発電でもそうだし、沖縄復帰の問題でもそうではないだろうか。どんと花火を打ち上げ、世間の注目を集め、選挙に勝つなりしたらもうそれで全てよしとしているきらいが窺えないだろうか。


まとめ

  漢字「冦」に限らず、人間は様々な蛮行を繰り返し、地球を破壊してきた。最近私たちの身上に起こっている出来事は、地球はもう取り返しのつかないところまで破壊されているのではないかと思わせる。地球が出来て45億年、基本的に何もなしに生きてきた、人類が誕生するまでは。しかも地球が死の淵に追いやられたのは、この地球の長い歴史の中で、ごくごく最近のわずか50年のことではないか。もう遅いのかも知れない。しかし、それでも最後のあがきを人類に求めたい!
  


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2023年7月25日火曜日

漢字「麻」の由来と成立ち:「麻」と麻薬はいったいどんな関係が?


漢字「麻」の由来と成立ち:人類は「麻」から得たものは何か?漢字の中からその歴史をひもとく

 麻と聞けば、「麻薬」がすぐに頭に浮かぶ。いまやその負のイメージは、大きい。しかし、「麻」が人類に施したものはあまりにも大きい。これに対し、「麻」のイメージの失墜は惨憺たるものではないか。声を大にして言いたい。麻は何一つ悪いことをしていない。諸悪の根源は、人間である。この記事から、読者がそれを肝に銘じられんことを祈る!

前書き

 麻と人類の関わりは非常に古く、紀元前1万年前、中国にて発掘された陶器破片から麻から作られた紐を押し付けた痕跡がしっかりと残っています。

  紀元前10世紀~5世紀頃、麻は世界各地で栽培され、使用方法が広がったとされています。麻は人類最古の繊維であり、世界各地で紀元前から使われてきた植物です。紙の原材料、繊維の材料、種は燃料の油、建築材料として使用され、特に各国の紙幣には使用量は違いますが麻を材料として使っているそうです。また薬剤として、古代中国の「神農本草経」の中に記録があり、以来何百年に亘って増刷され、漢方医に必要不可欠な本によって麻酔作用・陶酔作用・幻覚作用の紹介がされています。
 ここでは、麻という漢字の由来と成立ちを解き明かし、人類の麻とのかかわりについて明らかにしたいと思います。

目次




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漢字「麻」の今

漢字「麻」の解体新書

漢字「麻」の楷書で、常用漢字です。
 麻という漢字は現在では左に示す通り書きますが、古語では「广」との下は林ではなく、𣏟です。この𣏟という字は、ハイと読み、麻の皮をはぐ有様を形象化したものであり、林とは全く異なるものです。

 このことによって漢字の「麻」という由来と成立ちが極めてはっきりしたものになったと同時に、当時の農業の有様までも浮かび上がってきたといえるでしょう。

麻・楷書「麻」の古語


  
广・屋根・宮殿を表す
𣏟(ハイと読みます)
麻の草が生え揃っている様を表す
麻・古語


 

「麻」の漢字データ

漢字の読み
  • 音読み   マ
  • 訓読み   あさ

意味
  • あさ 植物
  •  
  • 麻で編んだ布
  •  
  • 麻薬、大麻、ヘンプともいう

同じ部首を持つ漢字     蔴、𣏟、魔、磨
漢字「麻」を持つ熟語    麻、麻薬、麻痺、麻酔


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漢字「麻」成立ちと由来

引用:「汉字密码」(Page、唐汉著,学林出版社)

唐漢氏の解釈

 麻は一年草の植物で、苧麻、ビロード麻、麻など多くの品種があります。

  1.  一年生麻(キナ麻、学名:Cannabis sativa): この種類の麻は、長く細い茎と独特の葉を持っています。主に繊維や紙、織物などの産業用材料として使われます。また、THC(テトラヒドロカンナビノール)の含有量が比較的低いため、嗜好品としての大麻(マリファナ)の主成分であるTHCは少ないです。
  2.  二年生麻(ラミー、学名:Cannabis indica): 一年生麻よりも小柄で密生した植物で、花や葉には比較的多くのTHCを含みます。そのため、大麻の栽培においては、主にこの種類が使用されることがあります。
 麻の植物には毒性があり、洗っていない麻の束をこすると皮膚が中毒になったり、しびれが出たりします。ヘンプシード(大麻の種)やゴマ油を過剰に摂取すると、酔った感じや「麻酔、しびれ、鈍感、しびれ」など生じることがあります。

 麻という植物は雄と雌に分かれます。雄は繊維質のため、適時に収穫する必要があります。 「書文」はこれを「鞴、分枲(味、音xr)茎の樹皮」と解釈しています。つまり、雄麻の茎表皮の繊維は非常に長く、雄麻の茎皮も非常に長いです。大麻(ヘンプ)はコシが強く、頑丈で耐久性に優れた特性を持っています。昔から残っている蚊帳に織られていることもあるくらい昔から馴染みのあるものです。
 一方、雌麻(穆:ぼくという)が収穫では、メスの麻の種子からは、古代において非常に重要なランプ油であった油、すなわち一般に「ゴマ油ランプ」として知られる油脂植物が抽出されます。ごま油は料理にも使用でき、麻の実は重要な食品でした。しかし麻薬のマリファナの原料にもなるということで、日本では、厳しく禁じられていることもありますので、よくよく注意してください。


漢字「麻」の字統(P808)の解釈

  旧字は麻に作り广と𣏟(ハイ)とに従う。
 麻が广に従うの は、は宮廟の象であるから、𣏟皮を神事に用いる意とすべきであろう。わが国では白香を神事に用い修祓のときにこれを著ける俗があった。中国では御祀 とよばれるものが、修祓の意をもつ祭儀であるが、の御の字の午形のところは、文・金文ではの幺の形にかかれ、糸たばをした形である。おそらく麻たばなどを用いたものであろう。麻で織った布は絺綌(チゲキ)といい、多く神事に用いる。(詩曹風、蜉蝣〕は悼亡の詩であるが、 「麻衣、雪の如し」とあって、その経帷子の類をいうものであろう。これらのことからいえば、神事に供する枲麻を麻といったものと思われる。

漢字「麻」の漢字源(P1843)の解釈

 会意。「(やね)+𣏟(アサの茎を二本並べて、繊維を はぎとるさま)」。アサの茎を水につけてふやかし、こすって繊 維をはぎとり、さらにこすってしなやかにする。



漢字「麻」の変遷の史観

文字学上の解釈

Hemp lief
imacvery From AC-illust
古代で最も重要な繊維原料の一つ
 現代でも庶民もこの麻の繊維のものを着ています。麻で作られた衣服は2000年もの間使用されてきました。
宋、元の時代までの長い間、徐々に綿布に取って代わられてきました。麻は古代では「五穀」の一つであり、麻の種子は食用および油料作物でした。したがって、中国における大麻の栽培と利用は非常に長い歴史があり、中華民族の農業文化の中で一般的なものとは異なる特別な地位を占めています。
 麻は金文で「麻」と書かれており、下部は「𣏟(ハイ)」です。どちらの形も、麻が茎から麻の樹皮を剥がすために伐採できる植物であることを意味します。
 金文や小篆の「麻」の字の下の部分は「𣏟」の字であり、「林」とは全く別の字である。 「𣏟」は象形文字で、麻が二本並んだ形の𣏟から、麻の植物が細く直立して密に植えられていることを表しています。 したがって、「説文」はそれを「𣏟は人々によって支配されており、家の下にあります。」と解釈します。小篆の「麻」の「广」は、廊下の部屋とみなすこともでき、人々が家の中で麻の皮を剥くことを意味します。 麻は中国の「男は耕し、女は織る」という方法の重要な要素であり、中国の封建的習慣において特別な役割を果たしています。衣服は長い間中国の封建思想の根幹を構成する要素の一つでした。

まとめ 

 麻という漢字には、魔という漢字の一部を構成するために、甚だ迷惑なイメージを押し付けられてしまった。これはサンスクリット語にmara(マーラ)という言葉があり、修業を妨げる鬼神を指すが、仏典を訳した人が「魔羅」の字を当てたといわれている。

 麻と人類の歴史を学んできた。そして、その歴史が漢字の中に如何に凝縮され、人類の歴史の中で生き続けてきたかを学んだ。我々は知っているようでも、知らなかったことも多い。これが歴を学ぶことの面白さと実感している。

  


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2023年7月9日日曜日

漢字「加」の甲骨文字から金文のへ劇的な変化は、当時の中国の社会に起こった途轍もないを変化を表していた


漢字「加」に起こった変化は、当時の社会が氏族共同体社会から、国家機構を持つ邑社会への移行を示している

漢字「加」の甲骨文字は、女偏に鋤という字です。
 左の中腰で座ったような画像は「女」を表しています。そしてその右側に表示されているのが、鋤を表しています。この「女」+「鋤」でなぜ「加」を意味するのか、よく分からないものがあります。

しかし、この「鋤」の記号は現実には「力」を意味しているのでとも云われます。

 左辺の「女」の記号の代わりに、「田」という記号が入ると、「男」となります。
 私はこの変化の背景に、当時の世の中の生産体制の変化があったとみています。つまり明確に農耕が生産の中心の位置に据えられ、その労働力の主たる担い手が「男」であったことを示していると考えています。
 しかし、さらなる生産の増強を求め、そこに女の神秘的な力を借りて、神に願うようになった。
 「田」の代わりに「女」という記号が入ると「加」という意味になった。 この漢字「加」は、「鋤を祓い清める礼で農耕の始めに秋の虫害を避けるため、鋤に修祓を加える」儀式をも含み、漢字「加」が生まれたのだという説もある。


 では、次の画像は何を意味しているでしょうか。 右の中腰で座ったような画像は女性を意味しています。その女性が、掲げているのが箒です。この漢字は「婦」です。そして、今では女性差別の元凶のように言われますが、太古の昔は母系制社会の中にあって、自分の家を持つこと許された女性で、部落の中心を担う独り立ちした立派な女性なのです。一方男性は 家を持たしてもらえず、 村の共有の施設で共同生活をしていました。そして気に入った女性のもとに通わなければならないという存在でした。

 このように漢字は当時の社会の在り方をよく表現しているといえ、太古の社会を我々に忠実に伝えてくれているといえます

導入

前書き

 漢字は基本的に象形文字であり、抽象的なものより具体的なものを具象化したものです。そして、それは実に多くの概念を「一字」で表すため、偏や旁を組み合わせる構造を持っています。したがって、漢字の構造を調べることによってそれに込められた概念を判明し、さらにはその歴史的背景まで解明することができます。

目次




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漢字「加」の今

漢字「加」の解体新書

漢字「加」常用漢字です。
 「加」という漢字が、現代の形をとるようになったのは、金文からで、それ以前の甲骨文字の時代は、字形は全く異なりました。したがって意味した内容も異なっていたと考えられます。
 
 このように字形に大きな変化をもたらした背景には、社会の大変革があったはずだとみています。
加・楷書




金文から小篆、楷書に至るまで「加」の文字は構造にはほとんど変化はありません
加・金文
鋤と「サイ」で鋤を清め生産の高めることを祈った
加・小篆
金文を引き継ぎ、文字化のレベルが高まっている
加・楷書
金文、小篆からの文字の構造的な変化はない

  

「加」の漢字データ

漢字の読み
  • 音読み   加
  • 訓読み   くわ(える)
意味 
  • くわえる、くわわる  増す、多くなる」(例:増加) 
  •  
  • くわえて、その上に
  •  
  • 足し算   例:加算

同じ部首を持つ漢字     伽、賀、迦、
漢字「加」を持つ熟語    加算、加害、加圧、加減、加持、加護


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漢字「加」成立ちと由来:「加」の変遷はどこからもたらされたか

引用:「汉字密码」(Page、唐汉著,学林出版社)

唐漢氏の解釈:民俗学的解釈

  加は会意文字です。甲骨文字の左辺は女の人の象形文字で、右辺は男の子を表しています。金文の加の字は改めて新たな構造形となっており、下辺は女の子を表す。やはり会意方式で、もう少し意味があり、男の子を産み落としている。

しかし、唐漢氏の甲骨文字の解釈にかなり無理があると思う。左辺は女の形象で、右辺は男の子としているが、他の論者はこれを鋤としている、男にしろ、鋤にしろ、会意文字として、なぜ「加」という意味を持つのか少し理解しがたい。字統の解釈の方が、無理がなくかつ一貫性を保っているように思える。

  

漢字「加」の字統の解釈:漢字の発展に宗教的色彩を見る

 会意文字:力と口に従う。「力」は鋤の象形。口は祝禱の器の形で「サイ」。
「加」はもと鋤を清めて生産力を高めるための儀礼をいう。鋤を祓い清める礼で農耕の始めに秋の虫害を避けるため、鋤に修祓を加えるのが例であった。
 

字統の解釈の考察

周朝以降「加」の字は改造されて、一般的な意味の「加える」に拡張されました。なぜ改造されたかの理由は、ここで生産のシステムに大きな変革があり、それまでの巫女による呪術的な農耕から、より一般的な普遍的な「神」の力による生産・五穀豊穣を祈願し、生産力を高めるような社会に変化したのではないかと考えている。



漢字「加」の漢字源の解釈:漢字の発展を漢字そのものの中に見る

 会意文字:手に口を添えて勢いを助ける意を表す


漢字「加」の変遷の史観:古代社会の変化は漢字のにいかなる変化をもたらしたか

文字学上の解釈

  漢字「加」という字は、甲骨文字から金文に至るまでに、劇的な変化をしている。
 甲骨文字では、字の構成要素に明らかに「女」の象形が使われ、金文では「女」の象形は消え、その代わり「鋤」の象形が使われ、「サイ」という祝禱を入れる器が現れています。甲骨文字の時代には、いまだ女性崇拝は残り、子供を産むという生産性に畏敬の念を持っていたものが、金文の時代には、農業の発展により、人々の関心がより即物的な事物、つまり食料の生産に移ったのかも知れません。

 人々の間には「子供を産むこと自体はそれほど努力しなくてもできる。しかし、コメや食料はかなりの手をかけないとできないと価値観が変わったのかも知れません。もっともこの見立てはあくまでも仮説にしかすぎませんが・・。

しかし、 この文字に現れた劇的な変化は、生産過程の劇的な変化があったのではないかと考えざるを得ない。



まとめ

 甲骨文字の「加」は、「女+耜(スキ)」から成る。時代が下るにつれ劇的に変化する。その訳は、母系制社会から、生産力の高まりと主に父系制社会に変化したことという仮説(私説)が成り立ちうる。しかし、この仮説が、仮設でなくなるには、さらなる証拠が必要となろう。
  


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2023年7月7日金曜日

漢字「北」はかくして生まれた:人間関係で、背中を向けられたら、古人も今も悩みは同じ?


漢字「北」はかくして生まれた

「従うべきか、背くべきか、比べるべきか、それでもだめなら死ぬべきか?」 ハムレットそのものではないか?

導入

  人は自分の立ち位置は、一人でいるときは、分からないものですが、二人になるとおのずと明確になるものです。
 人間関係を見事に表現した漢字「従・北・比・化」ほ人間のありようの七変化

 これほど人間関係を見事に表現したものはほかに見当たりません。
 この漢字が出来て、三千年も経った後の、遠く離れたヨーロッパでの、ハムレットの叫び!

前書き

 少し古い話ですが、2017年の漢字は「北」が 1 位だったようです。
 その心は「北朝鮮」というところだろうか。そのほか、この年には九州「北」部の記録的豪雨、大谷選手の大リーグ移籍や清宮選手の入団など「北」海道日本ハムファイターズに注目が集まったことなどが理由となったようです。

 漢字「北」の意味は、二人が相背くということと方角の「北」という二つの意味を持っているといわれています。 この漢字の由来を探ってみよう。

目次




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漢字「北」の今

漢字「北」の解体新書

    甲骨文字「北」分解分析:
    左側:人の正立側面象形記号 
    右側:人を表す記号を左右反転させている
  1. 二人が相背くということ
  2.  
  3. 方角の「北」という意味を持っている。 

  問題は古代ではこの二つの意味のどちらが先に使われたのかということである。
 実際の生活上では「北」という方角を知ることが非常に重要なことであることは容易に想像できる。
 また人々が集落を作って、集団で生活をするようになると、人の立ち位置が非常に重要になってくる。

ある概念が重要視されるか否かは、その社会の成熟度、文明の発達度によって変わってくる。



「北」の漢字データ

 「説文」に「背くなり。2人相背くに従う。」とあり、背中の初文。
 この解釈は、甲骨文字が発見されたのちも一貫しており、金文、小篆のいずれも文字の解釈としては「背を向けあう」人の形とされているのが通説である。 
北・甲骨文字
北・金文
北・小篆

  

漢字の読み
  • 音読み   ホク
  • 訓読み   きた

意味
  • 方角の北
  •  
  • 敗北する
  •  
  • そむく、背を向ける

同じ部首を持つ漢字     背、乖、燕
漢字「北」を持つ熟語    北側、北面、北上、北極、


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漢字「北」成立ちと由来

 甲骨文字は、人が背を向け合っている様が見て取れる。これは反目している状態の会意文字であるというのが通説であるようだ。この説明からは北という字が「背」に使われているなどには確かに説得力がある。白川静氏の「字統」の中の説明でも、二人相背く形とあり、「説文」の「二人相背くに従ふ」とあり、「背」の最初の文字だと説明している。この解釈が、一般的である。



唐漢氏の解釈(P335)

  これに対し、わが唐漢さんの解釈は、甲骨文字の形は一人の人間と影である。正午自分どこに向いていても、影の頭はすべて北向いている。北方の冬の時期は人影は一般に長く地上に映え非常に顕著である。このため古人は地上の影が向いている方を北とした。


漢字「北」の字統(P803)の解釈

 二人相背く形。「説文」に「背くなり。2人相背くに従う。」とあり、背中の初文。卜文・金文に北方の意に用い、また地名にも用いており、古くその音があった。相背く意より敗北、敗走の意となる。


 

漢字「北」の漢字源の解釈

会意文字: 左右の両人が背を向けてそむいた様を示すもので、背を向けてそむくの意味


漢字「北」の変遷の史観

文字学上の解釈

 人間が文字や絵で何かを伝えようとする場合、身近なものを使うはずで、その意味でここに掲げた記号は人間の思考の発展過程がよくあらわされているといっていい  
従(从の原字・甲骨文字
人が二人左を向いて並んでいる。左の人に右の人は追随していることを示している。
比・甲骨文字
从の字の人の向きが右向けになっており、「比」べることを表している。
北・甲骨文字
二人の人間がお互いに背を向け合った反目した状態とあらわす。敵に背を向けるということで敗北の「北」となった。
化・甲骨文字
左辺は人の生きた状態を表し右辺は人が逆さになっていて、人の変化を表す。その究極の形が、人の死である。


まとめ

 甲骨文字は、王が卜辞により、広く自分の意を示すために作られたと言う。しかし、いくら亀の甲に記号を刻んだといえ、それを理解する人々が相当するいなければならない。甲骨文字のように体系だった文字が突如として現れるはずはなく、その前段階、前々段階が長くあったはずである。
 その意味でこのページで述べるように、言素たる「人」の記号を、いろいろに組み合わせて新しい概念を作り出した思考過程を跡付けることができて非常に興味深い

  



从、従、比、北、化はたった一字で全て人間と人間の関係を表現したもの。 ☜ 注意:このページは以前にアップした記事を加筆修正したものでです

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2023年7月2日日曜日

漢字「熱」と「暑」の由来:古代人はをどのように感じていたか。古代人の生の感覚が今ここに蘇る


漢字「熱」と「暑」:古代人は熱と暑をどのように感じていたか。 古代文字から古代の秘密を探る

 

 漢字「熱」と「暑」の由来:古代人は熱と暑をどのように感じていたか。 古代文字から古代の秘密を探る

 古代人の生の感覚が現代によみがえる。

 これらの甲骨文字は、古代の人々が夏の暑さや火の熱さどのように感じていたかを、今の私たちに鮮やかに伝えてくれます。

 本ページは以前に取り上げた「暑」と「熱」のページをリバイスしたものである。

導入

前書き

 漢字の成り立ちの意味するもの:漢字「暑」は漢字「熱」との比較でその違いが際立ってくる

 文字は一つの文字を取り出して、それだけを論じても、真実にたどり着くのは難しい。
 その漢字の類語、使われ方、音、歴史的背景などあらゆる面から調べて初めてその文字の本質が見えてくる。これは、漢字の新しいジャンルになるのかも知れない。漢字考古学とで名づけられるだろうか。

 これから日本は、梅雨も明けると本格的な夏に突入する。暑い暑いと連発することになるが、同じ「暑い」でも、「熱い」というアツさがあるが、この区別はご存じだろうか。

 古代人はこれらを実に巧みに使い分けていた。漢字の成り立ちを調べると、その使い分けが見事になされていることに今更ながら感服する。

 ここで違いはあくまで、古代での話であって、現代ではこのような話ではないことは当然である。

目次



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漢字「暑と熱」の今

漢字「暑と熱」の解体新書

漢字「暑」の楷書で、常用漢字です。訓読みでは「あつい」と読みますが、おなじ読みをする漢字には、「熱い」があります。

 この意味の違いは、古代文字を見ると一目瞭然であり、文字から、三千数百年前の人々の考え方にまで迫れるというのは、漢字以外の世界中のどの文字にもないだろう。漢字はすごいの一言に尽きる。

 参考ページ:
熱はトーチを持つとき熱く感じるさまをいう 




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「暑と熱」の漢字データ

 
 古代人の考え:暑と熱さは一つのことを言っている。暑さと熱の違いはほかでもなく湿っているか乾燥しているかだ。従って南は暑い、北は 「熱い」となる。其れから言うと日本の夏は「熱い」ということになり、砂漠のあつさは「熱い」ということになる。この唐漢氏の考え方は、字の中にどう反映されているか?少し違和感を感じる。

「暑」・金文
「日」と「者」の組み合わせの表意文字だ。 「者」という言葉の本来の意味は、もともとは漆が付着したために、湿を帯び中に封じ込めるの意味を含む。
「暑」・楷書
金文を引き継いだ。
  甲骨文字の「熱」という言葉は、まるで人が燃盛るトーチを手に持っているよう見えます。

 「熱」の本来の意味は、「火を持つ、トーチ」です。手持ち型の松明は火であぶり焼けるように感じることをいいます。したがって、「熱い」はあぶり焼けるの意味です。

 この文字は、今盛んにおこなわれている、オリンピックの聖火リレーそのもので、、この字を見ていると、古代中国でもオリンピックが行われていたのではないかと錯覚を覚えるほどです。
「熱」・甲骨
まるで人が燃盛るトーチを手に持っているよう見えます。
「熱」・小篆
小篆の「熱」の言葉は、火と執るの音からなり、会文字と形声文字になっています。
 小篆の「熱」の言葉は、火と執るの音からなり、会文字と形声文字になっています。楷書はこの関係から、「熱」と書かれており、簡略化されて「热」になっています。




 

 

「暑」の漢字データ

漢字の読み
  • 音読み   ショ
  • 訓読み   あつ(い)

意味
  • (天候の)暑い  ・・・(例)蒸し暑い、
  • (物の温度が高い)熱い  ・・・例:鉄が熱い、熱く燃える

漢字「暑」を持つ熟語    炎暑、酷暑
漢字「熱」を持つ熟語    加熱、過熱、蓄熱、解熱、高熱、熱中症、熱量


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漢字「暑と熱」成立ちと由来

引用:「汉字密码」(Page、唐汉著,学林出版社)

唐漢氏の解釈

 「暑」日と者の声音からなる。 古代人の考え:暑と熱さは一つのこと、「暑の義、主曰く湿、熱の意味、主曰く燥」、暑さと熱の違いはほかでもなく湿っているか乾燥しているかの違いだ。南は暑い、北は 乾いた熱さ。

 「暑」という言葉は、「日」と「者」の組み合わせです。 ここでの「者」はここでは声符でありまた表意文字だ。 「者」という言葉の本来の意味は、もともとは漆が付着したために、湿を帯び中に封じ込めるの意味を含む。 したがって、暑の本来の意味は中にも含める、「じめっとした暑さがへばりつく」の意味も含まれています。

 私たちの感覚でいうと、日本のじめじめとした暑さは「暑い」で表現され、砂漠の熱さは、「熱い」ということでしょうか。


漢字「暑と熱」の字統の解釈

 形声文字:声符は者(シャ)。説文に「熱きなり」とあって、暑熱を言う。者は庶と通じる字で、火を用いるものは庶であるが、暑は庶の意によって暑熱の意を含むものであろう。
「詩、小雅」にすなわち寒暑を経たり」の句があり、寒暑とは冬夏、一年をいう。


漢字「暑と熱」の漢字源の解釈

 会意兼形声文字。者はコンロで芝を燃やす様。火力を集中する意味を含み煮の原字。
 暑は「日+音符者」で、日光の暑さが集中すること。



漢字「暑と熱」の変遷の史観

文字学上の解釈

漢字「暑」の楷書で、常用漢字です。訓読みでは「あつい」と読みますが、おなじ読みをする漢字には、「熱い」があります。

 暑と熱の違いは「暑がコンロや日の光の環境の中で感じる熱」を言っているのに対し、熱は「トーチや松明などから受ける熱」を述べているようです。つまり熱の方は非常に直接的なものであり、人類がおそらく極めて初期に感じたであろう感覚のように思います。それに引き換え暑は太陽の熱やコンロなど環境の中で感じる感覚であるように感じます。したがって、漢字の発生は、熱は最初に発生し、暑はかなり遅れて発生したように思われます。そのことは、熱の甲骨文字、暑の金文からもで見てとることができるように思います
「熱」・甲骨
トーチから受ける熱の描写が面白い
熱いという概念はなかった?
「暑」・金文


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まとめ

 個人的には、「熱」の古代字が実に面白い。特に甲骨文字に至ってはまるで漫画である。古代人の巧みな表現力に敬意を表したい
  


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