2024年2月1日木曜日

漢字・加の由来と成立ち:太古の昔、農耕の急速な発展は漢字の成立ちまでも大きく変えた


漢字「加」の成立ち:女+力の会意で、なかったものに新たに追加されることを意味した


 漢字「加」という字は、甲骨文字から金文に至るまでに、劇的な変化をしている。
 甲骨文字では、字の構成要素に明らかに「女」の象形が使われ、、金文では「女」の象形は消え、その代わり「鋤」の象形が使われ、「サイ」という祝禱を入れる器が現れている。甲骨文字の時代には、いまだ女性崇拝は残り、子供を産むという生産性に畏敬の念を持っていたものが、金文の時代には、農業の発展により、人々の関心がより即物的な事物、つまり食料の生産に移ったのかも知れない。

 人々の間には「子供を産むこと」自体はそれほど努力しなくてもできる。しかし、コメや食料はかなりの手をかけないとできないと価値観が変わったのかも知れない。最もこの見立てはあくまでも仮説にしかすぎないが・・。

導入

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漢字學の原点である許慎の「説文解字」の世界に立ち返り、今日の漢字學を再構築した名著

前書き

目次




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漢字「加」の今

漢字「加」の解体新書


 
漢字「加」の楷書で、常用漢字です。
 左側は「力」で語義は、鋤を表すということである
加・楷書




「加」の甲骨文字は、『女+耜(スキ)』である。それが金文になると。耜+口(但し字統によるとサイという祝禱を入れる入れ物)に変化し、小篆では文字化の過程で、より図式化した耜の形に変化した。甲骨文字から金文までの過程で文字の大変容をもたらすような大きな変化は何か。  
加・甲骨文字
女+力
加・金文
甲骨文字から変遷し、鋤と「サイ」で鋤を清め生産の高めることを祈った
加・小篆
金文を引き継ぎ、文字化のレベルが高まっている


 

「加」の漢字データ

漢字の読み
  • 音読み   加
  • 訓読み   くわ(える)
意味 
  • くわえる、くわわる  増す、多くなる」(例:増加) 
  •  
  • くわえて、その上に
  •  
  • 足し算   例:加算

同じ部首を持つ漢字     伽、賀、迦、
漢字「加」を持つ熟語    加算、加害、加圧、加減、加持、加護


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漢字「加」成立ちと由来

引用:「汉字密码」(Page、唐汉著,学林出版社)

漢字「加」の字統の解釈


 会意文字:力と口に従う。「力」は鋤の象形。口は祝禱の器の形で「サイ」。
「加」はもと鋤を清めて生産力を高めるための儀礼をいう。鋤を祓い清める礼で農耕の始めに秋の虫害を避けるため、鋤に修祓を加えるのが例であった。


漢字「加」の漢字源の解釈

 会意文字:手に口を添えて勢いを助ける意を表す


漢字「加」の唐漢氏の解釈

 加は会意文字である。甲骨文字の左辺は女の人の象形文字で、右辺は男の子を表している。金文の加の字は改めて新たな構造形となっており、下辺は女の子を表す。やはり会意方式で、もう少し意味があり、男の子を産み落としている。
 


漢字「加」の変遷の史観

文字学上の解釈

漢字「加」の変遷を色々当たってみたが、左に「女」+右に「力(鍬の象形)」で構成される甲骨文字は「汉字密码」(P542、唐汉著,学林出版社)のみで見出され、それ以外の文献では、「加」の甲骨文字は見出されなかった。なぜ「加」の文字に「女」が入っているのか、唐漢氏の説明によれば、この耜は男の子を生んだことを表しているという。太古の昔、女が女を生むことは現象的にも普通のことであるが、男の子を産むことは、どうしても理解できなかったのではないだろうか、しかし現実には特別に良いことであると考えられていた。男の子が生まれたことを「加」と表現していたというのである。

 しかしこの解釈には、あまりに飛躍があり承服しがたい部分はあるが、「加」の甲骨文字もないというのも、逆に不自然で、あってもいいのではという意味でここで取り上げることとした。

まとめ

 甲骨文字の「加」は、「女+耜(スキ)」から成る。時代が下るにつれ劇的に変化する。その訳は、母系制社会から、生産力の高まりと主に父系制社会に変化したことである

  

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2024年1月26日金曜日

漢字・鳥の由来と成立ち:太古の人々は甲骨文字の時代から身近にいた鳥には個別に名前を付けて親しんでいた


漢字・鳥の由来と成立ち:文字に見る鳥と人類の濃密な関係


このページは「漢字「鳥」の成立ちを「甲骨文字」に探る:甲骨文字の「鳥」はどこから見てもやっぱり鳥だった!」を全面的に加筆修正したものである

導入

押しかけ推薦・一度は読みたい名著  阿辻哲次著『漢字學

漢字學の原点である許慎の「説文解字」の世界に立ち返り、今日の漢字學を再構築した名著

前書き

目次    




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漢字「鳥」の今

漢字「鳥」の解体新書


漢字「鳥」の楷書で、常用漢字。
右の漢字「隹」は同じくトリと読むが、鳥が長尾系の鳥を表すのに対し、「隹」は短尾系のものを表すといわれる。
 尚漢字源によると「隹」はずんぐりとした鳥のことをいうとしている。
 また「禽」は網でとらえて飼う鳥のことをいう。
 「鳥」の仲間には「 鳩 はと 」や「 鶴 つる 」、「隹」の仲間には「 雀 すずめ 」や「雉 きじ」がある。

鳥・楷書隹・楷書


 
鳩・楷書
雉・楷書
鷄・楷書
酉・楷書
  


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「鳥」の漢字データ

漢字の読み
  • 音読み   チョウ
  • 訓読み   とり

意味
  • 左右の翼と2足を持つ動物の総称
  •  
  • 約3億年前に生息していた小型の爬虫類から恐竜がうまれ、さらに鳥類が枝分かれしたと考えられている

同じ部首を持つ漢字     鳥、蔦、梟、鳩、鳶
漢字「鳥」を持つ熟語    鳥肌、鳥獣、野鳥、禽鳥、駝鳥


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漢字「鳥」成立ちと由来

引用:「汉字密码」(P63、唐汉著,学林出版社)

民俗学的な解釈

  基本を失ってしまった象形の特徴は、鳥の足跡が4個の小さな点に変ったことだ。簡体字になってその四個の点は横一線に変ってしまった。これでもう鳥の足跡とははるかに離れてしまった。
  鳥の本義は大よそ全ての飛ぶ鳥を指す。また今日言うところの鳥類である。唐詩の中にある「云开孤鸟飞」「鸟鸣山更幽」などの詩句の「鳥」は大よそ全て飛ぶ鳥を指している。「鳥瞰」の言葉は、鳥が高いところから地面の景色や物を見たときの俯瞰したと同じ像を表示している。
 鳥の字は部首字で漢字の中では、「鳥」で以て偏でも旁でもなる。全て禽類とその行為は関係がある。例えば「鳴」は鳥と口の字の合成で、鳥が鳴き叫ぶことを表している。また「島」の字は鳥と山の造字の構造部材が組み合わせ、海上で鳥が休息する山を表示している。

漢字「鳥」の字統の解釈

 象形 鳥の全形。〔説文〕四上に「長尾の禽の總名 なり。象形。鳥の足はヒに似たり。ヒに従ふ」という。短尾の隹に対していう。ト文・金文に、鳥を象形的にしるすものは多く神聖鳥で、風神とされる鳳 の初形は羽毛の眼文をもしるしており、また鳥星の鳥も具象的な形に描かれている。隹形のものと、尾の長短にはかかわりなく、その示しかたの上に異なる意識があるものとみられる。


漢字「鳥」の漢字源の解釈

象形。尾のぶらさがったとりを描いたもの。北京語の niǎoは、ぶらりとたれた男性性器(屌=吊。diau)と同音であるのをさけた忌みことば。 



漢字「鳥」の変遷の史観

文字学上の解釈

 「鳥」はいろいろの種類の漢字が早く甲骨文字の時代から創り出され使われてきた。
 鳥と人類の関係はずいぶん早くから築かれてきて、それに対応した漢字が作り出されている。しかもそれらの漢字は基本的には象形文字で、各々の鳥の特徴を見事に把握して表現している。鳥に限らず家畜などの描写は芸術的ともいえる完成度を持っている。
 しかしながら、記号から文字化の過程では、象形という特性は次第に失われ、抽象化と文字化の過程を経ながら、万人がたやすく理解できるように変化している。アジアのこの地で生命を育んだ我々の祖先の思考であるし文化である。
 この漢字の文化が、なぜここに生まれたのかまだ明らかにされなければならない研究分野である。



まとめ

 太古の祖先は数多くの種類の漢字を作り出してきた。鳥についても、雉、鳩、鶏などは一字の漢字である。しかし、白鳥、椋鳥などは複数の文字から成り立っている。
 なぜだろうか。一字からなる鳥は人間との付き合いが古く、鳥の識別、区別を一字で可能であったぐらいの狭い範囲の中にいた鳥であったのではないだろうか。
 これは、妄想なのかもしれない。しかしこうした妄想は決して悪いものではないと信じている。
  


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