2024年5月29日水曜日

漢字『饗』の成立ち、由来、饗と宴の違いと使い分けは?

漢字『饗』の成立ち、由来、意味、使い方、饗と宴と卿、関連熟語について


人々が集まって話をするときに、そこに食べることや飲んだりすることが介在する。これは極めて人間的な行為ではないだろうか。サルやオラウータンですらも宴会を楽しんだということを聞いたことがない。どうしてこの違いが生まれたのだろう?

導入

このページから分かること:
「漢字『饗』の意味、使い方、語源、饗と宴はどう違うの?」
  漢字の意味と成り立ち: 「饗」という漢字の基本的な意味、
  象形文字としての成り立ち、古代中国での使用例など。
  使い方と例文: 現代日本語での使用例、典型的な文脈での使い方、例文。
  関連熟語: 「饗応」、「饗宴」、「饗賜」、「饗報」、「饗礼」など、関連する熟語とその意味を解説。
  文化的・歴史的背景: 漢字の歴史的な背景や文化的な意味について

前書き

目次




**********************

漢字「饗」の今

「饗」は、食べ物に関する部分である「食」と、「郷」(さと、村)という部分から成り立っている。両者の組み合わせで、村や郷里で食事を提供する、もてなすという意味が浮かび上がる。

 一方「宴」は、宀(ベン・屋根や家)と宵(よい、夜の意)と女(女性)の組み合わせから成り立っており、夜に家で女性とともにくつろぐ様子を表現しており、後に「宴会」や「パーティー」の意味として発展した。
饗・楷書 宴・楷書


甲骨文字から古代文字へ

  
饗・甲骨文字
饗・金文2款
饗・小篆


 

漢字「饗」の読みと意味そして熟語

漢字の読み
  • 音読み  キョウ
  • 訓読み  あえ、う(ける)、もてな(す) 

意味
  • もてなす
     豪華な料理(必要な程度を超えたお金や食材を使った料理)
  • 勧(すす)める。供える。また、供え物。
  • もてなしを受けいれる。もてなしに応じる
  • 祭る、祀る、神を祭る

同じ部首を持つ漢字     饗、郷、響
漢字「饗」を持つ熟語    饗
 饗応:もてなし
 饗宴:もてなしの宴会
 饗賜:もてなしを戴く事
 饗報:もてなしをして恩顧に報いること
 饗礼:御馳走をして賓客をもてなすこと


**********************

漢字「饗」の漢字の由来

象形文字としての成り立ち、古代中国での使用例など。

引用:「汉字密码」(Page、唐汉著,学林出版社)
饗の古代文字
金文にはいくつかの款が存在

漢字の暗号の解釈

「饗」、会意文字。 「飨」は会意文字。甲骨文の「飨」の字には、中央に食器(すなわち高足皿)おいしい食べ物を盛り付けた容器があり、左右に二人の男が向かい合って膝をついて座って食べていることを示す。
 金文と甲骨文の形は似ているが、金文は人の形が立っているようだ。小篆の「人」の形が比較的大きく変化し、人の形を表す形が「邑」の2文字に変わっている。全体の下部に「食」という表意文字が加わり、上声(绑)、下の形(食べ物)の形声文字となった。

 楷書の繁体字は基本的に「饗」と書くが、字画が複雑すぎたため、後に「飨」という字に簡体化された。 「飨」という言葉の本来の意味は「ちょっとしたおやつ」で、午後4時か5時に男たちがが仕事から帰って集団で食べる食事のことをさしていた。
 その後、料理とワインで客人をもてなすことを意味するように拡張された。

漢字「饗」の字統の解釈

 形声 声符は郷(郷)。鄕は豆(毀、食器)の前 に、左右相対して人の坐する形で、饗宴のさまをあらわし、饗の初文。饗はさらに食を加えたもので、 郷の繁文である。郷は郷人の意ではなく、郷飲酒の礼も金文にはみえず、古儀とはしがたい。

 郷が郷党の意となるのは、血縁的な秩序が失われて、地縁的秩序が成立したのちであるから、かなり後のことである。

 祭祀饗宴を神が享けることを饗といい、また神意によって人に佑助が与えられることを饗という。




漢字「饗」の漢字源の解釈

 「卿」はごちそうの両側に人が膝まづいて向かい合った様を示す会意文字で、饗の原字。



「饗」の成立ち


  郷が郷党の意となるのは、血縁的な秩序が失われて、地縁的秩序が成立したのちであるから、かなり後のことである。

成立ち:

  • 「饗」は、食べ物に関する部分である「食」と、「郷」(さと、村)という部分から成り立っています。 
  • 「食」はそのまま食べ物を示し、「郷」は郷里や地元を示すことができます。
  • 組み合わせると、村や郷里で食事を提供する、もてなすという意味が浮かび上がります。
意味:
  • 「饗」は、食事を提供してもてなすことを特に指します。 
  • 「饗応」(きょうおう)や「饗宴」(きょうえん)のように、特に食事でもてなす場合に使われることが多いです。




成立ち

漢字「宴」について詳しくは、本ブログの 「漢字『宴』の起源と由来」で説明しているので、できればご参照願いたい。

成立ち:

  • 「宴」は、宀(屋根や家)と宵(よい、夜の意)と女(女性)の組み合わせから成り立っています。
  •  宀(ベン)は家や建物を示し、宵は夕方や夜を示しています。
  • 女はそのまま女性を指しています。
  • つまり、夜に家で女性とともにくつろぐ様子を表現しており、後に「宴会」や「パーティー」の意味として発展しました。
意味:
  • 「宴」は、家や特定の場所で行われる宴会やパーティー、集まりを指します。
  • 広く人が集まって楽しむ場の意味で使われます。



漢字「卿」の成立ち


郷と卿とは同形同字で、その饗宴に与る(あずかる)身分のものを卿という。





まとめ

 漢字 饗と宴は同じような意味を持っている。そして饗には甲骨文字が存在し、片や宴には甲骨文字 は存在せず、金文の後から発展してきたようである。

 そして饗は自然発生的な過程で文字の生成されたように見受けられ、仕事終わった後や村々の寄り合いの時に食事を共にすることが生き生きと表現されているようだ。

 そして饗が接待の意味合いを持つようになるのは、少し遅れてからのようであり、初期には純粋に食事を楽しむことを表現する文字であったようだ。

 一方宴の方は 女性とともに くつろぎながら食事をする形式を表現しているようで 文字の中にも「女」という字が使われている。形式的にも屋内でいわゆる今日も通用する 宴会そのままの形であったようだ。言葉を変えていえば、この時代には男性中心の社会に移行した後の言葉であることは動かせない事実のようだ。

 このように文字の発展が社会の発展をそのまま 反映しているようで 極めて興味深い。

常々主張しているように 漢字は世界のあり方や生産方式などを映し出している鏡とでも言えるのではないだろうか。 漢字の世界は実によく深く興味がつきないものである。

  

「漢字考古学の道」のホームページに戻ります。   

2024年5月27日月曜日

漢字『蛾』の成立ち、由来、意味、使い方、チャドク蛾の駆除


漢字『蛾』の成立ち、由来、意味、使い方、チャドク蛾の駆除

 蛾は、およそ16万種以上が知られており、その種類は非常に多様だ。ここでは、漢字「蛾」の由来と成立ちから説き起こすが、生活に現実に厄介な存在となった「チゃドク蛾」に触れ、少しでも生活に役立てようと思う。

 蛾は、夜空を彩る美しい虫たちの代表格的な存在だ。その独特な形や模様は、その美しさゆえに人々を悩ませてきた。 
 特に夜、暗闇に浮かび上がるそのあでやかな姿は、夜の蝶ならぬ「夜の蛾」として世の男たちを悩ませ、時には奈落の底にまで突き落としてしまう。

導入

このページから分かること:
「漢字『蛾』の意味、使い方、語源、関連熟語について詳しい解説。」
  漢字の意味と成り立ち: 「蛾」という漢字の基本的な意味、
  象形文字としての成り立ち、古代中国での使用例など。
  使い方と例文: 現代日本語での使用例、典型的な文脈での使い方、例文。
  関連熟語: 関連する熟語とその意味を解説。
  日常生活で、比較的よく聞く蛾にまつわる問題

しかし、「蛾」は日常生活ではそれ補語なじみのある生き物ではないので、漢字もそれほど豊富な知見があるわけではない。

前書き

目次




**********************

漢字「蛾」の今


「蛾」の意味と蝶との区別


蛾・楷書
蛾・楷書 
漢字「蛾」の楷書で、常用漢字
 蛾は「虫」と「我」からなる字で、会意形声文字。ここでの「我」は一人称の自分という意味ではなく、儀式用の武器で表現された象形で、「大きい」「美しい」という意味がある。
  すべて蛹より化して飛ぶものをみな蛾という。
 



ここで、「蛾」と「蝶」の違いについて少し言及する。
蛾と蝶は、どちらも鱗翅目という同じ目(分類階級)に属する昆虫であるが、いくつかの点で区別することができる。


形態
  • 触角: 蝶の触角は先端が球状に膨らんでいるのが特徴だ。一方、蛾の触角は糸状のものや櫛状のものなど、様々な形をしている。
  • 翅: 蝶の翅は一般的に鮮やかな色をしていますが、蛾の翅は地味な色のものが多い。また、蛾の前翅には後翅を引っ掛けるための「翅棘」という突起があることが多く、蝶にはない。
  • 体: 蝶の体は細長いのが一般だが、蛾の体は太いものが多い。

生態
  • 活動時間: 蝶は昼行性で、蛾は夜行性であることが多い。ただし、中には例外もあるので注意。
  • 止まり 幼虫: 蝶の幼虫はアオムシと呼ばれ、植物の葉を食べて育つ。一方、蛾の幼虫は毛虫と呼ばれ、様々なものを食べて育つ。

注意点
上記のように、蛾と蝶にはいくつかの違いがあるが、必ずしもすべての点で当てはまるわけではない。中には、蛾なのに鮮やかな色の翅を持つものや、蝶なのに夜に活動するものもいる。そのため、形態や生態だけでなく、全体的な雰囲気なども参考にしながら判断することが大切になる。




 甲骨、金文は見つからなかった。古代の人々が認識するには至らなかったことなのだろうか。 只の「虫けら」として、認知するほどでもなかったのか。文字があったらあったで気になるが、なかったらなかったで、「なんでなかったの」とこれまた気になる。蛾は虫偏+我からなる形声文字である。

 「我」はここでは自分という意味ではないが、「(かどめがつく。くっきりと目立つ)」という意味ががあるという説がある。
 何が正しいか検証のしようがないので、さらなる究明が必要なようだ。 

 
蛾・小篆
蝶・小篆

 甲骨、金文は見つからなかった。古代の人々が認識するには至らなかったことなのだろうか。






   

使い方と例文: 現代日本語での使用例、典型的な文脈での使い方、例文。

漢字の読み
  • 音読み  ガ
  • 訓読み  が

意味
  • さからう:反蛾する
  •  
  • むかえる
  • 順の反意語:蛾順、流れや基準とは反対の向を示す、蛾進する
  •  
  • のぼせる、蛾上する

同じ部首を持つ漢字     蛾、峨、我、餓、鵞
漢字「蛾」を持つ熟語    蛾
 蛾眉 (がび):美人を指す表現。「蛾の眉」のように美しいことから。
 蛾焚 (がふん) :灯火に集まって焼け死ぬ蛾のこと。欲望におぼれて身を滅ぼすことの例え。
 飛蛾 (ひが):夜に灯火に集まる蛾のこと。
 


**********************

漢字「蛾」の漢字の由来

象形文字としての成り立ち、古代中国での使用例など。

引用:「汉字密码」(P105、唐汉著,学林出版社)
「蛾」小篆・楷書

漢字の暗号の解釈

「蛾」、会意・形声文字。 「蛾」はカイコ(鱗翅目昆虫)の成虫です。蛾は虫と我からなる字で、会意形声文字です。ここでの「私」は一人称の自分という意味ではなく、儀式用の武器で表現された象形で、「大きい」「美しい」という意味があり、蛹は羽が生え変身すると美しい大きな虫になる。古典の典籍では 「蚕はお糸を吐いてさなぎになり、のなかで蛹は孵化して蛾になる」といわれています。 」 美しい女性の曲線的な眉毛を形容する「峨眉」という言葉は、峨眉の弧状に曲がった触手を元にしています。 飛蛾の触角は長く、明確なジグザグの形をしています。この形の眉毛が好まれるのは、古代人の美学です。

漢字「蛾」の字統の解釈

 形声 声符は我。〔説文〕 に「蛹の化して飛ぶ蟲なり」とあり、蚕蛾をいう。すべて蛹より化して飛 ぶものをみな蛾といい、かげろうの類をも含めていう字である。字はまた蟻に作り、はねありをいう。 蟻が小を積んで大きな巣を作ることを蛾術といい、清の王鳴盛に〔蛾術編]がある。



漢字「蛾」の漢字源の解釈

 会意兼形声 「虫+音符我(かどめがつく。くっきりと目立つ)」くっきりと目立った形や色をした虫のこと



ちょっと困った「蛾」の問題

チャドク蛾の被害

チャドク蛾の駆除

 いきなり汚らしい写真をお見せして申し訳ない。日本では今頃から秋にかけて、庭のツバキや山茶花などのツバキ科の植え込みや生垣に「チャドク蛾」が卵をうみつける季節になった。
 このチャドク蛾は実に厄介で、成虫では鱗粉、毛虫ではその毛、卵にさえ触ったりすると猛烈なかゆみと湿疹が出て、悶絶することになる。直接触らないまでも、卵や幼虫の周りに近づいただけでも、そのあたりに漂う鱗粉や毛が皮膚に入り込み、写真のような被害に遭遇することになる。
   私も何回か強烈な被害にあってきた。殺虫剤もよく効くが、幼虫の駆除に有効な方法を見つけたので、良ければお試しあれ。ただしあくまでも自己責任で、お願いします。

  • それは非常に簡単で、噴霧器に洗剤を薄めて入れ、幼虫に吹きかけるだけのことです。
  • 幼虫は洗剤を吹きかけられると気門が塞がれて死に、葉っぱから垂れて落ちたりします。
  • それを枝ごと切り落としてゴミ袋に入れて処分するだけ。
 この方法は、非常に安価だし、簡便でかつ安全です。そして、何よりも毛虫の毛が洗剤で捕捉されて飛散しないのも利点。






まとめ

今回はそれほど人々に愛されない日陰者の「蛾」に焦点を当てた。「一寸の虫にも五分の魂」という言葉もあり、あらゆる生物には存在する理由があるということなので、毛嫌いはだめだと思い取り上げたが、少しは見直して好きになって戴けたであろうか?
 最近では物事を感覚的にみる風潮が多いようで、ネットなどでもなぜそこまで嫌うのだろうと首をかしげたくなる場面によく遭遇する。
 物事には二面性があり、尚且つ方丈記ではないが「よどみに浮かぶ泡沫は・・」にある通り定まりしものはない。また「この世界は万物の諸過程の総合であって、運動する過程が一時的に定めっているように見えるだけである。
 これから自然であろうと人間社会であろうと、世界はどう動くかわからない。どうか広い心で自然に生きていただきたい。

  

「漢字考古学の道」のホームページに戻ります。