2023年6月26日月曜日

漢字 嫌と厭はどう違うの:二つの漢字の裏には当時の社会のとてつもない変動が隠されていた?


「嫌」と「厭」の成立ちと由来には、氏姓制度の存続に関わる大変革が隠されていた

 いまネット上で騒がれている広末氏の不倫に対して、実業家の“ホリエモン”こと堀江貴文氏(50)が話題の広末涼子さんの夫のキャンドル・ジュンさん(49)について、ネット上で、「誹謗しすぎ」「胸糞悪い」(「週刊女性」)と発言しているという。

 そもそも、記者会見でのキャンドル・ジュンさんの発言は、公のものであるから、それ自体は何の問題もないことである。
 その発言の内容に対して個人的見解を自身のYouTubeチャンネル上といえども、公に発言するという行為は、まさに嫌がらせすなわちハラスメントという行為そのものではないだろうか。しかも発言している内容が公的なものであればいざ知らず、個人の浮気の問題に対する全くどうしようもない個人的感想をいくら有名人だからといって垂れ流しにすることはあまり品のいいことではない。

導入

前書き

 近年ハラスメントという言葉が周りを飛び交っている。ハラスメントを日本語で言うと「嫌がらせ」である。この原点は漢字の「嫌」という言葉であるが、「嫌」と「ハラスメント」では大いなる違いがある。「嫌」はあくまでも個人の主観であり、ハラスメントは主観に対して、「他」に対する「嫌な思いにさせる」という明確なる客観的行為である。

  言葉というものは恐ろしいもので、それが一旦認知され広まってしまうと、その内容は吟味されることなく、皆さん分かったかのように、さらに拡散されてしまう。しかし一歩振り返って、その意味は日本語でなんだったかなと考えてみると確信を持って答えれる人はそれほど多くはないのではなかろうか。

目次




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漢字「厭」の今

漢字「厭」の解体新書


 

 「嫌」(いや)と「厭」(いや)は、両方とも「いやな」という感情や「いやだ」という気持ちを表す漢字ですが、微妙なニュアンスの違いがあります。

 「嫌」(いや)は、一般的な表現としてよく使われます。他人や特定の状況に対して嫌悪感や不快感を抱くときに使われます。「嫌な人」や「嫌な状況」といった具体的な表現によく見られます。また、否定的な感情や気持ちを強調するためにも使用されます。
 一方、「厭」(いや)は、やや古風な表現で、個人的な感情や心の内面に焦点を当てた表現です。自分自身が何かに対して嫌悪感や不快感を抱くときに使われます。また、自己の意志や好みに基づく拒否感を示す場合にも使用されます。一般的な日常会話ではあまり使用されない傾向がありますが、文学や詩などで見られることがあります。

 このように、「嫌」と「厭」は、感情や気持ちを表す漢字として似ていますが、微妙なニュアンスの違いがあります。

嫌・楷書


 
 
厭・金文
厭・小篆
厭・楷書
  


 

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「厭」の漢字データ

漢字の読み
  • 音読み   ケン
  • 訓読み   いや
意味
  • きらい、きらう
  •  
  • あきる
  •  
  • いや 
同じ部首を持つ漢字     厌 恹 懨
漢字「厭」を持つ熟語    厭人 厭世


**********以上 漢字データ************

漢字「厭」成立ちと由来

引用:「汉字密码」(Page、唐汉著,学林出版社)

唐漢氏の解釈

 「厌」は、「厭」の単純化された言葉です。 金文の「厭」という言葉は、「犬、口、月(肉)」で構成される意味の言葉です。 これは犬の口の中の大きな肉であり、それがいっぱいであることを示しています。

  小篆の「厭」は金文を継承しますが、口に少し追加され、厂が上に追加されており、犬が地面で肉の塊をもてあそんでいることを意味します。 楷書は「厭」と書かれています。漢字が簡素化されるときに、「厌」となりました。

 「厌」は2つの基本的な意味を持っています。1つはYanとして読み、満腹の意味を示します。 「厭」の2番目の意味は、「按、压」などのように、enと読み、呪いや幽霊などの迷信方法によって他の人を制服することを指します。

漢字「厭」の字統P59の解釈

 厂と猒とに従う。猒は厭の初文。

 肙の上部 は肩の骨臼の部分、下部は肉であるから、肙は肩肉 の形。猒は犬の肩肉を牲として、天神を祀る。神意 がそれに満足することを猒という。
 また厭には「笮なり」として圧笮の意とするが、厭は厭勝(まじない)の意。厂は猒を用いる崖下な どの聖所、そこで牲を供えて祀り、祈って禍害を圧する意である。古くは猒を厭の意に用いており、もと同字。
 厂は祭祀儀礼を行なう聖所で、厤は軍礼を行なう意である。厭足・厭飽の意より厭悪・厭嫌の義を生ずる。

漢字「嫌」の字統P261の解釈

 旧字は嫌に作り、兼声。形声文字。
〔説文〕に「心に平らかならざるなり」とあり、不満足とする意。嫌厭・嫌忌・嫌 悪嫌疑のように、他に対する不信の念をいう。 慊など、この声に従うものに、その意をもつものがある。
[礼記、曲礼、上〕に「禮は嫌名を諱まず」とある。


漢字「厭」の漢字源P222の解釈

 猒は熊の字の一部と犬と合わせ、動物のしつこい脂肪の多い肉を示す。しつこい肉は食べ飽きて嫌になる。
 厂は上からかぶせるがけや重しの石。厭は厂+猒」食べ飽きて上から押さえられた重圧を感じることを表わす。


漢字「厭」の変遷の史観

文字学上の解釈

字統には、「嫌」と「兼」の二つの文字について、それぞれの由来を説明するが、それでもなお、「女偏+兼」がなぜ「嫌い」の意味を持つのかの納得ある説明にはなっていない。

「嫌」字統P261
 よみ:ケン・ゲン きらう・あきたらぬ・うたがう
けん 旧字は嫌に作り、兼(兼) 声
 形声
 〔説文〕「心に平らかならざる なり」とあり、不満足とする意。嫌厭・嫌忌・嫌 悪嫌疑のように、他に対する不信の念をいう。

「兼」 字統P257
  ケン かねる・あわせる
  正字は、秣と又とに従う。二禾を併せてもつ形である。〔説文〕に「あわすなり」とし、一禾をもつものは秉、二禾をもつものは兼、ゆえに兼併の意となる。
 〔詩、 小雅、大田〕 「彼に遺秉あり」は落穂拾いをいう。多くのことにわたって修学することを兼修・兼学という。

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まとめ

 漢字「嫌」という字が女へんに兼ねるの文字であると言う説明が有力であるが、一方「兼」という字は稲の二束を表すという。なぜ女が稲の二束を持てば煩わしくなり、いやになるのかの説明がやはりわからない。

 しかし土台が上部構造決定とすれば、この文字の発生には何らかの経済的理由が発生してるのではないかと考えられる。
 私のあくまでも仮説ではあるが、推論をしてみた。
   これは稲の二束はというものは、実際の稲はなくて、稲の収穫単位を表すのではないかということである。
 当時は氏族共同体のシステムをとっていた。男子はあくまで氏族全体に属していた。しかし、女性(この場合奴隷ではない女性)は家を持ち、男は女性のもとに通っていた時代。

 その状況の下で、何らかの理由で、女性2単位分の所有が発生した。この事態は氏族共同体の下では必然的に発生する事態であるが、氏族共同体の所有形態の崩壊にも関わる問題でもあるかもしれない。

 つまり女性が二つの稲の収穫の区画を目の前にし、どちらか一方お選びと迫られた場合、(当然のこととしてその収穫単位の背後にはそれをそれを可能にする若い男の姿が浮かんでくる)その女性は、悩ましいと考え煩わしいとも考えそのような選択を迫られる状況をおぞましいと感じるのは当然のことではなかろうか。

  このことから、「嫌」という事態は、氏姓制度の崩壊を意味する所有形態として、氏族全体としては疎まれていたのではなかろうか。 女へんに稲束が嫌うという意味を持つようになったと考えられないだろうか。

 そしてその事態を、氏族全体としてどうすべきか、犬を生贄として神に御うかがいを立てることを「厭」と表現したのではなかろうか。
 その意味で、「厭」という漢字は宗教的あるいは社会的色彩を帯びていると考える。したがって「嫌」と「厭」の二つの漢字の発生時期は大胆な仮説を許してもらえれば、「嫌う」という漢字が先んじているはずということになる。

  


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2023年6月18日日曜日

漢字「銅」の成立ちは何で、どこから来たのか。金文の「銅」に隠された秘密を探しあてた


漢字「銅」の成立ちは何で、どこから来たのか

導入

 漢字「銅」の成立ちは何で、どこから来たのか。私たちは同じ時期の製造過程を表す「鋳」という文字との対比の中で、その成り立ちと由来を探ってみたいと思います。

前書き

 中国における銅の歴史は非常に古く、青銅器の時代から始まっています。

  1.  青銅器の時代(紀元前2000年頃~紀元前771年頃): 中国における銅の利用は、青銅器の時代に始まります。青銅器は、銅と錫を合金化して作られた器具や武器で、中国の古代文明の発展に大きく貢献しました。青銅器は贵族や王侯の墓から多く発見され、その銅製品は儀式や礼器として使用されました。
  2. 銅の採掘と製錬技術の進歩(紀元前770年頃~紀元前221年頃): 紀元前8世紀から紀元前6世紀にかけて、中国では銅の採掘と製錬技術が発展しました。特に、戦国時代(紀元前475年頃~紀元前221年頃)には、銅の需要が高まり、技術的な進歩が見られました。銅は貴重な金属として扱われ、王朝間の貿易や軍事活動に重要な役割を果たしました。 
  3. 秦漢時代から中世(紀元前221年頃~14世紀): 秦漢時代(紀元前221年~220年)には、銅の需要が増え続けました。この時期には銅銭(通貨)の製造が行われ、銅の採掘と製錬技術はさらに進歩しました。しかし、中世に入ると銅の需要は一時的に低下し、鉄や陶器がより重要な素材となりました。
  4. 清代から現代(17世紀~現在): 清代(1644年~1912年)以降、中国における銅の需要は再び高まりました。銅は建築、工芸品、日用品などさまざまな分野で使用されました。
  5. また、現代に入ってからは、銅は電気伝導性の高い金属として重要な素材となり、電気工業や通信産業で広く利用されるようになりました。 中国の銅の歴史は、古代から現代まで続く長い歴史を持っています。銅は中国の文化の礎といっても過言ではないでしょう。

目次




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漢字「銅」の今

漢字「銅」の解体新書

漢字「銅」の楷書で、常用漢字です。
 左側は「金」で旁は、跪くひとを表すということです。
即・楷書



 
銅・金文
銅・説文解字
 

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「銅」の漢字データ


漢字の読み
  • 音読み   ドウ
  • 訓読み   あかがね

意味
     
  • 金属の一種
  •  
  • 銅のような輝きと光沢をもつ色
  •  
  • 銅でつくられた貨幣

同じ部首を持つ漢字     胴体、筒、桐、洞
漢字「銅」を持つ熟語    赤銅、銅線、銅鏡




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漢字「銅」成立ちと由来

引用:「汉字密码」(Page、唐汉著,学林出版社)

漢字「銅」の字統(P657)の解釈

銅_字統
 銅 形声 声符は同。〔説文〕 に「赤金なり」と あり、周初の [麦鼎] や 〔彔毀] には、赤金を賜うことがしるされている。当時は一般には金と称した。

 銅は各地に産したが、南方淮域には殊に良質のもの を産するので、早くから注目され、周初の〔員鼎〕 には、南征して金を俘獲したことをしるしている。
 春秋期に入って、淮域への侵寇は一そう激しくなり、 [詩、魯頌、泮水〕 〔閟宮〕 や金文の [曾伯しつほ] などには、その作戦の成功をしるしている。[泮水] には淮夷が来って「大賂南金」を献ずることを歌い、 [曾伯しつほ]には「金道錫行」の語がある。

 その地の良質の銅は南金とよばれ、これを獲得するために 金道錫行が啓かれたことが知られる。のちに丹陽の銅といわれるもので、その質は金に類するといわれるほど、良質のものであった。晋の銅鞮、蜀の銅梁も、銅をもって名をえたところである。



漢字「銅」の漢字源(P1639)の解釈

 会意兼形声文字、 穴をあけて突き抜くこと。銅は[金+音符同]で穴をあけやすい柔らかい金属のこと


漢字「銅」の変遷

銅と鋳の生まれ

 漢字の金文の銅と鋳を比較した。この漢字の「銅」は金属の「銅」であり、鋳は鋳造技術の「鋳」である。全く概念が違うので、列挙することは少し問題であるが、古代の銅は鋳造して作られている。左の図を見て真っ先に感じられるのは、銅という文字はかなり文字化され抽象化されているということである。

 一方鋳の字は象形文字というか作業そのものを形に表しているということである。文字としてみれば、銅の方はより高度になっていると言えるともいえるが、逆に形象化することは困難である。

 その意味から漢字で表現する場合もっとも特徴的な事象を字で表すことが有効であると考える。銅を表現する場合に鋳造技術は発達していなかったであろうから、細かい技術を表現することはできなかったと考える。また金属の種類もそれほど多くはなかったと思われ、「銅を鋳造した、鉄を鋳造した」という区別は必要なかったであろう。

     しかし鋳造という技術が確立され、鋳という字は材質と切り離されることとなったため製造過程をそのまま形象して表すしかなかったのではなかろうか。ここに漢字の成り立ちがその土台たる生産過程に依拠するものであったと言えるのではなかろうか。


まとめ

 銅と鋳の1一つの漢字の成り立ちを見たが、私たちはここに漢字の生成の過程の本質をいうことができたように思う。これらの文字の生産過程は、物の生産過程そのものを忠実に反映しているということができるのではなかろうか。




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