2021年4月15日木曜日

漢字「貧」の成り立ちと由来の意味するもの:「貧富の差」は歴然。現実の生活でも、貧しいものはやはり貧しかった


漢字「貧」の成り立ちと由来の意味するもの:「貧富の差」は漢字の貧富の差にどう表現されているのか?
 貧富の差が社会問題化している。貧富の差などは国内ではとうに解決されているはずであったのだが、実際上は貧困化の問題はより深刻に進行し、特に子供の中での貧困の問題は看過できないものとなっている。そして今や以前とは違った形で貧困問題が云々されるようになった。明日の飯が食えないという絶対的貧困以外に、精神的貧困、社会的貧困などの問題が露呈してきている。

 ここでは、漢字の成立の過程で、人々の生活、特に貧困の問題が漢字の形成の上にどのように反映されているかを見てみることにしたい。
 ただしこのブログは学術論文でないし、本格的に語る力など毛頭ない。ここで出来ることは、漢字の形成時期に社会はこうではなかったかという視点を提起するだけに過ぎない。


漢字「貧」と「富」の楷書で、常用漢字です。これらの漢字をじっくり眺めて見た時、貧の字と、富の字は夫々に、それらしさが備わっているように思えますが皆さんはどうでしょう。
貧・楷書富・楷書


  
「貧」古文_第1款
字面からいうと、家の中には必需品の刀しか置いていない
のが「貧」の状態ということだ。
「貧」・古文_第2款
貧しいといえいくらかの財はある
「富」甲骨
甲骨時代の「富」とは家に酒瓶が
転がっていることだととらえられていた!
  


    


「貧」の漢字データ
 

漢字の読み
  • 音読み   ヒン、ビン
  • 訓読み: まず(しい)

意味
  • まずしい  ①「財産が少ない」(例:貧困) ②「不足している」③「徳(人の性格で、生まれつきまたは生活する中で身についているもの。特に、その中で正しく良いもの)が不足している」
  • まずしいこと、まずしい人
  • 少ない、足りない(例:貧弱、貧血)

使い方
  • 家が貧しい  貧乏だ
  • 考え方が貧しい ・・よく考えられていない
  • 見かけが貧弱だ  見た目が立派に見えない

熟語   貧血、貧乏、貧弱、貧困、





漢字「貧」の字統の解釈

 会意文字:貝と分に従う。「説文」に「財を分かつこと少なきなり」とし、亦(えき)声とする。財を分かつとは、一連の貝を分つ意味で、貝はもと一連の朋を単位として数える。《詩・北門》は宗の搾取に苦しむ殷の遺民の詩に、すでに「貧」を詠った句がある。貧苦のことは、支配と服従の関係とともにはじまるのである。






漢字「貧」の漢字源の解釈
 会意兼形声。分は「八(印)・分ける+刀」の会意文字で、二つに分けること。「貧」は「貝+音符・分」で、財貨を分散しつくして、乏しくなったことをあらわす。


まとめ
 貧富の差が社会問題化している。貧富の差などは国内ではとうに解決されているはずであったのだが、子供の中での貧困の問題が大きな社会問題となっている。白川博士が言うように『貧苦のことは、支配と服従の関係とともにはじまるのである』とはまさに、至言である。甲骨文字を引いてみると、古代では、貧困とは生活必需品の刀しか家にないのが貧困だと考えられ、逆に家に酒瓶が転がっているのが、富の状態と考えられていたのではないかと推察される。



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2021年4月12日月曜日

漢字「宣」の由来の意味するもの:緊急事態宣言の「宣」の持つ何かおどろおどろしい雰囲気はどこから来るのか


漢字「宣」の成り立ちの意味するもの:緊急事態宣言の「宣」の持つ何かおどろおどろしい雰囲気はどこから来るのか
 漢字「宣」の持つ重々しい雰囲気、何かおどろおどろしい漢字はいったいなぜと考えていたが、ここにようやく謎が解けた漢字がする。つまり「宣」の由来は、獄舎を表す漢字だったからである。この漢字の建屋のなかで、殷の紂王が殺されたり、孝文帝が此処に繋がれたりし、またおそらく古くから軍事や獄訴訟のことが行われるところで、そこで発せられるものが宣言であったりしたことからくる背景を帯びているからであろう。

 この記事は、以前に上載した記事に全面的に加筆を加え、再録したものです。


漢字「宣」の楷書で、常用漢字です。最近「緊急事態宣言」というある種の重々しい響きをもった言葉がよく聞こえてくるようになった。
 ではこの宣言の「宣」という言葉のもと重々しさはどこから来るのか漢字「宣」の成り立ちと由来から探ってみよう。
宣・楷書




  
「宀」_甲骨文字
屋根や家屋。建屋を表す
「亘」・甲骨文字
建屋の内部構造で、複雑な部屋の構造渦巻き状に多くの部屋が付けられた獄舎という
宣・小篆
以上2文字を比較的忠実に引き継ぎ、文字として整備されている


    


「宣」の漢字データ
 

漢字の読み
  • 音読み   セン
  • 訓読み   の(べる) のたま(う)

意味
  • のべる。 あまねく、意向を分からせる。
  • のたまう    天子が意向を述べ知らせる。
  • あまねし  あきらか。 広く行き渡るさま。

使い方
  • あまねく、意向を分からせる。広く意向を知ってもらう・・宣伝
  • 態度や考えを広く表明する・・宣言

熟語   宣誓、宣言、宣告、街宣、宣戦、宣布、託宣




引用:「汉字密码」(P720、唐汉著,学林出版社)
唐漢氏の解釈
 "宣xuan " は、これは会意文字だ。甲骨文の "宣 " 字は、上部は家屋の外形"∩ "を表し、内部は回転を示す記号である。二つの形の会意で、人に屋内走り回らせるほどの大きい部屋と認められる。
 金文の "宣 "の外枠は、甲文と似ているが、中は回転の記号が美観上対称になっているだけだ。大いに巻いている様子と、その下はまた一つの点が加わり、家室前の足場も示しているようだ。またここから入っていく意味を表している可能性もある。
 小篆の "宣"の文字はこれから来て、楷書それ故に"宣 "と書く 。

 《淮南子・本経訓》に記載する "武王は武装した兵士三千を率いて、纣王を野に破り、宣室でこれを殺した。"ここの "宣室"、は纣王が居住する宫室の意味である。宣の "大きい家"の意味から、また引き出されて "大げさである"の義も出てくる。
 

漢字「宣」の字統の解釈
会意文字:「宀」と「亘」に従う。宀は廟屋、亘は半円形のものをいうことが多く、、亘の形が渦巻状で示されているおのは、その内部構造を示すものとみられる。

 唐漢氏が《淮南子・本経訓》の記述を引いて、この「宣」室が、殷の紂王の居室であったとするが、白川博士は宣室は、裁判や獄治に関する施設であっただろうと考えている。つまり獄舎ではないかと考えているようだ。

 私もいくら中央を捉えて殺すにしても、居室では殺さないと思う。やはり公の場所で殺すと考える方が理にかなっていると思う。


まとめ
 会意文字であることには異存はないようだが、漢字「宣」を周りを垣根を巡らせた宮殿とか、走り回れるほどの大きな屋舎とかといった解釈もあるが、白川博士も言うように、獄舎として使い方の例も多く、最も合理的と考える。


参考文献:「宣」 漢字の起源と由来
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