2025年4月1日火曜日

漢字「心」の叫び:旧い価値観に毒された資本主義文明の価値観からの解放を


漢字「心」の叫び:旧い価値観に毒された資本主義文明の価値観からの解放を

 

はじめに

このページ「漢字「心」の叫び:旧い価値観に毒された資本主義文明の価値観からの解放を」を通して分かること

このページから分かること

  • 「心」のケアに役立つ「ものの見方」がわかる
  • 五行説は、古代中国の哲学思想が理解できる
  • 漢方を見直しできる
  • 今まで知らなかった旧くて新しい価値観が理解できる
  • これまでの自分の生活を全面的に見直すきっかけを掴める
  • 認知症の予防に役に立つ


目次



**********************

1.1 五行説とは何か、どのような歴史的背景・文化的意義があるか

 五行説は、古代中国の哲学思想のひとつで、自然界や人間社会のあらゆる現象を「木」「火」「土」「金」「水」という五つの基本的な要素に分類して考える枠組みです。
 しかも、これらの要素は、静的な物質ではなく、宇宙における様々な性質、機能、変化の状態、そして相互作用を表しています。  そしてこの考え方は占星術、音楽、政治など、古代中国の思想の広範な領域に影響を与えてきました。中でも、医学の分野では現代に至っても中国医学(TCM)では根幹をなす概念の一つとして、重要視されています。

歴史的背景:
紀元前数世紀に成立したとされ、古代中国の天文、暦、医学、占星術、さらには政治や軍事戦略にまで影響を与えました。陰陽説とともに、万物の変化と調和を説明するための基本的な理論体系として発展しました。

文化的意義:
この思想は、自然の循環やバランス、変化の法則を重んじる中国文化の根幹を成しており、漢方医学や風水、さらには日本や韓国などの東アジア諸国の文化にも大きな影響を与えています。また、個々の五行が互いに生成(相生)や抑制(相克)しあうという考え方は、調和とバランスの重要性を説く哲学として現代にも通じる普遍的な価値を持っています。

 以上五行説を顧みて、私たちが中華思想や漢方がどちらかというと古臭い、遅れたものだと思っていました。しかし実は五行説こそが今まで私たちが西欧文明にどっぷりつかって忘れ去っていた概念即ち、「物事を運動の中で捉え、関連の中で捉える」を思想体系として確立したものを持っている事を再認識することができました。

1.2 五行の解剖:性質、象徴、そして動的な関係性

五行説・内臓関連図
五行説 内臓関連図

 五行説における五つの要素は、それぞれ固有の性質と象徴的な意味合いを持ち、互いに影響を与え合いながら宇宙の調和を保っています。
  1. 木(もく)
    木は、樹木や草花が上へ、外へと伸びやかに成長する様子を表し、成長、発展、拡張、柔軟性、そして上昇の性質を持ちます。色は青や緑、季節は春、方角は東と関連付けられています。木は、生命力、創造性、そしてサイクルの始まりを象徴しています。春という季節、そして日が昇る東という方角との関連性は、自然界における誕生と新たな始まりの概念と深く結びついています。

  2. 火(か)
     火は、炎が熱く燃え上がり、上昇する様子を表し、熱、温かさ、上昇、明るさ、そして情熱の性質を持ちます 1。色は赤、季節は夏、方角は南と関連付けられています。火は、エネルギー、熱意、そして活動の頂点を象徴しています。最も暑く、日照時間が最も長い夏との関連は、一年の中でエネルギーが最も高まる時期を示唆しています。

  3. 土(ど)
    土は、万物を受け入れ、育み、変化させる大地を表し、安定、育成、滋養、そして変化の性質を持ちます。色は黄、季節は土用(季節の変わり目)、方角は中央と関連付けられています。土は、バランス、調和、そして生命を支える根源を象徴しています。季節の変わり目の中央に位置づけられることは、他の要素のサイクルを安定させ、媒介する役割を示唆しています。

  4. 金(ごん)
    金は、金属が持つ清らかさ、硬さ、そして収斂する性質を表し、清潔感、清涼感、収斂、そして改革の性質を持ちます。色は白、季節は秋、方角は西と関連付けられています 1。金は、収穫、終焉、そして新たな段階への準備を象徴しています 1。収穫の季節である秋との関連は、成長のサイクルの終焉と、次なるサイクルへの準備期間を示唆しています。

  5. 水(すい)
     水は、潤いを与え、下へと流れる性質を表し、下降、寒冷、潤下、そして貯蔵の性質を持ちます。色は黒、季節は冬、方角は北と関連付けられています。水は、休息、再生、そして生命の源を象徴しています。寒く、暗い冬との関連は、エネルギーを蓄え、次の成長期に備える時期を示唆しています。


  6. 五行の動的な関係性:相生と相克
  7.  これらの五つの要素は、互いに影響を与え合う二つの主要な関係性を持っています。
    • 相生(そうしょう): 一方の要素が他方の要素を生み出し、助け、促進する関係です。木は燃えて火を生じ(木生火)、火は燃え尽きて土を生じ(火生土)、土の中からは金属が産出し(土生金)、金属の表面には水滴が生じ(金生水)、水は木を育みます(水生木)。これは、滋養とサポートのサイクルを表しています。
    • 相克(そうこく): 一方の要素が他方の要素を抑制し、制御する関係です。木は土から養分を吸い取り(木剋土)、火は金属を溶かし(火剋金)、土は水をせき止め(土剋水)、金属は木を切り倒し(金剋木)、水は火を消し止めます(水剋火)。これは、バランスと抑制のサイクルを表しています。
    • これらの相生と相克の相互作用は、五行システム全体のバランスと調和を維持するために不可欠であり、単一の要素が過剰になったり、不足したりするのを防ぎます。



    1.3 今文尚書説:五臓への五行の配当

     今文尚書(きんぶんしょうしょ)説は、古代中国の古典である『書経(しょきょう)』の解釈における主要な学派の一つです。五行説の枠組みの中で、今文尚書説は、伝統中国医学における五つの主要な内臓、すなわち五臓(ごぞう)に対して、五つの要素を特定の方法で対応させています。 今文尚書説によれば、五臓と五行の対応は以下の通りです。:

    • 肝(かん)は木(もく)に対応する;
    • 心(しん)は火(か)に対応する
    • 脾(ひ)は土(ど)に対応する 
    • 肺(はい)は金(ごん)に対応する 
    • 腎(じん)は水(すい)に対応する

     歴史的な背景として、古文尚書(こぶんしょうしょ)説と呼ばれる別の学派が存在し、脾を木、肺を火、心を土、肝を金、腎を水と対応させるなど、異なる配当を提唱していたことも注目されます。しかし、伝統医学においては今文尚書説の配当がより広く採用されてきました。このことは、今文尚書説による臓器と要素の関連付けが、他の解釈と比較して、生理学的および病理学的な現象をより適切に説明できると考えられてきたことを示唆しています。


    2 対応関係の解読:臓器の機能と要素の性質の関連付け

     今文尚書説における臓器と要素の対応は、単なる分類ではなく、それぞれの臓器の機能的特徴が、対応する要素の性質と深く共鳴していると考えられています。ここでいう臓器の機能は、西洋医学的な解剖学的定義とは異なる、伝統中国医学独自の概念を含むことに留意する必要があります。

    1. 肝(かん)と木(もく)
       伝統中国医学において、肝は全身の気(生命エネルギー)と血(血液)の流れをスムーズに保つ役割を担っています。この機能は、木が持つ成長し、伸びやかに動く性質と一致します。また、肝は計画性、決断力、そして怒りや欲求不満といった感情のバランスにも関わると考えられています。これは、木の持つ力強い成長と、時に硬直したり、影響を受けやすかったりする性質と関連付けられます。さらに、肝は血液を貯蔵し、必要に応じてその量を調節する機能を持つとされます。これは、樹木が樹液を蓄え、必要に応じて流動させる様子に例えられます。伝統中国医学における肝の概念は、単なる物理的な臓器だけでなく、自律神経系や感情の調整といった、より広範な機能を含む点が西洋医学とは異なります。

    2. 心(しん)と火(か)

    3. 心・火・夏の説明図
       五行説における心・火・夏の説明図
       心は、血液循環を司り、全身に温かさを供給する役割を持つとされます。これは、火の持つ熱と上昇の性質を直接的に反映しています。また、心は精神、意識、思考、感情(特に喜び)、そして睡眠を司る「神(しん)」が宿る場所と考えられています。これは、火の持つ明るく、エネルギーに満ちた性質と関連付けられます。心は血管を制御し、その状態は顔色に現れるとも言われます。これは、体の内なる「火」が外に現れる様子と捉えられます。伝統中国医学における心の役割は、西洋医学における心臓の機能に加え、精神や意識といった側面を含むことで、心身のつながりを強調しています。

    4. 脾(ひ)と土(ど)
    5.  脾は、食物を消化吸収し、栄養分を気や血へと変換する重要な役割を担うとされます。この機能は、土が物質を育み、変化させる性質と合致します。脾は、栄養分を全身に輸送・分配し、内臓を正しい位置に保つ働きも持つとされます。これは、土が安定性と支持性を持つ性質を反映しています。脾は、憂いや考えすぎといった感情と関連付けられ、筋肉や口にその状態が現れるとも言われます。これは、感情が消化機能に影響を与えることを示唆しています。伝統中国医学において、脾は気と血を生み出す中心的な役割を担い、全身のエネルギーと活力の基盤となると考えられています。

    6. 肺(はい)と金(ごん)
    7.   肺は、呼吸を司り、体内に空気を取り込み、不要なガスを排出する役割を担います。これは、金が気とその下降・発散の動きを司る性質と一致します。肺は、外部の病原体から体を守る衛気(えき)を全身に分散させ、体液の調節にも関与するとされます。これは、金の持つ清浄性と防御の性質を反映しています。肺は、悲しみや憂鬱といった感情と関連付けられ、皮膚や鼻にその状態が現れるとも言われます。これは、呼吸と感情の状態との関連を示唆しています。伝統中国医学において、肺は呼吸と防御という、体と外部環境との相互作用において重要な役割を果たします。

    8. 腎(じん)と水(すい)
    9.  腎は、成長、発育、生殖、そして寿命に関わる根本的な物質である精(せい)を貯蔵する役割を担います。これは、水が貯蔵の性質を持ち、生命の根源と深く関わることに合致します。腎は、水分代謝を司り、尿の排泄を調節し、体内の水分バランスを維持する機能も持ちます。これは、水が体液を調節し、下へと流れる性質を直接的に反映しています。腎は、恐れや驚きといった感情と関連付けられ、耳や骨にその状態が現れるとも言われます。これは、生命の根源的なエネルギーと感情反応との関連を示唆しています。伝統中国医学において、腎精は生命の基礎であり、長期的な健康を維持するために重要であると考えられています。



    3.伝統中国医学における応用:五行による身体のダイナミクス理解

     この臓器と要素の対応関係、そして五行間の相生と相克の関係は、伝統中国医学において、人体の生理学的および病理学的状態を理解するための基本的な枠組みを形成しています。
     五行のバランスが崩れると、対応する臓器の機能不全として現れたり、その逆も起こり得ます。例えば、木(肝)のバランスが崩れると、怒りや硬直といった制御不能な「成長」として現れる可能性があり、水(腎)の不足は、乾燥や不安定さをもたらす可能性があります。

    漢方の相性・相克説明図

    小太郎漢方製薬株式会社のウェブサイト参照

     相生の関係
     臓器が互いにどのように支え合い、滋養し合っているかを説明する上で重要です。
     例えば、腎(水)は肝(木)を滋養し、肝(木)は心(火)を滋養し、心(火)は脾(土)を滋養し、脾(土)は肺(金)を滋養し、肺(金)は腎(水)を滋養します。

     相克の関係

     過剰な活動や不足を防ぎ、バランスを維持する上で重要です。例えば、肺(金)は肝(木)を制御し、肝(木)は脾(土)を制御し、脾(土)は腎(水)を制御し、腎(水)は心(火)を制御し、心(火)は肺(金)を制御します。




     これらの関係は、臓器機能の相互関連性や病気の進行を理解するために用いられます。
     例えば、肝(木)の不調は、相克関係により脾(土)に影響を与え、消化器系の問題を引き起こす可能性があります。同様に、腎(水)の不足は、相生関係により肝(木)を十分に滋養できず、肝に関連する症状を引き起こすことがあります。


    五臓の相性・相克説明図

    小太郎漢方製薬株式会社のウェブサイト参照


    五行システム内のバランス
     この理論的枠組みは、伝統中国医学における診断原則を導くものであり、症状や徴候を観察することで、影響を受けた臓器とその対応する要素における不均衡のパターンを特定します。また、鍼灸、漢方薬、食事療法などの治療戦略は、不足している要素を補い、過剰な要素を制御し、要素間の関係を調和させることで、五行システム内のバランスを回復させることを目的としています。

     五行説は、単に症状に対処するのではなく、不均衡の根本原因を治療することを重視する、洗練された診断・治療の枠組みを伝統中国医学に提供しています。また、「五臓」という概念は、西洋医学的な解剖学的臓器とは異なり、より広範な生理的、感情的、そして精神的な側面を含む機能システムを表していることも重要です。


    4.まとめ

     中国の五行説における今文尚書説は、肝を木、心を火、脾を土、肺を金、腎を水と対応させることで、人体の主要な臓器と宇宙の基本的な要素を結びつける独特な視点を提供します。
     この対応関係は、単なる分類に留まらず、それぞれの臓器の機能的特性が、対応する要素の性質と深く関連しているという考えに基づいています。
     さらに、五行間の相生と相克の関係を通じて、臓器間の相互作用や身体全体のバランスを理解しようとするのが、伝統中国医学の重要な特徴です。

     この古代の知恵は、現代においても、人間の健康と病気を理解するための貴重な枠組みを提供し続けています。

    以上、五行説を改めて顧みて、実は五行説が「物事を運動の中で捉え、関連の中で捉える」を思想体系として確立したものを持っている事を思い知ることができました。このことこそ、今まで私たちが西欧文明にどっぷりつかって忘れ去っていた事を反省し、
     価値観も含めて、生活全体を見直さなければならない時に来ているのだと強く感じました。  


    「漢字考古学の道」のホームページに戻ります。   


2025年3月27日木曜日

漢字『師』の起源と由来:師団と師の関係はどうなっているの


漢字・師:元々軍用語!やがて先生の意も持つように。一体なんで?


この記事は以前にアップした下記の記事を全面的に加筆修正したものです。
漢字「師」の成り立ちから読めるもの:この漢字は最初から戦闘集団を表していた。

導入

 全国の学校で卒業式が行われている。一昔前の卒業式では必ず「仰げば尊し我が師の恩」のようなフレーズの歌が流されていた。
 ところが最近では、学校の教師と生徒の関係がフラットになって、まるで友達のような会話が見られる状況では、「我が師の恩」などというフレーズは流されないのではなかろうか。

 実はこの「師」という言葉の意味も随分異なって来ている。
 この字は生まれた当初からしばらくは軍隊の戦功祈願の儀式を表す言葉であって、その名残りが「師団」という軍隊用語に残されていた。

押しかけ推薦・一度は読みたい名著  阿辻哲次著『漢字學

漢字學の原点である許慎の「説文解字」の世界に立ち返り、今日の漢字學を再構築した名著

前書き

目次




**********************

漢字「師」の今

漢字「師」の成立ち


漢字「師」の由来:出陣に際し、祭肉を祖先の廟に祭って戦功を祈願した事に起源がある
 軍の戦闘集団を師団といい、(日本の戦時の師団の構成人数は大体2万程度の兵力でした。)その指揮者を「師」というようになった。
 しかし、古代国家の軍隊はその経済力から類推ししても、せいぜい1000人規模でなかったかという説もあります。少なくとも人口10万人規模の国家でないと軍隊を擁するにも一苦労であったことでしょう。その意味で、この言葉が本当に確立されたのかも疑わしいのですが、そこそこの規模の軍隊を擁するのは周も末期になってからそれも春秋戦国時代に入ってからであろうと推察されます。因みに春秋時代の総人口はせいぜい500万人前後だったろうと言われています。


漢字「師」の楷書で、常用漢字です。
 昔から2500人の師団を表すこと定着していたようだ。

 あるいはこの漢字一字で、軍を表したり、いくさ(戦争)を表すようだ。

  漢字「師」の左側は、甲骨文や金文では启で祭肉を表していた。ところが小篆では、神梯に変化している。なぜか。国家の規模が大きくなり、軍隊の規模も大きくなり、軍隊もさらなる神格化が必要になったと考えられる。したがって、今まで祭肉をシンボル的に使用していたが、もはやそれでは人々を引き付けられなくなり、神を持ち出したのではないだろうか。即物的な祭肉より、神梯からの神の降臨を演出ことで権威付けを強めたのではなかろうか。
即・楷書


 甲骨文字や金文の左側の記号は「祭肉」を表してた。ところが小篆では神梯を表すという。その変化は、軍の行動により神格化が求められた結果ではないだろうか。  
師・甲骨文字
軍が出行するとき、戦功を祈って祈願する時の祭肉を表す
師・金文
甲骨文字を引き継ぎ、軍の出行の際の祭肉を軍刀に突き刺し出陣すること
師・小篆
金文を引き継ぐが、祭肉が神梯に変化し、より神に祈ることを明確にしたものか


    


「師」の漢字データ


漢字の読み
  • 音読み   シ
  • 訓読み   いくさ

意味
  • 軍隊 二千五百人の軍の隊のことを言った。 説文に「二千五百人を師と爲す。币に從ひ、𠂤に従ふ。官の四币なるは、衆の意なり」とある。
  •  
  • 人を教え導く人、先生     例 師匠
  •  
  • 先生として尊敬する、手本とする   (例:恩師)

漢字「師」を持つ熟語    師団、恩師、師匠、軍師、師走


**********************

漢字「師」成立ちと由来

引用:「汉字密码」(Page、唐汉著,学林出版社)

字統の解釈

 启と帀に従う。启は軍の出行のとき携える祭肉の形で、師の初文。帀は把手のある曲刀の刃の部に小さな叉枝のあるもの。軍の出行するときは祖先の廟や軍社などに祭って、神佑を祈りその際肉を携えて出行するが、途中で軍を分遣して行動するときは、その際肉を分って出発させる。


漢字「師」の民俗的解釈

 遠くからやってきて、腰を下ろし、休憩することを表す。
 しかし、唐漢氏は、文字の変遷の中で、祭肉が神梯に変化していることを説明しているが、この変化は実に重要で、軍の組織の中に、強大化するにつれ、一層の神格化・権威化が持ち込まれたことを示しており、軍の組織がここで、画期を成す変化を生じたものと考えられよう。

「師」古代漢語P63 王力編、高等学校教材

  • 軍隊で2500人で一師を構成する。一般に漠然と軍隊を指す。
  • 知識を授ける技術人、先生。(弟子に相対する) 
  • 楽官 上古の楽師は一般的に盲目の人を任命していた。

「師」の歴史的変遷

文字学上の解釈

 ト辞では𠂤は師の左の要素であるが、古代中国で、出陣の際に祖先に戦勝を祈願する儀式に使われた「肉」を表していた。師はその肉を分ける刀を表す「帀」と肉からなる。




以下、軍の用語が先生という意味を持つようになった歴史的過程といきさつを纏めます。

  1. 軍事的な起源 「師」の甲骨文や金文からは、軍隊や戦争に関わる意味が盛り込まれていると見られます。 古代中国では、出陣の際に祖先に戦勝を祈願する儀式が行われ、その際に祭肉を供えることがありました。 軍隊を指す言葉としての「師」は、主に「大規模な軍隊(約2500人)」を指しました。戦の指導者や統率者も「師」と呼ばれました。

  2. 転じて指導者の意味へ 戦場で軍隊を率いる指揮官は、兵士たちを導き、教育・訓練を施しました。この役割から、「師」は指導者や教育者を意味するようになります。 軍隊の統率者が戦術や戦略を教える存在だったことが、知識や技術を教える一般的な指導者の意味へと広がりました。

  3. 儒教と教育の影響 儒教が広まると、知識や道徳を教える役割を担う者も「師」と呼ばれるようになりました。 孔子のように弟子を持って教え導く者が「師」と称され、学問や道徳を教える先生の意味が確立しました。

  4. 官職名としての「師」 古代中国では「太師」「少師」など、教育や政治の顧問的役割を持つ官職も存在しました。これは、指導的役割を重んじた文化を反映しています。

 字統では、師の変遷について、以下のように説明している。
 師長には古く氏族の長老たるものがあたり、師氏と称した。現役を退いたのちは、氏族の指導者 として若者の育成にあたり、師職となる。(周礼)に多く残されている師系の官職は、氏族時代におけ る師の職業のなごりを、その退化した形式において 伝えるものである。師のありかたの推移は、古代氏 族国家のありかたの推移を反映している。


まとめ

 「師」は、元々軍を率いる指導者を指していましたが、その指導力が教育や学問の分野にも適用されるようになり、現代の先生という意味へと発展したのです。
 以上のように、漢字「師」は実に多くの変遷を遂げ、それだけ多くの異体字を持っているようである。この事実は、この漢字が、軍隊に使われ、軍隊の仕組みやありかたが、変化するのに応じて、変化してきたことを示している。  

  


「漢字考古学の道」のホームページに戻ります。