2021年2月26日金曜日

漢字「怒」の成り立ちと由来:漢字「奴」と「心」の意味するものは


漢字「怒」の成り立ちと由来:漢字「奴」と「心」の意味するものは
 日本語は漢字の使い方によって、発声が異なることがあり、日本語が難しいといわれる所以でもあります。ここで取り上げる、「怒」にしても、下記のように「ド」と「ヌ」という読み方があり、読み方により、微妙に異なる響きを持つことができます。

漢字「怒」の読み方、呼び方
音読み:① ド 漢音 例:怒髪天を衝く・・ドと濁ることにより、感情が強く押し出される感じがします。
      ② ヌ 呉音 例:憤怒・・フンヌという発声は、いかにも怒りが内に籠った感じを与える響きになります。
訓読み:① いかる ② おこる


引用:「汉字密码」(P499、唐漢著,学林出版社)
漢字の成り立ちの解釈
 「怒」の字は左上部は女で、右上部は手に点を2点追加した形を示している。下辺は心の象形字である。3形の会意で、女の人が手で掻いて心に怒りが生まれていることを示している。 
 白川氏は形声文字とみて、声符は奴。奴に努など、激しく勢いを加えてことをなす意があり、怒もそのような心意の状態をいう。
 これに対し、藤堂氏も会意兼形声であり『奴は力をこめて働く女の奴隷のこと。「怒」は「心+音符・奴」で強く心を緊張させること。』としている。

 3氏の見解は全て、セクハラに対する怒りを表現したものということで一致している。

そこでここで、文字の構成要素を分解し、もう各要素ごとにもう少し細かく分析してみよう。


漢字の解体分析(ターヘルアナトミア)
左の画像が甲骨文字の「怒」の構成要素です。
  1. 「女」+「手」⇒「奴」:奴は奴婢のこと。当時は奴婢は戦利品という立場にありました。戦争捕虜などは男を処刑した後、捕らえた女性を奴隷にしたこともあったようです。殷商時代は、5%ぐらいの奴隷が存在したといわれています。この場合の発声は「ヌ」になると思います。
  2. 「奴」+「心」⇒「怒」:漢字を作る側の人間が奴婢の心に思いを寄せていたとは考えにくいのですが・・。
    従って、白川氏の考察が最も当を得ているのかも知れません。
甲骨文字:女甲骨文字:手(又)甲骨文字:心



漢字「怒」の構成要素は?

 漢字「怒」の構成要素は、「女」、「手」、「心」の3要素が挙げられますが、「怒」という漢字を決定づける要素は、「奴」と「心」の2つの要素と考えるべきだと思います。その理由は一つに、「怒」の発声が「ヌ」、「ド」であり、これらの音を持つ構成単位は「奴」という漢字です。意味的にも奴をひと固まりで考えた漢字が多数を占めているという理由によります。


関連記事:漢字「怒」の成り立ちと由来:手を付けられた女の気持ちは怒りとなってほとばしる
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2021年2月23日火曜日

漢字「飯」の由来と成り立ち:漢字から当時の食糧事情が分かる?


漢字「飯」の由来と成り立ち
 ヴィキペディアによると、『日本語の「めし」は、「食ふ(食う)」の敬語のうち尊敬語である。「召す」に由来する。現在はややぞんざいな表現になった。』とある。

穀物の生産は、中国では5000年前の遺跡から各種農機具と共に、粟、黍、稲、麦、豆、麻など主要糧食作物が栽培されていたことが分かっている。日本では3500年前には朝鮮半島に先駆けて稲作が行われていたことが判明している。漢字「飯」もそのころからの付き合いになるだろうと予測される。



引用:「汉字密码」(P661、唐漢著,学林出版社)
唐漢氏の解釈
 "飯"、これは一種の会意・形声文字です。金文の「飯」という言葉は左右の結びついた構造です。左側は食べ物を表す「食べ物」、右側は「反」文字を表します。つまり、手の甲は体の後ろにあり、食べないという意思です。 小篆の「飯という言葉は、金文を受け継いで「食と反の音声」からなる形声字に進化します。楷書はこの縁から「飯」と書く。簡体化から「饭」と書く。 「飯」の本来の意味は、外出時に食べられる食べ物です。 仕事の終了後または一段階後の食事のことで、拡張して「朝食、昼食」などの毎日の決まった食事のことをいう。

 古代の人々が、外出時に食べられる食事のために、特別な言葉を使っていたとは考えられないので、この説明には少し疑問が残る。


字統の解釈
 漢字「飯」のなり立ち、由来:声符は反。説文に「食らうなり」とあり、黍稷の類を食べることを飯という。この類の飯は箸を用いず指で摘まんで食べた。この時親指を主として用いるので、親指の根元を販という。ここで、字統の解釈が少し気になる。なぜ箸を使わなかったのか。ご飯がパラパラで箸を使うのに向いていなかったのか。古代の中国で特に北方では水稲が行き渡っていなかったため、稗、粟、コーリャンが主食だったのかも知れない。



漢字源の解釈
 会意兼形声。「食+音符反(バラバラになる ふやける)」で、粒がふやけてばらばらに煮えた玄米の飯。

 

まとめ
 唐漢氏の解釈と字統の解釈は真逆のものであった。ただ、当時の糧食が、ぱさぱさで指でなければ食べにくいものであったのは共通して言えるのかも知れない。

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