2023年2月24日金曜日

漢字「賊」の成立ち:「賊」とは、力ずくで財産を奪い、占拠することもしくはその集団。


漢字「賊」の成立ちと由来
 昨年暮れから今年初めにかけて起こった強盗事件は、従来の強盗の概念を打ち破るものであった。強盗の実行犯をネットで募集し、お互いに顔も知らないものをグループとして編成し、強盗を働かせる、実に手っ取り早く、手荒に現金を強奪するというものである。
 これが成立する背景に、今まで考えられない規模で、情報収集がされ、広範囲にネットを通して売買される社会がある。この犯罪は、昔から古典的に語られてきた「賊」などとは全く様相を異にする異質の集団である。この世の中、古典的な犯罪集団「賊」では語れない、不気味なものを持っている。
 賊という言葉は、この世に青銅器が発明された、紀元前1500年前ごろからすでに存在していたようである。彼らはそれなりの絆で結び付けられていたと考えられる。しかし、近年、この絆が希薄になり、流動的になっているのではないだろうか。この「賊」の概念に変化が出てきたのではないかと疑われる。


漢字「賊」の楷書で、常用漢字です。
 偏は貝で古代は子安貝が貨幣として流通していたことの証左です。また別の一節によると、これは貝ではなく、青銅の鼎という説もあります
賊・楷書


 「賊」という言葉の本来の意味は、力ずくで財産を奪い、占拠することです。 略奪のプロセスは他人の財産の破壊であるため、「賊」という言葉は破壊することにも拡張されています。
  例えば「孟子」:「仁を壊すものは賊と言っています。」 「賊」という言葉には、傷害を与える、または殺害するという意味もあります。
  宋王朝の学者である蘇軾は、「賊民は同じではないが、兵を好むものは必ず滅びる」という格言を残しました。今でも有用する格言ですね
賊・金文
賊・小篆


    


「賊」の漢字データ
 

漢字の読み
  • 音読み   ゾク
  • 訓読み   常用漢字なし

意味
  • そこなう
  • しいたげる(いじめる、虐待する)
  • ぬすむ、強奪する

同じ部首を持つ漢字     財、
漢字「賊」を持つ熟語    盗賊、海賊、匪賊、義賊、


引用:「汉字密码」(P653、唐汉著,学林出版社)
唐漢氏の解釈
 「賊」、これは会意文字です。 金文の「賊」の字は、貝と戌の二文字で構成されており、字の外側は戈を持って警護する人のように見える守衛の形で、字の真ん中は貝の字で、古代の物々交換していた時の「貨幣」です。
 「賊」という文字には「人・戈・貝」の3つの記号で構成され、これは略奪と所有を意味する。小篆の字形は金文と比べ変化はない。但しパーツには変化がある。「貝」は下から左に移動:「戌」は右に移動 楷書は隷書に変化する過程で変化し、「戌」は「戎」に変更。
 唐漢氏は物々交換したころの時代を表すとしていますが、貝が貨幣として使われt時代は、もう少し下って、貝が共通の価値を表すシンボルとして使われたころと考えると、貨幣経済の走りの時期と見ていいでだろう。もちろん物々交換もかなり残っていたであろう。

 
漢字「賊」の字統(P556)の解釈
 正字は鼎と戎に従う。その昔、重要な盟約を結ぶときは、鼎に銘を入れて、盟約を交わしたが、その鼎銘を入れた重要な誓約を破棄するときは、この銘をを戈で削り取ることで、破棄したとのこと。この銘を削り取る行為を賊という。賊とは故意に銘文を剥ぎ取りその契約を破棄する行為をいうものである。

まとめ
 漢字「賊」とは、単に人の財産を略奪し、奪い取るものだという解釈であったが、字統によると、盟約を破棄するために、盟約の際に鼎に彫り込んだ銘を戈で削り取るという解釈は、説得力がある。



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2022年12月31日土曜日

2022年の漢字「戦」の成立ち:「単」(盾の意味)と戈(攻撃用武器)から成る。


2022年の漢字は「戦」であった。戦いで明け、戦いで暮れる。だが戦とは何か。
 今年の漢字は「戦」清水寺の管長の揮毫が、かくも力強く、かくも悲しい
 今年も年の初めからロシアのウクライナ攻撃で明け、終わりの見えぬまま今年も暮れようとしている。
 この問題は以前にも取り上げた。しかし終わりの見えない現実。再度取り上げる。

 異常気象が叫ばれ、地球温暖化が危惧され、地球の滅亡も云々されているこの時に至っても、他の民族や国の人々の土地を奪おうとする執念は人間の業なのでしょうか。食べることができなくなるかもしれない恐れからくるのでしょうか。
 未来を予見することができるという人間の傲慢からくるのでしょうか。人間なんというものは宇宙から見ればゴミにも足らない存在にも拘らず、自分たちが世界を支配できると考えるのでしょうか。


 左側の文字は飾りのついた「盾」の甲骨文字で、現在は「盾」という漢字になっています。
 右側は飾りのついた「戈」(ほこ)で、刃が骨や石であった時代はこの文字が使われていたのですが、青銅が使われるようになると「矛」に置き換わります。
 つまり、「戦」という文字は、最初から「盾」と「矛」という文字から構成されていたのです。しかも両者とも飾りのついた武器であったということは、戦という字は個人の戦いを表現しているのではなく、何が知ら儀礼の入った集団の戦いを意味していたのではないだろうか。即ち、「戦」ということは、単に戈と盾を使うだけではなく、攻撃、防御という抽象的概念を表していたということではないだろうか。これが後世になってから、戈から攻撃、盾から防御という相反する概念が生まれ、さらに「矛盾」という概念が、ずーと後世になってから生まれたのでしょう。
盾・甲骨文字戈・甲骨文字
 戈は、敵を打ち据える動作によって殺傷するのに適した穂先を持つ、古代東アジアのピッケル状の長柄武器である。 (ヴィキペディアによる)
戈・金文 戈・小篆 戈・楷書


 矛、鉾(ほこ)は、槍や薙刀の前身となった長柄武器で、やや幅広で両刃の剣状の穂先をもつ。 日本と中国において矛と槍の区別が見られ、他の地域では槍の一形態として扱われる。
矛・金文
矛・小篆
矛・楷書


    


「戦」の漢字データ
 

漢字の読み
  • 音読み   セン
  • 訓読み   たたかう、いくさ

意味
     
  • たたかう。たたかい
  •  
  • おののく
  •  
  • おそれる 

同じ部首を持つ漢字     単、戦、弾、禅、憚
漢字「戦」を持つ熟語    戦争、戦慄、戦役、戦禍、




引用:「汉字密码」(Page、唐汉著,学林出版社)
唐漢氏の解釈
 柄の長い武器「矛」は、白兵戦で突き刺しや突き刺しに使用された。 殷の初期には石や骨が主に使用されていたが、製錬された青銅の硬度が向上したため、殷の後期には銅の矛が普及した。

 秦と漢の時代以降、鉄が広く使われるようになると、「矛」は徐々に「戈」に取って代わり、古代の戦争で最も長く使用された兵器の1つになった。
 銅碑の「矛」は「矛」の象形文字です。矛の頭は柳の木の葉の形状を成している。 胴体の部分には縄を結わえる半円の固定部が備わっている。小篆の「矛」の文字は青銅の碑文を継承しているが、象形文字の魅力を失い、楷書の文字の形は小篆の形体を整えたものとなっています。  「矛」は先が鋭く、刃が2枚あり、柄の部分は竹を集めたもので、つまり芯は直木で、外は竹の糸縄で縛り、漆できつく固めたもので、長さは主に 3.2 メートルから 3.8 メートルの間で、最長のものは 4 メートル以上あり、戦車で使えるように対応させている。「詩・秦風・無衣」:「王瑜興師、戈矛を我に修む」 戦国時代の戦争や征伐では、戈矛が併用されていたことが分かっている。

 


漢字「矛」の字統の解釈
 象形文字 説文「長い柄を持つほこの形。酋矛なり。兵庫に建つ長さ2丈。象形」という。
 長さ2丈4尺のものは夷矛、枝刃のあるものは戟、この矛を台座につけて兵庫の上に建て淳巡を行うことを遹正という。矛盾は特殊な読み方。


まとめ
 、「戦」という文字は、最初から「盾」と「矛」という文字から構成されていたのです。即ち、「戦」ということは、戈と盾を使うものだということだったということです。これが後世になってから、戈から攻撃、盾から防御という相反する概念が生まれたにせよ、「戦」という漢字にはそれが生まれたときから、「盾」と「矛」という相反する概念が含まれていたことに間違いはないでしょう。



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