2024年1月1日月曜日

漢字の「賀」:漢字の「賀」:加(耜+口:スキを清めて、豊穣を祈る)+貝からなり豊かになることを祈る意味


漢字「賀」の由来:太古の昔、農業生産の発展を願い、犂を神の前に祀り、祈りをささげたことから生まれた


 今年も本当にいろいろありました。このブログも今年はこれで最後です。来年は、いいことがあるようにとの願いを込めてここに再び「賀」を取り上げました。それだからこそ敢えて、「賀正」と言いたいと思います。

いい年になりますよう頑張りましょう!

導入

 このページは、以前にアップした「賀正の『賀』の成り立ち:財を意味する貝と加えるが併わさったおめでたい漢字」に加筆修正したものです。前回よりも、さらに詳細に歴史的考察を加えたものです。

押しかけ推薦・一度は読みたい名著  阿辻哲次著『漢字學

漢字學の原点である許慎の「説文解字」の世界に立ち返り、今日の漢字學を再構築した名著

前書き

目次




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漢字「賀」の今

漢字「賀」の楷書で、常用漢字です。
 
賀・楷書


漢字「賀」の解体新書

  
加・金文
賀・金文
賀・小篆


 

「賀」の漢字データ

漢字の読み
  • 音読み   ガ
  • 訓読み   つなぐ

意味
  • 祝い、祝賀  
  • 喜び祝う気持ち、祝い、喜び
  •  
  • 褒める

同じ部首を持つ漢字     賀、伽、嘉、加
漢字「賀」を持つ熟語    賀、賀辞、慶賀、参賀、奉賀


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漢字「賀」成立ちと由来

引用:「字統」(Page、唐汉白川静著,平凡社)

漢字「賀」の民俗学的解釈

 「賀」は会意文字+形声文字である。金文の「賀」の字は貝と加からできている。「貝」はここでは財物を表す。「加」は「力+口」の会意文字で、上に何かを載せるという意味を含む。添加の意味である。
小篆の「賀」は上下の字が結び合わさって改まり楷書はこの関係から「賀」と書く。
説文では賀を解釈して、「礼」を以って喜びを相奉ることだ。即財宝・贈り物を送り慶祝の意を表す。


漢字「賀」の字統の解釈

 「字統」では、「加」+「貝」の会意文字で、「加」は鍬を清めその生産力を高める儀式を意味するという。いずれにせよ、生産力を高め財を増やすという意味だと解釈する。


漢字「賀」の漢字源の解釈

 会意兼形声。加は「力+口」の会意文字で、上に何かを載せるという意味を含む。賀は「貝+音符・加」で、もと、礼物をうず高く積み上げるの意。転じてものをおくってお祝いをすること。


漢字「賀」の変遷の史観

文字学上の解釈

力と口とに従う。力は耜の象形。口は祝禱の器の形では、加はもと耜を清めて生産力を高めるための儀礼をいう。
 また加の儀礼に、貝 を呪器として加えることがあり、それは賀である。



 声符は加。加は耜(力)を祓い清めて、その生産力を高めるための儀礼。貝も生産力を高め、 魂振り的な呪能をもつとされるもので、両者を併せて、生子儀礼や農耕儀礼に用いる字である。
 金文の〔大豊設〕に鋤に作る字があり、耜に貝を加えている形。耜の生産力を鼓舞する意がある。嘉も加に従う字で、賀と声義が近い。


なお、「加」、「賀」の両者とも甲骨文字は見つからない。ということは両者とも、農耕が発達し、農業生産が高まった社会を背景に生まれた文字だと考えられる。確かに5000年前~4000年前ごろには、中国の原始農業は発展段階に入り、商周の時代には奴隷制社会の基盤が確立し、井田制集体労働などもあり、労働生産性も高まったという研究結果も発表されている。さらにこの時期には多量且つ多種類の農機具も開発され、牛を使った犂による開墾も行われたといわれている。こうした社会的な変化を背景として「加」や「賀」などの字が生まれたと考えても不思議ではない。

まとめ

 賀正の「賀」の成り立ちは財を意味する「貝」と「加える」を意味する「加」が合さったおめでたい漢字である。

 漢字「貝」という漢字が使われているのは、太古の昔にはお金の換わりに子安貝のような「貝」が使われていたことからきているもので、偏であろうと旁であろうと「貝」が使われている漢字は、殆ど財やお金に関係があると考えて間違いはない。
右の画像は南太平洋諸島で実際に使われていた貝の貨幣である。



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2023年12月23日土曜日

漢字「蔑」の由来:古代中国の呪術に由来する 昔の戦いの裏には世にも恐ろしい宿命が巫女に降りかかる


漢字「襪」の由来と成立ち:古代に眼に呪飾を加えている巫女のことをいう。この巫女に呪祝を行なわせ、戦が終るとその巫女を斬り、敵の呪能を無力にすることを蔑といった


漢字「蔑」はさげすむという意味から拡張されて、目にも留めないという意味に使われる。
 これは無視するということと少し意味合いが異なる。現代の若者の間で、「シカト」するという言葉がはやっているそうだ。これは花札の鹿十にその起源があるようだ。花札の鹿はそっぽを向いていることから無視するということに使われるようになったということだ。このシカトは「見ない」「無視する」であって、「蔑」は見たうえで、目にとめない、軽視する、目にとめないという意味となり、意味が異なる。
 さらに、古語で使われる「しかと」という言葉とは180度ことなる。こちらのほうは「しかとせよ」とは、しっかりしなさいという命令であって、無視せよとはまるっきり異なる意味である。




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漢字「蔑」の今

漢字「蔑」の解体新書


 
漢字「蔑」の楷書で、常用漢字である。
 同じ系統の漢字に滅・襪などがある
蔑・楷書


 甲骨文字から小篆に至るまで、基本的には同じコンセプトが踏襲されている。
 小篆は他の2点とは異なるように見えるが、まったく同じコンセプト。一番上は目の上の飾り、その下は目を表す。さらにその下は人で、その首の部分に戈があてられて、全体としては目に飾りをつけた巫女が用済みの結果、殺されることを示している。 
蔑・甲骨文字
蔑・金文
蔑・小篆


 



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「蔑」の漢字データ

漢字の読み
  • 音読み   ベツ
  • 訓読み   さげす(み)、ないがし(ろ)

意味
  • ただれた目、よくみえない目
  •  
  • 相手を目にも留めない
  •  
  • けなす、見えない、ない

同じ部首を持つ漢字     蔑、襪、戌、滅
漢字「蔑」を持つ熟語    蔑、軽蔑、蔑視、侮蔑


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漢字「蔑」成立ちと由来

引用:「汉字密码」(P652、唐汉著,学林出版社)

民俗学的解釈

 これは会意文字である。 甲骨文にある「蔑」という文字は、上部に睨みを利かせた男性を示し、下部には人型に突き刺さる「戈」を示している。
 小篆の「蔑」の文字は金文を継承しており、「戈」の形状や刺し位置がより明確になっている。
  小篆は、人の形、目、眉が楷書から分離されている以外は金文の文字の構成要素がすべて揃っている。楷書ではこの結果「蔑」と書かれる。
 しかめ面や睨みつけて人を殺すには、必然的に心理的には軽蔑しなければ殺すことはできない。

漢字「蔑」の字統の解釈

 会意 ベツと伐とに従う。
 ベツは眼に呪飾を加えている巫女。戦争などのとき、この媚とよばれる巫女が 呪祝を行なうので、戦が終るとその巫女を斬り、敵の呪能を無力にする。これを蔑という。

 ト文・金文 の字形では、その巫女に戈を加える形である。
 ト文・金文の字は、ときに下部を女に作っており、すなわち媚女を戈にかける形である。これによって敵の呪力を無力とするので、「蔑(な)し」とよみ、またそれは功烈を「蔑(あらわ)す意となる。
 金文に「蔑暦」という」という語があり、軍功を表彰する旌表の意に用いる。




漢字「蔑」の漢字源の解釈

 会意文字:大きな目の上に、逆さまつげが生えた様に戈を添えて、傷ついてただれた目をあらわした。よく見えないことから転じて、目にも止めないとの意に用いる。



漢字「蔑」の変遷の史観

文字学上の解釈

 甲骨文字から小篆に至るまで、多くの文字が作り出されているが、それらは一貫しており、大きな目に戈をあてがったものとなっている。このことが意味することは、約1000年もの間基本的に社会的通念が変化してこなかったと考えていいのではないだろうか。
 それは巫女に対する見方そのものというより、戦闘上呪術的な方策が実際的にそれほど重視されなかったということではないだろうか。  

まとめ

  

 「蔑」とは古代中国で眼に呪飾を加えてた巫女に、呪祝を行なわせ、戦が終るとその巫女を斬り、敵の呪能を無力にすることをいった。人間は神に祈ることで戦いに勝つことを願い、負けたら負けたで、神に見放されたといい、戦いの成否を神や運のせいにしてきたことがどのくらい長く続いたことか。人間は馬鹿だなあというのは結果論だろうか?

  


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