ラベル の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示
ラベル の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示

2023年7月7日金曜日

漢字「北」はかくして生まれた:人間関係で、背中を向けられたら、古人も今も悩みは同じ?


漢字「北」はかくして生まれた

「従うべきか、背くべきか、比べるべきか、それでもだめなら死ぬべきか?」 ハムレットそのものではないか?

導入

  人は自分の立ち位置は、一人でいるときは、分からないものですが、二人になるとおのずと明確になるものです。
 人間関係を見事に表現した漢字「従・北・比・化」ほ人間のありようの七変化

 これほど人間関係を見事に表現したものはほかに見当たりません。
 この漢字が出来て、三千年も経った後の、遠く離れたヨーロッパでの、ハムレットの叫び!

前書き

 少し古い話ですが、2017年の漢字は「北」が 1 位だったようです。
 その心は「北朝鮮」というところだろうか。そのほか、この年には九州「北」部の記録的豪雨、大谷選手の大リーグ移籍や清宮選手の入団など「北」海道日本ハムファイターズに注目が集まったことなどが理由となったようです。

 漢字「北」の意味は、二人が相背くということと方角の「北」という二つの意味を持っているといわれています。 この漢字の由来を探ってみよう。

目次




**********************

漢字「北」の今

漢字「北」の解体新書

    甲骨文字「北」分解分析:
    左側:人の正立側面象形記号 
    右側:人を表す記号を左右反転させている
  1. 二人が相背くということ
  2.  
  3. 方角の「北」という意味を持っている。 

  問題は古代ではこの二つの意味のどちらが先に使われたのかということである。
 実際の生活上では「北」という方角を知ることが非常に重要なことであることは容易に想像できる。
 また人々が集落を作って、集団で生活をするようになると、人の立ち位置が非常に重要になってくる。

ある概念が重要視されるか否かは、その社会の成熟度、文明の発達度によって変わってくる。



「北」の漢字データ

 「説文」に「背くなり。2人相背くに従う。」とあり、背中の初文。
 この解釈は、甲骨文字が発見されたのちも一貫しており、金文、小篆のいずれも文字の解釈としては「背を向けあう」人の形とされているのが通説である。 
北・甲骨文字
北・金文
北・小篆

  

漢字の読み
  • 音読み   ホク
  • 訓読み   きた

意味
  • 方角の北
  •  
  • 敗北する
  •  
  • そむく、背を向ける

同じ部首を持つ漢字     背、乖、燕
漢字「北」を持つ熟語    北側、北面、北上、北極、


**********************

漢字「北」成立ちと由来

 甲骨文字は、人が背を向け合っている様が見て取れる。これは反目している状態の会意文字であるというのが通説であるようだ。この説明からは北という字が「背」に使われているなどには確かに説得力がある。白川静氏の「字統」の中の説明でも、二人相背く形とあり、「説文」の「二人相背くに従ふ」とあり、「背」の最初の文字だと説明している。この解釈が、一般的である。



唐漢氏の解釈(P335)

  これに対し、わが唐漢さんの解釈は、甲骨文字の形は一人の人間と影である。正午自分どこに向いていても、影の頭はすべて北向いている。北方の冬の時期は人影は一般に長く地上に映え非常に顕著である。このため古人は地上の影が向いている方を北とした。


漢字「北」の字統(P803)の解釈

 二人相背く形。「説文」に「背くなり。2人相背くに従う。」とあり、背中の初文。卜文・金文に北方の意に用い、また地名にも用いており、古くその音があった。相背く意より敗北、敗走の意となる。


 

漢字「北」の漢字源の解釈

会意文字: 左右の両人が背を向けてそむいた様を示すもので、背を向けてそむくの意味


漢字「北」の変遷の史観

文字学上の解釈

 人間が文字や絵で何かを伝えようとする場合、身近なものを使うはずで、その意味でここに掲げた記号は人間の思考の発展過程がよくあらわされているといっていい  
従(从の原字・甲骨文字
人が二人左を向いて並んでいる。左の人に右の人は追随していることを示している。
比・甲骨文字
从の字の人の向きが右向けになっており、「比」べることを表している。
北・甲骨文字
二人の人間がお互いに背を向け合った反目した状態とあらわす。敵に背を向けるということで敗北の「北」となった。
化・甲骨文字
左辺は人の生きた状態を表し右辺は人が逆さになっていて、人の変化を表す。その究極の形が、人の死である。


まとめ

 甲骨文字は、王が卜辞により、広く自分の意を示すために作られたと言う。しかし、いくら亀の甲に記号を刻んだといえ、それを理解する人々が相当するいなければならない。甲骨文字のように体系だった文字が突如として現れるはずはなく、その前段階、前々段階が長くあったはずである。
 その意味でこのページで述べるように、言素たる「人」の記号を、いろいろに組み合わせて新しい概念を作り出した思考過程を跡付けることができて非常に興味深い

  



从、従、比、北、化はたった一字で全て人間と人間の関係を表現したもの。 ☜ 注意:このページは以前にアップした記事を加筆修正したものでです

「漢字考古学の道」のホームページに戻ります。   

2021年8月31日火曜日

从、従、比、北、化の漢字の成り立ちと由来:元は人が二人並んだもの。それはたった一字で、見事に人の人との関係を表現している


从、従、比、北、化はたった一字で全て人間と人間の関係を表現したもの。
人は自分の立ち位置は、一人でいるときは、分からないものですが、二人になるとおのずと明確になるものです。
 漢字は人間の立ち位置を見事に表現しています。

 漢字「従」の楷書で、常用漢字です。从は従の簡体字です。
 从は従の原字です。現在中国では、この文字を正字として使用しています。
従・楷書


 
  
从・甲骨文字
人が二人左を向いて並んでいる。左の人に右の人は追随していることを示している。
このころからすでに左が上位という概念があったのかも知れない
比・甲骨文字
从の字の人の向きが右向けになっており、「比」べることを表している。
北・甲骨文字
二人の人間がお互いに背を向け合った状態をさす。反目した状態とあらわすまた、敵に背を向けるということで敗北の「北」となった。
化・甲骨文字
左辺は人の生きた状態を表し
右辺は人が逆さになっていて、人の変化を表します。その究極の形が、人の死を表す。即ち死体を表示している。




漢字[从」の発展過程
漢字[从」の発展過程
  漢字「从」は生まれてから、従という形に発展し、その後簡体化の過程を経て、現代中国で使われている簡体字「从」の字体に変化する過程と、左に示すように一貫して初期の書体を踏襲したまま成長した二つの過程に分かれたことがわかります。この変化により、我々は人間認識の成長過程を跡付けることができます。


引用:「汉字密码」(Page、唐汉著,学林出版社)
唐漢氏の解釈
 「从」は会意文字である。甲骨文の「从」の字前後に二人の人形があり、まるで一人の人が前面を歩いているかのようです。別の人は後を付き従っていく様子です。いわゆる従の本義は従うことです。金文では歩いていくことを示す「止と道路を示す「□」が付け加えられの会意で、二人の人が相随行して道路を行くことを示している。
小篆の従は金文と構造上は同じで、ただ文字の構成上一定の調整がなされている。楷書は「従」と書く。簡体字では「从」と書く。  
    


「従」の漢字データ
 

漢字の読み
  • 音読み   ジュウ
  • 訓読み   したが(う)

意味
     
  • したがう(自)。  ・・ 追従 したがえる。(他)  ・・従軍  
  •  
  • つきそう。つきしたがう 
  •  
  • ききいれる.  従順

同じ部首を持つ漢字     縦
漢字「従」を持つ熟語    従順、従軍、従事




引用:「汉字密码」(Page、唐汉著,学林出版社)
唐漢氏の解釈
 「从」は会意文字である。甲骨文の「从」の字前後に二人の人形があり、まるで一人の人が前面を歩いているかのようです。別の人は後を付き従っていく様子です。いわゆる従の本義は従うことです。金文では歩いていくことを示す「止と道路を示す「□」が付け加えられの会意で、二人の人が相随行して道路を行くことを示している。
小篆の従は金文と構造上は同じで、ただ文字の構成上一定の調整がなされている。楷書は「従」と書く。簡体字では「从」と書く。

 


漢字「従」の字統の解釈
 旧字は従に作り、辵と从に従とする。从は従の初文。説文に「从、相聴くなり。二人に従う」とし、聴許の意とする。また「从」については随行するなりとするが、辵と从に従う。卜文、金文の字形は从、後に従の字形となるが、もともと一字である。


まとめ
 人は社会的動物であるともいわれる。人は一人でいるときは自分の立ち位置が分からない。しかし二人になった途端、その関係が目の前に現れてくる。これらの漢字は、たった一字で私たちに自分が何者であるかを教えてくれる。そして四文字で人間の一生が表現されているといっても過言ではない。



「漢字の起源と成り立ち 『甲骨文字の秘密』」のホームページに戻ります。

2015年12月13日日曜日

来年の干支は「申」


  来年の干支は「申」である。今から3500年前の殷の時代の廃墟から出土した甲骨文字の中に、すでに十二支十干で暦を表していた。干支についての考察はすでに以前に触れているのでここであえて触れることはない。
 古代の人々が農耕のために暦を作る必要に迫られた時に、何をよりどころにするか?唐漢氏が主張するように、自分たちの身の回りで繰り返される人が生まれ成長し、それに何を期待し願うのかの思いをそこに込めてそれをよりどころとする説はそれなりに説得力がある。それはあくまで仮説であって、諸説紛々としているのは事実である。
 しかし彼らは何故を持って十二支としたのか、まだ明確な回答は示されていないように思う。一年は12か月、そして子、丑・・という字を当てはめ12年で循環させたその理由はいったいなぜだろう。子という字に鼠を当てはめ、丑という字に牛という動物を当てはめたのは、文字の読めない人々にも理解しやすいように動物の名前を当てはめたというのは理解できる。
 来年の干支は「申」であって、「猿」ではない。では古代人が申としたその字はどういう意味を持っているのだろう。


引用 「汉字密码」(唐汉,学林出版社)

 申という字は指事語である。「申」の字の構造的な形は、女の嬰児に対する期待から発生したものである。 甲骨文字の「申」の右半分は (匕)で、これは即ち、母獣の生殖器の指事造語である(漢字源によると「匕」は妣の原字で、もと、細い隙間をはさみこむ陰門を持った女や雌を示したものという。)この借用で女の嬰児の性別を表示する。匕の左下の符号は女子の嬰児が大きくなって生育したことを示している。このため申の字は女の嬰児の意味で、また女が女を生み代々続く意味である。 人々はとうの昔にその形の深い意味を知らなくなっている。金文の申の字は字形の美形化と同時に、又その内容については失われてしまっている。小篆ではまさに上下の2個の指示符号いわゆる両手に変化している。楷書では誤りに誤りを重ね、又両手は合併され「申」と書くようになっている。
 「申」の本義は一種の期待と願望だ。即ち母系血縁に照らして、代々延々と続くことを呈示している。このことから引申はまっすぐ伸ばす、展開の意味になった。

「申」の嘱望、期待の意味から、又陳述、表白の意味が出てきた。

「比」は狭いすき間を置いて並ぶ、「屁」は狭いすき間から出るおなら

参考 指事語とは「中日大辞典」(愛知大学・大修館書店編)によると「形を模することができない抽象的概念を表すために符号を組み合わせる造字法」とある。
「漢字の起源と成り立ち 『甲骨文字の秘密』」のホームページに戻ります。