2024年1月25日木曜日

漢字・際の由来と成立ち:金輪際の「際」の意味するもの


漢字・際: 地の果てを意味する金輪際の「際」は何を意味するか。深堀してみた


毎日ことば 24.01.24では「金輪際」が取りあげられている。
ここでは、「際」の深堀りをする。

毎日ことば 第907回
「絶対に」という意味の「金輪際」。
 YOASOBIの大ヒット曲「アイドル」の 歌詞にも出てきますが、もとは仏教語です。
 大地を底で支える世界が金輪で、その底が 金輪際。この「際」は大地の果ての意味があり、「とことん」の意味になりました。

https://salon.mainichi-kotoba.jp

導入

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前書き

目次




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漢字「際」の今

漢字「際」の解体新書

漢字「際」の楷書で、常用漢字である。
 字統では際は ここが神人相接する際会のところ、人の至りうる極限のところであるという。
際・楷書




「際」の漢字データ

漢字の読み
  • 音読み    サイ
  • 訓読み   きわ

意味
  • 辺縁
  •  
  • 限り(限界)、極み、極限
  •  
  • 交わる、出会い、交際

同じ部首を持つ漢字     祭、擦、蔡(小さな雑草)、瘵(病む;特に肺結核のこと)
漢字「際」を持つ熟語    際、国際、交際、際限、往生際


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漢字「際」成立ちと由来


漢字「際」の字統(P341)の解釈

会意文字: 阜と祭とに従う。
 阜 は捗降するときの神梯。その前に祭卓をおき、肉を供えて祭る。
 そこは神と人との相接す るところであり、天と人とが相感応するいわゆる天 人の際である。

〔説文〕一四上に「壁の會なり」とし、 祭声の字とするが、それでは際限・際会などの義は生れない。際は ここが神人相接する際会のところ、人の至りうる極 限のところであることを示す。仏教では、地下百六十万由旬(由旬は仏教でいう距離の単位、約三百八十四里)の金剛輪の下底を、金輪際という。大地の底の果てるところの意である。


漢字「際」の漢字源の解釈

 「阜+音符(祭)」で、壁と壁がこすりあうように、すれすれに接することを表す。察、擦などは同系。


漢字「際」の変遷の史観

文字学上の解釈

 「際」は「祭}+「阜」からなる。「祭」は甲骨文字が存在し、「肉」+「示」+「手」からなる会意文字で、いけにえの肉を祭壇に奉げることを表している。


 「阜」にも甲骨文字が存在し、神が降臨するときの、神梯を表している。

 際は「阜」+「祭」の会意文字である。 
 そしてその意味するところは、字統の言う通り、「そこは神と人との相接するところであり、天と人とが相感応するいわゆる天人の際である。」というのが、最も合理的な説明であるようだ。仏教の基本的な概念がここに生まれるという感じがしている。



まとめ

  「際」の字素である「阜」にも「祭」にも甲骨文字が存在するにもかかわらず、「際」には甲骨文字が存在しない。これが事実とすれば、際という概念は後世になって生まれたと考えられる。 「際」という言葉は、金輪際のように仏教用語であるようだが、仏教が中国に伝播して以降、生まれたとも考えられる。 只この神が降臨するという概念は、神道的な雰囲気を持っており、中国でこの概念が存在していたのか今のところは門外漢の私には分からない。

 
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2024年1月13日土曜日

漢字 夫 の意味:男・夫を表す、では夫人は「夫の人(夫に従属する女)」を表していたのか


漢字「夫」の由来:字の構成の上から言っても「妻」と対比をなす


このページはかつてアップした『漢字「夫」の成立ち』をReviseしたものです

 「大」の上に「━」は何を意味する? 「大」は人の正面形、その頭に横線「一」を付けた形。この横線「一」こそ盛装のシンボルである髪飾りである。
 成人男性の頭の上に髪飾りを付けた形。そしてこの構造は妻にもいえる
 もともと成人した立派な男性を示す漢字であった。これに対し「妻」は頭上に三本の簪を加え、これを手で挿している女の姿をいう。夫妻という字は婚儀に際し夫妻の盛装した姿をいう。
 しかし「夫」に「人」が付けばキュリー夫人のように専ら女性を示す。これも最近のジェンダーの議論でいえばNGなのでは。(男についた人という意味で、従属的な漢字ということにならないのか?
 もっともこんなことをいい始めたら埒が明かないかもしれない

導入

押しかけ推薦・一度は読みたい名著  阿辻哲次著『漢字學

漢字學の原点である許慎の「説文解字」の世界に立ち返り、今日の漢字學を再構築した名著

前書き

目次




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漢字「夫」の今

漢字「夫」の解体新書

漢字「夫」の楷書で、常用漢字です。
 古代は盛装し、髪に髪飾りを付けた成人男子を表していたが、時代が下るにつれ高官や貴人の妻を指すようになり、現代では社会的評価のある結婚した女性を示すようになった。
 しかしそれでも、丈夫のように男性の名残りはまだ受け継がれている。
夫・楷書



  
夫・甲骨文字
夫の字は一と大から成る。大は成年男子を表し、一は髪を束ねるために用いられる簪を表している。
夫・金文
甲骨文字を継承している
夫・小篆
周代には諸侯の正妻
漢代には列候の妻に贈る封号
唐代以降高官や貴人の妻を指すようになった




 

「夫」の漢字データ

漢字の読み
  • 音読み   フ
  • 訓読み   それ、これ、か、おっと

意味
     
  • 「おっと(結婚して妻のいる男)」(例:夫妻)
  •  
  • 丈夫 1人前の男(親からの助けを受けず生活を送れる男)
    最近では親からの支援を人前で堂々と披ける人間がいるが、あれは一人前でない
  •  
  • 夫役 ・・・公共(国)の仕事を割り当てられた男または公共(国)の仕事の割り当て 

同じ部首を持つ漢字     大、天
漢字「夫」を持つ熟語    夫人、農夫、人夫


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漢字「夫」成立ちと由来

引用:「汉字密码」(Page、唐汉著,学林出版社)

民俗的解釈


  夫の字は一と大から成る。大は成年男子を表し、一は髪を束ねるために用いられる簪を表している。古代の礼俗によると男子は20歳になると髪に笄を加えるようになり、成年男子であることを示す(女性は15歳で成人とみなされた)

甲骨文字と金文では「夫」の字は髪を束ね、笄を挿した人の形である。このため「夫」の本義は成年男子のことである。男子の成年は結婚もでき、妻も娶ることができる。だから夫は拡張されて丈夫を指す。即ち女子の配偶の妻に相対し、「丈夫、夫君」など

 


漢字「夫」の字統の解釈


  大は人の正面形で、その頭に加えている一は簪飾り、男子の正装の姿である。妻も髪飾りを付けた形。夫妻とは婚礼の時の晴れ姿を写した字である。
 列国期には、「太夫」の称号が用いられ、社会的に重要なものとされている。おそらく荘園的な経営地の管理者の地位にあったものであろう。
 夫人・夫子という語は「夫(かの人)」という婉曲的な呼称。


漢字「夫」の変遷の史観

文字学上の解釈

 漢字「夫」は、結婚のために 髪飾りをつけて正装した男性を表す漢字の象形であった。そして夫人という言葉は、「その人」というどちらかというと指示代名詞的な使われ方がされていたようで、女性だけを指すものではなく、男性に使われていた。さらにリスペクトをしたもので『夫の人』のような差別的な意味合いは全くなかっただろう。 そしてもう少し歴史を紐解くと、古代中国において 荘園を管理する人のことを言っていたようで、 少し 時代を下ると地方では 特定の階級を形成し 独特の力を持ち、「清朝」の時代においても地方では権力者として存在していたようです。このような人々を「大丈夫」(ダジョウフ)と称し、歴史にもたびたび 登場している。

まとめ

 今では、差別用語として社会から葬り去られたりしている言葉も、歴史をさかのぼれば、逆にそのような誹りを受ける謂れのない成立ちがある。歴史は移り変わるもので、やむを得ない部分は多々あるが、只何とはなしに差別だという非難することだけは避けたいものだ。漢字の歴史をさかのぼることによって、正しい認識と歴史を見直すきっかけを作る活動として、これからもこのブログを作り続けるつもりだ。


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