2023年12月1日金曜日

漢字「去」の成立ちと由来:「去」は神の神前で審判を仰ぐ時に用いた厳粛なツールに由来したもので、法の原字でもある


漢字「去」の成立ちと由来:「去」は神の神前で審判を仰ぐ時に用いた厳粛なツールに由来した


 今では法はある種のご都合主義的に使われ、国法の最高の憲法ですら、ないがしろにされている雰囲気がある。
 しかし、太古の昔は「法」の原字ともいえる「去」は、大変な重みづけをもっていたようである。「去」は太古の昔から存在した字であるが、その昔はある種アミニズムの権威付けのツールにも使われたのではと思われる。神の前に審判を仰ぐ器であったと考えられ、審判に敗れれば、器と敗れた人とともに水に流すことを法といった。非常に厳しい戒律であったようだ。これらのことは、「法」は決して疎かにするべきものではないことを、我々に教えている。 




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漢字「去」の今

漢字「去」の解体新書


 
漢字「去」の楷書で、常用漢字である。    
  
去・楷書


  
去・甲骨文字
去・金文
去・小篆


 

「去」の漢字データ

漢字の読み
  • 音読み   キョ、コ
  • 訓読み   さる

意味
  • ゆく、去る
  • しりぞく
  • やめる
  • 過ぎる

同じ部首を持つ漢字     去、蓋、法、怯、劫
漢字「去」を持つ熟語    去、過去、去就、死去


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漢字「去」成立ちと由来

引用:「汉字密码」(Page、唐汉著,学林出版社)

唐漢氏の解釈

 大と口とからなる会意語である。「大」は人の正面の形で、「口」は町や村を示していること、またはくぼんだ形の「坎」を意味することもある。 したがって、「去」という言葉は、人が穴を跨いで、村や町を通り抜けたりするイメージから取られ、立ち去る、または立ち去ることを意味する。 「残る、去る、死ぬ、辞任する」などの慣用句や「どこへ行く、去っていく」など。

漢字「去」の字統(P180)の解釈

 会意 大と凵(カン)とに従う。大は人凵は蓋を外した器。神判で敗れたものは、神判に当って盟誓した自 己詛盟に偽があるわけであるから、その祝禱の器で あるの蓋を外して凵とし、その人とともにこれを棄去する。
わが国の大祓詞にいう汚穢を水に流すことと、祓うという 観念において、共通する罪悪観である。廃棄の意より、場所的にその場を去る意となり、時間的には過去に隔たる意となる。 故郷を棄てることを、大去という。


漢字「去」の漢字源(P224)の解釈

 象形:蓋つきのくぼんだ容器を描いたもので、窪んだ籠の原字。くぼむ・ひっこむの意を含み、却と最も近い。転じて現場から退却する。姿を隠すの意となる。



漢字「去」の変遷の史観

文字学上の解釈

 漢字「去」には、甲骨文、金文にもそれなりの款が存在している。
 去は神の前で、審判を仰ぎ、審判に敗れれば去る。その時水に流すのが法、審判に用いた器と共に捨てるのが灋である。

いずれにせよ、審判を受けることは並大抵のことではない。


まとめ

  これに関しては、(白川静「字統]P180)の説明が最も理にかなっているように思う。曰く、大と凵(カン)とに従う。大は人凵は蓋を外した器。神判で敗れたものは、神判に当って盟誓した自己詛盟に偽があるわけであるから、その祝禱の器であるの蓋を外して凵とし、その人とともにこれを棄去する。これを水に流す字は法、神判に用いた解廌をともに棄てるときは灋となる。灋は金文において廃棄の意に用いる字である。
  
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2023年11月29日水曜日

渇と乾はどう違うの: 甲骨文字の時代から二つのかわきは全く別の漢字であった


漢字「渇くと乾く」はどう違うの? 二つのかわきの漢字の成立ちと由来を探る

はじめに

 毎日ことば(2023年11月25日付毎日新聞)に掲載された記事「『二つのかわき』の解説」を取り上げ、その言葉の成立ちを深めてみたい。

二つの「かわき」について、毎日新聞では以下のように説明をしている
「かわく」には二つの意味がある。 水分のない状態を表す「乾く」と、
 満たされずに何かを切望する「渇く」である。

  • 「かわいた土地」「洗濯物をかわかす」などは 「乾く」、
  • 「愛情のかわき」「喉がかわく」 などは「渇く」を使うのが適切である。






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漢字「渇&乾」の今

漢字「渇&乾」の楷書で、常用漢字である。
 
渇・楷書


左は漢字「乾」の楷書で、常用漢字である。
 一方右の見慣れない漢字は、乾の原字で、「エン」と読み、旗竿につけた吹き流しを表している。これと乾とどう結びつくのか少し考え難いが、漢字源では「乾」と並列して説明している。  
乾・楷書





漢字「渇」の解体新書

漢字源の解釈では会意兼形声とする。
曷は「日+音符!(どなる、おとしめる)」の意。
会意兼形声文字で、本来は、はっとのどもとをかすれさせてどなることをあらわす。
 渴は「水+音符曷」で、水がかれて流 れがかすれること。また、水けがなくなってのどがかれることをあらわす。
 
渇・金文


「渇」の漢字データ

漢字の読み
  • 音読み   カツ、カチ
  • 訓読み  かわく

意味
  • かわく、のどがかわく
  •  
  • かわき、のどのかわき、切実な要求
  •  
  • あわてて、がつがつして、
  •  
  • 動詞 かれる、みずがかれる

同じ部首を持つ漢字     渇、褐、葛、喝喝
漢字「渇」を持つ熟語    渇、渇望、枯渇、渇水


漢字「乾」の解体新書

漢字源によると2款があるようで、第一系列は旗が高くなびくさまを示す。
もう一つは太陽が旗の ように高くあがるさまを示した。高く明るくかわくの意を含む。  

乾第1款・金文
乾第2款・金文
乾・小篆


 

「乾」の漢字データ

漢字の読み
  • 音読み   カン
  • 訓読み   かわく

意味
  • かわく、ほす
  •  
  • 血のつながりのない
  •  
  • 旗がひらめく
  •  
  • 高く、明るい、強い天

同じ部首を持つ漢字      幹、倝、韓
漢字「乾」を持つ熟語    乾、乾燥、乾児:血のつながりのない子、乾漆


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漢字「渇&乾」成立ちと由来

漢字「渇」の解釈

字統P113参照

 会意兼形声文字で、本来は、はっと喉もとをかすれさせてどなることをあらわす。
` 渴は「水+音符曷」で、水がかれて流れがかすれること。また、水けがなくなって喉がかれることをあらわす。







漢字「渇&乾」の変遷の史観

文字学上の解釈

 漢字「乾」:会意 倝と乙とに従う。倝は旗竿の形、乙はそれにつけた吹き流し、すなわち偃游の形で、旗の高くひらめくさまをいう。同じ「かわく」といえ、「乾」は「渇」と違って、喉がかわくといった生理的な意味は文字の発生時からまったく持ち合わせていない。「乾」は、甲骨文字の時から、旗竿につけた吹き流しが、翩翻と風になびいて乾いているさまを示したものであることがよく理解できた。



まとめ

  

 現代では、漢字「渇く&乾く」は、発音が同じ発音でもあり、日本人には、その区別はし難いものである。しかしその由来にまで遡れば、違いは歴然としている。だからどうなんだという声も聞こえてきそうだが、だからこそ漢字の世界は奥が深いと教えてくれた漢字である。

  


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