2023年12月5日火曜日

漢字「御」の成立ちと由来:古代に怨念を払い、子孫の繁栄のための祭祀に由来する


漢字「御」の成立ちと由来:「御室」を「みむろ」と読むルーツをは中国にあった??

 且て、江蘇省・揚州を旅した時、清の乾隆帝が建立し、舟遊びを楽しんだという船着き場に立ち寄ったことがある。その船着き場に碑が建てられており、「御馬頭」と書かれてあった。現地の人にこれは何と読むのだと聞いたところ、「みまとう」だと聞こえた。自分の耳を疑った。百人一首の「御室の山のもみじ葉は・・」という歌が頭に浮かんだ。全く同じ読みをする漢字に出会おうとは夢にも浮かばなかった。非常に感激をしたことを思い出した。よく聞くと、「みまとう」ではなく「うぃまとう」と発音したようだが、はるか昔鑑真和尚が日本に来た頃、この地で「御馬頭」の発音を聞いて、「みまとう」と聞き、それから「御室の山」を「みむろのやま」と読むようになったのではないかと密かに考えたものだ。



 この記事は「漢字『御』に込められた祖先の切なる想いとは何? 漢字の成り立ちと由来を見れば謎が解ける!」を加筆Reviseしたものである。




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漢字「御」の今

漢字「御」の解体新書


 
漢字「御」の楷書で、常用漢字である。
 
御・楷書


  
御・甲骨文字
御・金文
御・小篆


 

「御」の漢字データ

漢字の読み
  • 訓読み  おん 例)御中   お 例)御前   み 例)お御籤  
  • 音読み  ぎょ 例)御意   ご 例)御飯
  • 使い方 ①敬意やていねいさを表す語。「御挨拶」「御覧」
        ②皇室に対する敬語 「御物」
        ③あやつる。「御者(馭者)」「制御」
        ④おさめる。支配する。つかさどる。 「統御」
        ⑤ふせぐ。まもる。 「防御」


同じ部首を持つ漢字     御、禦
漢字「御」を持つ熟語    御、御中、御前、御者


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漢字「御」成立ちと由来

引用:「汉字密码」(Page、唐汉著,学林出版社)
「御」この字には上古先民の子孫繁栄の切なる願いが込められている

唐漢氏の解釈

 "御"の本の字は"禦"である。これは会意文字だ。甲骨文字の「禦」の字は右側には跪いている男の人が見える。左辺は「示」の献卓がある。真ん中には臍の緒を示す記号があります。会意文字で子供を授かることを願う祭祀を指している。金文の「禦」の字の形象は特にはっきりしている。小篆は禦の字の形態は整合がとれていて、併せてギョウニンベンの旁が滑らかに表示されている。楷書はこの縁で禦とかく。簡体化で御の字が禦の簡体字となった。

 "禦"は《説文》では「祀なり」としている。上古時代は高出生率、高死亡率で、極端に低い生育率が基本的特性であった。統計に基づけば有史以前は、嬰児の死亡率は高く、0.5以上にも達した。旧石器時代の世界人口の増加率は100年で1.5%を超えなかった。新石器時代でも4%を超えなかった。この為氏族と部落の生存は出生率と成活率にかかっていた。その意義はことのほか尋常ではなかった。人類の有史以前の生殖崇拝と育産祭祀は非常に旺盛であった。

 漢字「御」の由来と成り立ち:子宝を願う神へ強いの祈りを体現

 "御"はこの歴史の産物である。春秋以降は人口の数量は大きく増加し、血族群団は地域社会に取って代わられ、人口の多寡は、再び氏族の存否の主要な要件になることはなかった。このために人口の繁衍を希求する禦祭は消滅することになった。

漢字「御」の字統(P185)の解釈

 声符は卸。形声文字。卸は御の初文。
 氏は御は祖先の霊を払うときの祭祀であったという。漢字「御」は「禦」の初文という。

 ここで字統から少し離れて考えてみると唐漢氏とは全く逆の解釈となる。たしかに「禦」をよく見てみると、金文までは字形の下に祭卓を表す「示」が出ていない。ということは金文までは「御」も「禦」も全く同じ字形であったとなるか、そもそも禦という語は金文の時代までは存在せず、「御」という言葉しかなかったといえるのかも知れない。



漢字「御」の漢字源の解釈

 会意兼形声。原字は「午(きね)+卩(ひと)」の会意文字で、堅いものを杵でついて柔らかくするさま。御は「馬を穏やかにならして行かせることを示す。



漢字「御」の変遷の史観

文字学上の解釈

「御」の文字の変遷 左民安《細説漢字》(漢典より)


「禦」の文字の変遷 左民安《細説漢字》(漢典より)


中国・清朝皇帝乾隆帝が自分の舟遊びために造営した船着き場皇帝の船着き場に立つ石碑「御馬頭」
「御」の使い方は日本と全く同じ

まとめ

  

 字統では「御」は形声文字と説明をしているが、会意文字ではないかという説もある。唐漢氏も視点は異なるが、やはり「祭祀」であるとしている。

  


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2023年12月1日金曜日

漢字「去」の成立ちと由来:「去」は神の神前で審判を仰ぐ時に用いた厳粛なツールに由来したもので、法の原字でもある


漢字「去」の成立ちと由来:「去」は神の神前で審判を仰ぐ時に用いた厳粛なツールに由来した


 今では法はある種のご都合主義的に使われ、国法の最高の憲法ですら、ないがしろにされている雰囲気がある。
 しかし、太古の昔は「法」の原字ともいえる「去」は、大変な重みづけをもっていたようである。「去」は太古の昔から存在した字であるが、その昔はある種アミニズムの権威付けのツールにも使われたのではと思われる。神の前に審判を仰ぐ器であったと考えられ、審判に敗れれば、器と敗れた人とともに水に流すことを法といった。非常に厳しい戒律であったようだ。これらのことは、「法」は決して疎かにするべきものではないことを、我々に教えている。 




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漢字「去」の今

漢字「去」の解体新書


 
漢字「去」の楷書で、常用漢字である。    
  
去・楷書


  
去・甲骨文字
去・金文
去・小篆


 

「去」の漢字データ

漢字の読み
  • 音読み   キョ、コ
  • 訓読み   さる

意味
  • ゆく、去る
  • しりぞく
  • やめる
  • 過ぎる

同じ部首を持つ漢字     去、蓋、法、怯、劫
漢字「去」を持つ熟語    去、過去、去就、死去


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漢字「去」成立ちと由来

引用:「汉字密码」(Page、唐汉著,学林出版社)

唐漢氏の解釈

 大と口とからなる会意語である。「大」は人の正面の形で、「口」は町や村を示していること、またはくぼんだ形の「坎」を意味することもある。 したがって、「去」という言葉は、人が穴を跨いで、村や町を通り抜けたりするイメージから取られ、立ち去る、または立ち去ることを意味する。 「残る、去る、死ぬ、辞任する」などの慣用句や「どこへ行く、去っていく」など。

漢字「去」の字統(P180)の解釈

 会意 大と凵(カン)とに従う。大は人凵は蓋を外した器。神判で敗れたものは、神判に当って盟誓した自 己詛盟に偽があるわけであるから、その祝禱の器で あるの蓋を外して凵とし、その人とともにこれを棄去する。
わが国の大祓詞にいう汚穢を水に流すことと、祓うという 観念において、共通する罪悪観である。廃棄の意より、場所的にその場を去る意となり、時間的には過去に隔たる意となる。 故郷を棄てることを、大去という。


漢字「去」の漢字源(P224)の解釈

 象形:蓋つきのくぼんだ容器を描いたもので、窪んだ籠の原字。くぼむ・ひっこむの意を含み、却と最も近い。転じて現場から退却する。姿を隠すの意となる。



漢字「去」の変遷の史観

文字学上の解釈

 漢字「去」には、甲骨文、金文にもそれなりの款が存在している。
 去は神の前で、審判を仰ぎ、審判に敗れれば去る。その時水に流すのが法、審判に用いた器と共に捨てるのが灋である。

いずれにせよ、審判を受けることは並大抵のことではない。


まとめ

  これに関しては、(白川静「字統]P180)の説明が最も理にかなっているように思う。曰く、大と凵(カン)とに従う。大は人凵は蓋を外した器。神判で敗れたものは、神判に当って盟誓した自己詛盟に偽があるわけであるから、その祝禱の器であるの蓋を外して凵とし、その人とともにこれを棄去する。これを水に流す字は法、神判に用いた解廌をともに棄てるときは灋となる。灋は金文において廃棄の意に用いる字である。
  
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