2020年8月30日日曜日

漢字「箸」:その成り立ちから社会の変化を探る



 箸は竹かんむりです。これは漢字ができたころには箸が発明されており、しかも材質は竹が主流であったようだ。




引用:「汉字密码」(P115、唐汉著,学林出版社)
唐漢氏の解釈
 「箸」は形声文字で、竹と者の音声から構成されます。 「者」の本来の意味は、箸に漆で塗ることであり、箸を囲み、つけるという意味が込められています。

「箸」は竹を使用してその材料特性を示し、「者」は箸が食べ物を箸に付けることを可能にするものであることを示します。

 この解釈には唐漢氏の事実誤認があるような気がする。なぜ漆でなければならないのか、時代考証が必要ではなかろうか。


箸にまつわる故事
 「韩非子」が記載の本に基づくと、殷と商王朝の終わりに、商の纣王は、自分のために「象の箸」を作るよう命じた、つまり象牙の箸を注文した。大臣の算子はこれを見て、これが周の纣王の腐敗と堕落の始まりであり、殷商がすぐに滅びるであろうと考えて、非常に恐ろしく感じた。事実、殷商朝は周によってすぐに滅ぼされてしまった。

 現代では、ワシントン条約の関係で象牙の箸はすっかり鳴りを潜めたが、ごく最近まで一般家庭でも象牙の箸は普通に見られた。殷商の時代との間には3500年の開きがあるが、人間はなんと贅沢になったものだと思う。この人間の傲慢さが、今の地球の危機を産んでいることになる。


字統の解釈
 形声文字。声符は「者」。




結び
この逸話から分かることは、殷商の時代には贅沢品にしろ、象牙細工が流通していたことだ。しかしその象牙細工はべらぼうに高いものであったようだ。



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2020年8月29日土曜日

漢字「退」の成立ちと現実の「退」の姿を振り返る・・退職・退任


漢字「退」の成立ちと現実の「退」の姿
退職代行業
 最近、「退職代行業」という仕事が繁盛しているという。これは、新入社員が自分のきいていた条件と現実が違うので、それも、就職して間もない新入社員が、自分の退職の申請をなり替わって業者が代行する業務だという。
 私はこの業務にものすごく違和感を感じる。満を持して決断した筈のことを少し?の条件の食い違いがあったにせよそれほど簡単に手放していいのだろうか? しかも自分が相手方ときちんと話して詰めもせず、他人に任せていいのだろうか。

退任と辞任
2020年8月28日 安倍首相が記者会見で、首相を辞任すると発表した。首相としての任を退くことになった。

このことの評価は別として、同じような言葉に退任がある。では辞任とはどう違うのだろうか。辞書を引いてみた。大辞林によると、退任とは、今までついていた任務から退くこととある。

では辞任とは「職務を自分から辞めること」とある。退任と辞任は自らの意志を強調する度合いの違いということといえそうだ。

 さらに、辞職という言葉があるが、これは職を辞するということで、もうひとつ重い言葉だ。ある職の上に立った、任務を辞するのが辞任で、職とはおのずから異なる。




引用:「汉字密码」(P115、唐汉著,学林出版社)
漢字 退の各種書体
漢字・退には甲骨文字・金文は見当たらない

唐漢氏の解釈
 「退」は会意文字です。古代中国の「退」では、左上は道路を示し、その右は目標を示し、直ぐ下には離開を示す記号があります。そして下部は足を示す小さな「止」があります。全体としては、人の「逆行して離れる」ことを表現しています。

 字体には逆行があるため、小篆は、省略し退と書きます。隷書は変化の過程で訛が発生していますが、目標を意味する記号「日」と逆行を意味する記号とごちゃ混ぜにして楷書では「退」と書きます。



漢字「退」の字統の解釈

 「退」は日と彳とスイと呼ばれる後ろ 向きの足とからなる。日は毀キとよばれる祭器の形を略したもの。スイは後ろ 向きの足で、彳と併せて、辵の逆行の形となる 。すなわち字は撤饌の形、神に供えたものを下げる意である。



「退」の使われ方
 「退」の本義は逆行して離れることです。倒行退出は、また後ろ向きに移動することから后退、退兵之計、 退却 " 等のように使われ、また後退から拡張して離れることから退場、退位 " 等といいます。さらに拡張され減衰下降の意味で「退色、衰退、後退」などのように、それはまた、後退、長期にわたる後退という意味で、「引退、後退、後退」などにも拡張されます。





結び
 安倍首相の辞任には、いろいろの評価、憶測が飛んでいる。外国の首脳は、一般的には外交辞令をたっぷり含ませたコメントを発表しているが、当該国の国民としては、儀礼的な評価で終わらせるわけには行かない。このサイトの彼に対する評価はここで取り上げた漢字「退」そのものであるといいたい。つまり前向きであるものが何一つ見つからないのが残念だ。



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