2023年9月8日金曜日

漢字「伺」と「窺」ではどう違う


漢字「伺」と「窺」は使いかたを誤ると大喧嘩になることもあり要注意!


導入

前書き

 少し前に毎日新聞に、「伺と窺」についての短いコラムが掲載されていました。
その解説によると窺うと伺うは、どちらも「うかがう」と読みますが、そのニュアンスには微妙な違いがあり、

 
  • 伺うは、聞く、尋ねるという意味あいが強く、
  • 窺うには察する、推察するという意味合いがあります。 又窺うには陰に隠れてこそこそというニュアンスもあり、あまりいいようには使われていないようで、「スパイ」という訳まであります。

目次


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漢字「伺と窺」の今

漢字「伺と窺」の解体新書


 
漢字「伺と窺」の楷書で、常用漢字です。
 「伺」と「窺」は、ともに日本語の漢字で、「うかがう」と読むことができますが、微妙な違いがあります。
伺(うかがう):「伺う」は謙譲語であり、相手を敬うために使用されます。具体的には、尊敬や敬意を表す場面でよく使われます。例えば、目上の人に尋ねる際や、訪問する際に使われることが多いです。

窺(うかがう):「窺う」も「伺う」と同じく「うかがう」と読みますが、こちらは覗き見る、うかがい知るといった意味合いがあります。他人の行動や心情を探る際に使われることがあります。少し探りを入れるような意味合いがあるため、ややニュアンスが違います。「隙を窺う」

伺・楷書窺・楷書


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「伺と窺」の違い

司は祝疇の器を開らき見る意で、もと神意を伺う意がある。 〔説文新附〕「候望するなり」とするが、遠方を望む意ではなく、もと祝禱を啓いて神意を伺う意。

「窺」:「穴」+「規」からなる。規々に局・区々の意があり、小さなところでこせこせする意をもつ。

伺・小篆

窺・小篆


 

「伺と窺」の漢字データ

「伺」漢字の読み
  • 音読み   シ
  • 訓読み   うかがう

意味
  • 人の心をおしはかる(推測する)
  • 「注意を集中してよく聞こうとする」
  • 「世話をしたりするためにそば近くに控えている」
同じ部首を持つ漢字     祠、詞、
 漢字「伺」を持つ熟語    伺、伺候、伺察、


「窺」漢字の読み
  • 音読み   キ
  • 訓読み   うかがう

意味
  • うかがう・のぞく(目上の人の様子を見る
  • 「そっと見る」  (例:窺伺)
  •  みる(視)    (例:窺見)
同じ部首を持つ漢字     規、穴、
 漢字「伺」を持つ熟語    窺、窺伺、窺見、窺知

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漢字「伺と窺」成立ちと由来

「伺と窺」の双方の漢字共に甲骨文字は見つかりませんでした。つまりこの時代には、「伺と窺」の文化はまだ芽生えてなかったのかもしれません。このように謙譲の態度をとるとか、相手の対応して態度を変えるという文化はまだ発達してなかったのかも知れません。



漢字「伺と窺」の字統の解釈

伺: 形声 声符は司。司は祝疇の器を開らき見る意で、もと神意を伺う意がある。
〔説文新附〕「候望するなり」とするが、遠方を望む意ではなく、もと祝禱を啓いて神意を伺う意。

 のち候覗の意となり、〔史記、伍子胥伝」 「人をして微かに之を何はしむ」のように用いる。また 尊上に侍することを伺候という。魂と通用するが、魂を伺候の意に用いることはない。

 一方「窺」については、 形声 声符は規。〔説文〕 に「小しく見るなり」とあり、のぞき見る意。 [老子〕 第四十七章「戶を出ずして天下を知り、をはずして天道を知る」とみえる。規々に局・区々の意があり、小さなところでこせこせする意をもつ。窺はおそらくその声義を承ける字であろう。身分不相応のことを望むのを 窺爺といい、字はまた覬覦に作る。覬と通用する字である。


漢字「伺と窺」の説文解字の解釈

  1. 伺: 【人部】 编号:5183 伺,𠊱望也。从人司聲。自低已下六字,从人,皆後人所加。
  2. 窺: 【穴部】 编号:4637 窺,小視也。从穴規聲。



漢字「伺と窺」の変遷の史観

両者とも「うかがう」と読むが、その成り立ちはは全く異なり、
 伺はその旁に「司」(司は祝疇の器を開らき見る意)を持つのに対し、
 窺はその旁に穴を持ち、穴の中で規(小さなところでこせこせする意)を持つ。

まとめ

 伺う:神にお伺いを立てる
 窺う:様子を窺う

  


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2023年8月25日金曜日

漢字「秘」の成立ちに込められた秘密:漢字「秘」の神髄は「必」にあった?


漢字「秘」の出生の秘密に迫る。ノギ偏に「必」に隠された意味は??





漢字「秘」の今

漢字「秘」をばらしてみたら?「秘」の解体新書


漢字「秘」の楷書で、常用漢字です。
 必は戈矛の柄部の形。「必」の字の本義は兵器の「柄」です。史書によれば、「必」は工芸を表し、作りは十分に複雑な作りで、 後に麻の糸の糸巻きが用いられた。こうして作られたものは柔軟で強度が非常に高く、兵器の柄の持ち手に用いられした。
 言葉の意味を明確にするためにのちに「木」が加えられ、「秘」と書いて、兵器の柄の部分を指すようになった。
秘・楷書



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 漢字「必」は戈矛の柄の象形である。この柄を部族の守りの象徴として、神に祀り、大切に守り育ててきた。その儀式が部族の存続と共に定着し、やがて「祕」という言葉を産んだ。この儀式はおそらく部族の守りとして、他の部族には見せることのない神聖な部族の象徴になったであろう。その中で従来の「必」と「祕」との間に分化が起こり、必は「これを掲げたからには、必ず」という決意を折らわす副詞的に用いられるようになったのではないだろうか。 
必・武器の柄を示すものであたが、武運を願う秘密の儀式を示すようにもなった
祕・武運を願う秘密の儀式を示す漢字「祕」が生まれて以降は、「必」は専ら副詞に用いられるようになった

秘・「示」偏が「禾」編になったのは古人のうっかりミス。つまり禾編である理由が見つからない


 


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「秘」の漢字データ

漢字の読み
  • 音読み   ヒ
  • 訓読み   ひ

意味
  • 人に知られないようにする、隠す
  •  
  • 奥深くて、人間では知る事ができない
  •  
  • ひそかに
  •  

同じ部首を持つ漢字     泌、祕、秘、泌
漢字「秘」を持つ熟語    秘、秘密、秘宝、秘め事



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説文

 祕、[兵媚切 ]、神也。从示必聲。






漢字「秘」の字統の解釈:必は戈矛の形。おそらく必を用いる呪儀が秘密とされたのであろう。但しノギ偏は古代人のミス

 必は戈矛の秘部の形。おそらく必を用いる呪儀があり、 その呪儀が殊に神秘にして、秘密とされたのであろう。

 〔説文〕 に「神なり」とし、神秘の意。[弊伝]に「必 の言たる、閉なり」とは、閉門の義があるとするものである。宮は媒神を祀るところで、 子を求める神、いわゆる郊禖。その幽暗なる宮で秘儀が行なわれたのであろう。それより祕奥・祕蘊 ひけつ 祕義・祕薬・祕訣・祕法など、容易に人に対して開示しないものの意となる。



漢字「秘」の漢字源P1151の解釈:棒に添え木を当てて絞めつける様を描いたもの

 解字会意兼形声。必は、匕(棒)を両側からしめるさまを描いた象形文字で、両側からそえ木を当ててしめつけるゆだめ(秘)のこと。秘は「示(かみ)+音符必」で、入り口をしめつけて内容がわからないようにした神秘なこと。秘が本字、秘はそのへんが禾に変じた字。泌(しめつけて汁をしぼり出す)・密(入り口をしめてかくす)などと同系。




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漢字「秘」の変遷の史観

文字学上の解釈

 
  
必・武器の柄を示すものであたが、武運を願う秘密の儀式を示すようにもなった
祕・武運を願う秘密の儀式を示す漢字「祕」が生まれて以降は、「必」は専ら副詞に用いられるようになった
秘・「示」偏が「禾」編になったのは古人のうっかりミス。つまり禾編である理由が見つからない
密・密は廟中において必に火を加えている形。それが密儀の方法であり、その密儀を秘という。
  
  





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まとめ

 以上漢字「必」を基にしたいくつかの漢字を見たが、必の字義である戈矛の柄の部の意味を失うことなく、神の前で神格化し、大切に「必」に込められた精神を守り続けてきた。

 そしてさらにその字義の概念をひき継ぎ、新しい概念「密」「泌」等などを発展させている。
 この文化の発展は、漢字を基礎としているからこそなしえた技であると思う。この発展の過程を漢字を通して跡付けることは、漢字考古学の研究の冥利に尽きると考えている。

 

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