2023年7月2日日曜日

漢字「熱」と「暑」の由来:古代人はをどのように感じていたか。古代人の生の感覚が今ここに蘇る


漢字「熱」と「暑」:古代人は熱と暑をどのように感じていたか。 古代文字から古代の秘密を探る

 

 漢字「熱」と「暑」の由来:古代人は熱と暑をどのように感じていたか。 古代文字から古代の秘密を探る

 古代人の生の感覚が現代によみがえる。

 これらの甲骨文字は、古代の人々が夏の暑さや火の熱さどのように感じていたかを、今の私たちに鮮やかに伝えてくれます。

 本ページは以前に取り上げた「暑」と「熱」のページをリバイスしたものである。

導入

前書き

 漢字の成り立ちの意味するもの:漢字「暑」は漢字「熱」との比較でその違いが際立ってくる

 文字は一つの文字を取り出して、それだけを論じても、真実にたどり着くのは難しい。
 その漢字の類語、使われ方、音、歴史的背景などあらゆる面から調べて初めてその文字の本質が見えてくる。これは、漢字の新しいジャンルになるのかも知れない。漢字考古学とで名づけられるだろうか。

 これから日本は、梅雨も明けると本格的な夏に突入する。暑い暑いと連発することになるが、同じ「暑い」でも、「熱い」というアツさがあるが、この区別はご存じだろうか。

 古代人はこれらを実に巧みに使い分けていた。漢字の成り立ちを調べると、その使い分けが見事になされていることに今更ながら感服する。

 ここで違いはあくまで、古代での話であって、現代ではこのような話ではないことは当然である。

目次



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漢字「暑と熱」の今

漢字「暑と熱」の解体新書

漢字「暑」の楷書で、常用漢字です。訓読みでは「あつい」と読みますが、おなじ読みをする漢字には、「熱い」があります。

 この意味の違いは、古代文字を見ると一目瞭然であり、文字から、三千数百年前の人々の考え方にまで迫れるというのは、漢字以外の世界中のどの文字にもないだろう。漢字はすごいの一言に尽きる。

 参考ページ:
熱はトーチを持つとき熱く感じるさまをいう 




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「暑と熱」の漢字データ

 
 古代人の考え:暑と熱さは一つのことを言っている。暑さと熱の違いはほかでもなく湿っているか乾燥しているかだ。従って南は暑い、北は 「熱い」となる。其れから言うと日本の夏は「暑い」ということになり、砂漠のあつさは「熱い」ということになる。この唐漢氏の考え方は、字の中にどう反映されているか?少し違和感を感じる。

「暑」・金文
「日」と「者」の組み合わせの表意文字だ。 「者」という言葉の本来の意味は、もともとは漆が付着したために、湿を帯び中に封じ込めるの意味を含む。
「暑」・楷書
金文を引き継いだ。
  甲骨文字の「熱」という言葉は、まるで人が燃盛るトーチを手に持っているよう見えます。

 「熱」の本来の意味は、「火を持つ、トーチ」です。手持ち型の松明は火であぶり焼けるように感じることをいいます。したがって、「熱い」はあぶり焼けるの意味です。

 この文字は、今盛んにおこなわれている、オリンピックの聖火リレーそのもので、、この字を見ていると、古代中国でもオリンピックが行われていたのではないかと錯覚を覚えるほどです。
「熱」・甲骨
まるで人が燃盛るトーチを手に持っているよう見えます。
「熱」・小篆
小篆の「熱」の言葉は、火と執るの音からなり、会文字と形声文字になっています。
 小篆の「熱」の言葉は、火と執るの音からなり、会文字と形声文字になっています。楷書はこの関係から、「熱」と書かれており、簡略化されて「热」になっています。




 

 

「暑」の漢字データ

漢字の読み
  • 音読み   ショ
  • 訓読み   あつ(い)

意味
  • (天候の)暑い  ・・・(例)蒸し暑い、
  • (物の温度が高い)熱い  ・・・例:鉄が熱い、熱く燃える

漢字「暑」を持つ熟語    炎暑、酷暑
漢字「熱」を持つ熟語    加熱、過熱、蓄熱、解熱、高熱、熱中症、熱量


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漢字「暑と熱」成立ちと由来

引用:「汉字密码」(Page、唐汉著,学林出版社)

唐漢氏の解釈

 「暑」日と者の声音からなる。 古代人の考え:暑と熱さは一つのこと、「暑の義、主曰く湿、熱の意味、主曰く燥」、暑さと熱の違いはほかでもなく湿っているか乾燥しているかの違いだ。南は暑い、北は 乾いた熱さ。

 「暑」という言葉は、「日」と「者」の組み合わせです。 ここでの「者」はここでは声符でありまた表意文字だ。 「者」という言葉の本来の意味は、もともとは漆が付着したために、湿を帯び中に封じ込めるの意味を含む。 したがって、暑の本来の意味は中にも含める、「じめっとした暑さがへばりつく」の意味も含まれています。

 私たちの感覚でいうと、日本のじめじめとした暑さは「暑い」で表現され、砂漠の熱さは、「熱い」ということでしょうか。


漢字「暑と熱」の字統の解釈

 形声文字:声符は者(シャ)。説文に「熱きなり」とあって、暑熱を言う。者は庶と通じる字で、火を用いるものは庶であるが、暑は庶の意によって暑熱の意を含むものであろう。
「詩、小雅」にすなわち寒暑を経たり」の句があり、寒暑とは冬夏、一年をいう。


漢字「暑と熱」の漢字源の解釈

 会意兼形声文字。者はコンロで芝を燃やす様。火力を集中する意味を含み煮の原字。
 暑は「日+音符者」で、日光の暑さが集中すること。



漢字「暑と熱」の変遷の史観

文字学上の解釈

漢字「暑」の楷書で、常用漢字です。訓読みでは「あつい」と読みますが、おなじ読みをする漢字には、「熱い」があります。

 暑と熱の違いは「暑がコンロや日の光の環境の中で感じる熱」を言っているのに対し、熱は「トーチや松明などから受ける熱」を述べているようです。つまり熱の方は非常に直接的なものであり、人類がおそらく極めて初期に感じたであろう感覚のように思います。それに引き換え暑は太陽の熱やコンロなど環境の中で感じる感覚であるように感じます。したがって、漢字の発生は、熱は最初に発生し、暑はかなり遅れて発生したように思われます。そのことは、熱の甲骨文字、暑の金文からもで見てとることができるように思います
「熱」・甲骨
トーチから受ける熱の描写が面白い
熱いという概念はなかった?
「暑」・金文


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まとめ

 個人的には、「熱」の古代字が実に面白い。特に甲骨文字に至ってはまるで漫画である。古代人の巧みな表現力に敬意を表したい
  


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2023年6月30日金曜日

漢字・突 に込められた謎は? 穴から犬が出てきたことぐらいで漢字が生まれるだろうか?


漢字 突 は、「穴」と「犬」からなる。ここでいう穴は「竈」ではないか?

 漢字「突」は、「竈」と「犬」からなる。竈は神の宿る場所として神聖化されていた。

 しかし、その神聖な場所である竈から犬が飛び出したとすると、それは古代人にとっては想定外の「突然」のことではなかったろうか。かくして新しい漢字が生まれた。

導入

前書き

 「突」という字は、「穴」から犬が突然飛び出すことだというのが定説であった。

  しかし、犬が穴から飛び出したことぐらいのことで、なぜ新しい文字が誕生されなければならない出来事か? あまりに日常茶飯事のことではないだろうか。

  前々からこの定説?には違和感を持っていた。なぜ穴でなければならないのか、なぜ犬でなければならないのか。理解に苦しんでいた。この穴は普通の穴ではないのではないか、そして犬は穴の中には普通はいるはずのないものではないだろうか。

  そして甲骨文字を繙くうちに、この穴が実は竈ではないかという説に付きあたった。とすれば竈の中に犬は普通はいないものである。かまどは神が宿る神聖な場所として見なされていた。「穴」にはいるはずのない犬が飛び出すから突然なのだという説は、かなり俗っぽいもの。もちろん今の段階では、何が俗説かは分からないが、・・。

目次




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漢字「突」の今

漢字「突」の解体新書


 

漢字「突」の楷書で、常用漢字です。
突・楷書


突・甲骨
突・金文
突・小篆




 

「突」の漢字データ

漢字の読み
  • 音読み   トツ
  • 訓読み   つく

意味
     
  • つく
  •  
  • にわかに、急に
  •  
  • つきだす。

同じ部首を持つ漢字     穴、窒、窃、空
漢字「突」を持つ熟語    突然、煙突、衝突、猪突


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漢字「突」の変遷はどこからもたらされたか:成立ちと由来

引用:「汉字密码」(P35、唐汉著,学林出版社)

唐漢氏の解釈

 「突」は会意文字である。甲骨文字の上半分は穴という字で、下半分は一匹の犬が洞穴の中でにわかに突破して出る図である。

 図に示すごとく、この一幅の図は犬が穴の中から雑草または雑草のようなものを身につけながらまさに出ようとしているところから出来たものだ。
 形は巧妙に兼ね備わったということが出来る。突の上部の穴が略して受け加えられて以降、金文、小篆、楷書体の一連の変遷を経て、形体は一致して一脈の流れを受け継いでいる。

 突の本義は急速に外に出ること、突囲、突破、狼奔系突の言葉にある。


漢字「突」の字統(P663)の解釈

漢字「突」の字統(P663)の引用

 会意 旧字は突に作り、穴と犬とに従う。穴は 穴(かまど)、犬は犬牲。 犬の形はもと友の形に作り、竈穴を犠牲をもって祓うことをいう。〔説文〕 に「犬、穴中より暫(にわか)に出づるなり、 犬の穴中にあるに従ふ」とするが、穴は犬の居るべきところでなく、また犠牲とされる犬ならば、突出してくるはずはない。
〔左伝〕 荘六年正月「王人子宊、 衛を救ふ」とあり、このとつが突の初文である。

 竈は火を用いるところ、竈神を祀り、家の中でも極めて神聖とされたところである。ここに犬牲を供えて祀ることが、古くは行なわれていたのであろう。突は竈の煙抜きのあるところで、突出するところであるから、突起・突兀の意となり、突如突怒のように急突、また突進・突撃のように勢いのよい意となる。

 

 
ここで、白川氏が主張する、「穴」は実は竈のことをいうという説に立ち返ってみる。竈という字は 上部は「穴」です。ここでは動物の巣穴を意味します。下部は虫の形象。竈とは土で作った穴の中に何かの動物(おそらく神聖な得体のしれない生き物)が生きていると想像したのではないでしょうか。そして古代人は竈を神の住む神聖な場所と考えた。
 そこで、いくら生贄といえ竈の中に動物をささげるとは考え難い。 

 しかし現実の問題として、犬が火の落ちた温かみのある竈に潜り込むことは十分考えられる。つまり神に代わって、いないはずの犬がいたとなれば突然とは考えないだろうか。とすれば、突然という意味も生まれてくると思うのだが。

古代中国の生贄

 字統によると、古代中国においては、「犬の生贄」が、広く行われていたということであるが、ChatGPTによれば、犬はそれほど多く犠牲になていないようだ。それは人間と犬との関わりの問題で、犬はむしろ協業の一端を担っていたからではないだろうか。

 古代中国の一部の宗教的および文化的慣習では、動物に関連した犠牲や儀式がいくつかありました。ただし、古代中国の文化や宗教の概念は多様であり、地域や時代によって習慣も異なることに注意してください。古代中国に関連した動物の犠牲の例をいくつか挙げます。

  1. 牛のいけにえ: 牛は、古代中国のいくつかの宗教的儀式や農業儀式で一般的な犠牲動物でした。たとえば、天に犠牲を捧げる古代の儀式では、神への敬意を表すための犠牲として牛がよく使われました。
  2. 羊のいけにえ:羊は古代中国のいけにえによく使われる動物のひとつでもあります。一部の宗教的および伝統的な祭りの儀式では、人々は神や祖先を崇拝するための犠牲として羊を使用します。
  3. 鶏のいけにえ: 鶏は、一部の宗教や習慣において犠牲動物としても使用されます。たとえば、神を崇拝したり、祝福の儀式を行ったりするとき、人々は鶏を犠牲として使います。
  4. 魚のいけにえ: 中国南部の一部の地域では、魚も宗教儀式における重要な犠牲とみなされています。漢の伝統文化において、魚は縁起と富の象徴的な意味を持っています。
 時間の経過とともに、動物を犠牲にするこれらの古代の習慣は徐々に減少し、徐々に新しい価値観に置き換えられたことを指摘する必要があります。
 古代中国では、奴隷を生贄にささげることもあったようですが、奴隷も生産を担う重要な要素になってくるようになると、生贄にささげる風習は次第にすたれていったということです。

太古の中国の犬を生贄に使う習俗(ChatGPTより)

 中国の太古時代において、犬を生贄として使用する風習が存在したという記録はあります。しかし、具体的な時代や地域に関しては詳細な情報は限られており、断片的な記述や考古学的な証拠に基づいた推測が行われています。

  中国の古代の宗教や信仰体系では、生贄が行われることがありました。生贄は神々への奉納や儀式の一環として行われ、神聖視される存在として扱われました。犬はその中でも一部で使用された生贄の一つとされています。
 犬が生贄として用いられた背景には、犬の特別な性質や神聖視される要素が関与していた可能性があります。古代の中国では、犬は忠誠心や警戒心の象徴とされ、また神聖な存在とも考えられていました。そのため、犬を生贄として捧げることで神々により深い敬意を表すとされたのかもしれません。

 ただし、古代の風習や信仰は時代とともに変化し、断片的な記録や証拠に基づく情報の解釈には注意が必要です。また、現代の観点から見ると、犬を生贄とする行為は倫理的に問題があると考えられます。 以上の情報は、限られた記録や学術的な研究に基づいており、完全な詳細や背景については解明されていないことをご了承ください。 現代中国の宗教的および文化的実践では、動物への犠牲は比較的まれであり、より多くは象徴的な方法で行われます。同時に、現代社会は一般に、動物福祉と環境保護を保護するという価値観を提唱しています。

漢字「突」の漢字源(P1163)の解釈

 会意。「穴」+犬で、穴の中から犬が急に飛び出すさまを示す。


漢字「突」の変遷の史観

甲骨文研究ネット

 甲骨文字=(かやで覆った穴)+(犬)、言葉の意味:言葉の成立ち:犬が突然穴から出てきて、人々が予想しなかったため突然という意味が出てくる

まとめ

  字統における白川博士の注釈は、もっともらしい解説ではあるが、実際に竈で生贄を焼くという行為が行われていたかははなはだ疑問である。第一、生贄を焼くとなれば、反射炉でもない限り強烈な悪臭が発生し、以降竈の役割を果たさないと感じるのだが・・・。

     結論として、私は「突」という字は、「竈」は「蛇か何かの神聖視された動物」で構成される。結果として竈は白川博士の言う通り、神聖視され、神のいる場所とされた。その場所に、いるはずのない犬がいるとすれば太古の人々にとっては、突然という意味が生まれてくると考える。
  


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