2021年8月7日土曜日

漢字「縦」の原義は従うこと! 人間の上下関係を表すようになったのはいつから?


漢字「縦」の成り立ちと由来:甲骨文字では二人の人間の関係だけで、「相聴く」という意味であったが、
時代が下るにつれ、二人の上下関係、立場の関係を表すようになった

 漢字「縦」の原字は「从」です。従って行くということを文字の上からも明確にするために、「縦」という文字が作られましたが、近代になって、簡体字化の過程で、元に戻され、「从」と書くようになりました。

漢字「従」の楷書で、常用漢字です。従の簡体字は「从」ですが、原字でもあります
 語義は従うことを表すということです。

「縦」という字の甲骨文字は、二人の人が同じ向きに並んでる様をあらわしていますが、二人の人がお互い背を向け合っている様を示す右の文字は「北」を表し、そむくという意味を表します。

 甲骨文字の段階は、文字は単なる二人の関係を表すだけであったものと推察されますが、時代が下るにつれ、文字は単に二人の関係だけではなしに、二人の社会的立場を表すようになり、いわゆる「従う」という意味が出てくるようになり、それを明確にするために、ギョウニンベンが追加され、先の人に従う、或いは従えてゆくという意味が明確になってきたものと考えられます。
従・甲骨文字


  
从・甲骨文字
前後に二人の人形があり、まるで一人の人が前面を歩いているかのようです。
从・金文
金文では歩いていくことを示す「止と道路を示す「記号」が付け加えられ、二人の人が相随行して道路を行くことを示している。
从・小篆
小篆の従は金文と構造上は同じで、ただ文字の構成上一定の調整がなされている。


    


「従」の漢字データ
 

漢字の読み
  • 音読み   ジュウ
  • 訓読み   したが(う)

意味
  • したがう (動詞)
  •  
  • 従って
  •  
  • 従える(したがえる)

同じ部首を持つ漢字     従、縦
漢字「従」を持つ熟語    従事、屈従、主従、従容、合従、従者

引用:「汉字密码」(Page、唐汉著,学林出版社)
唐漢氏の解釈
 「从」は会意文字である。甲骨文の「从」の字前後に二人の人形があり、まるで一人の人が前面を歩いているかのようです。別の人は後を付き従っていく様子です。いわゆる従の本義は従うことです。
 金文では歩いていくことを示す「止と道路を示す「符号」が付け加えられ、二人の会意で、二人の人が相随行して道路を行くことを示している。
 小篆の従は金文と構造上は同じで、ただ文字の構成上一定の調整がなされている。楷書は「従」と書く。簡体字では「从」と書く。

 

漢字「従」の字統の解釈
 旧字は従に作り、辵と从に従とする。从は従の初文。説文に「从、相聴くなり。二人に従う」とし、聴許の意とする。また「从」については随行するなりとするが、辵と从に従う。卜文、金文の字形は从、後に従の字形となるが、もともと一字である。


まとめ
 ここでも、文字の変化は社会の変化を映したしたものとして、跡付けることが出来る



「漢字の起源と成り立ち 『甲骨文字の秘密』」のホームページに戻ります。

2021年7月27日火曜日

漢字・疑の成り立ちと由来:自分はどうすべきか、凝然と立ち尽くす様を示す。この文字の語意は「迷う」ことである。では疑うを示す漢字は何?


漢字「疑・嫌」はいずれも「疑い」示すことは疑いようがない。この二つの言葉の真の違いが今明らかになる。
 漢字・疑の成り立ちと由来:人は疑う動物である。3500年前から今に至るまでDNAに受け継がれている。今や疑惑の時代言い換えればフェイクの時代!

 漢字・疑の成り立ちは自分はどうすべきか、凝然と立ち尽くす様をしめす。この姿は甲骨文字から一貫して今も全く変わらない。今でも人は進むべきか留まるべきか迷い続けている漢字を見れば歴史がわかる。人の世の移り変わりが分かる。この漢字「疑」も甲骨文字では、人が単に立ち止まって凝然としている様をあらわしていたものが、金文になると道が加わり、道路が整備されたことがわかり、さらに「牛」まで付け加えられ、失われた牛を探すと言う有様まで表すことから、世の中で農業が盛んになり牛を農耕に使うようになったことが推察されます。

 このように一つの漢字だけからでも人るの歴史物語が出来てしまいます。


漢字「疑」の楷書で、常用漢字です。
 甲骨文も、金文も一様に人が立ち止まり凝然として行く手を決めかねている様が生き生きと描かれている。まさに百聞は一見に如かずである
疑・楷書




  
疑・甲骨文字
人が後ろを向いて凝然と立ち杖を立てて進退を決めかねている様子
第2款・・道路を表す「符号」を追加して、意味をより明確にしている
疑・金文
甲骨文を継承し、左辺には牛の記号が付け加えられ、右辺下部に「足」を追加して、歩いていくことを意味しています
疑・小篆
金文では牛を探したものが、小篆では子供を探すさまが付け加えられている。人々の視点が農業から人間社会に変化したと考えられる




    


「疑」の漢字データ
 

漢字の読み
  • 音読み   ギ
  • 訓読み   うたが(う)

意味
     
  • うたがう (動詞)  本当かどうかあやしく思う
    迷う、ためらう  
    怖がる、不安になる
  •  
  • うたがわしい(形容詞)  本当かどうかあやしい  
  •  
  • うたがい(名詞)

同じ部首を持つ漢字     凝、擬、嶷
漢字「疑」を持つ熟語    懐疑、危疑、疑義、疑獄、疑心、疑惑




引用:「汉字密码」(Page、唐汉著,学林出版社)
唐漢氏の解釈
 「疑」の本意は、惑わされることを指し、確定する方法がないことを言う。甲骨文の「疑」という言葉は、杖をもって出た人が左右うろうろと、道に迷い、どこに行けばいいのかわからないことを示しています。甲骨の別の書き方では、道路を表す「符号」を追加して、意味をより明確にしています。

 金文は甲骨を継承していますが、下部に「足」を追加して、歩いていくことを意味しています。加えられた「牛」は失われた牛を探すことを意味します。これにより、「疑い」という言葉の構成がより鮮明になり、金文の時期に農耕が重要な地位を占めていたことを反映してます。
 小篆は変化を遂げていく過程で、人が振り返った人の頭の形を「匕」とし、人の形の「大」は「矢」に変化し右の牛の形も変化して「子」になっています。次第に今日の楷書の「疑い」になります。

 「疑」とは

漢字「擬」の漢字源の解釈
 子供に心が引かれ、親が足を止め、どうしようかと思案する様

 「疑」と同様の意味を持つものに、「嫌」(うたがう)がある。こちらはこうではないかと気を回しておもう、悪い方へと連想する。今日われわれは疑うというと、こちらの意味に使うことが多いように思う。


漢字「疑」の字統の解釈
 象形文字 初文は「ヒ+矢」(ギ)人が後ろを向いて凝然と立ち杖を立てて進退を決めかねている様子で、心の疑惑している様を示す。後にまた足の形を加えて今の字形となったが、初形はかなり失われている。

説文の解説は既に字形の初形を失っている篆書の字形によっていうもので、そこから字形を解くことはできない。


まとめ
 単なる思い付きであるが、漢字の生成時期はいくつかのステージに分かれると思っている。即ち、文字の創成期、文字の広範囲に使われる時代、卜文などで、権力に取り込まれる時代そして、完成期。思い付きが、確証になることを望む。漢字「疑」は、迷うと考えた方が原義に近い。いわゆる人を「うたがう」という意味では、「嫌」に近いようである。



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