2024年4月1日月曜日

漢字・昏の意味は夕暮れ時の暗いこと。由来は部族の婚礼などの饗飲が黄昏時に催されることが多かった事だ


漢字・昏の本義は夕暮れ時である

 「昏」の本来の意味は夕暮れである。しかし、時代が下るにつれ、氏族の婚礼等が黄昏時に催されることが多かったため、氏族の饗飲を表現するものとして、やがて氏族の間の結婚を表現する言葉にも使われるようになったものであろう。

導入

押しかけ推薦・一度は読みたい名著  阿辻哲次著『漢字學

漢字學の原点である許慎の「説文解字」の世界に立ち返り、今日の漢字學を再構築した名著

前書き

目次



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漢字「昏」の今

漢字「昏」の解体新書

Twilight
漢字「昏」の楷書で、常用漢字です。
 
昏・楷書


  
昏・甲骨文字
昏・金文
昏・小篆


 

「昏」の漢字データ

漢字の読み
  • 音読み   コン
  • 訓読み   くらい、くらむ

意味
  • くれ(暮)(太陽が沈んで辺りが暗くなる事)
  •   
  • くらい(暗)、目が見えないことから道理がわからない、昏迷
  •  
  • 目がくらくなってみえなくなる。昏睡

同じ部首を持つ漢字     昏、婚
漢字「昏」を持つ熟語    昏、黄昏、昏睡、昏倒


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漢字「昏」成立ちと由来

引用:「汉字密码」(Page、唐汉著,学林出版社)

漢字「昏」の唐漢氏の解釈

  「昏」の本来の意味は夕暮れである。 『説文』は、「昏、日昏也、氐省,氐者,下也。」と説明しているが、甲骨文字の図解分析から、上部の図形の斜線は水面を示し、その下の「垂直の線」は上から下という意味で、水面から下をイメージして造られた言葉で、太陽が下に移動する概念を表している。「昏」は氏と日で構成されており、「氏」は个の繁体字で、太陽が地平線に沈むことを意味する。 この時点ではまだ光が消えておらず、空が完全に暗くなっているわけではないので、「昏」の基本的な意味は夕暮れを指している。

漢字「昏」の字統の解釈

 会意 氏と日とに従う。ト辞に「旦より昏に至る まで雨ふらざるか」、「昏に至るまで雨ふらざるか」 とトする例が多い。
 字は氏に従う形であるが、会意の意味がよく知られない。氏は肉を切る小刀の形。 これによって共同聖餐を行なうので、氏族の字となる。日の形はあるいは肉の形であるかも知れない。
  昏は文献では昏礼の意に用いることが多いが、金文の昏・婚の字形は、爵によって酒を酌む形であるから、ト文の昏の字形とは別系のものである。
 ト文と金文との間に、字形字義の断絶するものがあり、 その関連をうることが困難である。ただ何れも、饗飲のことに関する字形であることが注意される。


漢字「昏」の変遷の史観

文字学上の解釈

 字統では「ト文と金文との間に、字形字義の断絶するものがあり、 その関連をうることが困難である」とている。確かに全く別の字であると解釈せざるを得ない変化である。

Twilight_CastingCharacter

 金文の「昏」の字形は、爵によって酒を酌む形であり、ト文の昏の字形とは別系のものである。しかも、小篆の字形とも別系のものと考えられる。

 金文と小篆の間においても、全く関連性も伺えない変化が見て取れる。字形字義の断絶するものがあり、 その関連をうることが困難である。確かに全く別の字であると解釈せざるを得ない変化である。 小篆の字形は氏に従う形である。氏は肉を切る小刀の形とされるが、これによって共同聖餐を行なうので、氏族の字となる。日の形はあるいは肉の形であるかも知れない。
 ここに至って氏族制度の確立の影響を疑わなければならない。氏姓制度が普遍的なものとなったのは、もう少し遡った周朝期と考えられるが、秦の始皇帝が厳格に家父長制を制定したといわれていることから、氏姓制度が確立したのは秦朝と考えるのが自然である。つまり、漢字の昏が金文期には氏族の婚礼の際の爵によって酒を酌む形を表し、時代が下るとそのまま氏族を表すものとなったのであろう。

 

まとめ

 「昏」の本来の意味は夕暮れである。「昏」の甲骨文字の上部の図形の斜線は水面を示し、その下の「垂直の線」は上から下という意味で、太陽が下に移動する概念を表している。小篆の「昏」は氏と日で構成されており、「氏」は个の繁体字で、太陽が地平線に沈むことを意味する。「ト文と金文、小篆との間に、字形字義の断絶するものがあり、その関連をうることが困難である。ただ、いずれにせよ、饗飲のことに関する字形であることが注意され、氏族の婚礼等が夕刻時に多く催されたこととも相まって、氏族の饗飲を表現するものとして、氏族自体を表現するのに定着したものであろう。
  
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2024年3月30日土曜日

漢字・恒は実に意味深いし意味深い:成立ちと由来に迫る


漢字・恒は実に意味深い。それは、この字の成立ちと由来からくる

漢字「恒」の出生の秘密とどうして「恒久・永遠」という意味を持つようになったか?
 もともとは「亘」から来たという。しかし、この「恒」の原字は「亘」ではなく、「亙」ではないかという説がある。ここでは、白川博士や唐漢を逸脱して、大胆に「亘」と「亙」の問題について掘り下げてみる。

導入

押しかけ推薦・一度は読みたい名著  阿辻哲次著『漢字學

漢字學の原点である許慎の「説文解字」の世界に立ち返り、今日の漢字學を再構築した名著

前書き

目次




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漢字「恒」の今

漢字「恒」の解体新書

 左は漢字「恒」の楷書で、常用漢字である。
 右は「恒」の小篆だ。「恒」の原字は「亘」だという。亘には同じ様な字体で、亙という字が存在する。結論から先に言うと、「恒」の原字は「亘」ではなく、「亙」ではないか考えている。
恒・楷書
亘・楷書


  
恒・甲骨文字
恒・金文
恒・小篆


 

「恒」の漢字データ

漢字の読み
  • 音読み   コウ
  • 訓読み   つね

意味
  • 不変、変わりがない
  •  
  • 永久に
  •  
  • 常に、久しい

同じ部首を持つ漢字     亘、亙、姮
漢字「恒」を持つ熟語    恒、恒久、恒常、恒星


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漢字「恒」成立ちと由来

引用:「汉字密码」(Page、唐汉著,学林出版社)

唐漢氏の解釈

 「恒」の甲骨文は「亘」、立心偏はない。
  「亘」の字の上下の横線は天と地を表し、中央には三日月が描かれている。 両形の会意で、上弦の月が徐々に満月に変わっていく様子を意味し、また月が天地に恒常的に存在することを表している。
  例えば、『詩経』では「月のように永遠、太陽のように昇る」というように、「恒」とは、三日月から満月、満月から三日月へと永遠に変化し続けることを指している。

漢字「恒」の字統の解釈

 形声 声符は亘。亘は上下二線の間に弦月の形をえたものであるが、「亘」の篆文と古文との形が著しく異なるので、その初形を定めがたいが、亘・亙の両字が同字異文として存在する。亘・亙はもと異なる字であるにもかかわらず、亘・亙の両字が同字異文として考えられたため、混乱を生じたところがある。


漢字「恒」の説文解字の解釈

 恒、常也。 天と地の上下の間にあって、心と舟とに従う。
 ここでいう舟は三日月のことをいう。太古の人々は三日月が常に変わらずに、天と地の間にあって存在し続けるようにみたのだろうか。



漢字「恒」の変遷の史観

文字学上の解釈

 恒の甲骨文の3款である。


 恒の金文の2款である。なぜ金文になると立心偏が現れたのか。
 この甲骨文から、金文に至るまでの約1000年の変化の過程が、失われた1000年といっても過言ではなく、私にとっては謎である。


 字統では、「亘」の字形について、篆文と古文との形が著しく異なるので、その初形を定めがたいと述べている。
 亘・亙の二字はもと異なる字である。ただ恒をまた亙ともしるし、亘・亙の両字 が同字異文と考えられたため、混乱を生じたところがある。わたる・連なるの訓は、もと舟の形に従う亙の字義である。結局のところ全く訳が分からないことになる。




まとめ

 恒の原字は亘だという説があり、ではその亘という字には、亘・亙の二つの異体字?がある。亘・亙の二字はもと異なる字でにも拘らず、同じ字義を持つものと考えられた。「亘」という字は、もっぱら垣根や石垣のような本来の字義に用いられるようになった。
 一方、「恒」には天上に現れる月が天と地を結ぶ象徴のように「常や不変」を表す意味を持たせ、リッシン偏をつけて明確にしたのではないだろうか。

  


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