2023年10月4日水曜日

漢字の「龍」の起源は中国古来のシャーマニズムと強力な権力志向の結びつきにある


漢字・龍は中原の地域で、農業生産の急速に発展を背景に、強力な統一国家的な仕組みを作り上げていく過程を象徴する漢字となった 

 それでは、字が生まれた時代的背景について少し掘り下げてみよう。

 龍は中華民族の精神的な主柱を成す架空の存在である。
 天をも支配するとされた神の化身である「龍」は、頭に辛字形の冠飾をつけた蛇身の獣の形。 

 その起源は古代のシャーマニズム的な信仰に根ざしている。
 その古代的な信仰は、殷周以後にも巫女によって伝えられた。
 この文字が生まれた時期は、華夏民族が中原の地域で、統一国家的な仕組みを作り上げていく段階であった。
 その原型は、かつて内モンゴルと中国東北部の草原に生息していたといわれる鱗状のヘビ、または今も生息する長江ウナギのいずれかであったと考えられている。

 そして、この字は金文から小篆、大篆へと発展するにつれ、次第に皇帝の権力を象徴する存在へと変化を遂げていく。かくして、龍は代々の王朝に引き継がれ、中華民族の象徴になったのである。

このページは以前にUpした以下のページを加筆修正したものです。
  「漢字「龍」の起源の由来:皇帝の権力を象徴する、力強く気勢のある調和の取れた美観を体現

導入

前書き

目次




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漢字「龍」は今、我々の生活の中でどう生きているか

「龍」は、常用漢字表において、「竜」の字が正字とされていて、「龍」の字は参考として示されている。
 そのため、一般的には「竜」の字を使うことになる。
 ただし、「龍」の字は人名用漢字としては使えるので、決して使ってはいけない漢字ではない。

  • 異体字としては、竜、龙などがある。
  • 龍を含む漢字には、寵、瀧、籠、聾などが比較的よくつかわれている。
  • 漢字・龍は一般の用語としては、使われず専ら地名、人名などの固有名詞に使われている


漢字「龍」の分析



「龍」という言葉の原形は、かつて今日の内モンゴルと中国東北部の草原に生息していた鱗状のヘビ、または今も生息する長江ウナギのいずれかであったと考えられている。

中央にある蛇の舌文字はヘビの大きな口、口の中の毒牙がはっきりと見え、ヘビの体は下に曲がっている。 しかし、中国人はそこまで現実的になることを心の底から嫌っており、龍は中国人の想像力の大きな部分を占めている。

青銅碑文の「龍」という文字も 2 つのグラフィックで表されている。 もう一つは線画の「龍」で、このタイプの「龍」は口が大きく、体が丸まり、頭の「文字」が「辛」の形に進化する。 古代、「辛」は捕虜を捕らえる戦争用の拷問器具であったため、東周や西周の時代の「龍」という言葉は、物事の束縛の下での一種の怒りを示し、龍の神秘性をより反映している。風と雨を呼び出すことができ、雲と霧を動かし、自然界の竜巻のより多くの特徴を具体化する。

 この時代は自然に頼った農業生産法が急速に発展した時代であり、また、中華民族の諸属国が過酷な戦争を通じて統一された時代でもあったことが証明される。

 「龙」の字が大きな篆書から小さな篆書へと発展していく様子は、国家が混乱の中から整合性を持ち、見た目も均整の取れた雄大な勢いと調和の美しさを体現する字体となっている。

「龍」楷書
実に堂々とした
美しい字体だ
 小篆の「龍」の字が甲骨文字、金文と比べ、体裁が整えられ、誰が書いても同じ形になるという記号としての役割を担うに足るものになっていることに気が付く。甲骨文字、金文と小篆の間には少なくとも600年程度の期間があり、しかも小篆は始皇帝が李斯に銘じて文字を統一したこともあり、他の二つと比べ文字としての機能には格段の開きがある。
龍・甲骨文字
龍・金文
龍・小篆

「龍」の漢字データ

漢字の読み
  • 音読み   リュウ
  • 訓読み   たつ

意味
  • 天変地異を引き起こす力を持つといわれる巨大な蛇に似た中国の伝説の生き物
  •  
  • 人の力を遥かにしのぐものを表す例え。

同じ部首を持つ漢字     籠、襲、
漢字「龍」を持つ熟語    龍、龍骨、龍神


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漢字「龍」成立ちと由来

引用:「汉字密码」(Page、唐汉著,学林出版社)

中国人・唐漢氏の民俗的解釈

  典型的な甲骨文字は、中央にある蛇の舌、文字はヘビの大きな口、口の中の毒牙がはっきりと見え、ヘビの体は下に曲がっている。 しかし、中国人はそこまで現実的になることを嫌う傾向があり、龍は中国人の想像力の大きな部分を占めている。
 青銅碑文の「龍」の文字は、美的法則の影響を受けやすくなっている。 別の線画の「龍」は口が大きく、体が丸まり、頭の「舌文字」が「辛」の形に進化する。 古代、「辛」は捕虜を捕らえる戦争用の拷問器具であったため、東周や西周の時代の「龍」という言葉は、一種の怒りを示し、龍の神秘性をより反映している。

風と雨を呼び出すことができ、雲と霧を動かし、自然界の竜巻のより多くの特徴を具体化する。 見方を変えれば、この時代は自然に頼った農業生産法が急速に発展した時代であり、また、中華民族の諸属国が過酷な戦争を通じて統一された時代でもあったことが証明される。 「龙」の字の大篆から小篆へと発展していく様子は、雄大な勢いと調和の美しさの体現でもあります。 この「龍」のキャラクターは、貴族的であり、民間的ではなく、徐々に帝国権力と皇帝の特別な象徴へと進化しました。このように龍という字は中国の社会の中で長く使われたため、社会の反映をより跡付けることができるものとなっている。

漢字「龍」の文字学の側面からの白川博士の解釈

 象形 頭に辛字形の冠飾をつけた蛇身の獣の形。

 字は蛇身の獣の象形で、頭上に辛字形の 冠飾をつけている。この種の冠飾は鳳・虎の文形 にもみられるもので、霊獣たることを示すものであ り、四霊の観念がこれらの字形の成立した当時において、すでに胚胎するものであることが知られる。

龍の観念は、その呪霊を駆使する古代のシャーマニズム的な信仰に起原している。 その古代的な信仰は、殷周以後にも巫史によって伝えられた。



漢字「龍」の漢字源の解釈


 象形:もと頭に冠をかぶり、胴をくねらせた大蛇の形を描いたもの。それに色々の模様を添えて、龍の字となった。



漢字「龍」の変遷の史観

文字学上の解釈

金文の「龍」
当時の生産方式の変化は漢民族の
意識の変化を生み、その変化は「龍」
という漢字を生んだ?

この文字が生まれた時期は、穀物の栽培の農業生産方式が急速に発展する段階である。また華夏民族の諸侯国は残忍な戦争を通じて、統一していく段階に入っていた。ゆえに人間を超越したした力を持つ龍、天候を操ることができる龍神信仰が生まれたのではないだろうか。


 そして、この字は金文から発展するにつれ、次第に皇帝の権力を象徴する存在へと変化を遂げていく。

 龍の字の大篆から小篆の発展は力強く気勢のある調和の取れた美観を体現している。この種の龍の字の右半分の躯体はさらに長く変わり、湾曲する必要にいたるまでになっている。左半分の形態もさらに奇異な形状になって、字形は対象になり、一種の落ち着きとしっかりした感じさえ出ている。庶民性は少なくなり、次第に皇帝の権力、帝王の専用のシンボルに変化していった。

 龍の字は原始民の間に恐れおののく意識の中で、古代民衆の現実生活の中で作り出されたものである。龍が一種の偶像になった時、それは自然界の動物の複合体と異なるものを持っていた。

 牛の耳、トラの手、鷹のつめ、蛇の体、魚の鱗。龍の形の龍の字は同じで、完全に一種の仮想で、しかしながらそれは非凡にして突出して、空に掛かる人間界を超越した気勢、奇異にして言葉では言い尽くせない、奥深く計りしれない威力、漢民族に対して語り告げる、子々孫々までの無限の吸引力をもち、為にこのような龍は中華民族の象徴になりえたのである。

まとめ

 龍の字は、長い間使われ風雪に耐えただけに、その文字の変遷は歴史の後付けとして実に興味深い。東晋から西晋、春秋戦国時代は統一までの間、国家は乱れ、蛮族などが中国社会を蹂躙した。しかし、この間思想的には、最も華々しい発展を遂げたと言っていい。漢字にしてもしかり、ほぼ中国の漢字の原型はこの時期に固まったと言える。漢字考古学はここに益々重要性を増すと考える。   


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2023年10月1日日曜日

漢字「災」に見る自然災害と壮絶な闘い! 今始めよう自然を破壊する手を止めて、自然修復のために個人でもできることから始めよう


漢字「災」の起源と由来

自然災害を表す漢字「災」の生まれにも涙ぐましい歴史がある。古来より、人々が集団で生活するようになって、かなりの力をこの災害に立ち向かうことに費やされてきた。
 古代、中世、近世に至っても、為政者はその力の大部分を治水対策や防災対策に費やしてきた。昔とは比べ物にならないくらい堅牢な堤防や防波堤を築いてきた。

しかしそれでも、東北大震災の経験は、結局は山に逃げることでしか津波からは逃れられないのだと思い知らされた。
 その上、放射能汚染という厄介なものまで作り出してしまった。この災害は自然にはなかったもので、その解決は自然には求めることのできないものだ。

私たち人間は、ここでもう一度立ち止まって「災」を見直す時期に来ている。もう遅いのかも知れない。

導入

自然災害を表す漢字「災」

 今漢字「災」に世界の視点が注がれている。その理由は、気候変動に起因する事が大きいと考えられる。
 集中豪雨、台風、温暖化に伴う異常気象など、今まで対処できたことでも、今ではそのスケールと深さでもはや人間の手に負えないのではないか思えるくらいの深刻さとなって、我々に迫ってきている。

人間の愚かさによる災害が地球を覆う
 問題は、今直面する地球規模の災害は、自然の変化による災害というのではなく、基本的にはすべて、人間が作り出した変化に起因すると考えられることだ。
 ここで取り上げた漢字の「災」の由来は、その殆んどが水害など自然災害であった。 今日では人災と言わねばならなくなってきた。人間というものは、賢明なようであったが、結局はおろかな生物であったようだ。自分は自然を克服したという傲慢さが、結局は墓穴を掘っているだけであることに気づいていない。

 しからばどうするか?人間が作り出した地球規模の変化は、人間が自らの手で修復するしかない。

 そのためにまずは、自然を破壊する手を止めるべきである。今やそれしかほかに道は残されていない。このサイトでも、微力ながら、「自然の破壊するな」の声を上げたい。




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漢字「災」の今

漢字「災」の解体新書

漢字「災」の楷書で、常用漢字です。
 
災・楷書





  
災・甲骨文字
災・金文
災・小篆


 

「災」の漢字データ

漢字の読み
  • 音読み   サイ
  • 訓読み   わざわい

意味
  • 「人に不幸をもたらす出来事」(例:口は災いの元、災難)
  •  
  • 不快な出来事が個人では対処できないくらい降りかかること
  •  
  • 火事や地震など生活上の困難になる出来事

同じ部首を持つ漢字     灾、烖、災、烽
漢字「災」を持つ熟語    災、災害、震災、戦災


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漢字「災」成立ちと由来

引用:「汉字密码」(Page、唐汉著,学林出版社)

唐漢氏の解釈

 「災」甲骨文字のもう一つの書き方は、図の示すところによれば、洪水が横に流れる形である。説文では害なりとしている。古代社会の中の洪水の災難を連想してみれば、この字の形はのこぎりの歯の形のような上下に奔騰する形だ。疑いもなく水害を指している。

 この字が最も恐れられた自然災害の現実的な描写であるが故に、造字の意図が我々の頭上に不可欠的に我々の頭に降臨することになる。



漢字「災」の字統の解釈

 巛と火とに従う。水が ふさがれて溢流する形で、水災をいう。それに火を 加えて、火災の意とする。〔説文〕に「天火を烖といふ」とする。人火を火、天火災という。天火とは落雷や山林などの自然火の意である。古くは災厄は天意によるものとされ、災咎・災祥・災譴・災告・災異のように、天のなす災とされた。のちすべて災・烖を用いる。灾は宮廟の焚ける意である。


漢字「災」の漢字源の解釈

 会意兼形声 卅は川をせき止める堰を描いた象形文字。災は「火+音符(卅)で、順調な生活を阻んで止める大火のこと。


漢字「災」の変遷の史観

文字学上の解釈


 漢字さいにもいろいろある。左のヒエログリフにも見る通り、その災害の原因により字も分けられているようだ。


  • まず流れがせき止められたことによる水害
  • 自然災害よりも戦争、暴動による災害「烖」
  • 大火による災害「災」
  • 神の廟が消失する「灾」

ここでは、時系列的に断定はできないが、文字の発達の具合から見て、流れがせき止められて引き起こされる水害はやはり歴史的にも上流に位置していると考えられ、神殿の火災の「灾」は権力基盤がかなりしっかりと確立されて以降出来た漢字であると推察される。
 それがどうだというのだという向きもあるかもしれないが、この漢字の発展の推移の中にも、人々の苦しみが見えてくるようである。

まとめ

 会意文字であるようだが、甲骨文字にせよ、金文にせよ、まるで象形文字であるかのように生き生きとした人々の姿が描写されている。文字の形に簡略化し、無駄を省いたデッサンとなっており、実に素晴らしい記号化、抽象化がなされていると思う。

  


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