漢字『巳』の教え:人はいつでもやり直せる
忌み嫌われる蛇がなぜ天にまで上り詰めることができたのか?その謎に迫る
導入
漢字「巳」の由来と成り立ち。甲骨文字から小篆に至るまでの漢字「巳」の変遷とその歴史的な意味づけを漢字学者が読み解きます。また「巳」は蛇も意味しますが、古代の人々が、へびを恐れながらも畏怖と崇敬の念を持ち、いろいろな局面で畏敬の対象として心に刻み続けてきたありさまを明らかにします。
前書き
目次
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漢字「巳」の今
漢字「巳」の解体新書
漢字「巳」の楷書で、常用漢字です。 この漢字には非常に紛らわしい以下のような漢字家族があります。ここでは一番最初の漢字「巳」を取り上げたいと思います。
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巳・楷書 |
巳・甲骨文字 |
巳・金文 |
巳・小篆 | |
「巳」の漢字データ
- 音読み シ
- 訓読み み
意味
- 十二支の第6番目
- 蛇
同じ部首を持つ漢字 巳、巷、祀、己
漢字「巳」を持つ熟語 巳
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漢字「巳」成立ちと由来
参考書紹介:「落合淳氏の『漢字の成立ち図解』」
唐漢氏の解釈
巳これは会意文字です。嬰児がネンネコの中にくるまっている姿のデッサンです。十二支は全体として胎児が卵胞より出て、産道を通って、出産産育の過程を表すが、この「巳」は、将に胎児が胎胞から始まって、産育の第6段階(子丑の順に6番目が巳)にあり、また生育の過程の最終の終結である。金文の「巳」は甲骨文字を受け継ぎ、その手は外に動かした形である。但しこの一つの形と金文中の形が良く似ているので、両者混交され易い。
「巳」の本義は中に嬰児をくるむお包みである。
巳干を用いて時を記す時、巳の時は即ち午前9時から11時までを示す。地支の巳は天干の巳の形とよく似ていて、混同しやすい。しかしその形の来歴は巳は嬰児とは同じではない。上部口が閉じていれば、巳は頭を表し、上部の口が閉じていなければ荒縄のとぐろを巻いた状態を表す。
この説明は非常に分かりにくい。あまり本質をついているように思われない。
漢字「巳」の字統の解釈
蛇の形。十二支の第六、「み」に用いる。 〔説文〕に「故に巳を蛇と為す。 象形」とあり、巳を「すでに」と解するが、その字 は已(上部の四角が塞がっていない)、巳とは異なる形である。
漢字「巳」の漢字源の解釈
象形文字。原字はちょっと体ができかけた胎児を描いたもので、包(胎児を包む様)の中と同じ。種子の胎のでき始める6月。12進法の六番目に当てられてから与えられてから、原義は忘れられた。
漢字「巳」はそもそもどうして創り出されたか
社会的通念などから創生に迫る
「巳(み)」は十二支の一つで、それを動物に当てはめたのが「蛇(へび)」 です。つまり、両者は同じものを指しています。
十二支は、古代中国で生まれた時間や方角、暦を表すための記号です。子(ね)・丑(うし)・寅(とら)・卯(う)・辰(たつ)・巳(み)・午(うま)・未(ひつじ)・申(さる)・酉(とり)・戌(いぬ)・亥(い)の12種類があり、それぞれに動物が割り当てられています。
巳(み)と蛇(へび)
十二支の6番目に当たるのが「巳(み)」です。この「巳」に動物を当てはめたのが「蛇(へび)」です。そのため、「巳年(みどし)」は「蛇年(へびどし)」と同じ意味になります。
つまり、「巳」は記号名、「蛇」はその記号に割り当てられた動物名ということになります。
蛇は古来より、豊穣神や水神として信仰の対象とされてきました。脱皮することから「再生」や「生命力」の象徴とされ、また、その生命力から「不老不死」や「無限」の象徴とも考えられています。一方で、蛇の持つ毒などから、恐れられる存在でもありました。このように、「巳(蛇)」は、畏怖と崇敬の両方の感情を持たれる存在だったと言えるでしょう。
なぜ「巳」という漢字が使われるのか?
「巳」という漢字は、胎児の形から派生したと言われています。そのため、「新しく生まれてくる」「将来・未来がある」「子孫繁栄」などの意味合いを持っています。また、蛇が脱皮を繰り返すことから、「再生」や「変化」の象徴ともされています。
しかし、干支など実生活に深く係わってくるとなるといくら信仰の域に入った動物であるにせよ、陰気、狡猾、毒などマイナスのイメージを持つ動物をそのままの形で採用するには、差し障りがありすぎるということで、「巳」のように抽象的な神秘性のあるものに「昇華」(変化)させる必要があったのではないかと筆者は考えています。
中国の古代人の信仰の中に生きていた神秘的な生き物「蛇」
中国における蛇信仰は、単なる動物崇拝にとどまらず、その文化、宗教、社会、そして人々の意識にまで多大な影響を与えてきました。以下に、その具体的な影響について見ていきましょう。
- 神話と宗教への影響 創世神話: 女媧(ジョカ)のように、蛇の姿を持つ神が天地創造に関わったという神話が存在し、中国人の宇宙観や世界観の形成に大きく貢献しました。
- 道教: 道教では、蛇は仙薬や不老不死の象徴とされ、道教の修行や神仙思想に深く結びついています。
- 民間信仰: 蛇は、家内安全、財産の神として信仰され、各地に蛇を祀る寺社が存在します。
ここでは、女媧(ジョカ)について掘り下げてみます。
女媧と伏羲 伝説の夫婦神 |
女媧は、中国の古代神話に登場する、人類を創造したとされる伝説的な女神(蛇の化身)です。下半身をは蛇で、亀の足を持ち、中国の古代神話において、天地創造と人類の創造という重要な役割を担った女神です。
- 天地創造と修復: 混沌とした世界を創造し、洪水や天の裂け目といった大災害を修復したとされています。
- 人類の創造: 粘土を用いて人間を創造し、人類の祖とされています。
ここでいう女媧と「巳」である蛇とは別物ではありますが、確かなのは何れも神格化された人間を超越した存在であるという事でしょう。
まとめ
「巳」は十二支の一つであり、本来動物の意味はありませんでしたが、後から動物を割り当てる際に「蛇」が選ばれ、関連付けられるようになったということです。
ヘビは「巳」や「竜」になることによって初めて、天に昇ることができるようになったといえます。また「巳」や「竜」にならなければ、蛇はいつまでも蛇のままで、地上を這いずり回っていたでしょう。
これは、今このブログを見ていただいている貴方にも全く同じことが言えて、貴方が今のあなたから抜け出て,新しいあなたに生まれ変わることができれば、貴方は新しい世界が待ち受けているだろうという『教え』なのです。
要は今までの自分ときっぱりと決別し、新しい世界に歩みだすという決意だけが求められるでしょう。
そんなことは言われなくとも解っているわいといわれるかもしれませんね。そう、これぞ正に究極の『蛇足』かも知れません。
古代人は蛇の中に神秘性を見出し、自然に対する畏敬の念を蛇を通してみてきたと思います。
しかし、現代ではこうした自然に対する畏敬の念は忘れ去られ、人間に対して得か損か、益か害か?だけの近視眼的な見方に陥ってしまっているようです。結果として蛇(自然)に対する畏敬の念も忘れられてしまっているのではないでしょうか。
人間がこの広大な宇宙の中で生きていくためには、古代人の持っていた謙虚さを今一度思い返し、自然と改めて向き合うことが求められます。
2025年は巳年
ちなみに、2025年は巳年です。巳年は、これまで努力してきたことが実を結び始める年、新たな挑戦や変化に前向きになる年と言われています。
「漢字考古学の道」のホームページに戻ります。
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