2021年6月23日水曜日

漢字・敗が生まれた時代は漢字・破の時代から社会・経済はどのように変化したかを仮説してみた


漢字「敗」の成り立ちから何が読めるか:財宝を叩き壊すという意味、勝ち負けの勝敗よりも財宝に焦点を当てた漢字
 漢字・破から漢字・敗が生まれるまでには、相当の時間があったと考える。「破」は動物の皮を手で剥ぐという、行為の対象、手段を表現しているが、「敗」の漢字には漢字「破」には見られなかったものが含まれている。即ち鼎や貝で表される宝物の概念である。

 そこには明らかに生産の発展がみられ、貨幣という概念まで出現している。「敗」という文字の生まれる背景には、人間が狩猟・採取を営んでいた時代とは異なる富の蓄積の歴史が存在していると考えても不思議ではない。


漢字「敗」の楷書で、常用漢字です。
 今では「敗」の漢字は、もっぱら「負ける、敗れる」という意味に使っていますが、本来は、負かす、破るという意味にも使っていたようです。つまりこの漢字は、勝敗に関係なく使っていたようです。

 この漢字と同義語の漢字に「破」があります。この漢字は「石」+「皮」で、2つの会意で、「皮を手で引き裂く」ということを表しています。漢字の成り立ちは「敗」とは全く異なっていますが、今では「破」は専ら物が壊れるという意味に用い、「勝敗」の意味には用いないことが多いようです。 杜甫の「国破れて山河あり」という、詩で詠われているのは、「国は破壊されて、残っているのは、山河だけだ」という意味なのでしょうね。
負・楷書


  
敗・甲骨文字
鼎を手に持ったこん棒でたたき壊すさま
敗・金文
鼎の代わりに財宝を象徴する貝を二段重ねにした宝物を表すものを打ち壊す
敗・小篆
甲骨と金文を受け継いであるが、文字化のためによりシンプルなものになっている。


    


「敗」の漢字データ
 

漢字の読み
  • 音読み   ハイ
  • 訓読み   やぶ(れる)、やぶ(る)

意味
     
  • やぶれる  負ける  例:勝敗  
  •  
  • やりそこなう、しくじる   (例:失敗)
  •  
  • 壊れる、損なわれる、つぶれる、ついえる(例:損敗) 

漢字「敗」を持つ熟語    敗軍、敗戦、失敗、勝敗、完敗、惨敗、成敗




引用:「汉字密码」(Page、唐汉著,学林出版社)
唐漢氏の解釈
 「败」は「敗」の簡体字である。甲骨文字の「敗」もまた会意文字である。左辺は「鼎」の象形素描であり、一個の手が棒を持って、叩いている様子である。両形は会意で杯を壊すことを表している。俗語の「あなたの家の茶碗を打ち砕く」と同様のことだ。金文の旁は二つの貝となり、貴重で、値打ちのあるということをあらわしている。小篆と楷書ではこのことから「壊したり、名誉を傷つけたりすること」である。  説文では「敗」を壊すこととしている。本義は壊したり破壊することである。

 

漢字「敗」の字統の解釈
 会意 貝と攴に従う。貝は宝器とすべきもので、それを撃って毀敗することをいう。「説文」「毀つなり。攴貝に従う。敗・賊はみな貝に従う 会意」とする。


以前にアップした記事に加筆・補強をしています。
参考ページ:漢字「敗」の成立ちを「甲骨文字」に探る:鼎を打ち壊すこと


まとめ
 漢字は生れてから、3500年もの間、その形は時代とともに変化はしているが、基本的な構造は変化することなく発展を続けている。

 そして、それは、今の世に太古の昔の人々の生活と息吹を生々しく伝えてくれる人類の貴重な財産である。



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2021年6月21日月曜日

漢字 斧、斤、鉞の成り立ちから、用途の違いを考える


漢字 斧の成り立ちから何が分かる:斤+父の会意で、大きい「斤」(手斧)をいう
 この斧は人間が作り出したもので、ものが先にあって、漢字や呼び名が後で出来たものではない。

漢字「斧」の楷書で、常用漢字です。
 「斤」と「父」からなる。「斤」は「ちょうな」と呼ばれる手斧の形であろう。斧は斧鉞ともいう大きな斧をいう。したがって手斧の大きなものという意味で「父」という形容詞を被せ、会意文字として「斧」が出来たと考えられる。
斧・楷書


 
  
斧・甲骨文字
柄が折れ曲がった斧を手に持つ形
斧・金文
甲骨文字に比べ形は整えられているが、形象は損なわれている
斧・小篆
小篆を引き継いでいるが、抽象化しすぎている?
鉞・金文
斤、斧、鉞戸では文字の造りが全く異なる




        


「斧」の漢字データ
 

漢字の読み
  • 音読み   フ
  • 訓読み   おの



意味
    鉞(まさかり)
     
  • おの・まさかり(柄の先に、厚くて重い刃を装着した、叩き切るための刃物・武器)
  •  
  • きる(切)、おので物を切る
  •  
  • おのの形をした模様

同じ部首を持つ漢字     斤、斥、斧、斬、斯、新、断
漢字「斧」を持つ熟語    手斧(チョウナ・片手斧)、石斧(石の斧)




引用:「汉字密码」(Page、唐汉著,学林出版社)
唐漢氏の解釈
 「斧」は会意兼形声文字。甲骨文の斧は右辺は「斤」もしくは古代の曲がった柄の斧の象形;左辺は「父」の字である。両形の会意は成年男子が斧を手に持ちたたき殺そうとしている。

 斧の原本は割り裂く工具である。成年男子は手に持って兵器にもなる。たたき切る殺人兵器である。商代の斧は銅の斧で銅銭と形は似ている。文献中斧銭をもってとあるが、殺すという性格のもので形上は区別はつかない。銅斧の主な特徴は、斧の体が比較的長く狭い、刃は平か少し弧を描いている。鈍い形の作りで、刃は広く弧を描いている。「斧」は説文では斧なりとしている。 





漢字「斧」の字統の解釈
 声符は父。父は斧鉞を持つ形であるから、父の第1画がその象形、斧はその形声字である。「説文」に「斫る也」とあり、斧戉は刑具に用い、又指揮を執る時の儀器で、父とはその儀器を執るものをいう。もとより、伐薪などにも用いるものである。「孟子・梁恵王」にもその用法の記述がある。


まとめ
 会意文字であるようだが、甲骨文字にせよ、金文にせよ、まるで象形文字であるかのように生き生きとした人々の姿が描写されている。文字の形に簡略化し、無駄を省いたデッサンとなっており、実に素晴らしい記号化、抽象化がなされていると思う。



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