2024年1月3日水曜日

漢字「辰」の由来は? えとの「辰」は元々、ハマグリなどの二枚貝が足を出して動く形から来ている


未来の辰年には何が起こるかは分からないが、幸せな出来事が期待できるか??

 毎年一年も半ばになると、翌年の干支や年賀状が話題になる。十二支で来年は「タツ年」に当たる。現在では、中国で最も神聖な動物である「龍」を意味する。これは本来、「辰」という字に、大衆的にわかりやすいように「龍」という字を当てはめたもの。

中国の殷周の時代には既に地支を用いた暦が使われており、十干、十二支の組合せで60年を表していた。

 では「なぜ子丑寅なのか?」 これは諸説紛々として未だ定まらずという状態であるらしいが、我が唐漢先生は、「古人は天の動きを人間の生れてから成長の過程で表したもの」という。因みに辰年は「出生し、胎児と胎盤を分ける為、石の刀で臍の緒を分断する状態を示している」ことを指しているという。

 この唐漢氏の解釈は、突き詰めれば、天体の出来事を人間の世界の事柄で説明しようとするもので、基本的に無理がある。年賀のあいさつに使うぐらいならいいのだろうが、それ以上に拘泥するのはそろそろ脱却しなければならないだろう。

   ここでは、辰という漢字の成立ちと由来について調べてみた。



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来年の「辰」年は縁起がいいことが期待できるのか

 辰は、縁起の良い漢字としても知られている。そして辰年生まれの人は、人生が順調に進み、幸せに恵まれるといわれている。
 そこで、この迷信じみた伝聞の「辰年は縁起がいい」ことに信憑性があるのか息抜き程度に直近の100年の出来事を調べてみた。

漢字「辰年」の今

CHAT GPTに聞いてみた。

辰年(龍年)は、中国の干支(十二支)の一つで、一般的には12年の周期で繰り返されている。以下は、過去の辰年におきた大きな出来事の一部である。ただし、これは一般的な傾向であり、年ごとの具体的な出来事はさまざまだ。

  1.  1916年: 第一次世界大戦の最中に、ロシア革命が勃発し、ロマノフ王朝が崩壊。
  2.  1928年: ワーナー・ブラザースによって初のトーキー映画『The Jazz Singer』が公開され、映画産業が大きく変革。
  3.  1940年: 第二次世界大戦が勃発し、ヨーロッパや太平洋で激しい戦闘が繰り広げられた。
  4.  1952年: エリザベス2世がイギリス女王に即位。
  5.  1964年: 東京オリンピックが開催され、日本が国際的な注目を浴びる。
  6.  1976年: 文化大革命が終結し、中国が改革開放政策を導入。
  7.  1988年: ソウルオリンピックが開催され、韓国が経済的に成長し国際的な注目を浴びる。
  8.  2000年: インターネット・バブルが崩壊し、ドットコムブームが終息。 
  9.  2012年: ロンドンオリンピックが開催され、イギリスが国際的なスポーツイベントを成功裏に主催。
  10.  2024年: 未来の辰年には何が起こるかは分からないが、大きな出来事が期待される。
 このCHAT GPTの答えをどう見るかは、各人それぞれのお考えにお任せするしかない。辰年生まれの方は、いい運勢が期待できるのかもしれないが、しかし、一般論で、今年の出来事の連続性を考えると、来年はだいぶ悲観的になる。これについて論評すると、せっかく来年に期待を膨らまでている方々に冷や水をぶっかけることになりそうなので、これ以上は言わないことにする。Good Luck❣

 

タイトルにある、毎日ことばでは以下のように説明している。 「えとの「辰」は元々、ハマグリなどの二 枚貝が足を出して動く形から来ています。 後に十二支の竜に当たるとされ、一方で辰 は蜃の字に変化し大ハマグリを表すように なりました。蜃気楼はこの貝の息といわれ ましたが、蜃は竜の一種との説もあります。」(https://salon.mainichi-kotoba.jp)

2024年1月1日、2日と続けて 年明け早々とんでもない事件が発生。
   ●  能登半島北端で直下型大地震が発生。震度7以上。
     マグニチュード7.5の津波が発生
     7、80人がなくなっている。さらに被害者は増加するもよう。

   ●  1月2日 夕方4時過ぎ 
     札幌発の日本航空の旅客機が海上保安庁の飛行機と衝突。
     海上保安庁に搭乗していた5人が生じる死亡。
     日本航空側の乗員乗客330数名は奇跡的に脱出・全員無事


   干支や占いによる予測とは大体こんなものだ。可能性の一つとして、心の準備をする分には一向に差し支えない。


漢字「辰」の解体新書

漢字「辰」の楷書で、常用漢字です。
 右に「辰」の甲骨文字を示した。
 字統の説明によれば、字が蜃(オオハマグリ)の象形であることは、 ト文・金文の字形においては明らかなこととある。また漢字源によると、「辰」は二枚貝の象形だということである
辰・楷書辰・甲骨


  
辰・甲骨文字
辰・金文
辰・小篆


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「辰」の漢字データ

漢字の読み
  • 音読み   シン
  • 訓読み   たつ

意味
  • たつ(十二支の第五位)

  •   方位では東南東
       月では陰暦3月
       時刻では午前8時。また、それを中心とした2時間。
       
  • 動物では竜(たつ)
  •  
  • さそり座の首星アンタレス

同じ部首を持つ漢字     震、娠、晨、農
漢字「辰」を持つ熟語    辰、北辰、辰砂


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漢字「辰」成立ちと由来

引用:「汉字密码」(Page、唐汉著,学林出版社)
[辰」出生をし胎児と胎盤を分ける為石の刀で
臍の緒を分断している状態

唐漢氏の民俗的解釈

  「辰」これは会意文字である。甲骨文字中の「辰」の字には2つの書き方がある。等しく上古の先民が刀を用いて臍の緒を断ち切るという実生活上のことから来ている。第一の上部の横一は切り開くということで、ここでは分離の意味である。下部は人の両手が石の刀を取っている象形を描いているという。

その少し下部の図形は両手を前に推した形である。字形を整え、図解してみると鋭利な石刀を用いて臍の緒を裁断しているのを表示して、胎児と胎盤を分離していると読み解かれるとされる。

 金文の「辰」の字は甲骨文字の一脈を継承している。小篆は字の形は美観で、筆順は均整がとれており、まさに字形は調整されているが、しかし却って象形の趣は失われてしまっている。

 楷書はこの流れで「辰」となった。

 このように天の変化を人間の出生に見立てて考える見方は「本当かな」と思う反面、最も身近な生れるという現象で天の動きを表現するのはある意味で直感的なことでやむを得ないのかなとも思う。しかし、少し厄介なことなのは、これがある種の宗教的な思想に結びついているということかも知れない。

字統では、古代信仰と農業との結びつきを説く

 象形 蜃(オオハマグリ)の象形。 蜃蚌など貝の類が、足を出して動いている形である。字が蜃の象形であることは、 ト文・金文の字形においては明らかなことであり、許慎のときにもその字形は篆文として存するものであった。
 蜃は古く草刈りの器として農耕に用いられ、農の字もその形に従う。 それで辰に対する古代的信仰というべきものがあって、実際にこれを祭祀に供している。星宿の説が行なわれるようになった。

 なお古代遺跡からは、農作物を刈り取ったり、耕したりするために、磨き上げられたり、細工されたムール貝が発掘され、大きな貝が農具として広く使用されていたことが分かっている。

漢字「辰」と干支:Chat GPTに聞いてみた

 「辰」は、中国の干支(えと)として使用される12の動物記号の1つです。
 「辰」は、干支の中で、ドラゴン(龍)を表す記号です。ドラゴンは、中国の伝統的な神話や文化において、強大な力や尊厳、幸運を象徴する存在とされている。そのため、「辰」が干支として使用される理由は、以下のような要因に由来します:

  •  文化的な意味: ドラゴンは、中国文化において非常に重要な存在であり、皇帝や王朝の象徴としても扱われた。そのため、「辰」を干支として使うことで、この文化的な価値観や象徴が反映されている
  •  象徴的な意味: ドラゴンは力強さや神秘性を持つ存在とされ、干支の中で特別な位置を占めている。他の動物と比べて非現実的で幻想的な存在としての特徴が、「辰」が持つ象徴的な意味に影響を与えている。
  •  陰陽五行説: 中国の伝統的な哲学や思想である「陰陽五行説」に基づいて、各干支や動物記号は五行(木、火、土、金、水)に対応している。ドラゴンは「陽」に属し、五行説の要素とも結びついている。
  •  運勢と縁起: 干支は、年や日、月の動物記号を表し、各年における運勢や縁起を象徴します。ドラゴンは幸運や成功を象徴するとされ、その意味から、「辰」が干支として選ばれることで、その年の運勢や縁起を表す要素となる。

  • これらの要因が組み合わさって、「辰」が干支として使われる理由が形成されている。中国の歴史や文化、哲学などが背後にある要因として挙げられる。

漢字「辰」の変遷の史観

文字学上の解釈

 左に、漢字「農」を参考のため示す。
 漢字「農」の甲骨文字から、金文、小篆までの発展の過程を見ると、ムール貝が農具として、如何に使われて来たかが実に見事に表されている。

 事実、古代遺跡からは、研磨されて農具として使われた形跡を残すムール貝が、数多く発掘されている。



大きな二枚貝は単に農機具だけに使われたのではない

 これは、多分二枚貝からつくられた櫛状の貨幣だと思う。
 著者が南太平洋を旅した時、ある土産物屋で買い求めたものだ。想像するに、このように貝は広く貨幣として用いられている。それが証拠に、漢字には「財、貯、販、貨」などのように貝を部首にもちいている漢字が多数存在する。



まとめ

  十二支の効用は、時の流れを一二年一括りで扱いやすいようにしたことぐらいだろうか。干支の「辰」ということから出発するのではなく、漢字の辰の発生そのものを人間の歴史の中から見直してみるのもいいのかも知れない。

古代農具として重宝されてきたムール貝が、農業の発展に伴い、神聖化され、さらなる農業の発展を願って、人々は龍の位置まで崇め奉るようになった。結果として、十二支の一角の地位を占めるようになった。

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2024年1月1日月曜日

漢字の「賀」:漢字の「賀」:加(耜+口:スキを清めて、豊穣を祈る)+貝からなり豊かになることを祈る意味


漢字「賀」の由来:太古の昔、農業生産の発展を願い、犂を神の前に祀り、祈りをささげたことから生まれた


 今年も本当にいろいろありました。このブログも今年はこれで最後です。来年は、いいことがあるようにとの願いを込めてここに再び「賀」を取り上げました。それだからこそ敢えて、「賀正」と言いたいと思います。

いい年になりますよう頑張りましょう!

導入

 このページは、以前にアップした「賀正の『賀』の成り立ち:財を意味する貝と加えるが併わさったおめでたい漢字」に加筆修正したものです。前回よりも、さらに詳細に歴史的考察を加えたものです。

押しかけ推薦・一度は読みたい名著  阿辻哲次著『漢字學

漢字學の原点である許慎の「説文解字」の世界に立ち返り、今日の漢字學を再構築した名著

前書き

目次




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漢字「賀」の今

漢字「賀」の楷書で、常用漢字です。
 
賀・楷書


漢字「賀」の解体新書

  
加・金文
賀・金文
賀・小篆


 

「賀」の漢字データ

漢字の読み
  • 音読み   ガ
  • 訓読み   つなぐ

意味
  • 祝い、祝賀  
  • 喜び祝う気持ち、祝い、喜び
  •  
  • 褒める

同じ部首を持つ漢字     賀、伽、嘉、加
漢字「賀」を持つ熟語    賀、賀辞、慶賀、参賀、奉賀


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漢字「賀」成立ちと由来

引用:「字統」(Page、唐汉白川静著,平凡社)

漢字「賀」の民俗学的解釈

 「賀」は会意文字+形声文字である。金文の「賀」の字は貝と加からできている。「貝」はここでは財物を表す。「加」は「力+口」の会意文字で、上に何かを載せるという意味を含む。添加の意味である。
小篆の「賀」は上下の字が結び合わさって改まり楷書はこの関係から「賀」と書く。
説文では賀を解釈して、「礼」を以って喜びを相奉ることだ。即財宝・贈り物を送り慶祝の意を表す。


漢字「賀」の字統の解釈

 「字統」では、「加」+「貝」の会意文字で、「加」は鍬を清めその生産力を高める儀式を意味するという。いずれにせよ、生産力を高め財を増やすという意味だと解釈する。


漢字「賀」の漢字源の解釈

 会意兼形声。加は「力+口」の会意文字で、上に何かを載せるという意味を含む。賀は「貝+音符・加」で、もと、礼物をうず高く積み上げるの意。転じてものをおくってお祝いをすること。


漢字「賀」の変遷の史観

文字学上の解釈

力と口とに従う。力は耜の象形。口は祝禱の器の形では、加はもと耜を清めて生産力を高めるための儀礼をいう。
 また加の儀礼に、貝 を呪器として加えることがあり、それは賀である。



 声符は加。加は耜(力)を祓い清めて、その生産力を高めるための儀礼。貝も生産力を高め、 魂振り的な呪能をもつとされるもので、両者を併せて、生子儀礼や農耕儀礼に用いる字である。
 金文の〔大豊設〕に鋤に作る字があり、耜に貝を加えている形。耜の生産力を鼓舞する意がある。嘉も加に従う字で、賀と声義が近い。


なお、「加」、「賀」の両者とも甲骨文字は見つからない。ということは両者とも、農耕が発達し、農業生産が高まった社会を背景に生まれた文字だと考えられる。確かに5000年前~4000年前ごろには、中国の原始農業は発展段階に入り、商周の時代には奴隷制社会の基盤が確立し、井田制集体労働などもあり、労働生産性も高まったという研究結果も発表されている。さらにこの時期には多量且つ多種類の農機具も開発され、牛を使った犂による開墾も行われたといわれている。こうした社会的な変化を背景として「加」や「賀」などの字が生まれたと考えても不思議ではない。

まとめ

 賀正の「賀」の成り立ちは財を意味する「貝」と「加える」を意味する「加」が合さったおめでたい漢字である。

 漢字「貝」という漢字が使われているのは、太古の昔にはお金の換わりに子安貝のような「貝」が使われていたことからきているもので、偏であろうと旁であろうと「貝」が使われている漢字は、殆ど財やお金に関係があると考えて間違いはない。
右の画像は南太平洋諸島で実際に使われていた貝の貨幣である。



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