2016年12月24日土曜日

漢字「至」の成立ちを「甲骨文字」に探る:矢が地面に到達する「そのまんま」の字形を表す


漢字「至」の起源と由来
引用:「汉字密码」(P574、唐汉著,学林出版社)


 「至」これは象形文字である。甲骨文字の「至」の字の上部は逆さに書かれた矢で、頭を下向けにした矢である。下部の横一は地面を表示している。全部の字形は射出された矢が地上に落ちて達した様である。到達した意味である。小篆の字形は形を整えたものである。但しまだこの時点では古い文字の特徴は保留されている。
「至」は《玉篇》は「至、到」なりと解釈している。「至今、至此、自始至终、朝发夕至」の言葉の中の「至」の通りである。
成語「至死不变" 、 "至死不悟」の中の2つの「至」の前者は、「死に至るも変わらず」後者は、「死に至るも尚悟らない」ことを意味している。「弓箭落地」も矢が終点に到達したことを表示している。いわゆる至の字は「終点、最、極」の意味に拡張されている。
「至理名言、 至高无上、至亲好友」の「至」は皆極、最を表し、古代の孔子に対する尊称で「至圣先师」の中の至は、道徳的に最も高尚であることの形容である。
 24節の「夏至、冬至」両者とも節気を表している。「夏至」はこの一日が北半球で昼間がもっとも長い日であるし、夜が最も短く、夏至はその正反対を表す。夏至と冬至の中の「至」の字は、均しく太陽運行が南北回帰線上にいて、夜昼の長短が極点に達する時である。
 「至」は漢語中、連句を作り、一つのことから別のことに到達する程度と範囲、結果を表示する。「至于、竟至于、以至于」など等。(程のことになる、思いがけずついする、・・なるまでする、さらに・・までする)


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2016年12月23日金曜日

漢字「弗」の成立ちを「甲骨文字」に探る:縄を用いて、二つの矢を束ねるさまを表している。


漢字「弗」の起源と由来

 2016年アメリカ大統領選挙でトランプ氏が大統領に選出された。此れに伴いトランプ旋風というべき流れが起こり、アメリカの弗の金利の見直しもあり、バブルの再来というべき様相を呈している。アメリカの実体経済は既に末期的症状に陥っているにも拘らず、トランプのいう「強いアメリカ」の再来に期待しての好感である。しかし、アメリカの経済は既に破綻しているにも拘らず、実態はなんら変わらないにもかかわらず、株価だけが上昇するところにアメリカの病根は深刻になっていると見なければならない。
 さて、このドルに対して、日本では「弗」という漢字が当てられている。これドルを表す記号「$」に表記手kにはよく似た「弗」」を当てたもので、漢字の本来の「弗」の本義とはなんら関係がない。それは当然のこと甲骨文は今から4000年に生まれたもので、そのころには「弗」という貨幣はなかったからである。


引用:「汉字密码」(P578、唐汉著,学林出版社)


 「弗」は象形文字である。甲骨文字の「弗」は縄を用いて、二つの矢を束ねるさまを表している。金文の弗の字は甲骨文字の後の字形と相同である。縦線二つは矢竹或いは矢竹の矢を束ねる道具のようで、「己」ないし束ねる縄である。金文から小篆と楷書には大きな変化はない。
 弗は縄で縛ることに源がある。但し漢語の中では「弗」の本義は既に消滅している。但し元通り使用されている「弗」の拡張された意味は不に当たる否定の意味である。 この一意的な使用は矢竹を緊縛後征戦の殺戮のために再び使用しないことから来ている。ないし「非戦」明確な表示である。
「弗」の字は部首字である。組字の構成要件中声符出ることが多い。「费、纷、菇、拂、佛」の如く、その中の「弗」は「緊縛か否定の意味である。


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2016年12月21日水曜日

漢字「令」の成立ちを「甲骨文字」に探る

漢字「令」の起源と由来
引用:「汉字密码」(P649、唐汉著,学林出版社)

 左の甲骨文字のヒエログラフの中の三角形は昔から男性のシンボルとして使われてきた記号であり、軍隊の記章などでもおなじみのものである。映画「ダビンチ・コード」でも、詳しく説明がされていた。





「字統」の解釈
 「字統」では白川博士は「礼冠をつけて、跪いて神意」を聞く神職のものの形。上部は三角形に似た深い冠の形である」と説明している。
 しかし、古今東西を問わず、山形の形が「男子を象徴するシンボルである」ことは古くから言われて、いわば定説のようになっており、白川氏の「冠である」という解釈も、上古の時代の男性信仰が、権威の象徴として、神職の冠となったとも考えられ、いわば後付の冠も否めない。


唐漢氏の解釈
 大腿のマタで佇立する権威を表す男性の下で、一人の跪いた人があるときこの種の景色がまさに令の字の生活の源である、また三角は男性の性器の普遍的意味を表すこととも符合する。
 命令からの意味からまた拡張して「~させる」の意味が出る。

「漢字源」の解釈
 因みに、藤堂明保編{漢字源」による解釈では以下のようである。


「△印(おおいの下に集めることを示す)+人のひざまづく姿」で、人々を集めて、神や君主の宣告を伝えるさまを表す。
たしかにこの解釈のほうが、唐漢氏に比べて上品ではあるが・・。

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2016年12月20日火曜日

漢字「命」の成立ちを「甲骨文字」に探る:命と令は同源同字。命の本義は口を用いて命令を発すること


漢字「命」の起源と由来
引用:「汉字密码」(P650、唐汉著,学林出版社)


 令と命は同源同字である。甲骨文字の上部は男の露出した生殖器だ。下部は膝づいた人だ。この命の字は令の字と相同と見ることが出来る。金文の左下には一個の「口」を加えて、膝づいて臣服していることを表しているばかりか、さらに口を用いて命令を発布していることを表している。小篆の形は金文の直接変化を受けて、楷書では命と書く。


 命の本義は口を用いて命令を発することで、即ち上級から下級への指示の発布である。
 上古の統治者は下属のものに命令を命と同じに見ることを要求した。だから命の字は拡張して、生命または性名となった。『论语•雍也』の中の記載に顔淵は「不幸短命死矣」(不幸にして短命で死んでしまった)とある。
 古人は社会的治安の乱れ、興衰と個人の禍福・失敗や成功は天意の按配と考えた。このことからまた天命、命運という言葉がある。『论语•颜渊』の中の「死生有命,富贵在天」(生死は運命、尊さは天にあり)と。

 「命」「令」の言葉は皆「させる」という意味を持っている。但し少しの差異はある。「命」は専ら上級から下級に下達する命令に用いるのに対し、「令」一般的な意味の上での「使役」(させる)という意味である。動詞を作り「令」は目的語を伴わない時がある。『论语•子路』の如く、「其身正,不令而行;其身不正,虽令不从」(その身正しければ、令せずして行わせ、その身正しくなければ、よしんば令をしても従わせられない)


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2016年12月19日月曜日

往復の「往」の成立ちを甲骨文字から探る


漢字「往」の起源と由来
原義は王が領臣民を率いて、前に行くことことを表している。

引用:「汉字密码」(P397、唐汉著,学林出版社)


 「往」は会意文字であるし形声文字でもある。甲骨文字の旁は本来手ではない。上部は「止」で、歩いていくことを表している。下部の「王」は王が領臣民を率いることを表している。金文の往の字は行人偏を加えて道路の符号になって、行人偏と旁から会意兼形声文字になっている。小篆も金文を受け継ぎ、楷書から隷書への変化の過程で、将に右上部の「止」が一点に簡略化され、「往」になった。
 「往」の本義は王が率いて統率する集団が前に行くことで、即ちある場所に行くことである。後に拡張され人が前に行くこととなり、「来、返」(来る、返る)に相対し「来て而して往かず、往って而して返らず」などのようになった。
 上古の先民が見てきたのは、死んだ王も又人間の去去来来にありうることであった。このため時間上の過去を拡張して、「往日、既往不咎」などの如く、「未来」と相対した。
 「去往」の意味から拡張して、抽象的意味の心理が向かっていくになり、「往」は「朝、向」の意味を持ち、「往前奔、人往高处走」などと使われる。ここでの「往」の発音はwangである。 「往々」は既に「ところどころ」を表示し、又「常々、毎々」を表示可能である。


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漢字「歩」の成立ちを「甲骨文字」に探る:左右を併せて一歩としていた


漢字「歩」の起源と由来

歩くということ
 甲骨文字では、足跡が二つ前後に並んでいる状態を表している。つまり「歩く」ことを表している。この歩くという行為が、あって、これを長さの単位とするようになった。今でも計測器のないときには、実際に歩いて長さを測定することが日常的にもある。

 日本では、片方の足を踏み出すことを一歩としている。ところが中国では、片足を踏み出したぐらいでは、「歩く」つまり「一歩」とはいわなかったらしい。あくまで、右、左と両足で踏み出して初めて一歩とカウントしたということだ。そう言われればなるほどと思う。「歩く」という概念もなかなか奥が深い。


引用:「汉字密码」(P394、唐汉著,学林出版社)

 歩は象形文字である。甲骨文字と金文の歩は両足の足跡が一つは前に一つは後ろにあることを表して、足が交代で前に行くことを示している。歩の本義は歩行である。歩兵、徒歩、等。
 「步步为营」この成語は、言っているのは軍隊が前進する時、前進の一歩一歩陣地を固めながら前進することである。まるで人の一歩の足跡を「稳扎稳打」(着実に根をおろし、着実に戦う)の形容することで、注意深くあるという事である。
文字の変化の過程で小篆の歩は象形から抜け出て、符号化の方向に発展し、楷書を経て隷書にいたって「歩」と書くようになった。


「歩」は長さの単位
長さとしての「歩」は、古代中国の周代に制定された。右足を踏み出し、次に左足を踏み出した時の、起点から踏み出した左足までの長さ(現代日本語でいう「2歩」)を「1歩」とする身体尺で、約 1.35 m(面積は 1.822 m2)だった。

 実際の1歩の長さは時代によって異なる。秦・漢では6尺と定義された。当時の尺は約23cmであり、1歩は約1.38m(面積は 1.9 m2)となった。その後、尺の長さが伸びるのに比例し従い歩の長さも伸び、隋代には約 1.77 m(面積は 3.14 m2)となった。

 唐代には5尺、つまり約 1.56 m(面積は 2.42 m2)となった。ただしこれは、歩の長さ・面積が変わったというよりは、尺が伸びたことに対し歩を変えないようにした結果だとする説もある。唐の大尺は小尺の1.2倍なので、大尺5尺は小尺6尺に等しくなる。



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2016年12月13日火曜日

漢字「鋳」の成立ちを「甲骨文字」に探る:鋳造そのものの情景が文字になった

漢字「鋳」の起源と由来
引用:「汉字密码」(P776、唐汉著,学林出版社)


 「鋳」の原本は会意文字である。甲骨文の「鋳」の字は、その上部は二つの手で、中間は鬲(ここでは古代の土鍋を現している)で、下部は皿であり、三つの形の会意で、両手で土鍋を持ち、下面の皿のようなものの中に銅液を流し込んでいることを表示している。即ち銅器の鋳を現している。
 金文の「鋳」には二つの形があり、一つは甲骨文字とよく似ている。もう一つは中間が象形で、鋳の通り道と空隙を強調している。小篆の鋳は金文を基礎として変化し、金と寿の音で形声字となり、楷書はこの関係で「鋳」と書く。形は複雑化している。 鋳の本義は、金属を流し込んで成器することである。
 説文では「鋳」を解釈して鍍金をすることとしている。金属を赤く熱して、鋳器にすることを指している。美しい金を鋳て剣を作ることとしている。この事は最も適した金属を用いて兵器に鋳造する。古い文献によると中国の鋳造技術は夏の時代に始まるという。


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