2017年7月10日月曜日

漢字「金」の成立ちを甲骨文字に探る:上部は「今」と下部は熔煉の会意文字である

漢字「金」の起源と由来

金は古代にあっては銅のことを称していた
金は古代にあっては銅のことを称していた。その後金属類の総称となり、最後にはやっと専ら黄金の名前となった。
金は土(鉱石のこと)の中から冶煉で出来たことを示している

引用 「汉字密码」(P774,唐汉,学林出版社)
「金」の字の成り立ちは「今」と「火」
甲骨文字の「金」の字は上下部の繋がった構造となっている。下辺は「火」であり、火で熔煉を表した。上部の記号は古文の「今」の字で、男子の性行為の射精を表す。また銅液の流出を表し、また貴重だということを示している。金文の「金」には二つの書き方があり、一つは甲骨文を受け継ぎ、下部は火から出来ており、また別の書き方では土から出来ている。 金は即ち土(鉱石のことを示しているが)の中から冶煉で出来たことを示している。

「今」と「土」と二つの点から出来た会意文字である。

 旁の二つの小さい点は銅で出来た鍵盤のキー(即ち上古の「呂」)である。

この点に関し、白川氏はこの2つの小塊が元々金(銅塊)を表している。そして「金」という字は銅塊などを鋳込んだ形であると説明をしている。
 小篆はこの関係から、「今」と「土」と二つの点から出来た会意文字で、楷書では「金」と書く。金の字の構造は、本来上古時代の火煉鋼から来るものだ。もとより「金」の字の本義は「銅」であり、青銅の銘文の中で「吉金、赤金、美金」などから分かる。この中の「金」は全て銅を指している。

「金」は上古では「銅」を表していた 
 銅は上古の時期は金属の中で使用量が最も多く、その様とも広範囲にわたっていた。だから「金」は一般的に金属を示すのに用いられた。「悪金」の如く、一部鉄を指し、「錫金」は錫を指す。
 むろん鋼や黄金まで古代社会ではかつて貨幣に用いられた。だから「金」は貨幣のこととしても用いられた。現金、基金、奨金などである。黄金は金属中最も貴重なものである。
「金」は造字構造要件の中で「類符」(類を表す記号)となった。

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2017年7月5日水曜日

漢字「杉」の成立ちを「甲骨文字」に探る:杉は木の中でも数が多い


漢字「杉」の起源と由来
引用:「汉字密码」(P162、唐汉著,学林出版社)

杉の木はすなわち以前からいつも電柱に用いる樹木である。中国の南では杉の木の樹齢が400年を超えるものが多くある。まっすぐ立って天に向かう形は、世間に満ちている。雨量が十分で、温暖な気候、酸性の土壌は杉の木の生育を早くさせる。内外で有名な中国の「福州杉」はこの代表というべきものだ。 杉という字は木に を組み合わせて、" "の構造をしている。当然これは「三」の変形である。中国にあっては数詞の「三」と「九」は同様で、どれも数の多いという意味をあらわしている。このため影の「影」や彩色の「彩」その偏旁は皆「三 」で、重なりや横に並んだ多いという意味を示している。杉の木は単独で成長するものではなく、一塊の林をなす。杉の木の樹冠は小さいが樹茎は大きく高く、一株一株は緊密に寄り添い一種独特の生態系をなしている。 三五の塊をなし、数片で林をなす。そこで漢字中の「杉」の便利なところ。 《杉槽漆斜》の言葉は蘇軾の中の《宿海会寺》という詩に出てくるが、「高堂延客夜不扁 , 杉槽漆解江湖倾。」ここでの「杉槽」は杉の木で作った大きな浴槽のことを言う。



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2017年7月3日月曜日

漢字「方」の成立ち・由来を「甲骨文字」に探る:人が向いた方向を表す


漢字「方」の起源と由来
引用:「汉字密码」(P514、唐汉著,学林出版社)

「方」は会意文字である。甲骨文字と金文の「方」の構造はよく似ている。中間の記号は生殖器である。突出した男子の側面から見た形象で中部の横置した一は意を通じた形象である。両形の会意から男子の生殖器が向いている方向である。即ち方向の意味である。

 商代では甲骨文字辞に記載された古国は、一般に土方、井方、周方の如く一人称を○方と現す。一人称だから自分のことを表現するのに○○方といっていたのだろうか。今風に言うと「私こと○○」という感じなのか。

 小篆から楷書に至る方の字の中間は「男の人」の形で、逐次変化して、象形の意味を失ってしまっている。
 要は「方」は方角という意味に使われたのと、自分を表す一人称的に用いられたのだということ。

 因みに白川博士の解釈は「横に渡した木に、死体をかけたこと」を表す。としている。古代においては死を忌み嫌う風習からきたものという。


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2017年6月7日水曜日

漢字 地の起源・由来:万物の生成の源を表す「土」と古代の生殖崇拝の観念を表す「也」の会意文字


漢字 地の起源と由来:万物の生成の源を表す「土」と古代の生殖崇拝の観念を表す「也」の会意文字

 ここでも唐漢氏の説には、少し「納得しかねる部分」があるが、部分的にあれこれというより、全体としてどう評価するかということに力点を置いているので、そのまま紹介する。古代では、万物は火、水、土、気の元素?から成ると考えられていた時代があった。地とはすべてを育むことを意味する也と土から構成されるのは、ある意味最もな帰結かもしれない。

唐漢氏の解釈
 「 地 」は説文では、「エネルギーの始め、軽、清、陽は天をなし、重、濁り、陰は地になった。万物を陳列するところ。「地」は土と也の音声からなる。許慎の見るところによれば、天地の形成ないし、混沌とした状態から別れ、軽い清いものが天に昇り、重い汚いものは淀んで地になった。この種の認識と宇宙星雲の実際の形成過程は十分近い。許慎が見てきたように、地はまだ万物の陳列場であった。いうに及ばず、土は万物を生み、地球上に持つ物体全て土地の上のものだ。
 「地」は「土」と「也」からなる。「也」は古文字のなかでは、女性性器の象形である。始まりは古代の生殖崇拝の観念の表現だ。両形の会意で、よく繁殖し全てを慈しみ増やす土で、「地」は天に相対し、地面を表す。
【「汉字密码」(P305、唐汉著,学林出版社)参照】


結論
 漢字 地の起源と由来:万物の生成の源を表す「土」と古代の生殖崇拝の観念を表す「也」の会意文字。
 古代では、万物は火、水、土、気の元素?から成ると考えられていた時代があった。地とはすべてを育むことを意味する也と土から構成されるのは、ある意味最もな帰結かもしれない。


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漢字「岸」の起源:谷あいで橋を架けうる高い場所?


漢字「岸」の起源と由来

「汉字密码」(P309、唐汉著,学林出版社)によれば、
「岸」:谷あいで橋を架けうる高い場所
 「岸」これは会意文字である。古代帝王の印章文字「岸」の字の上部は山の図形で、下辺は「干」の字だ。中間はひっくり返し記号の「がんだれ」の三つの会意文字即ち木の幹が倒された様子で、一本の木の橋頭が対面の山の高いところにある形。小篆と楷書はこの流れを受け継いだ形。 岸の本義は峡谷で、水辺には単独の木の橋を立てうる高地のこと。以降専ら水辺の高地を指す。説文の解釈では岸は水崖(涯)或いは高いものとしている。

白川静博士は、「字統」では、山冠の下の字は、「用例もなく、岸の字をこの音に当てはめるために作ったような字」と評しているのでなんとも分からない。ただ、西晋のころ、「この地名で儀式が行われている。この場所は山川の断崖のようなところで、岸の初文である」としている。
唐漢氏の説明の木の橋云々は、少し分からない。謎は尽きない!


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2017年6月6日火曜日

漢字「岩」の起源・由来を「甲骨文字」に探る:「巌」の簡体字。元々巨岩の山峰を指していた

漢字「岩」の起源と由来

  最近霞ヶ関の辺りではやたら土木工事が為されているようだ。「岩盤規制」に穴を開けるなどという言葉が漏れ聞こえてくる。今使われている言葉「岩盤」の「岩」こそ、将に太古の昔に使われていた用法そのものかもしれない。せっかく岩盤を穿つというなら、ちまちましたことは考えずに、「霞ヶ関の魔の岩盤」に穴を開けて欲しいものだ。

            

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「汉字密码」(P309、唐汉著,学林出版社)によると、

「岩」は元は巌の異体字である。漢字の簡体化の時に「岩」を借りて「巌」の簡体字とした。
 甲骨文字の岩の字は会意文字で山の形の上に3個の石の塊を加え、巨石が突起して山峰を形成していることを表示している。小篆の岩の字は別に起こしたかまど或いは山から殷の声の形声字である。(また威厳の意味を含んでいる)楷書はこの関係から巌と書く。漢字は簡化の時点で岩を規範とする。

岩は本来巨石の挺立する険しい山峰を指し、広東省の七星岩のようなものだ。また拡大して一般に山峰を指す。


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2017年6月5日月曜日

漢字「安」の起源・由来:成熟した女性を大切にし、子孫繁栄を願った漢字


漢字「安」の起源と由来

 漢字「安」の起源・由来:成熟した女性が、個室で安心して生活できるように保証したことを示す

甲骨文字の生まれた時代は、父系制社会に移行する過程に在ったが、まだ母系制社会の生活習慣を残していた。成熟した女性が個室を持ち安心して生活することは、氏族共同体を護る基本であった。氏族全体で、女性を大切にし、子孫繁栄を願った漢字

 「安」の字は会意文字である。甲骨文字の「安」は上部は部屋の形状をしている。下部は部屋の中に膝まづいて、左に向いて座る女子である。金文の「安」の字の構造もまた部屋の中の女の字である。小篆と楷書の形体は甲骨、金文と同じである。但し楷書の建屋の形状は「内」に変化している。



「汉字密码」(P551、唐汉著,学林出版社)は、その理由はありと氏族共同体に解く
 何故女のいる部屋の中は「安」としたのか。「母系」社会の観点から見ると、発育して成熟した後の女性がもし自分の居所を持っていなかったとしたら、男性と野外で接合するだけで、居所もなく、生まれてくる子供があちこち逃げ回るだけとしたら、氏族全体に騒動をきたし混乱させてしまう。このために成熟した女性には自分の個室を与え、氏族全体の安寧とつつがなく暮らす様にさせるためだ。

白川静氏は「字統」のなかで、「安」を祖先を祭る寝廟の中で執り行われる儀式が、安静で、安寧であったことから発生した漢字と説明している。この一文だけで、評価は出来ないが、この説明ではウ冠(即ち屋内)のなかに女が配置されているという説明が不十分と思うのだが・・。
   「安」の本義は安定、平静である。安定から拡張して安穏や穏固の意味になり、《苟子•王霸》の「国安んじ、民憂うることなく」とは「国家安穏だと欠食・着るものにこと欠くことなく、庶民の不安定さを憂慮することもない。また安穏から引き出されて「安放、安置」がある。



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