2022年3月15日火曜日

漢字の発達と古代中国の兵器や軍事の発展


「漢字『軍』の成り立ちと意味:歴史と象徴が語る壮大な物語」
漢字『軍』の起源や成り立ちを詳しく解説。歴史的背景や文化的象徴としての役割について、漢字考古学の視点から掘り下げます。

 ここに掲げた字は漢字「軍」の古代文字小篆で書かれた字だ。
 この字体は中国の戦国時代以降に使われた字体である。車+外部の勹の字の会意文字で、兵車が周りを取り囲んでいる様を表している。この漢字は、戦国時代も少し下って、軍や兵に関する考え方が少し固まって来た時代に生まれた漢字である。

  中国において、長い間の狩猟・採取により生計を立てていた石器時代が終わり、農耕の時代に入ると、人口も増え、やがて貧富の差が生まれ、同時に国家が生まれてくる。これとほぼ時期を同じくして、部落の間の激しい抗争が出現する。
 それまで、動物を相手に狩猟にだけに用いていればよかった、狩猟器具は、部族間の抗争に必要な武器に変化していった。平和的な道具であったものが殺人兵器へと変化を遂げるようになる。
 この変化と同時に見られたのが、道具の材質の変化である。木製、石器が青銅器、やがて鉄器へと変化する。
 武器が青銅器から移るようになるのは中国においては、戦国時代に入ってからであるが、それに先立つ1000年から2000年間は青銅器の武器が、大きな変遷を遂げる時代になる。

漢字「戈」
 戈が単独で表示され、それを支える舞台は表示されていない。戈には飾りがあるものの、戈を支える人は明示されていない

漢字「戎」
 甲骨文字では戈と盾が合一され、武器の発展を跡付ける。攻防の武器を合わせて、兵器と軍事を示す。
 戈と干(盾)に従う。干は盾。攻防の武器を合わせて、兵器と軍事を示す。

漢字「戒

漢字「戒」では矛を支える手が加わり、武器を支えるための備えが明示されているでは

漢字「武」
 戈と止(あし)とに従う。止は歩の略形。戈を執って前進することを歩武と言う。

 会意文字。上部は斧の形。その下部に両手を添えたもので、武器を手に持つ様を示す。
 並べ合わせて敵に向かう兵隊の意。戈を基準とした漢字の作りとは違っていて、個々の武器よりも集団としての兵士に重点が置かれている。
 

戈・甲骨文字
攻撃用の武器だけを示している
戎・甲骨
戈+盾で、軍備一般をさすようになった。単に武器だけではない
戒・甲骨
戈と廾に従う。廾は両手。戈を高く両手であげている形で、警戒の意
武・甲骨
戈と止(あし)とに従う。止は歩の略形。ここでは討伐という概念が盛り込まれる。
兵・甲骨
斧を両手で差し上げている形。 武器を取って戦うものの意。


    

引用:「汉字密码」(Page、唐汉著,学林出版社)
  「戈」、「戎」、「戒」、「武」の四文字から概念の発達につれ、漢字が如何に変化してきたかがよく分かる。
 戈から戎への変化は、専ら攻撃用武器であった戈に、防御の概念が加わり、兵器、軍備一般をさすようになり、「戒」では、「戈+両手」で武器を手に持ち用心して備えることを示すようになった。 
 「武」においては、上部は「戈」(武器)、下部は「止」(足跡)です。 武止の会意は、討伐を意味し、武装示威の意味です。威を示す討伐者は必ずある行動をします。「止」は行動を意味し、威をとる物はすべからく武器を持って示します。
  以上のように、戈から始まって、武器の使い方はステップアップし、武に至って、ついに武器で威嚇、征服するに至る。
 さらに漢字「兵」に至っては、武器という概念というより、武装した人のことであり、それゆえ兵器と軍隊を表示するのに用いられ、初めから軍隊を表したものだといえる。。    



まとめ
 21世紀にもなって、ロシア軍がをウクライナに侵略することが堂々と行われ、今や核戦争の危機まで囁かれるようになっている。今までの戦争とは比べ物にならない規模と深刻さを持って我々に迫ってきている。ここに挙げたような漢字で表される戦い・戦争・武器の全ての概念が、現在では今までとは全く異なるものとなってきている。  様々な戦争技術の発展が 見られるもののごく最近までの戦争と今戦われている戦争の最も大きな違いは 、ごく最近までは、戦いは人間対人間が直接的なものであったものが、最近においてはロボット対ロボット(このロボットというカテゴリーには、AI、ミサイル、ドローン等、人間が戦争の現場にない戦争・戦闘も含まれる)という要素が大きくなって、人間の行為から離れたものになってきたことではないだろうか。

 人間対人間の殺し合いはそれ自体は悲惨なものではあるが、現在行われているロボット対ロボットと言う戦争は何を戦わせているのか、戦争は何のために戦うのかという点からみても、戦う相手が見えないものとなっている。

戦争はずっと愚かなものであったが、さらにそれがロボット対ロボットと言う形を帯びるにつけて、さらに愚かな様相を増しているように思う。 人間はこの愚かさから抜け出さないと、自ら作ったもので自ら滅亡させてしまう。人間は最後はロボットやサイバーシステムに滅亡させられたという馬鹿なことを続けるつもりなのであろうか?




漢字「軍」成り立ち:兵車が周りを取り囲んでいる様を表す。 ☜ については、こちらが詳しいです

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2022年3月9日水曜日

報の成立ちと由来:手かせと𠬝(即ち手で頭から抑えつける)から成る


漢字・報の成り立ちは「幸と𠬝」とからなり、手枷で拘束し、頭から抑えつけるの意である


漢字「報」の楷書で、常用漢字です。
 左側は「幸」で、手かせを表している。右側は「𠬝」で語義は、人を上から押さえて服従させるの意。
報・楷書


  
報・甲骨文字
左側には手枷をかけられた跪いた罪人
、右側に人の頭に手があって、あたかも罪に服させるかの様子を示している。
報・金文
手の形は尸の下に動き「尸」と一体となっています。小篆はこの点からは「+𠬝」という意味に進化してきた。
報・小篆
金文を引き継ぎ、より文字化・単純化が進んでいます。


    


「報」の漢字データ
 

漢字の読み
  • 音読み   ホウ
  • 訓読み   むく(いる)ぐ

意味
     
  • むくいる・・受けた行為と同等の行為を与える 例) 恩に報いる(恩に答える)、一矢報いる(復讐)
  •  
  • 知らせる、知らせ
  •  
  • 合わせる、重ねる 

同じ部首を持つ漢字     服、幸、𠬝、菔、
漢字「報」を持つ熟語    報告、報道、報恩、報復、諜報




引用:「汉字密码」(Page、唐汉著,学林出版社)
唐漢氏の解釈
甲骨文字の「報」という言葉は会意文字です。左側には手枷をかけられた跪いた罪人、右側に人の頭に手があって、あたかも罪に服させるかの様子を示している。「説文」は「報」を罪人であると解釈している。「当」は判決であるとしてます。 金文中の報の字は甲骨文を引き継いで、左右の構造に進化し、左辺は「幸」に変化しています。右側はひざを曲げて跪いた人の形を現しています。人間の形は「尸」という言葉に変換され、手の形は尸の下に動き「尸」と一体となっています。小篆はこの点からは「+𠬝」という意味に進化してきた。  

 



漢字「報」の漢字源の解釈
 会意文字で「手枷の形+跪いた人+手」で罪人を手で捕まえて、座らせ手枷をはめて、罪に相当する仕返しを与える意を表わす+


漢字「報」の字統の解釈
 幸と𠬝とに従う。幸は手の枷、𠬝は人を上から押さえて服従させるの意。手枷を加えて圧服するのは、刑罰に服させることであり、報復的な処罰であるから「報いる」意となる。説文に「罪に当たる人なり。 𠬝に従う。 服は罪に服するなり」という。報とは報復刑的にその当を加えることであるが、金文には字を応報、報賞の意に用いる。


まとめ
 幸と𠬝の会意文字であるようだが、幸は手枷を表し、𠬝は人を上から押さえて服従させるの意。いずれも、人を拘束し刑罰に服させる意となり、あいまいさをなくした極めて厳密な意味を持っている。刑罰に服させるという概念は比較的古くからあったようである。




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