2021年6月10日木曜日

漢字「賢」の成り立ちから何が見える:賢者とは王や神に仕える臣下で、多才で、多くを語らずとも多くの成し遂げる能力のある人


漢字「賢」の成り立ちから何が見える:賢者とはズバリどのような人を指すのか。漢字の中に刻み込まれていた
「賢」は「臣」(恭順な奴隷の眼に辛を加えて奴隷の身分を明確にしたものを「臣」という。)の多才なものを取り立てた奴僕を「賢」とした。後に、その社会的地位は上昇し、尊称で呼ばれる存在となったと同時に、奴僕の地位からは解放された。後世『竹林の七賢人』といわれるように、その文芸や諸芸の才能が注目されることとなった。

漢字「賢」の楷書で、常用漢字です。
 賢の本義は恭順で能力のある仕事のできる人、即ち後世の例えの「徳才兼備」な者をいっている。
 この「賢者」で、すぐに筆者の頭に浮かんだのは、春秋時代の越の宰相。范蠡です。
 この人は呉越戦争の中で、越の再興の最大の立役者であり、国を再考させて後は、さっさと身を引き、他国で事業を起こし、財を成した人です。

 この「賢」と同じような意味の漢字に「敏」があります。「敏」の方は、《論語》の中で、敏捷干事、寡言実行、即ちあまり多くを語らず敏速に事を行うことに重点を置いた才能をいい、これは孔子が心に思う君子のことだ。
賢・楷書


  
賢・甲骨文字
恭順な眼(前の臣の字を参照せよ)と作業する手からなり、良い奴僕の意味です
賢・金文
甲骨文を引き継いでいる
賢・小篆
金文の漢字の下に財の符号(貝)を加えている。秦漢の時期には仕事が出来る、才能がある、その上に銭がある(金持ち)ことが賢の要件になっている。


    


「賢」の漢字データ
 

漢字の読み
  • 音読み   ケン
  • 訓読み    かしこ-い

意味
     
  • かしこい。利口。才知にすぐれた。
  •  
  • まさる。すぐれている
  •  
  • すぐれた人  相手に対して敬意を表すために言葉の頭に冠して用いる

同じ部首を持つ漢字     堅、緊、腎
漢字「賢」を持つ熟語    賢者、賢人




引用:「汉字密码」(Page、唐汉著,学林出版社)
唐漢氏の解釈
 賢は会意文字だ。甲骨文と金文の構造形は、恭順な眼(前の臣の字を参照せよ)と作業する手からなり、良い奴僕の意味です。小篆の「賢」の字はその下に財の符号(貝)を加えている。秦漢の時期には「賢の標準は昇格して恭順ばかりではなく、仕事が出来る、才能がある、その上に銭がある(金持ち)という意味になっている。

 


漢字「賢」の字統の解釈
 漢字「賢」は臤+貝からなる。「臤」は「賢」の初文。「賢」はもともと界の良質のものをいう字であったろう。  臤は臣すなわち目の眼を、又(手)を加えて傷つけるもので、神に捧げられた徒隷をいう。臣や妾はもと神に使えるものであった。多才であることは神に仕える重要な条件であった。


まとめ
 会意文字であるが、甲骨文字にせよ、金文にせよ、生き生きとした人々の姿が活写されて、実に思い白い。



「漢字の起源と成り立ち 『甲骨文字の秘密』」のホームページに戻ります。

2021年6月8日火曜日

漢字「宿」の成り立ちから窺えるもの:宿とは一時的に雨露をしのぐ屋根と藁の蓆があるだけのもの。きちんとした寝る場所ではなかったようだ


漢字「宿」の成り立ちから見えて来るもの:そこには一時的に雨露をしのぐ屋根と藁の蓆があるだけだ。古代の宿はそのようなところ
宿も「寝」所も同じように寝る場所に過ぎない。しかし、古代の漢字を見る限り、その扱いには格段の違いがある。
「宿」は 粗末な藁の蓆の褥があるだけで、ただ夜露をしのぐだけの屋根と褥があるだけである。しかし疲れた体にはそれでも十分なものだった。それが宿なのだ。

 しかし漢字「寝」となるとそうはいかない。部屋には箒がかけられ、清掃は行き届き、そのほか色々のサービスが加えられたことを示す「手」が付け加えられている。

 


漢字「宿」の楷書で、常用漢字です。
右に「寝」の漢字を参考までに列記してみました。「宿」は正式の寝所ではない寝るところでありますが、同じ寝るという行為でも、明確な違いをこの漢字では見せつけています。楷書では少し分かりにくいのですが、甲骨文字や金文などでは、はっきりした違いが漢字に見られます。

 即ち、寝では箒掛けをして丁寧に手を加えた様子が窺えるのに対し、「宿」は藁の蓆の上に横になる旅人の姿が字に埋め込まれています。

 今でこそ豪華ホテルがふんだんに用意されているのでしょうが、古代では粗末な宿で蓆の褥の上で寒さに震えながら旅をしていた姿が目に浮かびます。それが普通だったのでしょう。
即・楷書


  
宿・甲骨文字
宿・小篆
跪いた状態を表している漢字
寝・小篆
宿との対比のため、寝の小篆の字を列記した。「宿」と「寝」のちがいが際立っていると思う


    


「宿」の漢字データ
 

漢字の読み
  • 音読み   シュク、スク  
  • 訓読み   やど、やど(す)(動詞)、やど(る)

意味
     
  • やど       宿屋、旅館、滞留するところ、住み家 
  •  
  • やどす      宿泊する       例)子を宿す、やどらせる
  •  
  • もとからの          

漢字「宿」を持つ熟語    宿直、野宿、合宿、宿酔、船宿、宿便




引用:「汉字密码」(Page、唐汉著,学林出版社)
唐漢氏の解釈
  「宿」は会意文字である。甲骨文字の「宿」の字は外は家屋のデッサンである。家屋の中の右には蓆があり、蓆(ムシロ)の上で仰向きに横になっている。
 金文の構造は甲骨文字と同じであるが、蓆の形が三角形に変わっていて、人と蓆の位置が入れ替わっている。
 小篆の「宿」は変化していく中で、蓆は「百」の字に変わって、楷書では「宿」となった。 

 万葉集の「家にあれば笥に盛る飯を草枕旅にしあらば椎の葉に盛る」(有馬皇子)の詩を彷彿とさせる字である。この詩を少し変えて、今の漢字に焦点を当てて詠みなおすと
「家にあれば褥に寝るはずが 草枕宿にしあれば藁の蓆に臥す」とでもなるのかも知れない。





漢字「宿」の字統の解釈
  宀と人が廟中に宿泊することを示す言葉に従う。説文に「止まる也」とするが、留宿して廟所を守るのが字の原義。
 白川博士は宿は「廟を守るために投宿すること」とするが、甲骨文字や金文などの成り立ちから見ると、少し後付けのような気がしてならない。


まとめ
 漢字の中には、人々の生活や息吹が生き生きと刻み込まれている



「漢字の起源と成り立ち 『甲骨文字の秘密』」のホームページに戻ります。