2023年6月9日金曜日

漢字「漁」の成立ちと由来:漢字「漁」には漁業の発展がそのまま字に反映されていた


漢字「漁」の成立ちと由来

導入

はじめに

漢字「漁」は「魚を釣る」という意味です。これは、「魚」を意味する部首魚と、「水」を意味する発音成分「氵」で構成されています。

 「漁」という文字は、中国の殷王朝 (紀元前 1600 ~ 1046 年) から周王朝 (紀元前 1046 ~ 771 年) 初期まで使用されていた甲骨文字に初めて登場しました。甲骨文字では、「漁」という文字は、網で漁をする人の単純な絵として書かれていました。 「漁」という文字は何世紀にもわたってほとんど変わっていません。

 「漁」という文字は、「漁師」を意味する「漁夫」や「漁業」を意味する「漁業」など、さまざまな複合語で使用されます。

 また「漁」という文字は、「他人の労働の利益を享受する」という意味の「漁翁得利」(漁夫の利という意味)という熟語にも使用されています。

目次

  1. 漢字「漁」の今
    漢字「漁」の解体新書
    「漁」の漢字データ
  2. 漢字「漁」の変遷
      甲骨文字から金文へ
      漢字「漁」の甲骨文字
       漢字「漁」の字統の解釈
       漢字「漁」の金文
      漢字「漁」の金文から小篆への変遷
  3. まとめ



漢字「漁」の今

漢字「漁」の解体新書


漢字「漁」の楷書で、常用漢字です。
 右側は「魚」で、左は「水」を表す「氵」です。
即・楷書
  


「漁」の漢字データ


漢字の読み


  • 音読み   リョウ、ギョ
  • 訓読み  すなどる、いさり、あさる

意味

     
  • すなどる。いさる。いさり。魚介類をとること。
  •  
  • あさる
  •  
  • 探し求める。 

同じ部首を持つ漢字     魚、魯、鰐、鮮
漢字「漁」を持つ熟語    漁業、漁火、漁師




漢字「漁」の甲骨文字

 甲骨文字の漁という字はいずれも水の中で泳いでいる 魚を取る様をそのまま字に表したまさしく象形文字と言えます。字の中に魚をどのようにして取ったかその方法を明確に読み込んでいると言えます。この時代ではおそらく、漁業もそれほど盛んでなかったと見え、魚をどのようにして取ったかがその方法はむしろ中心的な問題であっただろうと考えます。つまり魚を釣ったとか魚をあみで獲ったという方法が人々の間で問題となっていたのではないかと考えます。


漢字「漁」の字統の解釈
 声符は魚。古い字形には釣魚の形に作るものがあり、象形である。〔説文〕には魚に従 う形を正字とし、「魚を捕るなり」という。
 漁は神に供薦するための儀礼として行なわれることがあり、卜辞に「王、漁せんか」「王は往きてとどまりて魚するに、若(諾)なるか」「王はとどまりて魚すること勿きときは、不若 (不諾)なるか」と王の行為としてトするものがある。


漢字「漁」の金文

 ところが時代は下って金分が使われるような時代になると漁という字はそれほど象形的なもので、なくなり魚をどのようにしてとったかという方法は消えうせ、どのような方法を使ったにせよ、魚を捕獲するということを示す概念が重要になってきたと考えられます。そのため漁と言う漢字はより抽象的になり統合的になり、魚を捕るという行為そのものが漁という物事の本質を示すものとなってきました。

 



漢字「漁」の金文から小篆へ変遷


漁・甲骨文字
漁・金文
漁・小篆
 その後さらに時代が下って小篆の時代には漁業はすでに極めて一般的なものとなり、改めて新しい概念を盛り込む必要がなくなりました。そのため、漢字の変遷はなくなり、基本的に金文が踏襲されるようになってきたものと思われます。  
    






まとめ

 史的唯物論では人間社会の発展の基礎は経済であるといっています。言い換えれば、人間の社会の発展の土台は経済であるということです。

 私たちは今まで漢字が甲骨文字から金文へさらに小篆へと発展して行く過程をとうして社会の発展を観察してきました。このページで調べた漢字の「漁」という文字の変遷はまさしくという生産過程の発展をそのまま反映したものであったことを確信できます。

 私はこの方法論を今後とも踏襲し、漢字の発展を通して社会の発展を研究し続けたいと思います。



「漢字考古学の道」のホームページに戻ります。   

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