2023年6月18日日曜日

漢字「銅」の成立ちは何で、どこから来たのか。金文の「銅」に隠された秘密を探しあてた


漢字「銅」の成立ちは何で、どこから来たのか

導入

 漢字「銅」の成立ちは何で、どこから来たのか。私たちは同じ時期の製造過程を表す「鋳」という文字との対比の中で、その成り立ちと由来を探ってみたいと思います。

前書き

 中国における銅の歴史は非常に古く、青銅器の時代から始まっています。

  1.  青銅器の時代(紀元前2000年頃~紀元前771年頃): 中国における銅の利用は、青銅器の時代に始まります。青銅器は、銅と錫を合金化して作られた器具や武器で、中国の古代文明の発展に大きく貢献しました。青銅器は贵族や王侯の墓から多く発見され、その銅製品は儀式や礼器として使用されました。
  2. 銅の採掘と製錬技術の進歩(紀元前770年頃~紀元前221年頃): 紀元前8世紀から紀元前6世紀にかけて、中国では銅の採掘と製錬技術が発展しました。特に、戦国時代(紀元前475年頃~紀元前221年頃)には、銅の需要が高まり、技術的な進歩が見られました。銅は貴重な金属として扱われ、王朝間の貿易や軍事活動に重要な役割を果たしました。 
  3. 秦漢時代から中世(紀元前221年頃~14世紀): 秦漢時代(紀元前221年~220年)には、銅の需要が増え続けました。この時期には銅銭(通貨)の製造が行われ、銅の採掘と製錬技術はさらに進歩しました。しかし、中世に入ると銅の需要は一時的に低下し、鉄や陶器がより重要な素材となりました。
  4. 清代から現代(17世紀~現在): 清代(1644年~1912年)以降、中国における銅の需要は再び高まりました。銅は建築、工芸品、日用品などさまざまな分野で使用されました。
  5. また、現代に入ってからは、銅は電気伝導性の高い金属として重要な素材となり、電気工業や通信産業で広く利用されるようになりました。 中国の銅の歴史は、古代から現代まで続く長い歴史を持っています。銅は中国の文化の礎といっても過言ではないでしょう。

目次




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漢字「銅」の今

漢字「銅」の解体新書

漢字「銅」の楷書で、常用漢字です。
 左側は「金」で旁は、跪くひとを表すということです。
即・楷書



 
銅・金文
銅・説文解字
 

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「銅」の漢字データ


漢字の読み
  • 音読み   ドウ
  • 訓読み   あかがね

意味
     
  • 金属の一種
  •  
  • 銅のような輝きと光沢をもつ色
  •  
  • 銅でつくられた貨幣

同じ部首を持つ漢字     胴体、筒、桐、洞
漢字「銅」を持つ熟語    赤銅、銅線、銅鏡




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漢字「銅」成立ちと由来

引用:「汉字密码」(Page、唐汉著,学林出版社)

漢字「銅」の字統(P657)の解釈

銅_字統
 銅 形声 声符は同。〔説文〕 に「赤金なり」と あり、周初の [麦鼎] や 〔彔毀] には、赤金を賜うことがしるされている。当時は一般には金と称した。

 銅は各地に産したが、南方淮域には殊に良質のもの を産するので、早くから注目され、周初の〔員鼎〕 には、南征して金を俘獲したことをしるしている。
 春秋期に入って、淮域への侵寇は一そう激しくなり、 [詩、魯頌、泮水〕 〔閟宮〕 や金文の [曾伯しつほ] などには、その作戦の成功をしるしている。[泮水] には淮夷が来って「大賂南金」を献ずることを歌い、 [曾伯しつほ]には「金道錫行」の語がある。

 その地の良質の銅は南金とよばれ、これを獲得するために 金道錫行が啓かれたことが知られる。のちに丹陽の銅といわれるもので、その質は金に類するといわれるほど、良質のものであった。晋の銅鞮、蜀の銅梁も、銅をもって名をえたところである。



漢字「銅」の漢字源(P1639)の解釈

 会意兼形声文字、 穴をあけて突き抜くこと。銅は[金+音符同]で穴をあけやすい柔らかい金属のこと


漢字「銅」の変遷

銅と鋳の生まれ

 漢字の金文の銅と鋳を比較した。この漢字の「銅」は金属の「銅」であり、鋳は鋳造技術の「鋳」である。全く概念が違うので、列挙することは少し問題であるが、古代の銅は鋳造して作られている。左の図を見て真っ先に感じられるのは、銅という文字はかなり文字化され抽象化されているということである。

 一方鋳の字は象形文字というか作業そのものを形に表しているということである。文字としてみれば、銅の方はより高度になっていると言えるともいえるが、逆に形象化することは困難である。

 その意味から漢字で表現する場合もっとも特徴的な事象を字で表すことが有効であると考える。銅を表現する場合に鋳造技術は発達していなかったであろうから、細かい技術を表現することはできなかったと考える。また金属の種類もそれほど多くはなかったと思われ、「銅を鋳造した、鉄を鋳造した」という区別は必要なかったであろう。

     しかし鋳造という技術が確立され、鋳という字は材質と切り離されることとなったため製造過程をそのまま形象して表すしかなかったのではなかろうか。ここに漢字の成り立ちがその土台たる生産過程に依拠するものであったと言えるのではなかろうか。


まとめ

 銅と鋳の1一つの漢字の成り立ちを見たが、私たちはここに漢字の生成の過程の本質をいうことができたように思う。これらの文字の生産過程は、物の生産過程そのものを忠実に反映しているということができるのではなかろうか。




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2023年6月9日金曜日

漢字「漁」の成立ちと由来:漢字「漁」には漁業の発展がそのまま字に反映されていた


漢字「漁」の成立ちと由来

導入

はじめに

漢字「漁」は「魚を釣る」という意味です。これは、「魚」を意味する部首魚と、「水」を意味する発音成分「氵」で構成されています。

 「漁」という文字は、中国の殷王朝 (紀元前 1600 ~ 1046 年) から周王朝 (紀元前 1046 ~ 771 年) 初期まで使用されていた甲骨文字に初めて登場しました。甲骨文字では、「漁」という文字は、網で漁をする人の単純な絵として書かれていました。 「漁」という文字は何世紀にもわたってほとんど変わっていません。

 「漁」という文字は、「漁師」を意味する「漁夫」や「漁業」を意味する「漁業」など、さまざまな複合語で使用されます。

 また「漁」という文字は、「他人の労働の利益を享受する」という意味の「漁翁得利」(漁夫の利という意味)という熟語にも使用されています。

目次

  1. 漢字「漁」の今
    漢字「漁」の解体新書
    「漁」の漢字データ
  2. 漢字「漁」の変遷
      甲骨文字から金文へ
      漢字「漁」の甲骨文字
       漢字「漁」の字統の解釈
       漢字「漁」の金文
      漢字「漁」の金文から小篆への変遷
  3. まとめ



漢字「漁」の今

漢字「漁」の解体新書


漢字「漁」の楷書で、常用漢字です。
 右側は「魚」で、左は「水」を表す「氵」です。
即・楷書
  


「漁」の漢字データ


漢字の読み


  • 音読み   リョウ、ギョ
  • 訓読み  すなどる、いさり、あさる

意味

     
  • すなどる。いさる。いさり。魚介類をとること。
  •  
  • あさる
  •  
  • 探し求める。 

同じ部首を持つ漢字     魚、魯、鰐、鮮
漢字「漁」を持つ熟語    漁業、漁火、漁師




漢字「漁」の甲骨文字

 甲骨文字の漁という字はいずれも水の中で泳いでいる 魚を取る様をそのまま字に表したまさしく象形文字と言えます。字の中に魚をどのようにして取ったかその方法を明確に読み込んでいると言えます。この時代ではおそらく、漁業もそれほど盛んでなかったと見え、魚をどのようにして取ったかがその方法はむしろ中心的な問題であっただろうと考えます。つまり魚を釣ったとか魚をあみで獲ったという方法が人々の間で問題となっていたのではないかと考えます。


漢字「漁」の字統の解釈
 声符は魚。古い字形には釣魚の形に作るものがあり、象形である。〔説文〕には魚に従 う形を正字とし、「魚を捕るなり」という。
 漁は神に供薦するための儀礼として行なわれることがあり、卜辞に「王、漁せんか」「王は往きてとどまりて魚するに、若(諾)なるか」「王はとどまりて魚すること勿きときは、不若 (不諾)なるか」と王の行為としてトするものがある。


漢字「漁」の金文

 ところが時代は下って金分が使われるような時代になると漁という字はそれほど象形的なもので、なくなり魚をどのようにしてとったかという方法は消えうせ、どのような方法を使ったにせよ、魚を捕獲するということを示す概念が重要になってきたと考えられます。そのため漁と言う漢字はより抽象的になり統合的になり、魚を捕るという行為そのものが漁という物事の本質を示すものとなってきました。

 



漢字「漁」の金文から小篆へ変遷


漁・甲骨文字
漁・金文
漁・小篆
 その後さらに時代が下って小篆の時代には漁業はすでに極めて一般的なものとなり、改めて新しい概念を盛り込む必要がなくなりました。そのため、漢字の変遷はなくなり、基本的に金文が踏襲されるようになってきたものと思われます。  
    






まとめ

 史的唯物論では人間社会の発展の基礎は経済であるといっています。言い換えれば、人間の社会の発展の土台は経済であるということです。

 私たちは今まで漢字が甲骨文字から金文へさらに小篆へと発展して行く過程をとうして社会の発展を観察してきました。このページで調べた漢字の「漁」という文字の変遷はまさしくという生産過程の発展をそのまま反映したものであったことを確信できます。

 私はこの方法論を今後とも踏襲し、漢字の発展を通して社会の発展を研究し続けたいと思います。



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