2024年2月12日月曜日

漢字・自の由来と成立ち:「自」は人間が他に対し自を人類史上、初めて認識(表現)した文字ではないだろうか


漢字・自の由来は「鼻」である。人が初めて自分を他と区別した文字ではないだろうか

 鼻は顔の真ん中にあり、人は自分のことを鼻を指し「俺」という。これぞ正に、人間が他に対し自を明確に、初めて認識(表現)した最初ではないだろうか

導入

押しかけ推薦・一度は読みたい名著  阿辻哲次著『漢字學

漢字學の原点である許慎の「説文解字」の世界に立ち返り、今日の漢字學を再構築した名著

前書き

目次




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漢字「自」の今

  「自」はもともと鼻の形を表した象形文字である。甲骨文字の上部は鼻柱の様だし、下部は左右の鼻孔。  金文の字形は鼻の山根の部位の皺を強調しているが、甲骨文字の形状とは似ていない。小篆字は金文から発展させたものだし、楷書はこの流れで「自」と書いた。

  「自」の本義は鼻である。かつて人々は話の中で自分のことを強調する時、常々親指で自分の鼻を指していた。この為、「自」は自分の意味を表示するのに用いられた。

 自白、自己の如く第1人称代詞になった。鼻は大気を吸って体内に入れることから、正に体内の排気、呼出の効能を持つ。この説は古今東西正しいものと受け止められているようだ。
 「自」から拡張され「従、由」という意味になったことから、自然的と同義となって、副詞や介詞に用いられた。「自生、自滅」のように、自然の生長と滅亡と解釈され、而して自、自古の自、即ち介詞に用いられるようになった。
 意味の同じ従、由には「自」を当て更に多くのところで運用するようになって以降、人々は新しい「鼻」という字を作り「自」の本来の意味にとって替えるようになった。
 「鼻」の上部は「自」という字で、下部は「異」という字で「通じる」という意味を兼ね備えている。また読み音も表示している。


このページは以前にアップした記事を全面的に修正・バージョンアップしたものである。


漢字「自」の解体新書

漢字「自」の楷書で、常用漢字。
 
自・楷書


  
自・甲骨文字
自・金文
自・小篆


 

「自」の漢字データ

漢字の読み
  • 音読み   シ、ジ
  • 訓読み   はな、みすから、もちいる

意味
  • 自分
  •  
  • から、より
  •  

同じ部首を持つ漢字     自、息、臭、臬
漢字「自」を持つ熟語    自、自分、自他、自然、


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漢字「自」成立ちと由来

引用:「汉字密码」(Page、唐汉著,学林出版社)

唐漢氏の解釈

   「自」と「鼻」の間の関係は古今字となっている。「自」は古字で主には拡張した意味に用いられている。「鼻」は今字で「自」の原義を表す。即ち呼吸と嗅覚器官の意味である。「鼻音、鼻水、鼻青脸肿(殴られて鼻青黒く、顔がはれ上がる様)」等の言葉の中の「鼻」 の字である。   鼻は顔の中で突出した部位である為、人の顔の美観上重要な作用を持っている。  《列女伝》の中に紹介されている「梁高行」はこの一例になっている。梁高行は梁某の妻であった。見目麗しく、聡明で、未だ花も実もある時に夫を失ってから、却って子供の面倒をよく見て、どうしても再婚しようとしなかった。梁王が人を家に差しやって媒酌の労を取ろうとした。梁高行は鏡に向かって自分の鼻を切り落としてしまった。彼女は使いの人に向かっていうに「私は我が子が孤児になるのが忍びがたく自殺できません。私は自分の鼻を切り落としました。あなたはどうか私を放っておいてください。梁王はそれを知って彼女を敬い「梁高行」という名を与えた。  この故事の中で梁高行はなぜ耳を切らなかったのか、なぜ指を切断しなかったのか?それは鼻が容貌上の位置が別の器官と比べて非常に重要だったからである。

漢字「自」の字統P380の解釈

 自 象形
鼻の形。〔説文〕四上に「鼻なり。鼻の形に 象る」という。ト辞に「・・・・・・自り······至る」の用法があり、金文には他に「自ら寶障彝を作る」のように用いる。


漢字「自」の漢字源の解釈

 象形: 人の鼻を描いたもの。
 「私が」というとき、鼻を指すので、自分の意に転用された。
 また出生の時、鼻を先に生まれ出るし、鼻は人体の最先端にあるので、「・・から起こる、・・から始まる」という起点を表す言葉となった。


漢字「自」の変遷の史観

文字学上の解釈

 
 甲骨文字の2款を列挙した。単なる象形文字ではなく、事物の特徴を捉え表現しようとする過程が表れていて面白い。しかし事物を見たままを表現しようとしたものではなく、特徴をとらえて記号化しようとした意図が明確に読み取れる。


 
 物事を認識し、表現しようとする思考過程が、甲骨文字と小篆の中間の過程であることがこうして比較してみると明らかになる。そして、金文の後期になると、小篆の時期と被るのか、極めてよく似た記号化(文字化)が表れている。


 
 象形により伝えることが、よりシンプルになっている。
 具象的なものが、抽象的になり、記号化され書くことが簡単になっている。甲骨から金文さらに小篆の過程を見ると、文字化が深まるにつれ、人間の認識の過程を辿ることができて面白い。




まとめ

 甲骨文字から小篆の過程を辿ると具象的なものが、抽象的になり、記号化され書くことが簡単になっている。文字化が深まるにつれ、人間の認識の過程を辿ることができて面白い。

漢字・自の由来は「鼻」である。人が初めて自分を他と区別した文字ではないだろうか
 鼻は顔の真ん中にあり、人は自分のことを鼻を指し「俺」という。これぞ正に、人間が他に対し自を明確に、初めて認識(表現)した最初ではないだろうか

  

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2024年2月6日火曜日

漢字「若」の起源と由来:女がすべてを受け入れる徴か、神の託宣の受け入れか、文字の生れた社会的背景は?


漢字「若」の起源と由来:女が愛する者のために髪を解く様か、神の啓示に無我の境地に入ったのか?

 「若」という漢字の解釈は、一人の膝まづいた女性が髪の毛を直しているようだ。その様は女性が恍惚として、自らの髪に手をかけているのでのではないかという認識ではどの学者も一致しているようだ。しかし、なぜ女性がそのような状態にあるかということについては、諸説の解釈に大きな開きがある。

  1. 一つは愛する者のために、受け入れることを承諾した後、髪の結えをぬき解き、頭髪をばらすことである。
  2. もう一つは、巫女がエクスタシーの状態にあり、手を掲げ、跪いて神託を受けている形である
  3. さらにもう一つは、しなやかな髪の毛をとく体の柔らかい女性の姿を描いたものという状況の描写をしたもの

 そして、この文字の史的変遷を見ると、甲骨文字と金文には多くの異体字が存在する。甲骨文字はどの形も一見髪を振り乱している女性しか表現されていないように見えるが、金文になって初めて、「口」が付け加えられている。これは何を意味しているのか。白川博士の言う通り、神の託宣を入れる「サイ」が加えられ、この女性が巫女で神の託宣を受けるときのエクスタシーを示しているのであろうか。とすればこの漢字の持つ若いという意味はどこから出てくるのか疑問は深まるばかりである。いずれにせよ、漢字にまでしなければならない社会的背景と欲求は何なのか?

   このページは以前にアップした以下のコンテンツを加筆・補強したものである。参照されたい。
    《漢字「若」の起源と由来:女が髪の毛を解くときを表す》


導入

押しかけ推薦・一度は読みたい名著  阿辻哲次著『漢字學

漢字學の原点である許慎の「説文解字」の世界に立ち返り、今日の漢字學を再構築した名著

前書き

目次




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漢字「若」の今

漢字「若」の解体新書

漢字「若」の楷書で、常用漢字です。
 
若・楷書


  
若・甲骨文字
若・金文
若・小篆


 

「若」の漢字データ

漢字の読み
  • 音読み   ジャク
  • 訓読み   わか

意味
  • 「わかい」
      「草木などが生えてからあまりたっていない(若芽)」
       できてからの時間が短い
  •  
  • 多くはないが、少しばかり(若干)
  • もしくは(あるいは、または)
  • 比喩を示す(~ごとし)

同じ部首を持つ漢字    若、諾、鍩
漢字「若」を持つ熟語    若、若干、若輩、若芽


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漢字「若」成立ちと由来

引用:「汉字密码」(Page、唐汉著,学林出版社)

世俗的解釈

 甲骨文字の「若」は象形文字だ。まるで一人の膝まづいた女性が髪の毛を直しているようだ。金文の「若」は甲骨文を引き継いでいる。小篆の「若」の字は、草かんむりと右から出来ている会意文字である。楷書は之によって「若」と書く。

 古語の中で「女は己を喜ばせるものの為に受け入れ、士は己を知る者の為に死ぬ」という格言がある。これは女は自分を好いてくれる人の為に装うということだ。しかし女性はどんなときにも、自分を好いてくれる人の為に装うのだろうか。 明らかに男と会うことを承諾した時、このように工夫を凝らして装うものだ。角度を変えていうと、女性はどんな時に頭の上に一杯挿した飾りを抜くのだろうか。明らかにただ愛をかわすために寝る時だけだ。
だから、「若」という字の起源は、承諾した後の髪の結えをぬき解き、頭髪をばらすことである。その本意は「承諾、応諾」ということである。発音は「うんうんはいはい」から来ている。
この解釈は、前回このブログで披露した見解をそのまま再度アップしたものだ。ただ、おそらくこの見解は、一つの意見であることを別として、現在は多くの同意を得るのは困難になってきているだろう。
 人々の意見は、当時と大きな変化をしていると考える。難しいのはこの議論が今から数千年前の事象についての議論だから、現代人の感覚がそのまま当てはまる訳はないことである。
  

漢字「若」の字統の解釈

 巫女がエクスタシーの状態にあり、手を掲げ、跪いて神託を受けている形である。

 その本義は、神がその祈りに対して承認を与えること、すなわち諾の初文。
 ト辞に「王、色を作るに、帝は若 (諾)とせんか」「帝は若とせざるか」、また「帝は 若を降さんか、不若を降さんか」のようにトする例 が多く、「不若」とは帝意が承認を与えない意である。それで「若を降さんか、ㅉ(祐)を愛(授)け んか」のようにいい、若は天の祐助を得ることであり、不若とは凶災をいう。


漢字「若」の漢字源P1314の解釈

  象形:しなやかな髪の毛をとく体の柔らかい女性の姿を描いたもの。
  のち、くさかんむりのように変形し、また□印を加えて若の字となった。
    しなやか、柔らかく従う、遠回しに柔らかく指さす、などの意を表す。

 また、この漢字は婉曲表現として「~のごとし」という用法に多く使われており、「如」に通ずる漢字であるとも言われている。

漢字「若」の変遷の史観

文字学上の解釈                

まとめ

         甲骨文字と金文には多くの異体字が存在する。甲骨文字はどの形も一見髪を振り乱している女性しか表現されていないように見える。しかし、この字を生んだ社会的背景はなにか。単に情緒的な出来事を伝えるために文字が生まれたとも思えない。金文の解釈に至ると白川博士の説に真実味があるように思うが・・・。
  


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