2018年9月26日水曜日

漢字「妥」の起源と成立ち:手と女からなり、慰撫するという意味から発展し、安定を表わす。今日では適当という意味に使うことが多い


漢字「妥」の由来
 手と女からなり、慰撫するという意味から発展し、安定を表わす。漢字の成り立ちからいうと、男尊女卑の概念を色濃く残した漢字です。女の頭をナデナデすることを表現している。しかし、最近では、女の頭を撫ぜてうまくいくことは殆どない。むしろ、男の頭を撫ぜて、その後ろに控える奥さんに納得してもらうことで旨くいくようなことが多いようである。

引用:「汉字密码」(P502、唐汉著,学林出版社)
「妥」の字の成り立ち」
「妥」は会意文字である。甲骨文字の「妥」の字の左辺は手(爪)で右辺は背筋を伸ばして膝まづいている女の人の形である。金文形体は基本的に甲骨文字と同じである。小篆の妥は手が女の人の頭の上に置かれている。
 これは構造が合理的であるばかりではなく、さらに文字の表意・・意味するところを顕示するものとなっている――手を用いて女性を慰めたり抑えたりすることを示している。それは安定を表わしている。
  「妥」の字の構造は女子を安撫させ、それを安定させる。妥の字は安定する。このため妥の字は安穏・安定の常用を示す。稳妥、妥帖(穏当であるや妥当)であるのごとく、「妥」は制限する、抑えつけるの意味がある。
 解釈としては、「字統」(白川静著、平凡社)にもほぼ同様の解釈をしている。

古人は「妥」を如何に用いたか
 杜甫の《故司徒李光粥》 にあるように「兵を抑え、河やぬかるみを抑えて、千里が始めて穏当になる。ここの妥帖は武力が安定するの意味である。また拡張され、適当、適合を指し、人々が常に口にするように、「不妥」(不適当である)もまた適切でないという意味である。「妥善、妥为安排、欠妥」の中の「妥」の字は全て、適当、適合の意味である。

 話し合いで対立していた双方が、適当なところで折り合いを付けることを妥協、妥結といい、適当であることを妥当という。  

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2018年8月22日水曜日

漢字「女」の起源と成立ち:当時の社会の変化が漢字にしっかりと刻まれていた


漢字「女」の起源と由来
「男」と「女」の永遠のテーマ。漢字が生まれたのは生理学的な違いではなく、その社会的な在り方がそのまま表現されたもの。漢字学は考古学でもある。現代社会からだけ、漢字の成り立ちを決め付けてはいけない。

引用:「汉字密码」(P467、唐汉著,学林出版社)
「女」の字の成り立ち」
女という字はそのままの象形文字である。甲骨文字の女の字は左を向いて膝を折って跪き、状態をまっすぐ立ってて、上部の女性の胸をわざわざ描いて、女性のバスト、ウエスト、ヒップが余すところなく特徴的に表現されている。




古代人はなぜ女という字をこのように作ったのだろうか。
 実際上、この種の姿勢は本来古代人が服を着て、家にいる形である。華夏民族は早くから服を着ていたかあるいは体の前に布をぶら下げていた。後になって前後の布になり、そして更に変化して全部布で覆った衣服になった。殷商の時代に至って、大多数の民衆は、日常は裸足で脚は短いスカートで包んで、中は今の人のようにいわゆるパンツはつけず、何もはかない。明らかにこのような服装をして、唯一つの草の寝床以外は何もない居室で、ただ跪く姿は、陰部を隠すのがやっとであろう。跪くのは小休止するのには非常に便利である。女という字にこの跪く姿勢をとったのは、これが上古の生活の真実の姿であったろう。


ただここで、女はなぜ家で跪かなければならなかったか?
 跪くというのはやはり、隷属的なふるまいである。男は「田」+「男性器を示す力」で、併せて農耕を表している。ここで、字の上でも男と女の社会的地位が明確に示され、女は家で家事を分担し、男は農耕など生産の主要な部分を担うことになっている。


甲骨文字から小篆への文字の変化
 金文の字の女では基本部分は甲骨文字と同じであるが、ただ女の頭の上部分に一本の横線が増えている。実際には簪を飾りにいくらかの装飾品がつき、女の子の年頃の実際の姿を示したものだ。小篆は金文を引き継ぎ、しかし形象は次第になくなり、更に隷書化の過程で書くための便利さへの要求がいっそう高まり、形を変え楷書の時代になって現代の女という字になった。 


生産関係と文字の史的唯物論
 夏や殷などの強大な国家の出現により、生産関係は明確に変化し、人々の暮らしに大きな変化をもたらした。即ち、女は家事を分担し、跪くようになり、性的な部分が強調されるようになり、やがては髪飾りなどを身に付け、男の注意をひきつけるため、可愛さを強調する文化(存在)に自らを落とし込むようになってきた。そしてその関係は4000年続いてきて、今や大きく変化しようとしている。つまり男と女の性的な区別がさほど必要なくなってきた今日の在り方は文化にどのように変化を刻んでいくことになるのだろうか?

 私は現代社会はそのような大きな変遷の時代に突入しているように思われる。



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2018年5月15日火曜日

漢字「愛」の由来:昔の「愛」には心があった。簡体字の「爱」には心がない


漢字「愛」の起源と由来
 唐漢氏の解釈は少し突飛過ぎるようには思うが。それも一つの見方として捉えておきたい。われわれの見方というのは、あくまでの現代人の概念に基づくものであるから・・。
 いずれにせよ、「愛」という字の形には、人々の心をこめた情感が覗える。

引用:「汉字密码」(P886、唐汉著,学林出版社)
「愛」の字の成り立ち」
愛は会意文字である。
 金文の愛に対しては2種類の解釈がある。ひとつの解釈は、一人の人が両手で心をささげ持つ形である。そっぽを向いているが、口では心の中を懸命に訴えている様。
 別の解釈は、犬の画の中に丸い形の心が認められる。これは犬が主人に対して喜びの情をしめしているという。

 小篆の愛の字は下部に一本の線が突出しているが、歩いてくることの意味を付け加えている。これは愛が一種の「主動」であることを表わしていいる。  小篆の字形の形態は美しいが、却って象形の趣を失っている。楷書は隷書を経て「愛」に変化した。

 漢字の簡単化の中で、心は省略されて現在に至っている。  現代中国語の「爱」はもともとの漢字の持つ意味や情感が失われてしまっている。少し皮肉っぽくいえば、現代中国の簡体字の「爱」では、「心」が失われてしまっているように思うのだが・・。愛には心が必要だ!!

「愛」の字の持つ意味
 「愛」はもともと主動で「愛慕」の気持ちを表白することから来ている。人や事物に備わる一種の情感を表わす。

  愛はまた男女の情愛または愛慕でもあり、「性愛、愛欲、歓愛」などなど。現代口語では、「愛」は「容易・平常」の意味にもなる。

「愛」を古代人たちはどう捉えていたか
 「愛」古代漢語では、よく「けち臭い、惜しがる」の意味に用いる。論語の中で、「尔爱其羊 , 我爱其礼」「羊を惜しむのはその礼を惜しむようなもの。そのなかの「愛」は惜しむことの意。哲学者の講義の中に「爱是一种自私」愛は「自分の一種」他人を愛することは自分を愛することだ。『戦国策』のなかで、父母子供を愛し、すなわち深く謀る。このことは父母は子供を愛するなら、子供ためによく計画を立て、長くためになるようにすべきだ。子供の成長の中から恩恵を預かることが出来れば、而して災難にはならない。


「字統」の解釈
 白川博士は「字統」の中で、「愛」について、「後ろを顧みて立つ人の形を表わす字形と「心」の会意文字である。
 後に心を残しながら立ち去ろうとする人の姿を写したものであろうとしている。確かにこちらの方が私たちの感覚にはよく合う。
 説文では、「恵」の古代文字を出して「恵」なりとしているということだが、これは、「愛」と同字異文であるとしている。


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2018年5月13日日曜日

漢字「犬」:人間と「犬」の係わりの深さを表現している


漢字「犬」の起源と由来

「犬」は、干支の「戌」とは全く関係がない
  来年の干支は、戌年だ。ここで取り上げた「犬」は、干支の「戌」とは全く関係のない、正真正銘の動物の「犬」だ。
 今では干支の「犬」もこの動物の犬を当てるが、本来干支の字と動物の犬ではそもそも起源が全く異なる。干支の「戌」の起源は別に譲るとして、ここではしばし、動物の戌の起源と由来について、話を進める。

引用:「汉字密码」(P026、唐汉著,学林出版社)

象形文字の「犬」は、輪郭の特徴をとらえた造字法
 象形文字の「犬」は、輪郭の特徴をとらえた造字法である。

 「犬」の字は象形文字である。2500年以上も前、孔子は「犬」字を見た後、少し感心した感じで、「犬の字は『狗』の絵の様だ。」といったという。


 明らかに犬の字は牛や羊のように、若干抽象的でかつ印象的な造字方法とは異なり、比較的忠実に特徴をとらえた線で輪郭を取る象形文字の造字法である。
 この方法ではしっかりと犬の外形的特徴をつかんでいる。体は細く、長い尾は巻いている。先民が犬を縦長に立てた状態で描いている。

字ははるか昔から先民は字を縦長に立てた状態で描いていた
   観察上字形を考えると、我々は犬の字を横から見た風に書くのが、実際の状態により忠実に対応できるのが分かる。しかしこれは漢字を横に狭く縦に長く書くという縦書きの特徴に適応したためで、3300年以前のはるか昔から先民は字を縦長に立てた状態で描いたものだ。

 甲骨文字の犬の字は適宜変化し、今日の犬の字の楷書になっている。厳格に言えば、今日の「犬」の字は一種の文字符号であるが、それは依然として象形文字である。

「字統」(白川静、平凡社)によると

象形文字、金文では、「員鼎」に「犬を執らしむ」とあり、近出の中山王墓には金銀の首輪をはめられた2犬が埋められていた。しかし、犬は犠牲とされることが多く、器物を犠牲の血で清めて用いられたとこから、「器、就」となると説明されている。


縄文時代の人と犬のかかわり
 また日本の話ではあるが、2018年5月13日付けの毎日新聞に「縄文の犬は人間と一心同体」と題し、愛媛県の「上黒岩岩陰(かみくろいわいわかげ)遺跡」~出土した日本最古の犬の埋葬の鑑定が掲載されていた。

 それによると、縄文時代(7400~7200年前・・縄文時代早期末~前期初頭のものと判明し、改めて最古と確認された)のこの古墳では、犬は人間と共に狩をし、共に食事をし、大切にされ、最後は手厚く葬られたであろうと考えられている。





編集後記

犬と猫は歴史的に見れば、最も長く人間と共に苦楽をしてきた動物と評価されている。しかし、犬と猫では人間との係わり方が時代と共に違って来ているようである。猫は愛玩や癒しで関わってきたのに対し、犬は猟犬や番犬として、労役を共にしてきている。
 それに対し、最近ではこの犬猫の地位に違いが出てきて、猫が犬に比べると人間との間の距離が近くなっているようです。その要因は、人間が犬猫に対し、労役に役立つかどうかの経済を中心とした見方よりも、精神的な結びつきを重視する見方に変わってきているにあるようです。これからは猫に関係した漢字がもっと増えてくるかもしれません。

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2018年5月10日木曜日

漢字「首」の起源と成り立ち:首は「人の首」のという説が優勢


漢字「首」の起源と由来

引用:「汉字密码」(P432、唐汉著,学林出版社)
 「首」の字の成り立ち」
 「首」は象形文字である。甲骨文字は長い髪の毛のある人の頭を表わしている。しかし醜い且つ又それほどうまく人間の頭を表わしてもいない。しかしそれは確実に生まれたての胎児の人間の頭の側面の絵である。金文は正面の形状に改まっている。ひとつの眼と高く盛り上がった頭の髪の毛を用いて人の首を表わしている。後期の金文は又眼を改めて「目」としており、これは小篆の形状の由来でもある
楷書の「首」は小篆の簡略形である。

首の本義は人の頭である。
 『诗•均风•静女』にあるごとく、「愛は而して見えず、頭を掻いて、躊躇する」の首である。 現代漢語中、まさに頭をもたげることを、首をもたげるという。頭を低くすることを、首をたれるという。後ろを向いて頭を回すことを、首を回すという。自分で出てきて、罪行を告白することを「自首」するという。首は人体の最上端にあって、胎児が出生時には真っ先に産道から出てくる。いわゆる首は重要で、開始の意味もある。


どう見ても人間の首であるようには見えない
 このように「首」の字は、人間の首であるという解釈が唐漢氏も日本でも優位であるようだが、しかし、この字の変遷を見る限りどう考えても人間の首であるようには見えない。むしろ動物の首であるという解釈がこの絵からはすっきりする。
 この人の首という解釈が、日本では行き渡っており、このことから、「漢字」は残酷なものがあるという風にいう人がいる。しかしこれは後世の人間が、付け加えた勝手な解釈であるようにしか思えないのだが・・・。

参考記事:「漢字「道」の起源と由来:甲骨文字では、十字路と脚ということから歩く道

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2018年4月26日木曜日

「春」は昔、草木が芽を出すことだった。今は「春コミ」に始まるそうだ


漢字「春」の起源と由来
 春といえば「春コミ」から初まるというのが、若い女性のトレンドらしいのですが、この「春コミ」何のことかわからず、調べてみました。
 春は春コミ、ゴールデンウイークはスパコミ、夏は夏コミ、秋はSPARK、冬は冬コミ。このようにスケジュール化していることを言うのは、スケコミではないかと思いますが・・。
 要は「春コミ」といえば、春コミとはHARUCOMICCITY(ハルコミックシティ)のこと。 毎年3月末の日曜日に東京のビッグサイトで開催される。 1日開催としては、最大規模の即売会である。
 ところでこのスケコミが今年から、ややこしいことになるらしい。問題の背景は、東京オリンピックに絡んだ各種行事や準備作業が、イベントで使われてきた東京ビッグサイトに割り込んできているらしいとのことです。

引用:「汉字密码」(P285、唐汉著,学林出版社)
「春」の字の成り立ち」
 春の原本は会意文字である。甲骨文字の左辺は上下に分かれ、「木」の二つの部分である。木の中間に「日」があり、太陽が昇ることを表している。字の右辺は「屯」であり、潜り込んだ根が発芽することを表している。明らかに春の字の本来の意味は太陽の光が強くなり草木が生え出す時期を表している。
 金文と小篆の春は甲骨と比べ字形は均整化されている。上部は草冠、中間は「屯」の字で下部は「日」である。以後隷書の変化を経て今日の字体となり、「草」、「屯」の字は最早現らわれていない。

 しかし「春」は一年の開始を示し、この本義はずっと変わらずにいる。春のような景色は「春色」「春光」といい、春の農繁期は「春忙」といい、30歳になると赤い紙に吉祥の文字を対連で「春联」などなど。古代文学者は大変多くの草木の生長する様を描写して、「春に至りて江南の花自ら開す」「春の到来を人は草木に先んじて知る」「春に至れば人間万物鮮やかなり」など、これらの詩句春に万物が萌出る現象を表現している。
 

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2018年3月18日日曜日

漢字「笛」の由来と成り立ち


漢字「笛」の起源と由来
 「笛」は竹で作られた単管楽器である。中国の起源は非常に古く、漢代以前には笛は2種類あった。雅笛は5つ穴、羌笛は3つ穴である。
 「笛」を英語に訳すると「Whistle」となるが、これに逆に日本語にすると「呼び子」という名称がぴったりであり、時代劇に出てくる追っ手が鳴らす「ピー、ピー」という短い笛を表している。この言葉は、やはり追っ手が、加勢を呼び寄せるという感じを受ける。ところで、この呼子を中国語に直すと、「哨子」というが、この「哨」という漢字は、歩哨の哨で、むしろ警笛という感じが強くなる。但しこれは筆者の独断で、根拠はない。 

引用:「汉字密码」(P814、唐汉著,学林出版社)


 「笛」は竹と由の音声からできている。由はもともと事物の発生の原因と経過を示し、また事物の拡散と生成過程を指し示す。文字の構成は素焼きの甕の硬い外と中の中空から来ている。

古代中国の「笛」


 直接吹いて今日の萧に非常によく似ている。今日の7つ穴の笛は古代の横吹きの笛から来ている。この種の横吹きは一個の吹き穴があり、6個の指穴を持っている。また吹き穴と指穴の間にもうひとつ穴を増やして、笛幕をかぶせた竹笛にしている。説文いわく「笛、7つの穴の竹の筒である。羌笛は3孔である。

羌笛は3穴と聞いていたが、ネットで調べると違っているようだ。古代の笛から現代の笛に進化したのかも知れないが、現代のものはもう少し複雑なようだ。



笛という器具が如何に使われたか
 笛の吹奏は穴を吹くことから初めて、音調は指穴の一つ一つつないで発出する。紛れもなく表現したあれこれの過程である。だから笛で以って自己の声符と表現である。
『羌笛何须怨杨柳 , 春风不度玉门关』(羌笛は何も楊柳を恨むことはあるまい、春風は玉門関を通り過ぎないのだから)。これは広く知られた辺境のとりでの詩で、羌笛の伸びやかで低く沈んだ描写がさびしさをよく表している。
 唐代の大詩人李白の《春夜洛城闻笛》の詩では、「谁家玉笛暗飞声 , 散入春风满洛城」の名句、笛の声の抑揚、清らかに響き渡る絵のような描写が鋭い。

 今日では笛は鋭い音を発し表現し伝えるものとして「汽笛や警笛」などのように用いられる。



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