2023年12月14日木曜日

漢字「税」は昔は禾へん、中世以降「兌」が字の性格を決めている? その心は中身を読んで・・。


漢字「税」はなぜ「禾」偏なの? 昔は税は穀物で納めていたから


 今年の漢字は「税」
 
漢字はその中に、生活や考え方や文化が込められていて奥が深い。漢字を通して、今に通じる「税」の本質が見えてくる。

 この「税」という漢字はというのは「禾偏」(のぎへん)+「兌」の会意文字である。これの字素のどちらが主要なものか、時代によって変わる。
 古代は禾という主要な部分だったが、今は「兌」の部分が主要となっている気がする
 「「兌」という漢字は、脱皮や脱力という言葉にも用いられているが、元々「抜き取る」「脱がす」という意味がある。
  そう、長い間税は兌が主要な字素になっている。意味は、かすめ取り、ぼったくりではないだろうか
最近政治資金規正法をめぐっての動きが激しい。

本稿は2019年1月アップした『漢字「税」の由来:「税」を分解してみれば、「税」の本質が分かる(再録!)』を全面的に加筆修正したものである




**********************

漢字「税」の今

漢字「税」の楷書で、常用漢字です。禾+兌の形声文字であるとされている。
 
税・楷書


漢字「税」の解体新書

 税は「禾」と「兌」とからなる。
 禾は穀物が実って、頭が垂れる状態を示す。
 兌は八と兄から成り、祝禱して神に祈るうちに、神気が髣髴として現れる状態を示す。
 説文には「租なり」とあり、また租には「田賦なり」とあって、米粟の類をおさめさせることをいう。
禾・楷書
兌・楷書
税・小篆


 

「税」の漢字データ

漢字の読み
  • 音読み   ゼイ
  • 訓読み   みつぎ、とく、おく

意味
  • みつぎ、
  •  
  • 税をかける・・作物から徴収するものを『税』、労役などで徴収するものを『賦』といった。
  •  
  • ぬく、ぬきとる

同じ部首を持つ漢字     税、悦、脱、兌
漢字「税」を持つ熟語    税、租税、徴税、主税(ちから:人名)


**********************

漢字「税」の成立ち:「税」はどのような字素から成り立っているのか

 先にも見たように、税は「禾」と「兌」とからなる。禾はいまさら説明の余地はない。そこで、兌の中にこそ『税』の意味が出てくる本源的なものがある。
 そこで、もう少し突っ込んだ言及を試みる。

漢字「税」の字素「兌」の解釈









引用:「汉字密码」(Page、唐汉著,学林出版社)

 これは会意文字である。甲骨文字の「兌」の字は、下半分が兄という字である。原本では長男とでも言っていいだろう。上半は大声での発声の符号を表している。ここでは憚ることなく言うことを示して、思ったことをそのまま言うことである。であるからには声は出て、兌は話の最初の言い方とも言える。
 金文から小篆、小篆から楷書、整体字形は完全に相似で、同じ流れと見ていい。


漢字「税」の字統の解釈

 形声 旧字は税に作り、兌声。兌に 幌・説(説)の声がある。
 〔説文〕に「租なり」、また「田賦なり」とあって、米粟の類を収めさせることをいう。〔春秋〕宣十五年「初めて畝に税す」とあり、古くは一割を原則とした。


漢字「税」の漢字源(P1153)の解釈

「税」の解釈、税の本質

 漢字源によると、「税: みつぎ。国家や支配者が人民の収入や収穫のうちから抜き取って徴収するもの。年貢。」

 近世では、土地や田畑から徴収するものを「租」といい「品物や収入から徴収するものを税と呼んだ。昔は1割を理想としたが、現実には田租は5,6割にも達し税は多方面に及んだ。「動詞では「ゼイす」とはぬく、抜き取る。 会意兼形声。兌は、「八(はぎとる)+兄(頭の大きい 人)」の会意文字で、人の着物をはがしてぬきとるさま。脱衣の脱の原字。税は「禾(作物)+音符兌」で、収穫の一部をぬきとること。はがす。自分の持ち物をぬきとって人に与える。」とある。
 さて、このゼイというのは「禾偏」+「兌」である。
 脱(=脱。はぎとる)・奪(ぬきとる)と同系。



漢字「税」の変遷の史観

文字学上の解釈

 地上に人間が住むようになってから、農耕が発達し余剰物資が蓄積されるようになるまでは、人々は長い間その日ぐらいの生活を強いられてきた。その時の財貨の基本は、農作物で、もっとも一般的なものは、穀物だったろう。

 しかし生産力が高まり、富が蓄積するようになると貧富の差が生じてくる。それとほぼ時を同じくして、その余剰物資を欲しいものと交換するようになる。最初は小さな市のようなところで物々交換をしていたのであろうが、やがて交換価値を見出し、交易が盛んになる。ここで登場するのが、貝殻などの貨幣だ。交易の場で一致した交換価値で交易することを覚えた。

 交易がさらに広がり、異なる部族や民族間での交易になると、もはや貝では許されなくなり、貴金属、国家で発行した貨幣が専ら使用されるようになる。この一連の変遷を左の図表で表した。  


税の歴史・・税はいつ頃人類の前に出現したのか

税の出現時期は、まだ確実にはわかっていません。しかし、古代文明の遺跡から、税に関する記述や遺物が見つかっていることから、少なくとも数千年前には、税は存在していたと考えられています。


具体的には、紀元前3000年頃の古代エジプトでは、収穫物の一部を国に納める税が存在していたことが、壁画や文書からわかっています。また、紀元前2000年頃の古代メソポタミアでは、商取引に課税する税が存在していたことが、粘土板の記録からわかっています。


日本においても、3世紀頃の邪馬台国時代には、農作物や労働力を税として納める制度があったことが、中国の魏志倭人伝に記されています。

このように、税は古代文明の成立とともに、国家の財政を支える重要な制度として登場したと考えられます。
なお、日本では、1989年(平成元年)4月1日から、消費税が導入されました。これは、戦後、初めて導入された新しい税種です。

中国の税の歴史・・中国では税はいつ頃導入されたのか

中国における税の出現時期は、紀元前2000年頃とされています。
 この頃の中国では、殷王朝が成立し、中央集権的な国家が形成され始めていました。殷王朝は、農業生産を拡大し、軍事力を強化するために、収穫物の一部を国に納める税を導入しました。
殷王朝以降、中国の歴代王朝は、いずれも税制を整備し、国家の財政を支える基盤としてきました。
具体的には、次のようなものがあります。

  1. 周王朝(紀元前1046年~紀元前256年):収穫物の一部を納める「租」と、労役を納める「庸」を課す「租庸調制」を導入。
  2. 秦王朝(紀元前221年~紀元前206年):土地を国有化し、土地の収穫量に応じて税を課す「均田制」を導入。
  3. 漢王朝(紀元前206年~紀元後220年):租庸調制を復活させ、また、商取引に課税する「市税」を導入。
  4. 唐王朝(618年~907年):租庸調制を廃止し、土地税と人頭税を課す「両税法」を導入。明王朝(1368年~1644年):一条鞭法を導入し、土地税と人頭税を銀納とする。
清王朝(1644年~1911年):地丁銀制を導入し、地税と人頭税を銀納とする。
このように、中国の税制は、時代とともに変化し、国家の財政や社会の状況に合わせて、その形態を整えてきました。

以上生成AI Bardより

まとめ

  以上人々の生活と税及び漢字「税」について、一緒に調べてきた。税の本質とそれに伴う漢字の変遷もある程度浮かび上がってきたと思う。
 ここでは触れていないが、太古の昔は、征服の「征」の本義は、征服した国家や地域に税を課すことであったことを付け加えておきたい。
  


「漢字考古学の道」のホームページに戻ります。   

2023年12月9日土曜日

漢字「異」の由来:古代人の心に宿る実体のない畏れ・不安即ち「鬼」が「異」の由来。現代に蘇る不安は形を変えて拡大再生産される


漢字・異の由来:霊鬼の象形である。この漢字は甲骨文字の時代から今日まで、人々の漠然とした畏れを現してきた。


 このページタイトルにある「霊鬼の象形」という言葉は、抽象的な言葉であるが、ある意味現状を反映した具体的なものでもある。
 これほど科学が発達した今日に至っても、この世にはアミニズムは蔓延っているといってもいい。それは今日ではある種の科学的な装いを呈しながら、底辺では古いアミニズムなものをもって、世界中の人々に畏れ、恐怖を植え続けているようにも思われる。

 漢字・異は甲骨文字の時代に生まれ、金文、象形の時代に至ってもその形を変えることなく、生き続けてきた。恐らくこの漢字が示すことは、時代が変わってもこれからも人々の意識に働き続けるであろう。ひょっとしたら、このアミニズム的なものがなくなったら、人間は人間でなくなるのかもしれない。

押しかけ推薦・一度は読みたい名著  阿辻哲次著『漢字學

漢字學の原点である許慎の「説文解字」の世界に立ち返り、今日の漢字學を再構築した名著




**********************

漢字「異」の今

漢字「異」の楷書で、常用漢字である。

 「異」は異変、異形、異常などの熟語を作り、いずれもどこか収まりの悪い掴みどころのない薄気味の悪さを語感に持っている。 
異・楷書


漢字「異」の解体新書


 甲骨文字も金文も基本的には変化は見られない。 鬼頭の形は、あるいは仮面であったと思われる。

 漢字源ではこの部分は「ざる」ではないかと解釈しているが、ざるであるという必然性があまり考えられない。  
異・甲骨文字
異・金文


 

「異」の漢字データ

漢字の読み
  • 音読み   イ
  • 訓読み   ことなる

意味
  • 同じでない
  •  
  • 普通でない、変わっている
  •  
  • めずらしい(例:奇異)、並でない
  •  
  • 他の、別の

同じ部首を持つ漢字     異、畏、留、畾
漢字「異」を持つ熟語    異、異人、異形、異音


**********************

漢字「異」成立ちと由来

引用:「汉字密码」(P834、唐汉著,学林出版社)

「異」の民俗学的解釈

 异は異の簡体字。甲骨文字の中の「異」の字はまるで一人の人が手を上にあげ鬼の面を頭に掲げている様子である。小篆の字は金文が分化し鬼の頭と、人の手と人の体の三つに分断した形だ。楷書は小篆を引き継ぎそのため象形から遠く離れてしまっている。

 異の字の取象は上古時代の選民の祭祀を挙行するところからきている。踊るとき化粧をしマスクをつけ、死んだあるいは災難に合った親戚を追悼する儀式である。


漢字「異」の字統の解釈

 鬼頭のものが、その両手を掲げている形。
 異は分与を原義とするものでなく、霊鬼の象形である。ト辞に「王に異あるか」とトするのは、災異の有無を問うものである。鬼頭の畏懼すべき神状を示したもので、それより異常・異変・奇異の義を生ずる。


漢字「異」の漢字源の解釈

 会意文字。大きなざるまたは「頭+両手を出した体」で、一本の手の他、もう一本の別の手を添えてものを持つさま。同一ではなく、別にもう一つとの意。



漢字「異」の変遷の史観

文字学上の解釈

 甲骨文字、金文の間には大きな変更は見られない。これは何を意味するか。

 これはこの漢字の環境で大きな変化が見られなかったということでは無いだろうか。白川博士や唐漢氏が述べるように、「上古時代の選民の祭祀を挙行するところからきている。踊るとき化粧をしマスクをつけ、死んだあるいは災難に合った親戚を追悼する儀式である。霊鬼の象形である。」古代に上古民が数千年もの長きにわたり、霊界を畏れ、祭祀を執り行ってきたということだろう。

まとめ

 人間は異なるものにある種の畏れを抱くものである。それは数千年の年月を経ても、形を変えながらも、生き続けてきている。これほど科学が発達した世界においても、無数の宗教が存在し、陰謀説や得体のしれない噂、デマなどを通して我々に畏れを植え続ける。漢字「異」が、甲骨文字、金文、小篆に至ってもほとんどその形を変えることなく、生き続けてきたことをここに見た。恐らくこれからも、生き続けるであろう。これはいわば人間の業というべきものかもしれない。

  


「漢字考古学の道」のホームページに戻ります。