漢字「婚」から婚の成立ちと歴史を学ぶ。
「婚」は奥深い!
婚という漢字の成立ちの紹介です。婚は女偏と夕暮を意味する「昏」の旁の二つの要素から出来ています。
この記事を読むとなぜ女偏か、なぜ夕暮れ時かが分かります。さらに4千年も前から家を基礎としてきた結婚の長い歴史もわかります。そして「婚」という漢字の成立ちに心の底から納得できるでしょう。
この記事は2012/03/01にUPした「女の漢字:婚 の由来と成立ち」を全面的に加筆修正したものである。
導入
前書き
漢字 婚は女偏と昏の会意文字である。昏は夕暮れ・黄昏の意味である。するとこの漢字は「結婚は女の黄昏」という俗説が成り立つ。本当はどうなのか探ってみる。
「婚」の字は甲骨文字にはないようであり、従って当時はまだ婚姻という概念、実態はなかったのかもしれない。
結婚は、太古においても、家族という概念、実態及びそれを支える社会の諸条件が整い、家族を醸成してきたことが伺える非常に深いものであることがわかる。
漢字 婚は、家、氏族、国家の成立ちさらに農耕民族と狩猟民族の精神文化の違いまで思い至らざるを得ないものを我々に突きつける。
目次
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漢字「婚」の今
漢字「婚」の解体新書
漢字「婚」の楷書で、常用漢字。 | |
婚・楷書 |
一番左の款は婚の原字といわれる「昏」の甲骨文字です。こうして並列してみると、「昏」と「婚」の間の関連性はうかがえず、白川博士も言うように別の文字ではないかとすら考えてしまう。 | |||
昏・甲骨文字 |
婚・金文 |
婚・小篆 |
「婚」の漢字データ
- 音読み コン
- 訓読み よめいりぐ
意味
- 女性が結婚をして、相手の氏族に入ること
同じ部首を持つ漢字 婚、昏
漢字「婚」を持つ熟語 結婚、婚姻、婚姻、婚儀
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漢字「婚」成立ちと由来
参考書紹介:「落合淳氏の『漢字の成立ち図解』」
唐漢氏の解釈
婚の字の成立ちは、会意文字であり形声字である。
金文「婚」の字は仮借によりつくられたであろうが、非常に複雑で、連なっている絵巻のようで、結果的には男女の和合の場面を表すと唐漢氏は考える。
小篆になると、金文と異なり、字の左は女という字で右は昏の字である。二つを組み合わせると、男女の嫁取りを表すという、社会的な要素が文字の中に反映されるようになっている。
婚の字の由来は、婚の字の昏は古代にはたそがれ時に嫁婿取りが行われていたことから来たものだ。
婚の本義は男女双方の正式に結びついた夫妻の意味である。結婚式の礼儀を表す「婚礼のようなものである。
古代婚姻は家柄を重視したがそのことは結婚する男女の双方の家柄が釣り合っている必要があった。また同姓と結婚しない風習は「国語・晋語四」で曰く「同姓は結婚せず育てても殖やさず」この事は同姓は結婚しても、生育しても栄えないことをいう。
今日に至っても南方の少数民族の中には未だに之を保っているのもある。 この風習は現代に至っても、中国、朝鮮、オセアニアの一部では守り継がれている。
漢字「婚」の字統の解釈
形声 声符は昏。
金文の字形は象形で、爵をもって酒を酌む形。
爵を挙げて行なう礼であったのであろう。また婚礼 は初昏をもってはじまるもので、その次第は婚は昏夕(ゆうべ)の義によるものでなく、昏には共餐の義があるようである。(ここに明らかに、氏姓制度の発達を見ることができる。・・著注)
婚礼においては、それは三飯三酳の礼として行なわれるものであろう。三酳はわが国の三々九度にあたるものである。
漢字「婚」の変遷の史観
文字学上の解釈
「婚」は甲骨文字の時代にはなかったのであろう。しかも「婚」の字の成立ちから、氏姓制度の発達を反映したものと推察される。
つまり、太古の人々が村落で共同生活を営み、しかも生産力がある程度高まり、家族という単位が出来てきたころから、結婚の概念の形成され、婚礼の儀式も形成されてきたのであろう。
婚の金文3款。実にグラフィックで複雑である。文字というより、これは絵そのものではないだろうか。このような複雑な模様を鋳物にふくためには、鋳物技術もかなり高度なレベルに到達していなければならない。
婚の小篆3款。金文の複雑な字形が、文字としての形態を備えてきている。したがって随分書きやすく、かつ覚えやすくなり、文字としての機能を具備している。
まとめ
婚の本義は結婚式の礼儀を表す「婚礼」である。それは「氏」という概念の下での「家」が確立された上で、実際の婚姻では、古代から家柄が重視され、しかも結婚する男女の双方の家柄が釣り合っている必要があった。また同姓と結婚しない風習は「国語・晋語四」で曰く「同姓は結婚せず育てても殖やさず」この事は同姓は結婚しても、生育しても栄えないことをいう。要は近親婚を戒めたのではないだろうか。太古の昔から結婚には、等々数々の戒め、しきたりがあり、単なる若者二人が結びついたというのではなく、家族という概念、実態及びそれを支える社会の諸条件が整い、家族を醸成してきたことが文字を通しても、伺い知ることができる非常に深いものであることがわかる。これらのことは、東洋の民族が基本的に農耕民族であり、一方ヨーロッパの民族が狩猟を生業とする狩猟民族であったことと考え合わせると、単に文字の違いではなく、生活様式も全くことなる精神文化の違いにまで考察せざるを得ないものまで感じる。また、漢字が表音文字と異なる優れた一面を持っていることもわかる。
「漢字考古学の道」のホームページに戻ります。
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2 件のコメント:
婚姻制度が、家族を基本に置き、同姓間の婚姻を禁止している地域がまだ存在しているということは、人間という種の生存戦略に関するものであると思われる。現在のように、地球上に宇宙にまで、人間が拡散する時代にこのしきたりも消滅するかもしれないと想像した。しかし、家族制度の名残りである「夫婦に別姓を認めない」というしきたりが日本でしぶといのも、もとは、この生存戦略に基づいているとすれば、なかなか手強いのかもしれない。種の生存戦略に基づく恐怖は、その本人も気が付かない、無意識レベルまで、遡る可能性もある。日本は、歴史、伝統を深く大切にする民族性があるがこの作用は、現代には長短の影響があるとつくづく感じる。
「婚」という漢字の歴史上の発展が家族制度まで及んでいるという今回の記事から、現在の問題にまで、意識が飛んだのは、自分でも驚いている。物事は、漢字の根源にまで触れて、思考を深めるのが大切と感じている。東十
東十様
貴重なご意見を引き続きありがとうございます。自分とは異なる観点で指摘いただき参考になります。今後も引き続きよろしくお願いします。
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