2021年4月24日土曜日

漢字「広」の成り立ちと由来が意味するもの:「広」は昔、「廣」と書いた。「廣」の成長を跡付ける


漢字の成り立ちと由来から何が分かる
漢字「廣」の成り立ちと由来が意味するもの:「広」は昔、「廣」と書いた。「広」の成長を跡付ける。古代の建築技術の発展が読み込まれている?
・・・漢字「廣」は甲骨文字から金文への過程で、大屋の壁がないものに表現されている。つまり、壁がなくても柱だけで大きな屋根を支える事が出来るようになったと考えられる。それは、長屋のような建物の中にオリンピック・スタジアムを作るような驚愕の出来事ではなかったろうか。

 もちろん文字の変化だけで結論付けるにことはできないが、将来遺跡の発掘などでこの裏付けが為されるのでは、期待している。


漢字「広」の楷書で、常用漢字です。第2款は「広」の旧字体です。
新字体になってからは、漢字が生まれてからずっと継承されてきた漢字「廣」の持つ意味合いが薄まれてしまってはいますが、時代の流れであり仕方がないことです。広く漢字が使われていくためには、喜ばしいことかもしれません。

 同じような意味を持つ漢字に「弘」があります。弓を引くときに両手を大きく広げることから、「広い」という意味を持つようになったのかも知れません。
広・楷書、簡体字廣・楷書、繁体字 




  
「廣」甲骨文字
殿の大屋の中で火矢の形が表示されている。
「廣」・金文
殿の大屋が广(まだれ)に変って、大きく解放された様子に変化している
建築の技術が発展し、壁のない大屋が出現し、文字でも大きさ・広さを強調しようとしたのだろうか
「廣」・小篆
文字としての体裁を整え、且つ概念も抽象化により明確にしようとしたのだろうか


    


「広」の漢字データ
 

漢字の読み
  • 音読み   コウ
  • 訓読み   ひろ、ひろ(い)、ひろ(まる)、ひろ(がる)

意味
  • 「ひろい」 形容詞的用法
     大きい空間、場所    例:広大な平原
     間隔に余裕がある、   例:広い道路
     大きい範囲に行き渡っている 例:広い知識
     他人の意見をよく取り入れ、思いやりがある 例:度量が広い
  •  ひろげる  動詞的用法
      空間・幅・範囲を大きくする。ひろめる。ひろくする。    (例:道を広げる)
      範囲を大きくする。ひろめる。ひろくする。
       例:商売を広げる、広告
      包んだり畳んだりしてある物や閉じてある物などを開く。 (例:荷物を広げる)
      たくさんのものを辺りいっぱいに並べ置く (例:店を広げる‥比喩)
      
  •  大きな屋根があり、四方の壁のない建物
  •  直径・さしわたし  円または球面上の端から端までの距離」
  •  中国の広東省の略称(ナンバープレートに表示されている)

使い方  黃、磺、橫、廣
熟語   広域、広義、、広告、広範、広報、広場、、末広 、幅広




引用:「汉字密码」(P741、唐汉著,学林出版社)
漢字「広」の字統の解釈
 旧字は「廣」で、黄声。「説文」に殿の大屋なり」とあり、四方の壁のない建物をいう。引伸して広大の意とする。
 

 




 
「黄」・甲骨文字
漢字の成り立ちは、「广(まだれ)」+「黄」
广(まだれ):広、府、庁など。建物に関する漢字に使われる

漢字「黄」の字統の解釈
因みに字統では「黄」について、下記の説明をしている。
 「甲骨の形は火矢の形に見え、金文の字形は佩玉の衡のようである。甲骨文の字は矢の鏃の部分が大きく描かれ、易書に言う黄矢の徴で、黄とはその火光をいう字であるとある。


唐漢氏の解釈
 「広」は「廣」の簡体字です。甲骨文の「廣」の字は会意文字です。上部は屋室の形であり、下の「黄」は母親が産み落とした皮膚の黄色の多くの子供を指している。したがって、「多い」という意味を持っている。

 私はこの解釈に全く同意できない。交通の発達した現代ならいざ知らず、太古の昔に自分たちが、「黄色人種」と認識できたであろうか。黒人や白人など色々まじりあって初めて、自分の肌は黒いの白いの黄色いのと自覚できるのであって、人種もまじりあっていたようには思えない時代に、人は肌の色が黄色なんてことは認識できていなかったはずだ。つまり、人間の認識が客観的になるには、もう少し時間が必要だったように思うのだが・・。


まとめ
 漢字「広」は旧字は「廣」といった。「廣」が古代の社会で自らの姿を変えた背景には、その時代の建設技術の発展があったのではないか?



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2021年4月21日水曜日

漢字「良」の意味するもの:穀物の袋・器もしくは計量器のこと。蓄えることが「良い」という概念の誕生に繋がった。生産力の発展があった?


漢字「良」の成り立ちと由来が意味するもの:両端に口のある穀物を入れる袋・器を表し、貯蓄できるものから「いい、良い」という字義がうまれた。つまりそれだけの生産力の発展があったのでは?
漢字「良」の楷書で、常用漢字です。漢字「良」の成り立ちには、諸説ありますが、今のところは白川博士の説が最も科学的であるように思います。

 ただ、藤堂博士にしろ、唐漢氏の説にしろ、それぞれに論拠があるので悩ましいところです。ここは考古学の出番となるのでしょうね。今後の研究の成果に期待がかかります。

 しかし前にお話しましたように、このブログは学説の是非を議論するところではなく、単に文字学ということではなく、文字を通して、社会的、歴史的な発展を推し測ることを使命と考えますので、今後も自分の立場をわきまえたいと思っています。
良・楷書




  
「良」甲骨文字
真ん中の□は穀物を入れる袋、
壁に開けた穴即ち窓、穀洗の噐の説で、
3説共通するのは、比較出入りの頻繁な空間だということだ。
「良」・金文
字形を見ていると、入れ物の使い道が
はっきりしてきたようで、上から注いで、下に排出する器に関係しているように思える
「良」・小篆
金文を受け継いで、文字としての体裁が整えられ、文字として進化を遂げている。
ただ、象形から「よし」という抽象的な概念に行きつくには、そのような容器の更なる使い込みがなくてはならないと思う


    


「良」の漢字データ
 

漢字の読み
  • 音読み   リョウ
  • 訓読み   よ(い)

意味
  • 「よい」、「いい」(反意語:悪い)
     優れている、まさっている
     富んでいる(金持ちである)、豊かである
     めでたい(喜ばしい)
     やすらか、おだやか
     素直、おとなしい
     
  • 形容詞   よく(同意語:善)、 正しく、上手に、立派に(例:良くできました)
  • 親切に、丁寧に
  • 多く、しばしば、~しがち  
  • 十分に、非常に
  • できる、まことに(本当に、実に)、やや(少し、しばらくして)
  • すぐれた人・馬

使い方(要素) 娘、浪、郞、朗、狼
熟語   良案、良貨、良好、良港、良妻、良才、良策、良識、良質




漢字「良」の字統の解釈
 象形。袋の上下に流し口を付けて、穀物などを入れその量を測るものをいう漢字「量」も袋の上に流し口のある形で、穀物を入れその量をはかるものであるから、良・量その字形と声義に通ずるところがある。良は上下に口があり、上下に打ち返すことができるものである。

 良は穀量の器であるが、その良善なるものを選ぶ意があり良穀の義から物の良しあしをいう言葉となったのだろう。

漢字「良」の漢字源の解釈
 良は粮(きれいにした穀物・糧の簡体字)の原字




まとめ
 漢字「良」はその意味するところは、そもそもは穀物を入れる容器だった。単なる容器の呼び名が、「良きこと」という概念に発展する。その背景には、その容器を生み出し、使い込むだけの社会の生産力の発展があったのではないか。また「良」は、穀物の良を計る袋にその由来を持ち、穀物の中身の良善を選ぶという現実的なことから生まれている。その関係か、「良」はいかにも平易な優しい雰囲気と趣を持っている。おもしろいものだ。



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