2025年4月14日月曜日

驚き!漢字『経』の由来の秘密-実は古代の織機から紡ぎ出された経糸だった

驚き!漢字『経』の由来の秘密-実は古代の織機から紡ぎ出された経糸だった


古代の織機から紡ぎ出された経糸が時を経て地球上の自分の立ち位置を明示的に示す経度となって立ち現れた物語が奥深い!

 中国のダビンチと称される後漢時代の張衡は、絹織物の縦糸と横糸にヒントを得て、地図に緯度と経度を適用することを思いついたといわれている。ここにひも解く歴史のロマン
 

     

このページは以前にアップした下記のページを全面的に見直しアップグレードしたものです。
「漢字 経の成立ちと由来:東経135°の「経」はどこから来たの? それは古代の織機に使われたたて糸のこと」

導入

このページから分かること:

「漢字『経』の意味、使い方、語源、関連熟語について詳しい解説。」
  漢字の意味と成り立ち: 「経」という漢字の基本的な意味、
  象形文字としての成り立ち、古代中国での使用例など。
  使い方と例文: 現代日本語での使用例、典型的な文脈での使い方、例文。
  関連熟語: 「経済」「経緯」「経験」「経度」「経営」など、関連する熟語とその意味を解説。
  文化的・歴史的背景: 漢字の歴史的な背景や文化的な意味について
 




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「経」という漢字の基本的な意味

象形文字としての成り立ち、古代中国での使用例など。

漢字「経」_楷書
経・楷書
漢字「経」の原字
経・原字

 漢字「経」の楷書で、常用漢字
 右に「経」の原字を示した。金文ではあるが、ある意味原始的な文字であるといえるだろう。これは象形文字であり、最も原始的な織機を表している。下部の横棒を足で突っ張り持ち、上部にたて糸をつけ、そのたていとを縫うようにして横糸で編み上げていく。


経_金文
経_小篆
  
経・金文
経・小篆






 

使い方と例文: 現代日本語での使用例、典型的な文脈での使い方、例文。

漢字の読み
  • 音読み  ケイ、キョウ
  • 訓読み  へ(る)

意味
  • たて糸
  • 南北の方向
    日本は東経135度にあると言われる。これは地球一周は360°であり、24時間で一回転するから、1時間当たり15°回転することになる。イギリスのグリニッチを基準とすると日本は135°線上に明石が位置する。
    世界地図
  • 筋道(物事がそうなった理由)、または道路
  • 法律、規範、おきて
  • 時間の流れ:〇〇時間を経て・・のように使われる。
  • 境界(さかい)、境を定める
  • 治める、統治する:経世済民の精神で政治を行う、経理
  • かかる、ぶら下がる、かける
  • めぐり(周期)(例:月経)
  • 文書、特に儒教や仏教の教えを記したもの(例:経書、経文)仏教の経典を学び、悟りを目指す

同じ部首を持つ漢字     経、径、軽、茎
漢字「経」を持つ熟語    
  • 経: 経典のこと、宗教の教えを収めた書物
  • 経緯:たて糸と横糸、いきさつ、天下・国家をおさめととのえる
  • 経過:通り過ぎること、物事のなりゆき、これまで経てきた途中の状態
  • 経験:実際に自分でやってみる、実際にしたり見たりして得た知識や技術
  • 経営:事業をはかり営むこと、土地を測って、たて線と外枠の線とを引く。土台を据えて建設すること



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漢字「経」の漢字の由来

象形文字としての成り立ち、古代中国での使用例など。

引用:「汉字密码」(Page、唐汉著,学林出版社)
漢字「経」の金文・小篆・楷書
漢字「経」の甲骨文字は存在しない
 しかしこの時代には高度な織物技術が開発されていただろう

漢字の暗号の解釈

「経」は「經」の簡体字。 甲骨の "経"は象形文字。これは古代のベルト織機の絵文字である。 このタイプの織機は通常、二つの平行なロッドによって縦糸を支持し、一方は織機のベルトに固定され、もう一方は縦糸を締め付けるために織機の足によって支持され、中央は縦糸と横糸を分離する。


古代織機
引用:「漢字の暗号」唐漢著

  「圣」という単語が一般的に使用されるグループ構成要素になったので、人々は「糸」偏を追加し、小篆、金文の第2款を引き継ぎ楷書では「経」と書いた。
 「経」の本来の意味は古代の単純な織機であり、「説文では「経、織り方」と解釈される。

漢字「経」の字統の解釈

形声 旧字は経にに作り、巠声。巠は織機にたて糸を張り、その一端を工形の横木に巻きつけた形で、經の初文。
 先王の典籍を経とし、これを補翼するものとして作られた漢代の識(予言)を主とする書を、緯書という。建物の造営に、まず測量して南北を正すことを経という。



漢字「経」の漢字源の解釈

 会意兼形声。「巠」は上の枠から下の台へたて糸をまっすぐに張り通した様を描いた象形文字。
 経は「糸+音符・巠」で糸へんを添えて、たて糸を明示した字。



漢字「経」の歴史的変遷

漢字「経」の原字
漢字「巠」・経の原字

文字学上の解釈

「巠」の由来と意味
「巠」は「巠」の原字である。 「圣」という単語が一般的に使用されるグループ構成要素になったので、人々は「糸」偏を追加し、小篆、金文の第2款を引き継ぎ楷書では「経」と書いた。







漢字「緯」_小篆
漢字「緯」 小篆


「緯」の由来と意味
 緯は経の対句の様に用いられるので、補強する意味でここに説明を加える。
 形声文字 声符は韋。韋は城邑の上下を左右に巡ることで、その左行右行を織物に移して、横糸を緯という。たて糸は経(經)。 経をたどって緯を加えるので、ことの過程・経過を 経緯という。儒家の経典とするものは経、これに附託して行なわれた漢代の予言や占トの書を緯書とい う。予言を識というので、その学を讖緯という。





天文学・地図学における「経」という概念について

古代の経線
 地図を経線と緯線で区切って、その座標で各地点の位置を表すという発想は古くから存在した。古代に地球の大きさを求めた地理学者エラトステネス(紀元前275年 - 紀元前194年)は、シェネ(アスワン)とアレクサンドリアを結んだ線を基準として、それと平行に数本の直線を引いた地図を作成した。
 その後、紀元前の天文学者であるヒッパルコスは、天球と同様に地球を自転軸を持つ球とみなし球面上の角度として経緯度を定義し、360分割した経線と緯線を考え、さらにその分割した1つの区間(1度)を60分、さらにその1分を60秒で表すといった、現在のような等間隔の経緯線網を考案した。
 このヒッパルコスの方法を使って、プトレマイオスは実際に経度を旅行記などの資料を参考にしてまとめた地図を作成した。
 しかし、当時は経度を求める技術がまだ確立されていないため、その経度は実際よりも大きく外れたものになっている。  しかし、当時は経度を求める技術がまだ確立されていないため、その経度は実際よりも大きく外れたものになっている。





中国における経度
張 衡地動儀(模型)

 同じ頃、中国でも経度の概念が生まれた。プトレマイオスと同じ時代に活躍した張衡は、地図上に縦横の線を延ばしてその座標で距離を求める方法を考え出した。これは、地図を絹織物に刺繍する際に、縦糸と横糸が交じり合うさまを見て思いついたといわれている。また3世紀になると裴秀も同じように縦横の線で位置を示す方法を提案し、その2つの座標にそれぞれ縦糸・横糸を意味する「経」「緯」という文字をあてた。

 張 衡(78年 - 139年)は、後漢代の詩人、学者及び発明家であり、力学の知識と歯車を発明に用いた。彼の発明には、世界最初の水力渾天儀(117年)、水時計、候風儀と呼ばれる風向計、地動儀(132年)、つまり地震感知器などがある。




まとめ

 漢字「巠」は太古の昔、使われていた織機の象形文字であり、「経」の原字である。そしてそのたて糸を明示する為に糸へんを付加され。「経」は織機から切り離され、もっぱらたて糸そのものを表すようになった。
 このたて糸が「経」の基本的な意味であり、現在では色々の使い方をされるが、すべて、この「たて糸」から派生、拡張されたものである。
 またたて糸と対句的に表現される横糸を「緯」という。
 今我々が北緯、東経などで使っている「経」と「緯」はまさしくここから出たものである。

  

「漢字考古学の道」のホームページに戻ります。   

2025年4月10日木曜日

漢字「心」の叫び:旧い価値観に毒された資本主義文明の価値観からの解放を


漢字「心」の叫び:旧い価値観に毒された資本主義文明の価値観からの解放を

 

はじめに

このページ「漢字「心」の叫び:旧い価値観に毒された資本主義文明の価値観からの解放を」を通して分かること

このページから分かること

  • 「心」のケアに役立つ「ものの見方」がわかる
  • 五行説は、古代中国の哲学思想が理解できる
  • 漢方を見直しできる
  • 今まで知らなかった旧くて新しい価値観が理解できる
  • これまでの自分の生活を全面的に見直すきっかけを掴める
  • 認知症の予防に役に立つ


目次



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1.1 五行説とは何か、どのような歴史的背景・文化的意義があるか

 五行説は、古代中国の哲学思想のひとつで、自然界や人間社会のあらゆる現象を「木」「火」「土」「金」「水」という五つの基本的な要素に分類して考える枠組みです。
 しかも、これらの要素は、静的な物質ではなく、宇宙における様々な性質、機能、変化の状態、そして相互作用を表しています。  そしてこの考え方は占星術、音楽、政治など、古代中国の思想の広範な領域に影響を与えてきました。中でも、医学の分野では現代に至っても中国医学(TCM)では根幹をなす概念の一つとして、重要視されています。

歴史的背景:
紀元前数世紀に成立したとされ、古代中国の天文、暦、医学、占星術、さらには政治や軍事戦略にまで影響を与えました。陰陽説とともに、万物の変化と調和を説明するための基本的な理論体系として発展しました。

文化的意義:
この思想は、自然の循環やバランス、変化の法則を重んじる中国文化の根幹を成しており、漢方医学や風水、さらには日本や韓国などの東アジア諸国の文化にも大きな影響を与えています。また、個々の五行が互いに生成(相生)や抑制(相克)しあうという考え方は、調和とバランスの重要性を説く哲学として現代にも通じる普遍的な価値を持っています。

 以上五行説を顧みて、私たちが中華思想や漢方がどちらかというと古臭い、遅れたものだと思っていました。しかし実は五行説こそが今まで私たちが西欧文明にどっぷりつかって忘れ去っていた概念即ち、「物事を運動の中で捉え、関連の中で捉える」を思想体系として確立したものを持っている事を再認識することができました。

1.2 五行の解剖:性質、象徴、そして動的な関係性

五行説・内臓関連図
五行説 内臓関連図

 五行説における五つの要素は、それぞれ固有の性質と象徴的な意味合いを持ち、互いに影響を与え合いながら宇宙の調和を保っています。
  1. 木(もく)
    木は、樹木や草花が上へ、外へと伸びやかに成長する様子を表し、成長、発展、拡張、柔軟性、そして上昇の性質を持ちます。色は青や緑、季節は春、方角は東と関連付けられています。木は、生命力、創造性、そしてサイクルの始まりを象徴しています。春という季節、そして日が昇る東という方角との関連性は、自然界における誕生と新たな始まりの概念と深く結びついています。

  2. 火(か)
     火は、炎が熱く燃え上がり、上昇する様子を表し、熱、温かさ、上昇、明るさ、そして情熱の性質を持ちます 1。色は赤、季節は夏、方角は南と関連付けられています。火は、エネルギー、熱意、そして活動の頂点を象徴しています。最も暑く、日照時間が最も長い夏との関連は、一年の中でエネルギーが最も高まる時期を示唆しています。

  3. 土(ど)
    土は、万物を受け入れ、育み、変化させる大地を表し、安定、育成、滋養、そして変化の性質を持ちます。色は黄、季節は土用(季節の変わり目)、方角は中央と関連付けられています。土は、バランス、調和、そして生命を支える根源を象徴しています。季節の変わり目の中央に位置づけられることは、他の要素のサイクルを安定させ、媒介する役割を示唆しています。

  4. 金(ごん)
    金は、金属が持つ清らかさ、硬さ、そして収斂する性質を表し、清潔感、清涼感、収斂、そして改革の性質を持ちます。色は白、季節は秋、方角は西と関連付けられています 1。金は、収穫、終焉、そして新たな段階への準備を象徴しています 1。収穫の季節である秋との関連は、成長のサイクルの終焉と、次なるサイクルへの準備期間を示唆しています。

  5. 水(すい)
     水は、潤いを与え、下へと流れる性質を表し、下降、寒冷、潤下、そして貯蔵の性質を持ちます。色は黒、季節は冬、方角は北と関連付けられています。水は、休息、再生、そして生命の源を象徴しています。寒く、暗い冬との関連は、エネルギーを蓄え、次の成長期に備える時期を示唆しています。


  6. 五行の動的な関係性:相生と相克
  7.  これらの五つの要素は、互いに影響を与え合う二つの主要な関係性を持っています。
    • 相生(そうしょう): 一方の要素が他方の要素を生み出し、助け、促進する関係です。木は燃えて火を生じ(木生火)、火は燃え尽きて土を生じ(火生土)、土の中からは金属が産出し(土生金)、金属の表面には水滴が生じ(金生水)、水は木を育みます(水生木)。これは、滋養とサポートのサイクルを表しています。
    • 相克(そうこく): 一方の要素が他方の要素を抑制し、制御する関係です。木は土から養分を吸い取り(木剋土)、火は金属を溶かし(火剋金)、土は水をせき止め(土剋水)、金属は木を切り倒し(金剋木)、水は火を消し止めます(水剋火)。これは、バランスと抑制のサイクルを表しています。
    • これらの相生と相克の相互作用は、五行システム全体のバランスと調和を維持するために不可欠であり、単一の要素が過剰になったり、不足したりするのを防ぎます。



    1.3 今文尚書説:五臓への五行の配当

     今文尚書(きんぶんしょうしょ)説は、古代中国の古典である『書経(しょきょう)』の解釈における主要な学派の一つです。五行説の枠組みの中で、今文尚書説は、伝統中国医学における五つの主要な内臓、すなわち五臓(ごぞう)に対して、五つの要素を特定の方法で対応させています。 今文尚書説によれば、五臓と五行の対応は以下の通りです。:

    • 肝(かん)は木(もく)に対応する;
    • 心(しん)は火(か)に対応する
    • 脾(ひ)は土(ど)に対応する 
    • 肺(はい)は金(ごん)に対応する 
    • 腎(じん)は水(すい)に対応する

     歴史的な背景として、古文尚書(こぶんしょうしょ)説と呼ばれる別の学派が存在し、脾を木、肺を火、心を土、肝を金、腎を水と対応させるなど、異なる配当を提唱していたことも注目されます。しかし、伝統医学においては今文尚書説の配当がより広く採用されてきました。このことは、今文尚書説による臓器と要素の関連付けが、他の解釈と比較して、生理学的および病理学的な現象をより適切に説明できると考えられてきたことを示唆しています。


    2 対応関係の解読:臓器の機能と要素の性質の関連付け

     今文尚書説における臓器と要素の対応は、単なる分類ではなく、それぞれの臓器の機能的特徴が、対応する要素の性質と深く共鳴していると考えられています。ここでいう臓器の機能は、西洋医学的な解剖学的定義とは異なる、伝統中国医学独自の概念を含むことに留意する必要があります。

    1. 肝(かん)と木(もく)
       伝統中国医学において、肝は全身の気(生命エネルギー)と血(血液)の流れをスムーズに保つ役割を担っています。この機能は、木が持つ成長し、伸びやかに動く性質と一致します。また、肝は計画性、決断力、そして怒りや欲求不満といった感情のバランスにも関わると考えられています。これは、木の持つ力強い成長と、時に硬直したり、影響を受けやすかったりする性質と関連付けられます。さらに、肝は血液を貯蔵し、必要に応じてその量を調節する機能を持つとされます。これは、樹木が樹液を蓄え、必要に応じて流動させる様子に例えられます。伝統中国医学における肝の概念は、単なる物理的な臓器だけでなく、自律神経系や感情の調整といった、より広範な機能を含む点が西洋医学とは異なります。

    2. 心(しん)と火(か)

    3. 心・火・夏の説明図
       五行説における心・火・夏の説明図
       心は、血液循環を司り、全身に温かさを供給する役割を持つとされます。これは、火の持つ熱と上昇の性質を直接的に反映しています。また、心は精神、意識、思考、感情(特に喜び)、そして睡眠を司る「神(しん)」が宿る場所と考えられています。これは、火の持つ明るく、エネルギーに満ちた性質と関連付けられます。心は血管を制御し、その状態は顔色に現れるとも言われます。これは、体の内なる「火」が外に現れる様子と捉えられます。伝統中国医学における心の役割は、西洋医学における心臓の機能に加え、精神や意識といった側面を含むことで、心身のつながりを強調しています。

    4. 脾(ひ)と土(ど)
    5.  脾は、食物を消化吸収し、栄養分を気や血へと変換する重要な役割を担うとされます。この機能は、土が物質を育み、変化させる性質と合致します。脾は、栄養分を全身に輸送・分配し、内臓を正しい位置に保つ働きも持つとされます。これは、土が安定性と支持性を持つ性質を反映しています。脾は、憂いや考えすぎといった感情と関連付けられ、筋肉や口にその状態が現れるとも言われます。これは、感情が消化機能に影響を与えることを示唆しています。伝統中国医学において、脾は気と血を生み出す中心的な役割を担い、全身のエネルギーと活力の基盤となると考えられています。

    6. 肺(はい)と金(ごん)
    7.   肺は、呼吸を司り、体内に空気を取り込み、不要なガスを排出する役割を担います。これは、金が気とその下降・発散の動きを司る性質と一致します。肺は、外部の病原体から体を守る衛気(えき)を全身に分散させ、体液の調節にも関与するとされます。これは、金の持つ清浄性と防御の性質を反映しています。肺は、悲しみや憂鬱といった感情と関連付けられ、皮膚や鼻にその状態が現れるとも言われます。これは、呼吸と感情の状態との関連を示唆しています。伝統中国医学において、肺は呼吸と防御という、体と外部環境との相互作用において重要な役割を果たします。

    8. 腎(じん)と水(すい)
    9.  腎は、成長、発育、生殖、そして寿命に関わる根本的な物質である精(せい)を貯蔵する役割を担います。これは、水が貯蔵の性質を持ち、生命の根源と深く関わることに合致します。腎は、水分代謝を司り、尿の排泄を調節し、体内の水分バランスを維持する機能も持ちます。これは、水が体液を調節し、下へと流れる性質を直接的に反映しています。腎は、恐れや驚きといった感情と関連付けられ、耳や骨にその状態が現れるとも言われます。これは、生命の根源的なエネルギーと感情反応との関連を示唆しています。伝統中国医学において、腎精は生命の基礎であり、長期的な健康を維持するために重要であると考えられています。



    3.伝統中国医学における応用:五行による身体のダイナミクス理解

     この臓器と要素の対応関係、そして五行間の相生と相克の関係は、伝統中国医学において、人体の生理学的および病理学的状態を理解するための基本的な枠組みを形成しています。
     五行のバランスが崩れると、対応する臓器の機能不全として現れたり、その逆も起こり得ます。例えば、木(肝)のバランスが崩れると、怒りや硬直といった制御不能な「成長」として現れる可能性があり、水(腎)の不足は、乾燥や不安定さをもたらす可能性があります。

    漢方の相性・相克説明図

    小太郎漢方製薬株式会社のウェブサイト参照

     相生の関係
     臓器が互いにどのように支え合い、滋養し合っているかを説明する上で重要です。
     例えば、腎(水)は肝(木)を滋養し、肝(木)は心(火)を滋養し、心(火)は脾(土)を滋養し、脾(土)は肺(金)を滋養し、肺(金)は腎(水)を滋養します。

     相克の関係

     過剰な活動や不足を防ぎ、バランスを維持する上で重要です。例えば、肺(金)は肝(木)を制御し、肝(木)は脾(土)を制御し、脾(土)は腎(水)を制御し、腎(水)は心(火)を制御し、心(火)は肺(金)を制御します。




     これらの関係は、臓器機能の相互関連性や病気の進行を理解するために用いられます。
     例えば、肝(木)の不調は、相克関係により脾(土)に影響を与え、消化器系の問題を引き起こす可能性があります。同様に、腎(水)の不足は、相生関係により肝(木)を十分に滋養できず、肝に関連する症状を引き起こすことがあります。


    五臓の相性・相克説明図

    小太郎漢方製薬株式会社のウェブサイト参照


    五行システム内のバランス
     この理論的枠組みは、伝統中国医学における診断原則を導くものであり、症状や徴候を観察することで、影響を受けた臓器とその対応する要素における不均衡のパターンを特定します。また、鍼灸、漢方薬、食事療法などの治療戦略は、不足している要素を補い、過剰な要素を制御し、要素間の関係を調和させることで、五行システム内のバランスを回復させることを目的としています。

     五行説は、単に症状に対処するのではなく、不均衡の根本原因を治療することを重視する、洗練された診断・治療の枠組みを伝統中国医学に提供しています。また、「五臓」という概念は、西洋医学的な解剖学的臓器とは異なり、より広範な生理的、感情的、そして精神的な側面を含む機能システムを表していることも重要です。


    4.まとめ

     中国の五行説における今文尚書説は、肝を木、心を火、脾を土、肺を金、腎を水と対応させることで、人体の主要な臓器と宇宙の基本的な要素を結びつける独特な視点を提供します。
     この対応関係は、単なる分類に留まらず、それぞれの臓器の機能的特性が、対応する要素の性質と深く関連しているという考えに基づいています。
     さらに、五行間の相生と相克の関係を通じて、臓器間の相互作用や身体全体のバランスを理解しようとするのが、伝統中国医学の重要な特徴です。

     この古代の知恵は、現代においても、人間の健康と病気を理解するための貴重な枠組みを提供し続けています。

    以上、五行説を改めて顧みて、実は五行説が「物事を運動の中で捉え、関連の中で捉える」を思想体系として確立したものを持っている事を思い知ることができました。このことこそ、今まで私たちが西欧文明にどっぷりつかって忘れ去っていた事を反省し、
     価値観も含めて、生活全体を見直さなければならない時に来ているのだと強く感じました。  


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