2025年4月1日火曜日

漢字「心」の叫び:旧い価値観に毒された資本主義文明の価値観からの解放を


漢字「心」の叫び:旧い価値観に毒された資本主義文明の価値観からの解放を

 

はじめに

このページ「漢字「心」の叫び:旧い価値観に毒された資本主義文明の価値観からの解放を」を通して分かること

このページから分かること

  • 「心」のケアに役立つ「ものの見方」がわかる
  • 五行説は、古代中国の哲学思想が理解できる
  • 漢方を見直しできる
  • 今まで知らなかった旧くて新しい価値観が理解できる
  • これまでの自分の生活を全面的に見直すきっかけを掴める
  • 認知症の予防に役に立つ


目次



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1.1 五行説とは何か、どのような歴史的背景・文化的意義があるか

 五行説は、古代中国の哲学思想のひとつで、自然界や人間社会のあらゆる現象を「木」「火」「土」「金」「水」という五つの基本的な要素に分類して考える枠組みです。
 しかも、これらの要素は、静的な物質ではなく、宇宙における様々な性質、機能、変化の状態、そして相互作用を表しています。  そしてこの考え方は占星術、音楽、政治など、古代中国の思想の広範な領域に影響を与えてきました。中でも、医学の分野では現代に至っても中国医学(TCM)では根幹をなす概念の一つとして、重要視されています。

歴史的背景:
紀元前数世紀に成立したとされ、古代中国の天文、暦、医学、占星術、さらには政治や軍事戦略にまで影響を与えました。陰陽説とともに、万物の変化と調和を説明するための基本的な理論体系として発展しました。

文化的意義:
この思想は、自然の循環やバランス、変化の法則を重んじる中国文化の根幹を成しており、漢方医学や風水、さらには日本や韓国などの東アジア諸国の文化にも大きな影響を与えています。また、個々の五行が互いに生成(相生)や抑制(相克)しあうという考え方は、調和とバランスの重要性を説く哲学として現代にも通じる普遍的な価値を持っています。

 以上五行説を顧みて、私たちが中華思想や漢方がどちらかというと古臭い、遅れたものだと思っていました。しかし実は五行説こそが今まで私たちが西欧文明にどっぷりつかって忘れ去っていた概念即ち、「物事を運動の中で捉え、関連の中で捉える」を思想体系として確立したものを持っている事を再認識することができました。

1.2 五行の解剖:性質、象徴、そして動的な関係性

五行説・内臓関連図
五行説 内臓関連図

 五行説における五つの要素は、それぞれ固有の性質と象徴的な意味合いを持ち、互いに影響を与え合いながら宇宙の調和を保っています。
  1. 木(もく)
    木は、樹木や草花が上へ、外へと伸びやかに成長する様子を表し、成長、発展、拡張、柔軟性、そして上昇の性質を持ちます。色は青や緑、季節は春、方角は東と関連付けられています。木は、生命力、創造性、そしてサイクルの始まりを象徴しています。春という季節、そして日が昇る東という方角との関連性は、自然界における誕生と新たな始まりの概念と深く結びついています。

  2. 火(か)
     火は、炎が熱く燃え上がり、上昇する様子を表し、熱、温かさ、上昇、明るさ、そして情熱の性質を持ちます 1。色は赤、季節は夏、方角は南と関連付けられています。火は、エネルギー、熱意、そして活動の頂点を象徴しています。最も暑く、日照時間が最も長い夏との関連は、一年の中でエネルギーが最も高まる時期を示唆しています。

  3. 土(ど)
    土は、万物を受け入れ、育み、変化させる大地を表し、安定、育成、滋養、そして変化の性質を持ちます。色は黄、季節は土用(季節の変わり目)、方角は中央と関連付けられています。土は、バランス、調和、そして生命を支える根源を象徴しています。季節の変わり目の中央に位置づけられることは、他の要素のサイクルを安定させ、媒介する役割を示唆しています。

  4. 金(ごん)
    金は、金属が持つ清らかさ、硬さ、そして収斂する性質を表し、清潔感、清涼感、収斂、そして改革の性質を持ちます。色は白、季節は秋、方角は西と関連付けられています 1。金は、収穫、終焉、そして新たな段階への準備を象徴しています 1。収穫の季節である秋との関連は、成長のサイクルの終焉と、次なるサイクルへの準備期間を示唆しています。

  5. 水(すい)
     水は、潤いを与え、下へと流れる性質を表し、下降、寒冷、潤下、そして貯蔵の性質を持ちます。色は黒、季節は冬、方角は北と関連付けられています。水は、休息、再生、そして生命の源を象徴しています。寒く、暗い冬との関連は、エネルギーを蓄え、次の成長期に備える時期を示唆しています。


  6. 五行の動的な関係性:相生と相克
  7.  これらの五つの要素は、互いに影響を与え合う二つの主要な関係性を持っています。
    • 相生(そうしょう): 一方の要素が他方の要素を生み出し、助け、促進する関係です。木は燃えて火を生じ(木生火)、火は燃え尽きて土を生じ(火生土)、土の中からは金属が産出し(土生金)、金属の表面には水滴が生じ(金生水)、水は木を育みます(水生木)。これは、滋養とサポートのサイクルを表しています。
    • 相克(そうこく): 一方の要素が他方の要素を抑制し、制御する関係です。木は土から養分を吸い取り(木剋土)、火は金属を溶かし(火剋金)、土は水をせき止め(土剋水)、金属は木を切り倒し(金剋木)、水は火を消し止めます(水剋火)。これは、バランスと抑制のサイクルを表しています。
    • これらの相生と相克の相互作用は、五行システム全体のバランスと調和を維持するために不可欠であり、単一の要素が過剰になったり、不足したりするのを防ぎます。



    1.3 今文尚書説:五臓への五行の配当

     今文尚書(きんぶんしょうしょ)説は、古代中国の古典である『書経(しょきょう)』の解釈における主要な学派の一つです。五行説の枠組みの中で、今文尚書説は、伝統中国医学における五つの主要な内臓、すなわち五臓(ごぞう)に対して、五つの要素を特定の方法で対応させています。 今文尚書説によれば、五臓と五行の対応は以下の通りです。:

    • 肝(かん)は木(もく)に対応する;
    • 心(しん)は火(か)に対応する
    • 脾(ひ)は土(ど)に対応する 
    • 肺(はい)は金(ごん)に対応する 
    • 腎(じん)は水(すい)に対応する

     歴史的な背景として、古文尚書(こぶんしょうしょ)説と呼ばれる別の学派が存在し、脾を木、肺を火、心を土、肝を金、腎を水と対応させるなど、異なる配当を提唱していたことも注目されます。しかし、伝統医学においては今文尚書説の配当がより広く採用されてきました。このことは、今文尚書説による臓器と要素の関連付けが、他の解釈と比較して、生理学的および病理学的な現象をより適切に説明できると考えられてきたことを示唆しています。


    2 対応関係の解読:臓器の機能と要素の性質の関連付け

     今文尚書説における臓器と要素の対応は、単なる分類ではなく、それぞれの臓器の機能的特徴が、対応する要素の性質と深く共鳴していると考えられています。ここでいう臓器の機能は、西洋医学的な解剖学的定義とは異なる、伝統中国医学独自の概念を含むことに留意する必要があります。

    1. 肝(かん)と木(もく)
       伝統中国医学において、肝は全身の気(生命エネルギー)と血(血液)の流れをスムーズに保つ役割を担っています。この機能は、木が持つ成長し、伸びやかに動く性質と一致します。また、肝は計画性、決断力、そして怒りや欲求不満といった感情のバランスにも関わると考えられています。これは、木の持つ力強い成長と、時に硬直したり、影響を受けやすかったりする性質と関連付けられます。さらに、肝は血液を貯蔵し、必要に応じてその量を調節する機能を持つとされます。これは、樹木が樹液を蓄え、必要に応じて流動させる様子に例えられます。伝統中国医学における肝の概念は、単なる物理的な臓器だけでなく、自律神経系や感情の調整といった、より広範な機能を含む点が西洋医学とは異なります。

    2. 心(しん)と火(か)

    3. 心・火・夏の説明図
       五行説における心・火・夏の説明図
       心は、血液循環を司り、全身に温かさを供給する役割を持つとされます。これは、火の持つ熱と上昇の性質を直接的に反映しています。また、心は精神、意識、思考、感情(特に喜び)、そして睡眠を司る「神(しん)」が宿る場所と考えられています。これは、火の持つ明るく、エネルギーに満ちた性質と関連付けられます。心は血管を制御し、その状態は顔色に現れるとも言われます。これは、体の内なる「火」が外に現れる様子と捉えられます。伝統中国医学における心の役割は、西洋医学における心臓の機能に加え、精神や意識といった側面を含むことで、心身のつながりを強調しています。

    4. 脾(ひ)と土(ど)
    5.  脾は、食物を消化吸収し、栄養分を気や血へと変換する重要な役割を担うとされます。この機能は、土が物質を育み、変化させる性質と合致します。脾は、栄養分を全身に輸送・分配し、内臓を正しい位置に保つ働きも持つとされます。これは、土が安定性と支持性を持つ性質を反映しています。脾は、憂いや考えすぎといった感情と関連付けられ、筋肉や口にその状態が現れるとも言われます。これは、感情が消化機能に影響を与えることを示唆しています。伝統中国医学において、脾は気と血を生み出す中心的な役割を担い、全身のエネルギーと活力の基盤となると考えられています。

    6. 肺(はい)と金(ごん)
    7.   肺は、呼吸を司り、体内に空気を取り込み、不要なガスを排出する役割を担います。これは、金が気とその下降・発散の動きを司る性質と一致します。肺は、外部の病原体から体を守る衛気(えき)を全身に分散させ、体液の調節にも関与するとされます。これは、金の持つ清浄性と防御の性質を反映しています。肺は、悲しみや憂鬱といった感情と関連付けられ、皮膚や鼻にその状態が現れるとも言われます。これは、呼吸と感情の状態との関連を示唆しています。伝統中国医学において、肺は呼吸と防御という、体と外部環境との相互作用において重要な役割を果たします。

    8. 腎(じん)と水(すい)
    9.  腎は、成長、発育、生殖、そして寿命に関わる根本的な物質である精(せい)を貯蔵する役割を担います。これは、水が貯蔵の性質を持ち、生命の根源と深く関わることに合致します。腎は、水分代謝を司り、尿の排泄を調節し、体内の水分バランスを維持する機能も持ちます。これは、水が体液を調節し、下へと流れる性質を直接的に反映しています。腎は、恐れや驚きといった感情と関連付けられ、耳や骨にその状態が現れるとも言われます。これは、生命の根源的なエネルギーと感情反応との関連を示唆しています。伝統中国医学において、腎精は生命の基礎であり、長期的な健康を維持するために重要であると考えられています。



    3.伝統中国医学における応用:五行による身体のダイナミクス理解

     この臓器と要素の対応関係、そして五行間の相生と相克の関係は、伝統中国医学において、人体の生理学的および病理学的状態を理解するための基本的な枠組みを形成しています。
     五行のバランスが崩れると、対応する臓器の機能不全として現れたり、その逆も起こり得ます。例えば、木(肝)のバランスが崩れると、怒りや硬直といった制御不能な「成長」として現れる可能性があり、水(腎)の不足は、乾燥や不安定さをもたらす可能性があります。

    漢方の相性・相克説明図

    小太郎漢方製薬株式会社のウェブサイト参照

     相生の関係
     臓器が互いにどのように支え合い、滋養し合っているかを説明する上で重要です。
     例えば、腎(水)は肝(木)を滋養し、肝(木)は心(火)を滋養し、心(火)は脾(土)を滋養し、脾(土)は肺(金)を滋養し、肺(金)は腎(水)を滋養します。

     相克の関係

     過剰な活動や不足を防ぎ、バランスを維持する上で重要です。例えば、肺(金)は肝(木)を制御し、肝(木)は脾(土)を制御し、脾(土)は腎(水)を制御し、腎(水)は心(火)を制御し、心(火)は肺(金)を制御します。




     これらの関係は、臓器機能の相互関連性や病気の進行を理解するために用いられます。
     例えば、肝(木)の不調は、相克関係により脾(土)に影響を与え、消化器系の問題を引き起こす可能性があります。同様に、腎(水)の不足は、相生関係により肝(木)を十分に滋養できず、肝に関連する症状を引き起こすことがあります。


    五臓の相性・相克説明図

    小太郎漢方製薬株式会社のウェブサイト参照


    五行システム内のバランス
     この理論的枠組みは、伝統中国医学における診断原則を導くものであり、症状や徴候を観察することで、影響を受けた臓器とその対応する要素における不均衡のパターンを特定します。また、鍼灸、漢方薬、食事療法などの治療戦略は、不足している要素を補い、過剰な要素を制御し、要素間の関係を調和させることで、五行システム内のバランスを回復させることを目的としています。

     五行説は、単に症状に対処するのではなく、不均衡の根本原因を治療することを重視する、洗練された診断・治療の枠組みを伝統中国医学に提供しています。また、「五臓」という概念は、西洋医学的な解剖学的臓器とは異なり、より広範な生理的、感情的、そして精神的な側面を含む機能システムを表していることも重要です。


    4.まとめ

     中国の五行説における今文尚書説は、肝を木、心を火、脾を土、肺を金、腎を水と対応させることで、人体の主要な臓器と宇宙の基本的な要素を結びつける独特な視点を提供します。
     この対応関係は、単なる分類に留まらず、それぞれの臓器の機能的特性が、対応する要素の性質と深く関連しているという考えに基づいています。
     さらに、五行間の相生と相克の関係を通じて、臓器間の相互作用や身体全体のバランスを理解しようとするのが、伝統中国医学の重要な特徴です。

     この古代の知恵は、現代においても、人間の健康と病気を理解するための貴重な枠組みを提供し続けています。

    以上、五行説を改めて顧みて、実は五行説が「物事を運動の中で捉え、関連の中で捉える」を思想体系として確立したものを持っている事を思い知ることができました。このことこそ、今まで私たちが西欧文明にどっぷりつかって忘れ去っていた事を反省し、
     価値観も含めて、生活全体を見直さなければならない時に来ているのだと強く感じました。  


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2025年3月27日木曜日

漢字『師』の起源と由来:師団と師の関係はどうなっているの


漢字・師:元々軍用語!やがて先生の意も持つように。一体なんで?


この記事は以前にアップした下記の記事を全面的に加筆修正したものです。
漢字「師」の成り立ちから読めるもの:この漢字は最初から戦闘集団を表していた。

導入

 全国の学校で卒業式が行われている。一昔前の卒業式では必ず「仰げば尊し我が師の恩」のようなフレーズの歌が流されていた。
 ところが最近では、学校の教師と生徒の関係がフラットになって、まるで友達のような会話が見られる状況では、「我が師の恩」などというフレーズは流されないのではなかろうか。

 実はこの「師」という言葉の意味も随分異なって来ている。
 この字は生まれた当初からしばらくは軍隊の戦功祈願の儀式を表す言葉であって、その名残りが「師団」という軍隊用語に残されていた。

押しかけ推薦・一度は読みたい名著  阿辻哲次著『漢字學

漢字學の原点である許慎の「説文解字」の世界に立ち返り、今日の漢字學を再構築した名著

前書き

目次




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漢字「師」の今

漢字「師」の成立ち


漢字「師」の由来:出陣に際し、祭肉を祖先の廟に祭って戦功を祈願した事に起源がある
 軍の戦闘集団を師団といい、(日本の戦時の師団の構成人数は大体2万程度の兵力でした。)その指揮者を「師」というようになった。
 しかし、古代国家の軍隊はその経済力から類推ししても、せいぜい1000人規模でなかったかという説もあります。少なくとも人口10万人規模の国家でないと軍隊を擁するにも一苦労であったことでしょう。その意味で、この言葉が本当に確立されたのかも疑わしいのですが、そこそこの規模の軍隊を擁するのは周も末期になってからそれも春秋戦国時代に入ってからであろうと推察されます。因みに春秋時代の総人口はせいぜい500万人前後だったろうと言われています。


漢字「師」の楷書で、常用漢字です。
 昔から2500人の師団を表すこと定着していたようだ。

 あるいはこの漢字一字で、軍を表したり、いくさ(戦争)を表すようだ。

  漢字「師」の左側は、甲骨文や金文では启で祭肉を表していた。ところが小篆では、神梯に変化している。なぜか。国家の規模が大きくなり、軍隊の規模も大きくなり、軍隊もさらなる神格化が必要になったと考えられる。したがって、今まで祭肉をシンボル的に使用していたが、もはやそれでは人々を引き付けられなくなり、神を持ち出したのではないだろうか。即物的な祭肉より、神梯からの神の降臨を演出ことで権威付けを強めたのではなかろうか。
即・楷書


 甲骨文字や金文の左側の記号は「祭肉」を表してた。ところが小篆では神梯を表すという。その変化は、軍の行動により神格化が求められた結果ではないだろうか。  
師・甲骨文字
軍が出行するとき、戦功を祈って祈願する時の祭肉を表す
師・金文
甲骨文字を引き継ぎ、軍の出行の際の祭肉を軍刀に突き刺し出陣すること
師・小篆
金文を引き継ぐが、祭肉が神梯に変化し、より神に祈ることを明確にしたものか


    


「師」の漢字データ


漢字の読み
  • 音読み   シ
  • 訓読み   いくさ

意味
  • 軍隊 二千五百人の軍の隊のことを言った。 説文に「二千五百人を師と爲す。币に從ひ、𠂤に従ふ。官の四币なるは、衆の意なり」とある。
  •  
  • 人を教え導く人、先生     例 師匠
  •  
  • 先生として尊敬する、手本とする   (例:恩師)

漢字「師」を持つ熟語    師団、恩師、師匠、軍師、師走


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漢字「師」成立ちと由来

引用:「汉字密码」(Page、唐汉著,学林出版社)

字統の解釈

 启と帀に従う。启は軍の出行のとき携える祭肉の形で、師の初文。帀は把手のある曲刀の刃の部に小さな叉枝のあるもの。軍の出行するときは祖先の廟や軍社などに祭って、神佑を祈りその際肉を携えて出行するが、途中で軍を分遣して行動するときは、その際肉を分って出発させる。


漢字「師」の民俗的解釈

 遠くからやってきて、腰を下ろし、休憩することを表す。
 しかし、唐漢氏は、文字の変遷の中で、祭肉が神梯に変化していることを説明しているが、この変化は実に重要で、軍の組織の中に、強大化するにつれ、一層の神格化・権威化が持ち込まれたことを示しており、軍の組織がここで、画期を成す変化を生じたものと考えられよう。

「師」古代漢語P63 王力編、高等学校教材

  • 軍隊で2500人で一師を構成する。一般に漠然と軍隊を指す。
  • 知識を授ける技術人、先生。(弟子に相対する) 
  • 楽官 上古の楽師は一般的に盲目の人を任命していた。

「師」の歴史的変遷

文字学上の解釈

 ト辞では𠂤は師の左の要素であるが、古代中国で、出陣の際に祖先に戦勝を祈願する儀式に使われた「肉」を表していた。師はその肉を分ける刀を表す「帀」と肉からなる。




以下、軍の用語が先生という意味を持つようになった歴史的過程といきさつを纏めます。

  1. 軍事的な起源 「師」の甲骨文や金文からは、軍隊や戦争に関わる意味が盛り込まれていると見られます。 古代中国では、出陣の際に祖先に戦勝を祈願する儀式が行われ、その際に祭肉を供えることがありました。 軍隊を指す言葉としての「師」は、主に「大規模な軍隊(約2500人)」を指しました。戦の指導者や統率者も「師」と呼ばれました。

  2. 転じて指導者の意味へ 戦場で軍隊を率いる指揮官は、兵士たちを導き、教育・訓練を施しました。この役割から、「師」は指導者や教育者を意味するようになります。 軍隊の統率者が戦術や戦略を教える存在だったことが、知識や技術を教える一般的な指導者の意味へと広がりました。

  3. 儒教と教育の影響 儒教が広まると、知識や道徳を教える役割を担う者も「師」と呼ばれるようになりました。 孔子のように弟子を持って教え導く者が「師」と称され、学問や道徳を教える先生の意味が確立しました。

  4. 官職名としての「師」 古代中国では「太師」「少師」など、教育や政治の顧問的役割を持つ官職も存在しました。これは、指導的役割を重んじた文化を反映しています。

 字統では、師の変遷について、以下のように説明している。
 師長には古く氏族の長老たるものがあたり、師氏と称した。現役を退いたのちは、氏族の指導者 として若者の育成にあたり、師職となる。(周礼)に多く残されている師系の官職は、氏族時代におけ る師の職業のなごりを、その退化した形式において 伝えるものである。師のありかたの推移は、古代氏 族国家のありかたの推移を反映している。


まとめ

 「師」は、元々軍を率いる指導者を指していましたが、その指導力が教育や学問の分野にも適用されるようになり、現代の先生という意味へと発展したのです。
 以上のように、漢字「師」は実に多くの変遷を遂げ、それだけ多くの異体字を持っているようである。この事実は、この漢字が、軍隊に使われ、軍隊の仕組みやありかたが、変化するのに応じて、変化してきたことを示している。  

  


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2025年3月26日水曜日

漢字の金の起源と現代社会での金:金(Gold)の高騰はいつまで続く?

漢字『金』の起源と現代社会への影響そして、金の価値は昇り続けるのか

 

漢字『金』の歴史とその社会的影響について詳しく解説します。

 紀元前3000年前に早くもゴールドラッシュが起きていた??

 これまでにも世界各地でゴールドラッシュが報告されており、非常に多くの人々が一攫千金を求めて、鵜の目たかの目で金鉱山を探し回っています。
 現在では金は貨幣や装飾品に留まらずICチップや集積回路などに広く使われその需要はますます高まっています。

 つい先ごろ「中国の 湖南省 地質院は21日、同省平江県で40本以上の金の鉱脈を発見したと発表した」というニュースが世界を駆け巡りました。 その一方で金の採掘選鉱のため水銀が使われていますが、その水銀汚染のためアマゾン流域はずいぶん汚染され、流域の原住民の人々は『水俣病』に侵され苦しんでいると聞きます。

 その一方でGoldの価格は高騰し続け、世界中がある種のGoldラッシュの真っ只中の中にあり、その騒ぎは留まるところを知りません。  


このページは当ブログのコンテンツ

2025年 2月版  「人間の欲が社会の中で突き進む姿を漢字から探る」
2021年12月版 「漢字「金」:今年の漢字に選ばれたには理由がある」

の2回のReviseを経て、より分かりやすく、より読者の方々の疑問に答えることができるようVersionUPしたものです。 


このページ「漢字『金』の起源と現代社会への影響]を通して分かること

このページから分かること

  • 「金」という漢字の由来と成立ちが分かる
  • 人間の社会と金のかかわり 金が人間社会にどう影響を与えてきたか
  • 社会の変化と漢字  「きん、かね」を通して見る
  • 社会の変化と価値観の係わり 価値観の変化は社会の変化
  • 現代社会の歴史的位置づけ いま社会は歴史的にどこに位置するか
  • 未来社会がどう動くかの予測

金と価値観を見る視点

 近年世界的に価値観の変化が起こっているとよく言われます。
 誰もがその言葉に納得し、そこである意味思考を停止してしまっている感があります。

価値観が変わるというとき、具体的にどの「価値」が変化しているのかは、社会や時代によって異なります。 また価値観の変化は、テクノロジーの進化、経済の変動、グローバル化などの影響を受けて生じます。
 どの価値が変わっているかを考えるときは、具体的な分野を見ていくとわかりやすいですね。
 ここは漢字のページですから、ここではその価値観を「金」(かね、きん)に絞った上で、漢字の「金」を通して見つめなおしたいと思います。しばらくお付き合いください。

目次




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この記事は以前にアップした2021年版「漢字「金」:今年の漢字に選ばれたには理由がある」をリバイスしたものです。

漢字「金」は古代から現代までどのように変化したか

漢字「金」の楷書で、常用漢字です。
 上部は「今」で、語義は、貴金属の金、貨幣の「かね」を表します。

 「金」という文字はやはり不思議な力を持つようで、片や多くの人々のあこがれであるし、方は底知れぬ力で、人々を支配するものです。

 しかしそういった力は「金」に最初からあったわけではなく、資本主義の世の中で、金本位体制が長く続き、金が資本として、世界を君臨してきたからでしょう。

 そして漸く資本主義の終焉が叫ばれてきてはいますが、新しい世界は目の前に姿を現しません。共に新しい世界を探ろうではありませんか
金・楷書







漢字「金」のはどう変化したか


  
金・甲骨文字
上部は銅液の流出を表し、下部は「火」を表し、全体として溶錬を示す
金・金文
下部は一つの書き方では土から出来ている。即ち土(鉱石のことを示しているが)の中から冶煉で出来たことを示している。
金・小篆
金文を受け継ぎ、「今」と「土」と二つの点から出来た会意文字



    


    



「金」の漢字データ

漢字の読み
  • 音読み   キン・コン
  • 訓読み   かね・こがね

意味 
  • 材質
  •  
  • 貨幣を表す
  •  
  • 反射光を持つ黄色 

同じ部首を持つ漢字     銅、鉄、
漢字「金」を持つ熟語    金色、金環、金字

漢字「金」成立ちと由来の解説

引用:「汉字密码」(P774、唐汉著,学林出版社)
漢字「金」の「漢字の暗号」の解釈
 金は古代にあっては銅のことを称していた。その後金属類の総称となり、最後にはやっと専ら黄金の名前となった。

 甲骨文字の「金」の字は上下部の繋がった構造となっている。下辺は「火」であり、火で熔煉を表した。「金」の字の本義は銅であり、青銅の銘文の中で「吉金、赤金、美金」などから分かる。この中の「金」は全て銅を指している。
 


漢字「金」の漢字源の解釈
 会意兼形声。今は「抑えた蓋+一」から成る会意文字で、何かを含んで抑えた形を表す。「金」は「点々のしるし+土+音符今」で土の中に点々と閉じこもって含まれた砂金を表す。


漢字「金」の字統の解釈
 象形文字:銅塊等鋳込んだ形。説文に「五色の金なり」とし、金の土中にある形に今声を加えた形とするが、字は今声に従うものではない。金文の字形は全形の左右に楕円形の小塊二を添えている。


金(きんとかね)と社会の変化

「金」以前の貨幣

人間の社会が形成されるまでの歴史を振り返る
旧石器時代(Paleolithic Age)時代区分:約250万年前~1万年前
今から約250万年前類人猿としてではなく人類としてこの地球上に現れて一万年前までの長い長い期間、打製石器(石を打ち砕いて作る石器)を用いて、狩猟・採集が中心(遊牧や農耕はまだない)にして、洞窟や簡易な小屋を利用しながら家族などの極めて小さなまとまりで狩猟採集を主体とした移動生活を送っていました。
 このころの世界はある意味平和で、人々は自然に対する闘いは熾烈を極めていたかもしれませんが、少なくとも、人間同士の戦いや争い、戦争もそれほど多くなかったのではないかと考えられます。

新石器時代(Neolithic Age)時代区分:約1万年前~紀元前3000年頃(地域によって異なる)

  1. 石器の進化:磨製石器(石を研磨して作る石器)を使用
  2. 土器の使用:食料の保存や調理のために土器が作られる
  3. 農耕・牧畜の開始:小麦・大麦の栽培、家畜の飼育(ヤギ、牛、羊など)
    農耕・牧畜が始まったことが今後のあらゆる面での大変革となりました。
  4. 農耕が発展し生活が安定したことにより、余剰が産出され、富の集積がはじまり、力の強いもの、大家族が独占的に富を集積するようになりました。
    このことは奴婢や奴隷を持ちその労働を収奪することで、いっそうの富の集積が可能となり、奴婢や奴隷の獲得を求めて、争いや侵略や略奪が起こるようになりました。

  5. 定住生活:農耕による食糧供給の安定により村落が形成される  

  6. 社会の変化:階層社会の形成、交易の発展
     農耕の始まりはそれまで続いてきた母系制社会の崩壊を意味し、妊娠や子育てに多くの労力をとられる女性に変わり、腕力が強い自由度の高い男性が次第に力を得るようになり、社会は父系制社会へと変貌することになります。それはその後も続き秦の始皇帝の時代で完成することとなります。
    旧石器時代は「狩猟採集を主体とした移動生活」、新石器時代は「農耕牧畜を伴う定住生活」

    この変化は氏族制度の始まりとほぼ一致します。
    • 始まり:紀元前8000年頃(新石器時代の初期、農耕開始とともに)
    • 発展:紀元前5000年頃〜3000年頃(部族の形成と階層化) 
    • 完成:紀元前3000年頃〜1000年頃(氏族社会が貴族支配の国家へ移行)

    つまり、氏族社会は新石器時代に始まり、青銅器時代〜鉄器時代にかけて階層化が進み、最終的には王権を中心とした国家形成へと移行 していきました。 この男性有利の社会は3000年後の今日まで依然として続き、近年ようやく変化が見え始めているといっていいでしょう。


  ここで改めて、「社会のあり方」に基づいて時代区分を整理すると、以下になります。
狩猟採集社会(平等・移動生活)旧石器時代、新石器時代 農耕牧畜社会(定住化・階層化の始まり)氏族社会、青銅器、鉄器時代
国家形成社会(都市・階級社会・文字の発明):(紀元前3000年ごろ~中世
封建社会(領主制・宗教支配・商業発展):(中世~近世、5世紀~18世紀)
産業社会(資本主義・民主主義・機械化):(18世紀~20世紀半ば)
情報社会(IT・グローバル化・知識経済):(20世紀半ば~現在)
ポスト情報社会(AI・自動化・未来の可能性):(未来予測)(21世紀後半以降、予測段階)


「金」貨幣及び金の価値の変遷

 以上のような歴史的変遷の中で、氏族社会が生まれ貧富の差が生じ、階層が生まれ富が蓄積されるようになっても、金や貨幣が実際に流通の中で用いられるようになるのは紀元前1000年あたりまで待たなければなりませんでした。

貝による貨幣
貝による貨幣(南海諸島にて購入)

 交易がおこなわれようになった最初のころは貨幣は貝殻でできたものでした。その貝も二枚貝で子安貝のような種類が多く使われたといいます。これは貝は手に入り易かったからでした。

 したがってこのころできた古代の漢字には「貝」が使われており、私達も現在「財、貨」などの多くの漢字にそれを見ることができます。

 さらに紀元前1500年前の殷や周の時代には漢字の「金」という字は既に使われていましたが、このころの「金」という文字は実際にはGoldの金ではなく、銅の合金である黄銅を指していたということで、今の「金」が実際に使われるようになったのは、もうしばらく後のことになります。



地図の中にある緑の旗印が古代都市「ウル」

 人類が最初に金を採掘したのはメソポタミアの北部や東部の山岳地帯にある金鉱脈で古代から金が採掘されていたのではないかと言われています。

 人類と金の係わりは古くメソポタニア文明の栄えた今から約6000年ほど前、シュメール人が現代のイラク南部に位置する古代都市「アッカド」や「ウル」の近郊で金の採掘をしていたという記録が残されています。



 中国における金の採掘は、少なくとも商王朝(紀元前1600年頃 - 紀元前1046年頃)の時代には始まっていたと考えられています。
 各地で金鉱山の開発が活発化しました。中国における主要な金産地は、山東省、河南省、江西省、雲南省などです。

 これらの金は王侯貴族の装飾品として用いられており、金が貨幣として用いられるようになるのは、春秋戦国時代になってからになります。それでも、金は流通貨幣というより、財貨として蓄財に重宝されたようです。



春秋戦国時代の刀銭

  貨幣が経済活動を支える重要な役割を果たすようになるのは、春秋戦国時代(紀元前771年 - 紀元前256年)に入ってからになります。
 銅貨の半両銭を貨幣重量の基準とした(しかし流通貨幣としては統一されなかった)等を経て、漢〜唐が銅貨の五銖銭が王朝を超えて発行されるようになってようやく貨幣が本格的に流通することになります。






価値観の変遷と社会の向かう先

金に対する価値観は、歴史的に大きく変化してきました。

  • 古代 金は、その希少性と美しさから、古代文明においてすでに特別な価値を持っていました。
    装飾品: 金は、その美しい輝きから、装飾品として珍重されました。
    貨幣: 金は、その高い価値と安定性から、貨幣としても使われました。
    権力の象徴: 金は、その希少性から、権力や富の象徴としても使われました。

  • 中世 中世ヨーロッパでは、金はキリスト教教会や王侯貴族の財産として重要視されました。
    中世は基本的に封建制を基盤とする仕組みで、経済は土地・荘園に基づく農業でした。
    教会の装飾: 金は、教会の装飾や祭具として使われました。
    王侯貴族の財産: 金は、王侯貴族の財産として蓄えられました。
    錬金術: 中世ヨーロッパでは、金を生成しようとする錬金術が盛んに行われました。

  • 近世 大航海時代以降、ヨーロッパ諸国は、金や銀を求めて世界各地に進出しました。
    マルコポーロの「東方見聞録」が書かれ、日本が黄金の国として世界に登場しました。
    世界は全体主義国家に大きく舵を切り、それまで行われていた「土地の囲い込み運動」は影を潜め、逆に囲いを取っ払い統合し新しい世界の構築が模索されるようになりました。
    ヨーロッパでは宗教改革が起こったのも、宗教の壁を取り除きより多くの利潤を求める人間のあくなき欲望の表れともいえるでしょう。
    アメリカ大陸が発見され、アフリカ大陸が植民地として蚕食され、悲惨な結果を招きました。
    重商主義: 重金主義金や銀の蓄積は、国家の富の象徴と考えられました。
    植民地支配: 金や銀を求めて、多くの国が植民地支配を行いました。



  • 現代社会と「金」

  • 現代現代社会では、金は投資対象としての価値が注目されています。
    中世と近世で人間は地理的に拡大しつくし、拡大の余地がなくなってしまいました。
    次に資本が目に付けたのは国境をなくし、手さらなる利益の増殖を図ることでした。
    結果として、グローバリズムが叫ばれ、企業が国境の壁(規制)を取り払ったり、緩和させたりしました。
    人間の欲望はそれに飽き足らず、リアルの世界とバーチャルの世界の壁を取り払い更なる増殖を図っています。
    ドルの金本位体制が崩壊した今日、金は基軸材として機能していますが、今や仮想通貨がリアルの通貨の流通量を上回っている現実があります
    仮想通貨を流通させるプラットフォームのヘゲモニーをどこが握るかの争いになっています。
    インフレヘッジ: 金は、インフレに対するヘッジとして、投資家によって買われます。
    安全資産: 金は、世界経済の不安定化時に、安全資産として買われることがあります。
    宝飾品: 金は、宝飾品としても人気があります。


  • 先日U-tubeで「令和の虎 Tiger Funding特別編【FULL】」という番組で、成田悠輔さんが出演され、「世界から「お金」はなくなる。稼ぐより踊れ!」とプレゼンテーションされていました。
    これは、成田悠輔さん新刊『22世紀の資本主義 やがてお金は絶滅する』(文春新書)を受けての番組でした。
     大雑把に言うと、近未来社会で資本主義の発達?終焉と情報化社会の出現でお金そのものがなくなると同時に選挙制度などもなくなるというものでした。

     これは少しニュアンスが異なりますが、マルクスが資本論で唱えていたことと非常に似通っていたように思いました。

     このように、近い将来社会が大変動を起こし、それこそ、価値観も激変するということが最近よく聞かれるようになりました。
       これに対する備えは別として、私たちはまさしく歴史的な社会変動の正に入り口にいることだけは、認識しておいた方がいいのかもしれません。


  • 金の価格は今後とも上昇し続ける!?

    金の価格変動


    金の価格変動
    近年世界経済が安定しないとか、為替リスクが高まってきた事や、ICチップの素材としての需要の高まりなどの要因により、金(Gold)の需要が逼迫しているようです。そのため金の価格が高騰して、この5年間でほぼ倍近くになってきています。各国とも生産に力を入れてきているようですが、この傾向はしばらく続きそうです。そこで、金(Gold)の価格の変動をグラフにしてみました。




    金の価格変動の統計指標の推移の統計上の予測と経済に与える影響について

    以下考えられる要因と予測とリスクヘッジ及び見通しを考えられる限り、AIと相談をしながらではありますが、無い知恵を絞って考えてみました。



    金の価格変動の主な要因

    • 世界経済の不確実性:
      経済危機、インフレ、デフレなどの経済状況は、投資家のリスク回避姿勢を強め、安全資産である金への需要を高めます。
    • 地政学的リスク:
    • 戦争、テロ、政治的緊張などの地政学的リスクは、金の価格を押し上げる要因となります。
    • 米ドルとの関係: 金は米ドル建てで取引されるため、米ドルの価値が下がると、相対的に金の価格が上昇します。
    • インフレヘッジ: インフレが進むと、現金の価値が下がるため、インフレヘッジとして金への需要が高まり、価格が上昇する傾向があります。
    • 中央銀行の政策: 各国中央銀行の金融政策、特に金利政策は、投資家のリスク選好に影響を与え、金の価格に影響を与えます。

    金の価格変動の統計上の予測

      金の価格は、これらの要因が複雑に絡み合い、予測が難しいとされています。
      しかし、長期的な視点では、世界経済の不安定化、地政学的リスクの高まり、インフレ懸念などから、金の価格は上昇傾向にあるという見方もあります。 近年では、各国中央銀行が金融準備資産として金の保有量を増やしていることも、金価格を押し上げる要因となっています。

    経済に与える影響

     

    リスクヘッジ

    • インフレヘッジ: 金はインフレヘッジとして機能し、インフレ時には資産価値を守る役割を果たします。
    • 安全資産としての役割: 経済や政治の不確実性が高まると、投資家は安全資産である金に資金を移し、金融市場の安定に貢献します。
    • 金融市場への影響: 金の価格変動は、他の金融市場、特に株式市場や債券市場に影響を与える可能性があります。
    • 各国の金融政策への影響: 金の価格高騰は、各国の金融政策に影響を与える可能性があります。例えば、金の価格高騰はインフレ懸念を高め、中央銀行が利上げなどの金融引き締め政策を実施する要因となることがあります。


    • 今後の見通し

      今後の金の価格は、世界経済の動向、地政学的リスク、米ドルの価値、インフレ率、各国中央銀行の政策など、多くの要因によって左右されると考えられます。 これらの要因を総合的に判断し、慎重に投資判断を行う必要があります。

      注意点 金の価格は常に変動しており、予測はあくまで参考情報です。 金への投資にはリスクが伴います。投資を行う際は、十分な情報収集とリスク管理が必要です。

           

      まとめ

       以上のように漢字「金」という一文字についても、その変化の背景には長い歴史的、社会的変化、変遷の過程があり、漢字の持つ奥深さがよく理解できると思います。
      金に対する価値観は、時代とともに変化してきました。古代から中世にかけては、装飾品や貨幣、権力の象徴として重要視され、近世には国家の富の象徴として注目されました。現代では、金に対する価値観の変化に留まらず、バーチャルな世界に対する骨肉の争いも問われている中で、アメリカではトランプ政権が「アメリカ第一主義」を唱えて、登場しましたが、「アメリカ唯一主義」ではないかと疑わせる主張で、世界に混乱を巻き起こしています。
       価値観の変化は社会の変動であり、私たちは今後世界はどちらに向かうのか目先の事柄に囚われることなく、しっかり監視しなければなりません。自らの生き残りをかけて!

        


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2025年3月19日水曜日

漢字 『也』の起源と象徴的意味:古代社会と文字の秘密


漢字 也 の起源と象徴的意味:古代社会と文字の秘密



 先日「Courrierのサイト」というWebサイトで、かの高名な
阿辻哲次先生の著書「日本人のための漢字入門 (講談社現代新書 2563) 」の紹介記事が掲載されていた。早速拝見したところ、このブログでとり挙げたことのある漢字「也」という漢字についても触れられていた。少しおこがましいが、論調もあまり変わりなかったと思います。

 すっかり嬉しくなったので、過去のページ(漢字「也」の起源と由来)をブラッシュアップして、ここで再度取り上げることとした。

導入

このページから分かること
     分からなくてもせめて生きるヒントだけでも得られるかも?
 
  • 漢字『也』は、単なる文字以上の意味を持ち、古代人の思想や文化を映し出す鏡のような存在です。
  • 漢字 也の成立ちと由来
  • 漢字の生まれた背景
  • 太古の生殖崇拝との関係
  • 現代の神を凌駕するのか
  • そして未来社会は

前書き

  漢字「也」は、日常的に用いられる文字の一つですが、その起源をたどると、驚くべき文化的背景に行き着きます。太古の時代、文字は単なる記号ではなく、深い象徴的な意味を持っていました。本稿では、この漢字が持つ歴史的な成り立ちと、古代人が込めた意図について探ります。さあ一緒に考えてみませんか?

目次




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漢字「也」の起源

 「也」という文字は、その形状から多くの解釈がされています。一説には、古代の生殖崇拝に関連する象徴とみなされています。特に、初期の象形文字は自然界や人体から着想を得ていたため、「也」の形が生命や繁殖を象徴していると考えられるのです。



漢字 也の楷書体
漢字 匜(古代の水器)の楷書体


 漢字・也は「匜」 のもとの字だそうで、水器の象形ということです。
右は匜の楷書です。也の旁が入っているのはわかりますが、也と匜はなかなか結び付きません。
也・楷書


也の金文体(鋳物の刻印に使われた)
匜の金文体
也の甲骨体(単独では実在していない)
也・金文
匜・金文
也・甲骨
これは唐漢氏が漢字「育」から作った造字です


   

「也」の漢字データ

漢字の読み
  • 音読み   ヤ
  • 訓読み   なり

意味
  • 文語体 ナリと読み「~である」と訳す
  •  
  • ヤ、カ と読み「~であろうか」と訳す
  •  
  • ヤと読み「~こそ」と訳す

同じ部首を持つ漢字     也、匜、地、池
漢字「也」を持つ熟語    也哉、也已、也哉


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太古の生殖崇拝との関係

 「日本人のための漢字入門 (講談社現代新書 2563) 」では、「也」という文字が祭礼や儀式において重要な役割を果たした可能性についても触れています。特に、生殖崇拝が生命の循環や自然の再生を祝う中心的なテーマであったことが指摘されています。この視点を補完する形で、「也」がその象徴としてどのように用いられたのかをさらに掘り下げてみましょう。


参考書紹介:「落合淳氏の『漢字の成立ち図解』」

参考書サイト:Courrierのサイト:Culture
 知識人たちも困惑 漢文に頻出する「あの文字」は、女性器をかたどった象形文字だった!
 

引用:「汉字密码」(Page、唐汉著,学林出版社)

唐漢氏の解釈

 「也」説文では、「也は女陰なり、象形文字と解釈している。秦刻石の”也”の字である。これがいうに、女性の生殖器の象形であるとし、小篆でと書く。昔からいろいろの解釈があり、反対者もはなはだ多かった。

也の4款
 甲骨文字では育の字は左のように描く。嬰児の出生の一般的状況下で頭が先に出てくる。このため倒置すると、女陰を示す甲骨文字の也という字から嬰児が出てくる模様を完全に表現したものと考えられる。

 也の本義は既に消失しているが、今日では多く使われ、漢語の虚詞を作る。 又漢語の多くの構成要件にもなっている。

 「地」が生殖の土とで、地は土と也からなる。池は水中で万物が繁殖するところで、水と也からなる。  也の仮借は虚詞も作り、主要には判断の語気の言葉に用いられる。也の字は又副詞にも用いられる。


漢字「也」の字統の解釈

匜(水器)
原字は「匜(イ)」と称する水器

 匜とよばれる水器の象形。〔説文〕一二下に 「女陰なり。象形」とし、重文として秦刻石の也のしんかん字形をあげているが、それは秦漢のときの字形で、 字の初形ではない。字は金文にみえ、明らかに匜の象形であるが、〔段注〕になお女陰象形説を固執している。性器の名については、〔神異経〕に天刑を受ける男女のことをしるして、「男はその勢を露はし、女はその殺を彰はす」とあり、声の近い字をもっていえば、施にその義がある。
 基本的には説文の説を踏襲しているように思える。白川博士のいう匜という水器からはどう考えても女陰など出てこないが…。



水器「医」とは何か 奈良国立博物館資料より参考にした。

 もともとの定義は把手と注口のついた器で、水を注ぐ用途があるという。新石器時代の土器中の把手と注口のついた器を匜(い)と呼ぶこともあるが、青銅製の匜は西周後期以降に出現した。
 浅くて楕円形の器身・断面U字形の大きな注口・三足または四足がつく。蓋を動物形に作ったり、注口の部分に動物の頭部を形作ることによって、動物の口から水を注ぐ趣向になったものが多く見られる。
(参考文献:坂本コレクション 中国古代青銅器. 奈良国立博物館, 2002, p.49, no.196.)

漢字「也」の漢字源の解釈

 象形:平らに伸びたサソリを描いたもの。



現代への繋がりと未来への展望

文字学上の解釈

 古人にとっては、子孫の反映のため、今以上にセックスは重要なことであった。
 そのため生殖崇拝が広く信仰され、世界のいたるところで、男根、女真を奉ることが行われていた。
 今でこそ、ある意味卑猥なこととして見られているが、古人にとってはそれは切実なことだったと考えられる。
 なぜなら、当時、家族や部族を増やすことは実に死活問題であったはず。子供が生まれても、平均寿命が15、6歳であった時代では人口を増やすことは至難の業であった。だからこそ近代社会では猥雑なこととして嫌われる「夜這い」の風習も古代にあっては、非常に重大なことなのであった。
 また、近代においても、極冠の地やジャングルなどの外部から隔絶した社会でな、外部からの来訪者や旅行客などが部落に宿泊した際、部落の女性、主婦までもが夜のお相手をしたという話を聞いたことがあるが、それは接待ということではなく、外部の血を入れることや、子孫を絶やさないという必然性からくる止むを得ないむしろ必然的な行為であったのかもしれない。
時代が下って、人々がそれほど働き手や、戦士を必要としなくなると人々の崇拝の対象はは生殖から食料の確保、自然の克服のための「神」へと移って行ったのではなかろうか。
 そのことからしても、漢字の中に社会の発展過程の母斑を垣間見ることは非常に大切なことと考える。
 生殖から食料そして抽象的な神の崇拝へその次に来るものは如何なる認識が必要か?神か、人間の知能を超えるものがあるのか。今まさにそれが問われる時に我々は生きている。正に価値観が大きく変わる時代なのだ! 今は!!

まとめ

 現代では、「也」は文語表現として用いられることが多く、その象徴性は薄れているように見えます。しかし、この文字が持つ起源を知ることで、私たちは文字そのものが持つ力や、古代からの人類の思想の変遷に改めて気付かされます。そして何よりも私たちは今どこに立っているのかを!

  


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2025年3月10日月曜日

漢字・政:ドナルド・トランプは漢字が読める? 始皇帝の生まれ変わりか? 


 政は「正」と「攴」からなる。正は他邑(くに)を征服する意味を持つ。 他国の支配のために攴撃を加えることを政という。

ドナルドやウラジミールを見ていると、彼らは3000年前の秦の始皇帝とよく似ている?
生まれ変わりとしか思えないほどである。
ああトランプ、されどプーチン 3000年前に戻りしか!

その心は漢字「政」にある。

本稿は2012年2月8日に発行の「漢字「政」の起源と由来」を全面加筆修正したものである。

導入

前書き

 漢字「政」の基本字素は「攴」である。攴の意味するところは、こん棒で殴りつけることである。

  では、そもそもこの政治の「政」という字はいかなる意味を持っていたのか?
 そしてそれは、どのように使われたのか。
 この問いに最も端的に答える例がある。それは、秦の始皇帝ではないだろうか。始皇帝は自身は韓非子の教えを、自身の骨の髄まで叩き込み、成長してからは法家の後継者 商鞅・李斯を取り立て、法による支配を国是とする一大帝国を作り上げた。


 その始皇帝の諱名は「政」であった。これは彼の生前の名前でもあったが、「その意味するところは、他邑を攻撃征服することを示す字」であり、他をこん棒でもって殴り倒してでも他の国・邑を制覇することが、正義であるという考え方に基づき、生涯を全うした。

まさに秦の始皇帝自身が「政」そのものであった。
始皇帝の名前「政(せい)」の由来は、生まれた年に関係しているということです。「かみをたてまつる」  彼の本名は嬴政(えいせい / イン・ジェン)で、「政」という名前は、彼が誕生した紀元前259年が「正月の月(政月)」から来たといわれています。「政月」は、戦国時代の秦で使われていた暦法(秦暦)における1月の別称であったということです。そのため、生まれた時期にちなんで「政」という名前がつけられたとされています。

 また、「政」には「統治する」「治める」といった意味もあり、王族の名前としてもふさわしい文字だったと考えられます。始皇帝の名前「政(せい)」の由来は、生まれた年に関係しています。

目次




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漢字「政」の今

漢字「政」の解体新書

政_楷書
漢字「政」の楷書で、常用漢字です。
 漢字「政」を決定づける基本字素は「攴」であり、この攴が付く漢字には、「改、救、攻、放、故」等数多くあるが、いずれも「力ずく」でものごとを行うという意味を暗示している。そのことを踏まえ、これらの漢字を吟味すると、今まで見落としていた漢字の味わいが見えるようになること請け合いだ。

 ここでいう基本字素とは、筆者が命名した造語であるが、旁や偏が、漢字の成立ちの構成要素であるのに対して、漢字の意味を「決定づける基本的な要素」と定義した。この見解を広く世間で主張するつもりはないが、少なくともこのブログでは、この定義に基づいた使い方をするつもりだ。
政・楷書


政・甲骨文字
政・金文
政・小篆
  
政・甲骨文字
政・金文
政・小篆


 

「政」の漢字データ

漢字の読み
  • 音読み   セイ
  • 訓読み   まつりごと

意味
  • 「まつりごと(国家の権力者が領土・人民を治める事)」(例:政治)
  •  
  • 物事を整え治める方法
  •  
  • おきて(決まり、法律)、政治を行う時の仕組み・制度

同じ部首を持つ漢字     改、救、攻、放
漢字「政」を持つ熟語    政、政治、政界


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漢字「政」成立ちと由来

引用:「汉字密码」(P649、唐汉著,学林出版社)
政・4款

唐漢氏の解釈

 「政」この字は会意文字であり形声文字でもある。「説文」では「政は正なり」と解釈し、「支」と「正」から来て、発声は「正」を取ったとしている。金文の「政」の字の右辺は棍棒を手に持った形で、左辺の下部は「足跡」があり、歩みを表す。上部は一本の短い横棒で行動の目標を表す。明らかに政の字の構造の意味するところは、自ら棍棒を用いて他人を既定の目標に向かわせようとすることである。小篆は金文と相似であるが美観は一層整っている。  

漢字「政」の字統の解釈

  形声 声符は正。 正は他邑を攻撃征服することを示す字。 その支配のために攴撃を加えることを政という。
 正は征服、征は賦税、政が支配の形態を示す字である。〔説文〕に「正なり。 攴に從ひ正に従ふ。正は亦聲なり」とするが、正・征・政は一系 の字とみてよい。
  金文に征を征行・征伐に、政を政治的支配の意に用い、それぞれの字義がすでに分化 している。




漢字「政」の漢字源(P673)の解釈

 形声文字。正とは、止(あし)が目標の一印に向けてまっすぐ進むさまを示す会意文字。
征(まっすぐ進む)の原字。政は「攴+音符正」で、もと、まっすぐに整えること。



漢字「政」の変遷の史観

「政」の意味の変化及び中国の「政」と日本の「政」

漢字「政」は正に加え、攴(こん棒でなぐるを意味する)が加えられ、その意味がより一層明確になった。
 太古の昔は、暴力が支配し、それが正義とされた時代が確かに存在したということである。

 しかし、人間が増え、社会の交流が活発になるにつれ、「こん棒で殴り、言うことを聞かせる」方法だけでは立ち行かなくなった。人間は次第にお互いの意見を調整することを覚え、意見を調整する制度的仕組みを作り出す。太古の邑が国という仕組みを構築するためには、人口は100万人が必要であるといわれる所以はここにある。かくして、国家が登場する。この経過は、ヨーロッパで、中世に出現した夜警国家にも通ずる部分がある。

中国では、「政」とは支配者が、他邑を攻撃征服することを示す字。 その支配のために攴撃を加えることを政というが、日本ではこの「政」を婉曲な表現でまつりごとという。「まつりごと」とは直接的には「神を奉る」という意味であるが、中国と比べると随分遠回りをした言い方になっている。この表現の違いこそ、日本の民族性を如実に示したものではないかと思っている。単刀直入に言えば中国の漢字が直接的な表現であるのに対し、日本では神を持出して、自らを権威付けようとしている。この他日本では、「死」⇒逝去、「盗む」⇒拝借、老→高齢、病→おかげん、殺す→成敗など直接的な表現を避け、敬意や柔らかさを含んだ言葉に変える傾向が強いようだ。

「政」に関連する故事や成語には、政治や統治に関するものが多くあります。

  • 政は正なり! 「政」という字は「正(ただしい)」という意味を含むため、政治は正しく行わなければならないという考えを表します。古代中国では、良い政治は「正しい道を行うこと」とされ、君主や官僚にとって重要な指針とされました。 

  • 苛政は虎よりも猛し(かせいはとらよりもたけし) 原典:『礼記』「苛政猛於虎」 意味:悪政は、人々にとって虎よりも恐ろしいというたとえ。政治が腐敗し、重税や圧政が続けば、人々の生活は苦しみ、逃げ出すしかなくなることを指します。

  • 徳政(とくせい) 原典:儒教思想 意味:道徳的な政治を行うこと。君主や為政者が仁徳をもって国を治めることが理想とされました。日本では「徳政令」として、借金帳消し政策などを指す言葉にもなりました。

  • 問政(もんせい) 原典:『論語』 意味:為政者が民の声を聞き、政治を問うこと。儒家思想では、民の意見を取り入れることが良い政治の基本とされていました。 

どれも「政」の本質を考えるうえで重要な教えですね。



まとめ

   正は甲骨文字では「□+止」と書き、その意味するところは、他邑を攻撃征服することを示す字。漢字「政」は正に加え、攴(こん棒でなぐるを意味する)が加えられ、その意味がより一層明確になった。後に「まつりごと」などとカモフラージュさせた解釈がされるようになるが、いくら曖昧にしようとも、もともと古人が、「政」という漢字を作り出したその意図は、権力こそが正義としたことに他ならない。

 太古の昔は、暴力が支配し、それが正義とされた時代が確かに存在したということである。しかし、権力者のし好は時代が下っても変化はない。

  


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2025年2月15日土曜日

漢字「金」から読み解く豊かさの意味と欲望の未来


人間の欲が社会の中で突き進む姿を漢字から探る

 紀元前3000年前に早くもゴールドラッシュが起きていた??

 これまでにも世界各地でゴールドラッシュが報告されており、非常に多くの人々が一攫千金を求めて、鵜の目たかの目で金鉱山を探し回っています。
 現在では金は貨幣や装飾品に留まらずICチップや集積回路などに広く使われその需要はますます高まっています。

 つい先ごろ「中国の 湖南省 地質院は21日、同省平江県で40本以上の金の鉱脈を発見したと発表した」というニュースが世界を駆け巡りました。 その一方で金の採掘選鉱のため水銀が使われていますが、その水銀汚染のためアマゾン流域はずいぶん汚染され、流域の原住民の人々は『水俣病』に侵され苦しんでいると聞きます。  


 

導入

このページから分かること

  • 人間の社会と金のかかわり 金が人間社会にどう影響を与えてきたか
  • 社会の変化と漢字  「きん、かね」を通して見る
  • 社会の変化と価値観の係わり 価値観の変化は社会の変化
  • 現代社会の歴史的位置づけ いま社会は歴史的にどこに位置するか
  • 未来社会がどう動くかの予測

前書き

 近年世界的に価値観の変化が起こっているとよく言われます。
 誰もがその言葉に納得し、そこである意味思考を停止してしまっている感があります。

価値観が変わるというとき、具体的にどの「価値」が変化しているのかは、社会や時代によって異なります。近年でよく言われる価値観の変化には、例えば以下のようなものがあります。

  1. 働き方に関する価値観
    「終身雇用」→「転職やフリーランスの自由な働き方」
    「仕事中心の人生」→「ワークライフバランス重視」
    「年功序列」→「成果主義・実力主義」 

  2. 家族・結婚に関する価値観
    「結婚・出産が当たり前」→「結婚しない・子どもを持たない選択も尊重」
    「専業主婦が理想」→「共働き・家事のシェアが当たり前」
    「家族の形は一つ」→「多様な家族の形が認められる(同性婚、事実婚など)」 

  3. お金・消費に関する価値観
    「高級ブランド志向」→「ミニマリズム・サステナブル消費」
    「所有することが重要」→「シェアリングエコノミー(サブスク、カーシェアなど)」
    「貯蓄が大事」→「経験や自己投資にお金を使う」

  4. 性別・多様性に関する価値観
    「男らしさ・女らしさの固定観念」→「ジェンダーレスな生き方」  
    「マイノリティは隠すもの」→「多様性を尊重し、オープンに」

  5. 環境・社会意識に関する 「個人主義」→「共助・コミュニティ意識の高まり」
  価値観の変化は、テクノロジーの進化、経済の変動、グローバル化などの影響を受けて生じます。どの価値が変わっているかを考えるときは、具体的な分野を見ていくとわかりやすいですね。
 ここではその価値観を「金」(かね、きん)に絞った上で、ここは漢字のページですから、漢字の「金」を通して見つめなおしたいと思います。しばらくお付き合いください。

目次




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この記事は以前にアップしたものをリバイスしたものです。

漢字「金」の今

漢字「金」の楷書で、常用漢字です。
 上部は「今」で、語義は、貴金属の金、貨幣の「かね」を表します。

 「金」という文字はやはり不思議な力を持つようで、片や多くの人々のあこがれであるし、方は底知れぬ力で、人々を支配するものです。

 しかしそういった力は「金」に最初からあったわけではなく、資本主義の世の中で、金本位体制が長く続き、金が資本として、世界を君臨してきたからでしょう。

 そして漸く資本主義の終焉が叫ばれてきてはいますが、新しい世界は目の前に姿を現しません。共に新しい世界を探ろうではありませんか
金・楷書







漢字「金」の解体新書


  
金・甲骨文字
上部は銅液の流出を表し、下部は「火」を表し、全体として溶錬を示す
金・金文
下部は一つの書き方では土から出来ている。即ち土(鉱石のことを示しているが)の中から冶煉で出来たことを示している。
金・小篆
金文を受け継ぎ、「今」と「土」と二つの点から出来た会意文字



    


    



「金」の漢字データ
 

漢字の読み
  • 音読み   キン・コン
  • 訓読み   かね・こがね

意味 
  • 材質
  •  
  • 貨幣を表す
  •  
  • 反射光を持つ黄色 

同じ部首を持つ漢字     銅、鉄、
漢字「金」を持つ熟語    金色、金環、金字

漢字「金」成立ちと由来

引用:「汉字密码」(P774、唐汉著,学林出版社)
唐漢氏の解釈
 金は古代にあっては銅のことを称していた。その後金属類の総称となり、最後にはやっと専ら黄金の名前となった。

 甲骨文字の「金」の字は上下部の繋がった構造となっている。下辺は「火」であり、火で熔煉を表した。「金」の字の本義は銅であり、青銅の銘文の中で「吉金、赤金、美金」などから分かる。この中の「金」は全て銅を指している。
 


漢字「金」の漢字源の解釈
 会意兼形声。今は「抑えた蓋+一」から成る会意文字で、何かを含んで抑えた形を表す。「金」は「点々のしるし+土+音符今」で土の中に点々と閉じこもって含まれた砂金を表す。


漢字「金」の字統の解釈
 象形文字:銅塊等鋳込んだ形。説文に「五色の金なり」とし、金の土中にある形に今声を加えた形とするが、字は今声に従うものではない。金文の字形は全形の左右に楕円形の小塊二を添えている。


漢字「金」の変遷と社会

「金」以前の貨幣

人間の社会が形成されるまでの歴史を振り返る
旧石器時代(Paleolithic Age)時代区分:約250万年前~1万年前
今から約250万年前類人猿としてではなく人類としてこの地球上に現れて一万年前までの長い長い期間、打製石器(石を打ち砕いて作る石器)を用いて、狩猟・採集が中心(遊牧や農耕はまだない)にして、洞窟や簡易な小屋を利用しながら家族などの極めて小さなまとまりで狩猟採集を主体とした移動生活を送っていました。
 このころの世界はある意味平和で、人々は自然に対する闘いは熾烈を極めていたかもしれませんが、少なくとも、人間同士の戦いや争い、戦争もそれほど多くなかったのではないかと考えられます。

新石器時代(Neolithic Age)時代区分:約1万年前~紀元前3000年頃(地域によって異なる)

  1. 石器の進化:磨製石器(石を研磨して作る石器)を使用
  2. 土器の使用:食料の保存や調理のために土器が作られる
  3. 農耕・牧畜の開始:小麦・大麦の栽培、家畜の飼育(ヤギ、牛、羊など)
    農耕・牧畜が始まったことが今後のあらゆる面での大変革となりました。
  4. 農耕が発展し生活が安定したことにより、余剰が産出され、富の集積がはじまり、力の強いもの、大家族が独占的に富を集積するようになりました。
    このことは奴婢や奴隷を持ちその労働を収奪することで、いっそうの富の集積が可能となり、奴婢や奴隷の獲得を求めて、争いや侵略や略奪が起こるようになりました。

  5. 定住生活:農耕による食糧供給の安定により村落が形成される  

  6. 社会の変化:階層社会の形成、交易の発展
     農耕の始まりはそれまで続いてきた母系制社会の崩壊を意味し、妊娠や子育てに多くの労力をとられる女性に変わり、腕力が強い自由度の高い男性が次第に力を得るようになり、社会は父系制社会へと変貌することになります。それはその後も続き秦の始皇帝の時代で完成することとなります。
    旧石器時代は「狩猟採集を主体とした移動生活」、新石器時代は「農耕牧畜を伴う定住生活」

    この変化は氏族制度の始まりとほぼ一致します。
    • 始まり:紀元前8000年頃(新石器時代の初期、農耕開始とともに)
    • 発展:紀元前5000年頃〜3000年頃(部族の形成と階層化) 
    • 完成:紀元前3000年頃〜1000年頃(氏族社会が貴族支配の国家へ移行)

    つまり、氏族社会は新石器時代に始まり、青銅器時代〜鉄器時代にかけて階層化が進み、最終的には王権を中心とした国家形成へと移行 していきました。 この男性有利の社会は3000年後の今日まで依然として続き、近年ようやく変化が見え始めているといっていいでしょう。


  ここで改めて、「社会のあり方」に基づいて時代区分を整理すると、以下になります。
狩猟採集社会(平等・移動生活)旧石器時代、新石器時代 農耕牧畜社会(定住化・階層化の始まり)氏族社会、青銅器、鉄器時代
国家形成社会(都市・階級社会・文字の発明):(紀元前3000年ごろ~中世
封建社会(領主制・宗教支配・商業発展):(中世~近世、5世紀~18世紀)
産業社会(資本主義・民主主義・機械化):(18世紀~20世紀半ば)
情報社会(IT・グローバル化・知識経済):(20世紀半ば~現在)
ポスト情報社会(AI・自動化・未来の可能性):(未来予測)(21世紀後半以降、予測段階)


「金」貨幣及び金の価値の変遷

 以上のような歴史的変遷の中で、氏族社会が生まれ貧富の差が生じ、階層が生まれ富が蓄積されるようになっても、金や貨幣が実際に流通の中で用いられるようになるのは紀元前1000年あたりまで待たなければなりませんでした。

貝による貨幣
貝による貨幣(南海諸島にて購入)

 交易がおこなわれようになった最初のころは貨幣は貝殻でできたものでした。その貝もも二枚貝で子安貝のような種類が多く使われたといいます。これは貝は手に入り易かったからでした。

したがってこのころできた古代の漢字には「貝」が使われており、私達も現在「財、貨」などの多くの漢字にそれを見ることができます。

 さらに紀元前1500年前の殷や周の時代には漢字の「金」という字は既に使われていましたが、このころの「金」という文字は実際にはGoldの金ではなく、銅の合金である黄銅を指していたということで、今の「金」が実際に使われるようになったのは、もうしばらく後のことになります。



地図の中にある緑の旗印が古代都市「ウル」

 人類が最初に金を採掘したのはメソポタミアの北部や東部の山岳地帯にある金鉱脈で古代から金が採掘されていたのではないかと言われています。

 人類と金の係わりは古くメソポタニア文明の栄えた今から約6000年ほど前、シュメール人が現代のイラク南部に位置する古代都市「アッカド」や「ウル」の近郊で金の採掘をしていたという記録が残されています。

中国における金の採掘は、少なくとも商王朝(紀元前1600年頃 - 紀元前1046年頃)の時代には始まっていたと考えられています。これらの金は王侯貴族の装飾品として用いられており、貨幣として用いられるようになるのはずいぶん時代が下ってからになります。

  経済活動を支える重要な役割を果たすようになるのは、春秋戦国時代(紀元前771年 - 紀元前256年)に入ってからになり、この時代には、金が貨幣としても流通し始め、各地で金鉱山の開発が活発化しました。中国で金の採掘がはじまったのは紀元前1600年程の商王朝に遡るといわれています。中国における主要な金産地は、山東省、河南省、江西省、雲南省などです。

価値観の変遷と社会の向かう先

金に対する価値観は、歴史的に大きく変化してきました。

  • 古代 金は、その希少性と美しさから、古代文明においてすでに特別な価値を持っていました。
    装飾品: 金は、その美しい輝きから、装飾品として珍重されました。
    貨幣: 金は、その高い価値と安定性から、貨幣としても使われました。
    権力の象徴: 金は、その希少性から、権力や富の象徴としても使われました。

  • 中世 中世ヨーロッパでは、金はキリスト教教会や王侯貴族の財産として重要視されました。
    中世は基本的に封建制を基盤とする仕組みで、経済は土地・荘園に基づく農業でした。
    教会の装飾: 金は、教会の装飾や祭具として使われました。
    王侯貴族の財産: 金は、王侯貴族の財産として蓄えられました。
    錬金術: 中世ヨーロッパでは、金を生成しようとする錬金術が盛んに行われました。

  • 近世 大航海時代以降、ヨーロッパ諸国は、金や銀を求めて世界各地に進出しました。
    マルコポーロの「東方見聞録」が書かれ、日本が黄金の国として世界に登場しました。
    世界は全体主義国家に大きく舵を切り、それまで行われていた「土地の囲い込み運動」は影を潜め、逆に囲いを取っ払い統合し新しい世界の構築が模索されるようになりました。
    ヨーロッパでは宗教改革が起こったのも、宗教の壁を取り除きより多くの利潤を求める人間のあくなき欲望の表れともいえるでしょう。
    アメリカ大陸が発見され、アフリカ大陸が植民地として蚕食され、悲惨な結果を招きました。
    重商主義: 獣金主義金や銀の蓄積は、国家の富の象徴と考えられました。
    植民地支配: 金や銀を求めて、多くの国が植民地支配を行いました。


  • 現代現代社会では、金は投資対象としての価値が注目されています。
      中世と近世で人間は地理的に拡大しつくし、拡大の余地がなくなってしまいました。
    次に資本が目に付けたのは国境をなくし、手さらなる利益の増殖を図ることでした。
    結果として、グローバリズムが叫ばれ、企業が国境の壁(規制)を取り払ったり、緩和させたりしました。
    人間の欲望はそれに飽き足らず、リアルの世界とバーチャルの世界の壁を取り払い更なる増殖を図っています。
    ドルの金本位体制が崩壊した今日、金は基軸材として機能していますが、今や仮想通貨がリアルの通貨の流通量を上回っている現実があります
    仮想通貨を流通させるプラットフォームのヘゲモニーをどこが握るかの争いになっています。
    インフレヘッジ: 金は、インフレに対するヘッジとして、投資家によって買われます。
    安全資産: 金は、世界経済の不安定化時に、安全資産として買われることがあります。
    宝飾品: 金は、宝飾品としても人気があります。


  • まとめ

     以上のように漢字「金」という一文字についても、その変化の背景には長い歴史的、社会的変化、変遷の過程があり、漢字の持つ奥深さがよく理解できると思います。
    金に対する価値観は、時代とともに変化してきました。古代から中世にかけては、装飾品や貨幣、権力の象徴として重要視され、近世には国家の富の象徴として注目されました。現代では、金に対する価値観の変化に留まらず、バーチャルな世界に対する骨肉の争いも問われている中で、アメリカではトランプ政権が「アメリカ第一主義」を唱えて、登場しましたが、「アメリカ唯一主義」ではないかと疑わせる主張で、世界に混乱を巻き起こしています。
     価値観の変化は社会の変動であり、私たちは今後世界はどちらに向かうのか目先の事柄に囚われることなく、しっかり監視しなければなりません。自らの生き残りをかけて!

      


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