2021年3月21日日曜日

漢字の成り立ちの意味するもの:「馬」の歴史は、人の歴史そのものだ


漢字の成り立ち:「馬」の歴史は、人の歴史そのものだった

前書き

 馬は昔から、人間の生活になくてはならないものであった。というわけで馬にまつわる話にはことを欠かない。馬は起源は北米だという説もあり、またウクライナ地方で5000年前だという説もあり、また紀元前2000年ごろバビロニアの遊牧民が最初に飼い始めたという説もある。このバビロニアの馬は足が速く、今のアラブ馬の祖先だという説もある。
 人間と馬の関わりは、歴史的に非常に深いものです。馬は古代から現代まで、人類の移動手段や農耕、戦争、交流などさまざまな面で重要な役割を果たしてきました。

 最初の馬の家畜化は、紀元前4000年ごろの中央アジアで始まったと考えられています。この時期、野生の馬は狩猟の対象であり、人々は馬の肉や皮を利用していました。しかし、やがて人々は馬を乗り物や荷物の運搬手段として使うようになり、農耕や交易の発展に貢献しました。


漢字「馬」の由来と成り立ち


引用 「汉字密码」(P50,唐汉,学林出版社)

 馬は典型的な象形文字である。甲骨の字の馬は一匹の頭足身体尾っぽ全部そろったものを横から見た馬の形をしている。



漢字の変遷 甲骨文字から金文、楷書へ

 馬は典型的な象形文字である。甲骨の字の馬は一匹の頭足身体尾っぽ全部そろったものを横から見た馬の形をしている。上古の先民は天才画家に称号にも耐えうる。彼らは馬の形体に対し、眼と耳際の毛はの正確な描写はまさに分析が深く、大きく扁平で長い眼、長く突出した頭部の両側、上に直立して立った鬣、遠くみても一目で、馬とその他の動物間の特性と差別するのにできる。

金文の馬

  • 早期の金文の「馬」の字は甲骨文字の持つ象形の特徴は小篆にいたるころには却って似て非なるものとなっている。
  • 図の示すところ小篆の馬の字は下部は5画で今の4本の足と尾を表し、二本の足と尾っぽの変化したものだ。上部の3本の横棒は馬の首の上の鬣毛が変化したものだ。
  • 楷書の繁体字の「馬」は9画あり、書くのには十分不便で、このため漢字の簡略化の案は行書中の手書きタイを参照に今日のわれわれがまさに使用している「马」字を創造したものだ。  人類が飼育している家畜の中の体型は最も大きいもので、このために古人は大きいものの修飾語として馬を使うのは外形の大きいところを形容している。同類のかつ大きいものの比較で、馬蜂(スズメバチ)、马勺(杓子)、马明、马蚁(蟻)などである。また山東人の習慣で大きな棗を称して「馬棗」という。広東人はまさに大豆のことを馬豆と称している。
  •  古代、中国の華北平原と内蒙古の地区では、野馬が生息していた。この種の野馬の頭の高さは高くなく、長くて頭をつけ、鬣と耳は立っており、短い足と長い尾っぽは下向きに垂れていた。専門家はまさにこの種の野馬は新石器時代にアジアの土着の居住民によって、われわれの祖先たちが養育に成功し6畜のひとつになったという。



歴史の中での人間と馬の係わり(特に戦場における馬との係わり)

古代ギリシアでは歩兵による密集戦術が主流で、馬は指揮官が使う補助的な役割でしかなかった。近年の研究では既に地中海世界では大型の鞍が発明されており、旧説で言われているほどには騎乗は困難でなかったとは言われるが、鐙(あぶみ)が発明されるまでは馬上で武器を扱うのは困難であり、幼い頃からの鍛練が必要な特殊技能であった。中国やイラク、シリア、ギリシャなどの農耕地域では馬を育てる事に費用が嵩むため、所有出来るのは金持ちや有力者に限られていたようである。

   アジアでは、紀元前20世紀頃から中国のオルドスや華北へ遊牧民の北狄が進出し、周囲の農耕民との交流や戦争による生産技術の長足の進歩が見られ馬具や兵器が発達、後に満州からウクライナまで広く拡散する遊牧文化や馬具等が発展した。



 

騎馬遊牧民の出現

匈奴・スキタイ・キンメリア等の遊牧民(騎馬遊牧民)は、騎兵の育成に優れ、騎馬の機動力を活かした広い行動範囲と強力な攻撃力で、しばしば中国北部やインド北西部、イラン、アナトリア、欧州の農耕地帯を脅かした。遊牧民は騎射の技術に優れており、パルティア・匈奴・スキタイ等の遊牧民の優れた騎乗技術は農耕民に伝わっていったが、遊牧民は通常の生活と同様、集団の騎馬兵として戦ったのに対し、農耕民では車を馬に引かせた戦車を使うことが多かった。

事実紀元前2000年ー1500年ごろに栄えた殷王朝の安陽の遺跡からは、騎馬戦車が数多く発掘されている。 そして、漢民族が戦車ではなく、馬に跨り戦場を疾走するようになるのは、時代が1000年ほど下った戦国時代に起こった戦術上の大変換になるまで待たなければならない。(下記のページを参照ください)


中国に起こった騎馬がかかわる戦術上の大変換

 戦国時代は、中国の歴史上の時代のひとつで、紀元前5世紀から紀元前3世紀にかけて続きました。この時代には、多くの国家が争い、統一を目指して戦いました。

 初期の戦国時代では、戦闘は主に歩兵中心で行われていました。しかし、騎馬戦術の重要性が次第に認識されるようになり、騎馬兵の使用が増えました。騎馬兵は、偵察や奇襲、迅速な移動などに優れた能力を持ち、戦闘の効果を高めることができました。
 また、戦国時代の中盤から後半にかけて、騎馬戦術は進化しました。その中でも特に有名なのが、騎射戦術(きしゃせんじゅつ)です。これは、馬上から弓を射ることによって戦う戦術で、強力な騎馬アーチャーが敵に対して威力を発揮しました。
 さらに、騎馬戦術の発展に伴い、騎兵隊の組織化も進みました。騎兵隊は独自の指揮系統を持ち、連携して戦うことができました。また、騎兵隊は槍や剣を使用することもあり、接近戦においても優位に立つことができました。

 ただし、戦国時代の騎馬戦術は、あくまで限定的な存在でした。地形や戦場の条件によっては、騎馬兵の運用が制約されることもありました。また、他の戦術や兵種との組み合わせも重要であり、騎馬戦術の単独の優位性だけで戦局を決めることは難しかったです。

 以上が、中国の戦国時代における騎馬戦術の変遷についての概要です。この時代の戦争は非常に複雑であり、各国が様々な戦術を駆使して争いました。

漢字に反映された馬

漢字「騎」には戦国時代の戦術の大変換の痕跡が反映されている


「馬」を含む故事・成語

「馬を含む故事・成語 5選」に触れられているので、紹介しておこう



「漢字考古学の道」のホームページに戻ります。   

2021年3月19日金曜日

漢字の成り立ちの意味するもの:漢字「婦」は女性差別という「差別」に抗う

漢字の成り立ちの意味するもの:「婦」と女の違いってなんだ!

 漢字「婦」は太古の女性が社会的に主体的役割を果たしていたことを明示したものだ。

 漢字「婦」は、太古の社会では女性は主体的でることを明示しており、女性が従属的な存在であることを決して意味していない。


 「婦人」という字が、日本の歴史に登場して久しい。婦人参政権、婦人会、主婦、看護婦など等である。しかしこれらは今では少し古い感覚で受け止められるようになっている。
 少し前、「婦」という字は「女が箒を持っている」ことを表している字などを社会的用語として用いるのは「女を家に縛り付ける封建的遺制である。という議論まで飛び出して結果的には、婦人という用語は社会からある意味で抹殺され、いまではその代わり、「女性」という語が表舞台に登場した。

 こうなると婦人という言葉もいわれなき差別の末社会から放逐され、いささかかわいそうな気がする。
 物事は俗説や風評・感覚だけで判断してはならない!

 さて、ここではこの漢字の男女シリーズでこの「婦」という漢字を取り上げてみる。本当に昔から虐げられた女性の象徴であったのか。もちろん勝手ながら、唐漢さんに登場願うこととする。


引用 「汉字密码」(唐汉,学林出版社)
 妇は「婦」簡体字である。甲骨文字の婦の字の左上方は黍の穂を突き刺して作った箒で、右側は跪いた女性である。両者の会意で手に箒を持った人即ち「婦」を表している。小篆の婦の字はへんとつくりが整えられ、女の字は箒の左に移った。箒の形はすでに象形からの離脱があるようだ。簡単化され「婦」とかかれるようになった。


婦:甲骨文字
婦:小篆



   「婦」の字は一個の会意字で構造上女性が部屋を清掃する特徴が強調されている。しかし確かに言えることは殷商の時代は、女性は本当の意味で家の主であって、母系家族の中で個人に割り当てられて部屋を使用していただけなのだ。決して自分で生んだ個人の子供のための使用ではない。





漢字「婦」は家を持ち自立して生活できる女性をさす
 この構成の中で、家では却って男と交わりはなく無関係であった。男は小さいときは母親のひざ元で暮らし、成年後は男子専用の集合住宅である「公宮」にすんだ。男子に家はなく、女のところで客として寝泊りしていたに過ぎない。女性は家をもち居室は清掃をし家事をする。  

 「婦」という字はまさに現実の反映なのである。だから「婦」の本義は個人の居室を指し、男子を留めまたは留めることのできる女性をさすのである。父権制が確立して以降は結婚した後の女性を指すようになった。

 後世になって、言葉の意味の拡大で「婦」もまた婦女の通称となった。

 但し古代にあっては、婦はもっぱら既婚の女を指し「女」は一般的な意味の女性を指し、2者は混用することはなかった。ただ近代にあっては、婦女と女性の通称になった。

キーワード:婦人


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