2025年3月19日水曜日

漢字 『也』の起源と象徴的意味:古代社会と文字の秘密


漢字 也 の起源と象徴的意味:古代社会と文字の秘密



 先日「Courrierのサイト」というWebサイトで、かの高名な
阿辻哲次先生の著書「日本人のための漢字入門 (講談社現代新書 2563) 」の紹介記事が掲載されていた。早速拝見したところ、このブログでとり挙げたことのある漢字「也」という漢字についても触れられていた。少しおこがましいが、論調もあまり変わりなかったと思います。

 すっかり嬉しくなったので、過去のページ(漢字「也」の起源と由来)をブラッシュアップして、ここで再度取り上げることとした。

導入

このページから分かること
     分からなくてもせめて生きるヒントだけでも得られるかも?
 
  • 漢字『也』は、単なる文字以上の意味を持ち、古代人の思想や文化を映し出す鏡のような存在です。
  • 漢字 也の成立ちと由来
  • 漢字の生まれた背景
  • 太古の生殖崇拝との関係
  • 現代の神を凌駕するのか
  • そして未来社会は

前書き

  漢字「也」は、日常的に用いられる文字の一つですが、その起源をたどると、驚くべき文化的背景に行き着きます。太古の時代、文字は単なる記号ではなく、深い象徴的な意味を持っていました。本稿では、この漢字が持つ歴史的な成り立ちと、古代人が込めた意図について探ります。さあ一緒に考えてみませんか?

目次




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漢字「也」の起源

 「也」という文字は、その形状から多くの解釈がされています。一説には、古代の生殖崇拝に関連する象徴とみなされています。特に、初期の象形文字は自然界や人体から着想を得ていたため、「也」の形が生命や繁殖を象徴していると考えられるのです。



漢字 也の楷書体
漢字 匜(古代の水器)の楷書体


 漢字・也は「匜」 のもとの字だそうで、水器の象形ということです。
右は匜の楷書です。也の旁が入っているのはわかりますが、也と匜はなかなか結び付きません。
也・楷書


也の金文体(鋳物の刻印に使われた)
匜の金文体
也の甲骨体(単独では実在していない)
也・金文
匜・金文
也・甲骨
これは唐漢氏が漢字「育」から作った造字です


   

「也」の漢字データ

漢字の読み
  • 音読み   ヤ
  • 訓読み   なり

意味
  • 文語体 ナリと読み「~である」と訳す
  •  
  • ヤ、カ と読み「~であろうか」と訳す
  •  
  • ヤと読み「~こそ」と訳す

同じ部首を持つ漢字     也、匜、地、池
漢字「也」を持つ熟語    也哉、也已、也哉


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太古の生殖崇拝との関係

 「日本人のための漢字入門 (講談社現代新書 2563) 」では、「也」という文字が祭礼や儀式において重要な役割を果たした可能性についても触れています。特に、生殖崇拝が生命の循環や自然の再生を祝う中心的なテーマであったことが指摘されています。この視点を補完する形で、「也」がその象徴としてどのように用いられたのかをさらに掘り下げてみましょう。


参考書紹介:「落合淳氏の『漢字の成立ち図解』」

参考書サイト:Courrierのサイト:Culture
 知識人たちも困惑 漢文に頻出する「あの文字」は、女性器をかたどった象形文字だった!
 

引用:「汉字密码」(Page、唐汉著,学林出版社)

唐漢氏の解釈

 「也」説文では、「也は女陰なり、象形文字と解釈している。秦刻石の”也”の字である。これがいうに、女性の生殖器の象形であるとし、小篆でと書く。昔からいろいろの解釈があり、反対者もはなはだ多かった。

也の4款
 甲骨文字では育の字は左のように描く。嬰児の出生の一般的状況下で頭が先に出てくる。このため倒置すると、女陰を示す甲骨文字の也という字から嬰児が出てくる模様を完全に表現したものと考えられる。

 也の本義は既に消失しているが、今日では多く使われ、漢語の虚詞を作る。 又漢語の多くの構成要件にもなっている。

 「地」が生殖の土とで、地は土と也からなる。池は水中で万物が繁殖するところで、水と也からなる。  也の仮借は虚詞も作り、主要には判断の語気の言葉に用いられる。也の字は又副詞にも用いられる。


漢字「也」の字統の解釈

匜(水器)
原字は「匜(イ)」と称する水器

 匜とよばれる水器の象形。〔説文〕一二下に 「女陰なり。象形」とし、重文として秦刻石の也のしんかん字形をあげているが、それは秦漢のときの字形で、 字の初形ではない。字は金文にみえ、明らかに匜の象形であるが、〔段注〕になお女陰象形説を固執している。性器の名については、〔神異経〕に天刑を受ける男女のことをしるして、「男はその勢を露はし、女はその殺を彰はす」とあり、声の近い字をもっていえば、施にその義がある。
 基本的には説文の説を踏襲しているように思える。白川博士のいう匜という水器からはどう考えても女陰など出てこないが…。



水器「医」とは何か 奈良国立博物館資料より参考にした。

 もともとの定義は把手と注口のついた器で、水を注ぐ用途があるという。新石器時代の土器中の把手と注口のついた器を匜(い)と呼ぶこともあるが、青銅製の匜は西周後期以降に出現した。
 浅くて楕円形の器身・断面U字形の大きな注口・三足または四足がつく。蓋を動物形に作ったり、注口の部分に動物の頭部を形作ることによって、動物の口から水を注ぐ趣向になったものが多く見られる。
(参考文献:坂本コレクション 中国古代青銅器. 奈良国立博物館, 2002, p.49, no.196.)

漢字「也」の漢字源の解釈

 象形:平らに伸びたサソリを描いたもの。



現代への繋がりと未来への展望

文字学上の解釈

 古人にとっては、子孫の反映のため、今以上にセックスは重要なことであった。
 そのため生殖崇拝が広く信仰され、世界のいたるところで、男根、女真を奉ることが行われていた。
 今でこそ、ある意味卑猥なこととして見られているが、古人にとってはそれは切実なことだったと考えられる。
 なぜなら、当時、家族や部族を増やすことは実に死活問題であったはず。子供が生まれても、平均寿命が15、6歳であった時代では人口を増やすことは至難の業であった。だからこそ近代社会では猥雑なこととして嫌われる「夜這い」の風習も古代にあっては、非常に重大なことなのであった。
 また、近代においても、極冠の地やジャングルなどの外部から隔絶した社会でな、外部からの来訪者や旅行客などが部落に宿泊した際、部落の女性、主婦までもが夜のお相手をしたという話を聞いたことがあるが、それは接待ということではなく、外部の血を入れることや、子孫を絶やさないという必然性からくる止むを得ないむしろ必然的な行為であったのかもしれない。
時代が下って、人々がそれほど働き手や、戦士を必要としなくなると人々の崇拝の対象はは生殖から食料の確保、自然の克服のための「神」へと移って行ったのではなかろうか。
 そのことからしても、漢字の中に社会の発展過程の母斑を垣間見ることは非常に大切なことと考える。
 生殖から食料そして抽象的な神の崇拝へその次に来るものは如何なる認識が必要か?神か、人間の知能を超えるものがあるのか。今まさにそれが問われる時に我々は生きている。正に価値観が大きく変わる時代なのだ! 今は!!

まとめ

 現代では、「也」は文語表現として用いられることが多く、その象徴性は薄れているように見えます。しかし、この文字が持つ起源を知ることで、私たちは文字そのものが持つ力や、古代からの人類の思想の変遷に改めて気付かされます。そして何よりも私たちは今どこに立っているのかを!

  


「漢字考古学の道」のホームページに戻ります。   

2025年3月10日月曜日

漢字・政:ドナルド・トランプは漢字が読める? 始皇帝の生まれ変わりか? 


 政は「正」と「攴」からなる。正は他邑(くに)を征服する意味を持つ。 他国の支配のために攴撃を加えることを政という。

ドナルドやウラジミールを見ていると、彼らは3000年前の秦の始皇帝とよく似ている?
生まれ変わりとしか思えないほどである。
ああトランプ、されどプーチン 3000年前に戻りしか!

その心は漢字「政」にある。

本稿は2012年2月8日に発行の「漢字「政」の起源と由来」を全面加筆修正したものである。

導入

前書き

 漢字「政」の基本字素は「攴」である。攴の意味するところは、こん棒で殴りつけることである。

  では、そもそもこの政治の「政」という字はいかなる意味を持っていたのか?
 そしてそれは、どのように使われたのか。
 この問いに最も端的に答える例がある。それは、秦の始皇帝ではないだろうか。始皇帝は自身は韓非子の教えを、自身の骨の髄まで叩き込み、成長してからは法家の後継者 商鞅・李斯を取り立て、法による支配を国是とする一大帝国を作り上げた。


 その始皇帝の諱名は「政」であった。これは彼の生前の名前でもあったが、「その意味するところは、他邑を攻撃征服することを示す字」であり、他をこん棒でもって殴り倒してでも他の国・邑を制覇することが、正義であるという考え方に基づき、生涯を全うした。

まさに秦の始皇帝自身が「政」そのものであった。
始皇帝の名前「政(せい)」の由来は、生まれた年に関係しているということです。「かみをたてまつる」  彼の本名は嬴政(えいせい / イン・ジェン)で、「政」という名前は、彼が誕生した紀元前259年が「正月の月(政月)」から来たといわれています。「政月」は、戦国時代の秦で使われていた暦法(秦暦)における1月の別称であったということです。そのため、生まれた時期にちなんで「政」という名前がつけられたとされています。

 また、「政」には「統治する」「治める」といった意味もあり、王族の名前としてもふさわしい文字だったと考えられます。始皇帝の名前「政(せい)」の由来は、生まれた年に関係しています。

目次




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漢字「政」の今

漢字「政」の解体新書

政_楷書
漢字「政」の楷書で、常用漢字です。
 漢字「政」を決定づける基本字素は「攴」であり、この攴が付く漢字には、「改、救、攻、放、故」等数多くあるが、いずれも「力ずく」でものごとを行うという意味を暗示している。そのことを踏まえ、これらの漢字を吟味すると、今まで見落としていた漢字の味わいが見えるようになること請け合いだ。

 ここでいう基本字素とは、筆者が命名した造語であるが、旁や偏が、漢字の成立ちの構成要素であるのに対して、漢字の意味を「決定づける基本的な要素」と定義した。この見解を広く世間で主張するつもりはないが、少なくともこのブログでは、この定義に基づいた使い方をするつもりだ。
政・楷書


政・甲骨文字
政・金文
政・小篆
  
政・甲骨文字
政・金文
政・小篆


 

「政」の漢字データ

漢字の読み
  • 音読み   セイ
  • 訓読み   まつりごと

意味
  • 「まつりごと(国家の権力者が領土・人民を治める事)」(例:政治)
  •  
  • 物事を整え治める方法
  •  
  • おきて(決まり、法律)、政治を行う時の仕組み・制度

同じ部首を持つ漢字     改、救、攻、放
漢字「政」を持つ熟語    政、政治、政界


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漢字「政」成立ちと由来

引用:「汉字密码」(P649、唐汉著,学林出版社)
政・4款

唐漢氏の解釈

 「政」この字は会意文字であり形声文字でもある。「説文」では「政は正なり」と解釈し、「支」と「正」から来て、発声は「正」を取ったとしている。金文の「政」の字の右辺は棍棒を手に持った形で、左辺の下部は「足跡」があり、歩みを表す。上部は一本の短い横棒で行動の目標を表す。明らかに政の字の構造の意味するところは、自ら棍棒を用いて他人を既定の目標に向かわせようとすることである。小篆は金文と相似であるが美観は一層整っている。  

漢字「政」の字統の解釈

  形声 声符は正。 正は他邑を攻撃征服することを示す字。 その支配のために攴撃を加えることを政という。
 正は征服、征は賦税、政が支配の形態を示す字である。〔説文〕に「正なり。 攴に從ひ正に従ふ。正は亦聲なり」とするが、正・征・政は一系 の字とみてよい。
  金文に征を征行・征伐に、政を政治的支配の意に用い、それぞれの字義がすでに分化 している。




漢字「政」の漢字源(P673)の解釈

 形声文字。正とは、止(あし)が目標の一印に向けてまっすぐ進むさまを示す会意文字。
征(まっすぐ進む)の原字。政は「攴+音符正」で、もと、まっすぐに整えること。



漢字「政」の変遷の史観

「政」の意味の変化及び中国の「政」と日本の「政」

漢字「政」は正に加え、攴(こん棒でなぐるを意味する)が加えられ、その意味がより一層明確になった。
 太古の昔は、暴力が支配し、それが正義とされた時代が確かに存在したということである。

 しかし、人間が増え、社会の交流が活発になるにつれ、「こん棒で殴り、言うことを聞かせる」方法だけでは立ち行かなくなった。人間は次第にお互いの意見を調整することを覚え、意見を調整する制度的仕組みを作り出す。太古の邑が国という仕組みを構築するためには、人口は100万人が必要であるといわれる所以はここにある。かくして、国家が登場する。この経過は、ヨーロッパで、中世に出現した夜警国家にも通ずる部分がある。

中国では、「政」とは支配者が、他邑を攻撃征服することを示す字。 その支配のために攴撃を加えることを政というが、日本ではこの「政」を婉曲な表現でまつりごとという。「まつりごと」とは直接的には「神を奉る」という意味であるが、中国と比べると随分遠回りをした言い方になっている。この表現の違いこそ、日本の民族性を如実に示したものではないかと思っている。単刀直入に言えば中国の漢字が直接的な表現であるのに対し、日本では神を持出して、自らを権威付けようとしている。この他日本では、「死」⇒逝去、「盗む」⇒拝借、老→高齢、病→おかげん、殺す→成敗など直接的な表現を避け、敬意や柔らかさを含んだ言葉に変える傾向が強いようだ。

「政」に関連する故事や成語には、政治や統治に関するものが多くあります。

  • 政は正なり! 「政」という字は「正(ただしい)」という意味を含むため、政治は正しく行わなければならないという考えを表します。古代中国では、良い政治は「正しい道を行うこと」とされ、君主や官僚にとって重要な指針とされました。 

  • 苛政は虎よりも猛し(かせいはとらよりもたけし) 原典:『礼記』「苛政猛於虎」 意味:悪政は、人々にとって虎よりも恐ろしいというたとえ。政治が腐敗し、重税や圧政が続けば、人々の生活は苦しみ、逃げ出すしかなくなることを指します。

  • 徳政(とくせい) 原典:儒教思想 意味:道徳的な政治を行うこと。君主や為政者が仁徳をもって国を治めることが理想とされました。日本では「徳政令」として、借金帳消し政策などを指す言葉にもなりました。

  • 問政(もんせい) 原典:『論語』 意味:為政者が民の声を聞き、政治を問うこと。儒家思想では、民の意見を取り入れることが良い政治の基本とされていました。 

どれも「政」の本質を考えるうえで重要な教えですね。



まとめ

   正は甲骨文字では「□+止」と書き、その意味するところは、他邑を攻撃征服することを示す字。漢字「政」は正に加え、攴(こん棒でなぐるを意味する)が加えられ、その意味がより一層明確になった。後に「まつりごと」などとカモフラージュさせた解釈がされるようになるが、いくら曖昧にしようとも、もともと古人が、「政」という漢字を作り出したその意図は、権力こそが正義としたことに他ならない。

 太古の昔は、暴力が支配し、それが正義とされた時代が確かに存在したということである。しかし、権力者のし好は時代が下っても変化はない。

  


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