2021年8月13日金曜日

漢字「室」の成り立ち:室が表すような大規模な建築物が甲骨文字の時代に存在したことが、極めて異質のことと考えられる


漢字「室」の成り立ちの不思議:この漢字が示す大規模な建築物が、河姆渡文化の中では異質の高度な建築技術を持っていた
 この字が作られた時代には、かなり大規模な建築群が建てられていたことを示しているが、古代王朝の建築については、近年の考古学の発展により、伝説の王朝とされていた夏王朝のものとされる城址が発見され、続いて殷代の初期から中期の城壁や宮殿、西周時代の宗廟(そうびょう)、春秋戦国時代の宗廟、などの遺跡が次々と発掘された。これら新資料の出現からみて、古代の記録のない早い時期から近代に至るまで、中国建築が悠久な歴史を不断に持続発展してきた情況が、明らかにされつつある。

 中国建築がきわめて早くから独創性に富む高度な技術的水準に到達していたことは、近年、浙江省河姆渡(かぼと)の遺跡から明らかになっている。炭素14法による判定で6000~7000年前とされる柱、根太梁(ねだはり)、床板などの出土部材には精巧な柄(ほぞ)・柄穴が加工され、すでに仕口(しぐち)の結合を用いた木造高床(たかゆか)建築の技術が開発されていた。華北・中原(ちゅうげん)の新石器時代の住居址は多く竪穴(たてあな)式の穴居である野に対し、河姆渡文化自体は稲作技術を伴う当時先進的な文明であり、、建築技術的にはまったく異質の系統が存在したことになることは大いに注目に値しよう。(以上日本大百科全書(ニッポニカ)「中国建築」の解説より抜粋)


漢字「室」の楷書で、常用漢字です。
 宀と至から構成されます。至は矢が着地するところを示しています。
 会意文字で、矢が届いた一番奥の部屋を示していると云われています。

このことから言えることは、この字が作られた時代には、かなり大規模な建築群が建てられていたことを示しています。問題はそれがいったいいつの時代であったのかです。
室・楷書


  
室・甲骨文字
室・金文
>跪いた状態を表している漢字
室・小篆
以上2文字の会意で、即ちとか直ちにを意味する


    


「室」の漢字データ
 

漢字の読み
  • 音読み   シツ
  • 訓読み  むろ

意味
     
  • へや :発酵させたり、苗を育てたりするために一般的に保温を施した部屋
  •  
  • 古代で見られた竪穴式の貯蔵倉庫
  •  
  • 会社組織などでの機能を持つ組織の一つ」(例:社長室)

漢字「室」を持つ熟語    暗室、温室、王室、居室、内室、密室




引用:「汉字密码」(P576、唐汉著,学林出版社)
唐漢氏の解釈
 室は会意文字であり、形声文字でもあります。

 物品を部屋に盛っている様です。甲骨文字の室という字は上下がが結びついた構造をしており、上部は居室の内部を表示しています。下部は「至」です。これは矢が部屋の中に落ちて、「去、至る場所」を示しています。
 甲骨文字の多くの用例は「大室」であって、先王の宗廟の部屋で、また集合する、集会場所を示しています。金文と小篆の室の字はその時代の意味の発展と拡張を含んでいます。

 人々が居住を止める場所を示している。また専ら建築群中の後部の中央の部屋を示し、建築群中の前部の「堂」と区別している。 《論語》中の、「升堂矣, 未入于室也。」(ホールに昇っても入室せず。) 以降「室」は男子の居住のする屋舎を指している。即ち女は家といい、男は室という。





漢字「室」の字統の解釈
 宀と至に従う。至は矢の至る所。「説文」に「實」と音義的に解し、また屋字条に「室屋はみな至に従う」と会意の字とする。卜辞に中室、南室、血室の名があり、皆祭室をいう。《大豊キ》に「王、天室に祀る」とあり、金文の大室、宗室はみな宗廟の祖霊を祀るところで、最も神聖とするところである。


まとめ
 文字が示している大規模な建築物が甲骨文字の時代に存在したことが、極めて異質のことと考えられる



「漢字の起源と成り立ち 『甲骨文字の秘密』」のホームページに戻ります。

2021年8月7日土曜日

漢字「牙」の起源と由来:古代中国では、非常な貴重品であった象の牙ではないかという説もある


漢字「牙」の起源と由来:牡牛の牙、象の牙それとも豚の牙?
 中国では、現在は歯のことを牙という。従って、歯科のことを、「牙科」という。ところ変われば品変わるとはこのことである。

 さてこの「牙」は何の牙だろうか。説文によると「牡牛の牙」であるというが、殷代には江北には象が闊歩していたことから、この「牙」は象牙ではないかという説もある。わざわざ文字として残すことはこれが貴重品であったと考えられ、事実殷墟の墓からは精巧な饕餮文を施した盃が出土している。

引用:「汉字密码」(P421、唐汉著,学林出版社)

「牙」の字の成り立ち」
 「牙ya2」は即ち歯のことである。金文の「牙」の字は上下交錯し、なおかつ突出した犬歯のように見える。人の犬歯は門歯と臼歯の間に位置し、尖った円錐状をなしている。俗に虎牙という。漢字は縦に長く横に狭い特徴に適応し、金文の第2款は将に縦置きになっている。小篆はこの関係から、金文と比較すると字の形は均整が取れているが、象形の意味は薄れている。


古人は牙をどのように使ったか
 昔は、「牙」は象牙とその制作物を指す。牙尺、 牙板、牙管のごとく。昔売買する双方が利の中取りする人を「牙子、牙俭」などといった。即ち現代のブローカー、仲介人である。草木が萌え出ときの発芽を「芽」と書き、これはくさきの芽の形状が犬歯の形に同じことからくる。

字統82ページ
 牙の上下に相交わる形に象る。説文に「牡歯なり」とし、脚注に壮歯の誤りという。 象は殷代には江北にも棲息しており、卜辞に「像を獲らんか」と卜する例がある。象牙は極めて貴重なものとされ、それに彫飾を施し、彩色した遺品がが多い。近年殷墟の婦侯墓から、饕餮文を加えた取っ手付きの精巧な精巧な象牙杯が出土している。

「漢字の起源と成り立ち 『甲骨文字の秘密』」のホームページに戻ります。