2024年4月25日木曜日

漢字 罷の意味と使われ方。 罷の成立ちから、罷免から免れ対応する方法が分かる?


漢字 罷の意味と使われ方。 罷の成立ちから、罷免から免れる方法が分かる

 漢字「罷」は网と能からなる。
 网は網、能は大型の熊を表す漢字であったが、後に「網で動物を捕まえる」という意味から、「追い払う」「やめる」という意味に転用された。
 今では、罷という漢字は、日本の「労働組合法 第5条2項 8号」等に、ストライキを規定する用語『同盟罷業』に見られるのみで、殆ど死語となっている。しかし、罷免、罷業などは、時々マスコミにも登場する非常な重要な概念ですので、ここでしっかり把握しておけば、理不尽な「罷免」などに対応するヒントが得られるかも知れない。
 このブログの性質上、個々の問題に対応する役割を担っていないので、せめて心構えはどうあるべきかヒントでも出せれば幸いだ。

導入

押しかけ推薦・一度は読みたい名著  阿辻哲次著『漢字學

漢字學の原点である許慎の「説文解字」の世界に立ち返り、今日の漢字學を再構築した名著

前書き

目次




**********************

漢字「罷」の今

「罷」を含む熟語
  • 罷業 同盟罷業 、罷工(罷業と同じ意味) 工事をわざとやめること。また、業務をやめること。ストライキ。「同盟罷工」
  • 罷弊(現在では疲弊という用語のほうが多用される)
  • 罷免 職務を強制的にやめさせること、もしくは職務上の地位を解任すること。免職。特に罷免は公務員、それも一般の公務員ではなく、主に国務大臣や裁判官、検察官など特別な任用の公務員に対して使われる表現となっている。公務員の地位・選挙権・投票の秘密について規定している日本国憲法の第15条には、「公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利である」と書かれている。つまり、公務員を罷免することは、憲法によって保障された国民の権利であることが明示されいる。これに対し、一般の公務員は、労働契約上の話とみなされるので、「罷免」とは範疇が異なる。
     一方同じような意味の言葉に「解雇」があるが、解雇は、労働契約に基づく用語で、罷免とは意味合いが異なるので、注意が必要だ。

漢字「罷」の解体新書

dismissal_panel
漢字「罷」の楷書で、常用漢字である。
罷の簡体字は、罢と書くが、「能」の字の代わりに「去」を当てた理由は、意味的な関連性という説もある。
 罷:やめる、止める
 去:去る、離れる
 「罷」の持つ「やめる、止める」という意味合いと、「去」の持つ「去る、離れる」という意味合いは、確かに関連している。
  さらに、簡体字化が推進された1950年代から1960年代にかけての中国では、政治的なイデオロギーに基づいて漢字の簡体字化が行われていました。当時、簡素化や画数の削減だけでなく、封建的な思想や古い文化を象徴する漢字を排除する動きも影響したと考えられる。
 「罷」は、古代中国の官職制度に関連する漢字であり、封建的な社会制度を連想させる側面があったが、「去」は、より汎用的な意味を持つ漢字であり、封建的な思想とは結びつきにくいと考えられた。 
罷・繁体字_楷書罷・簡体字_楷書



罷・小篆



「罷」の甲骨文字、金文は見当たらない。漢字「罷」は网と能からなる事から考えると、狩猟技術の発達の進んだもっと早い時期に文字の発達もあってもいいようだと思うが、現実に狩猟技術と「罷」という認識にまでは至らなかったようだ。



 

**********************

「罷」の漢字データ

漢字の読み
  • 音読み   ヒ・ハイ
  • 訓読み   つかれる・やむ・よわい・ゆるす

意味
  • つかれる
  •  
  • やめる
  •  
  • 役目を辞めさせる

同じ部首を持つ漢字     罷、羅、罹、態、熊
漢字「罷」を持つ熟語    罷免、罷業、罷兵、罷工



**********************

漢字「罷」成立ちと由来

引用:「汉字密码」(Page、唐汉著,学林出版社)

唐漢氏の解釈

 「罷」は、会意文字で、下の「能」は熊の初字である。上の部分は冠から垂れ下がった「網」であり、古代人が網を使って熊を捕まえた姿を忠実に表現している。
 簡体字では「罢」と書く。
 「クマ」は動物の中でも強い動物であり、力が強く、凶暴で、多くの能力を持っているため、このような猛獣を狩るには「網」だけが用いられる。 「罷」の本意はクマを網で捕まえることである。 クマが網にかかると、本来の能力を発揮できなくなります。やがて諦め暴れることを辞めてしまう。 「罷」にはやめるという意味があるのは、ここから派生した意味ともいわれている。


漢字「罷」の字統の解釈

 罷は 獣に網する形。その罷れる(つかれる)のを待って、これを捕えるのである。ト文には鹿・豕・雉・免の属に网する形の字がある。能も獣畜の形で、獣がそれを擺脱しようとして、労罷・困憊の状に達するのを罷という。


漢字「罷」の漢字源の解釈

 会意文字。「网+能(力の強いもの)」で、力のあるものが網にかかったように動けなくなる、力尽きて疲れるなどの意を表す。



漢字「罷」の変遷の史観

文字学上の解釈

 漢字「罷」は网と能からなる。
 网は網、能は大型の熊を表す漢字であったということから、ここに熊の各種古文字を列挙した。甲骨文字、金文に至る「熊」の文字は実に生き生きと描かれ、古代人の観察力と描写力には今更ながら驚かされる。説文などでは、「罷」の下部が必ずしも「熊」であったとは断じていないが、古代中国の夏や殷のあった地方では、熊は生態系の頂点に君臨していたであろうし、その熊をターゲットとして、様々な狩猟技術が編み出されていたであろうことは容易に考えられる。少し北に移動すればアムール河の流域にはトナカイを狩猟するエバンキ族が棲息していたであろう。つまりこの地方では実に豊かな生活様式が繰り広げられていたであろうことは想像に難くない。

余談:罷免に対応するには、Chat GPTに丸投げしてみたときの回答が以下の通り

 罷免はある日突然降りかかってくるかも知れない。この災難から逃れるすべを心構えとして持っておくのも悪くはない。

心構え

 罷免から免れる方法は、状況によって異なります。以下に、いくつかの一般的な方法を紹介します。
 罷免を避けるための最善の方法はあくまで一般論ではありますが、職務遂行能力を向上させ、職場規則を守り、職場での倫理に反する行為をしないことです。また、上司や同僚との良好な関係を築くことも重要です。言えることは、王道はないとこです。また全く自分に落ち度や非がない場合でも、突然降りかかってくることもあるでしょう。
一人で悩まず、周りの人の助けも得ながら、明るく・粘り強く頑張りぬくことが何より大切です。


一般論で役に立つかどうかは分からない
 しかし基本は自分自身だ。周りに援助を期待するとしても、自分の代わりにやってくれることを期待してはだめ。

1. 証拠を集める
罷免の理由が不当であると思われる場合は、証拠を集めること。これには、文書、電子メール、証言などがある。証拠は、罷免手続きにおいて、あなたの立場を擁護するのに役立つはず。

2. 弁護士に相談する
罷免手続きについて懸念がある場合は、弁護士に相談することも一法。弁護士は、あなたの権利を理解し、最善の行動方針を決定するのに役立だろう。

3. 上司または人事部に訴える
上司または人事部に、罷免が不当であると訴えることができる。彼らは、状況を調査し、あなたを助けることができるかもしれない。助けを得るというより、改めて自分の主張をする・確認することだ。

4. 労働組合に加入する
労働組合に加入していると、罷免手続きにおいて、組合から支援を受けることもある。組合は、弁護士の費用を負担したり、あなたを代表して交渉したりすることがある。
 しかし、組合は便宜主義的に使うものではなく、あなたの代行を請け負うものでもない。あくまで共に闘うという覚悟が必要。

5. 辞職する
罷免される前に辞職することもできます。これは、あなたの評判を傷つけずに状況から抜け出す方法です。
 これはあくまで最後の手段です。交渉の途中で、安易にこれを匂わせたり、チラつかせたりしてはならない。相手からは、弱点とみなされ、それまでの、すべてのことが水の泡になってしまう場合がある。

罷免を免れるためのその他のヒント
冷静沈着を保ち、礼儀正しく振る舞う。
正々堂々とし、姑息なことは絶対に考えない。
自分の主張はしっかり伝える。
自分の権利を理解する。
必要に応じて、専門家の助けを求める。


まとめ

  「罷」とは力の強いものを、網にかけ諦めさせ、絡めとることだ。このことは「諦めたら終わりだ」ということを示している。混沌とした世の中で、人生、いろいろある。気持ちをしっかり持って、粘り強く闘い抜く決意がますます必要とされる。
  


「漢字考古学の道」のホームページに戻ります。   

2024年4月7日日曜日

漢字 陽と陰の成立ちと由来の歴史学・・人々は最初は陽と影と表現したのではないか


漢字 陽と陰の成立ちと由来の歴史学・・人々は最初は陽と影と表現したのではないか

 このページの表題「陽と陰の成立ちと由来」は、一見いかにもいかがわしい印象を与えている。現代の実証主義的な考え方にならされた私たちは、陰陽と聞くと、即座に陰陽道の「安倍晴明」の名前が浮かび上がり、何か得体の知れないものを感じ取って、それだけで拒否反応を示してしまう。
 陰陽説は、中国春秋戦国時代に生まれたが、それとは別に独自に生まれた五行説と融合し、陰陽五行説として、理論的にも確立されている。

 勿論科学の分野で言えば、多々批判はあるとは思うが、陰陽五行説を単なる観念論として葬り去るのではなく、シッカリ捉えなおす必要はあるのだろうと思っている。

 前置きが長くなったが、陰陽五行説も、今日まで、特に中医学の分野で、中心的認識としての役割を果たしている現実から見て、一概に観念論として片付けてしまうわけにはいかないような気がしている。

このページは「漢字の成り立ちと由来の中に陰に陽に込められた陰陽の謎」を加筆したもの
     また「漢字『影と陰』はどう違うのか」も参照ください

導入

押しかけ推薦・一度は読みたい名著  阿辻哲次著『漢字學

漢字學の原点である許慎の「説文解字」の世界に立ち返り、今日の漢字學を再構築した名著

前書き

目次




**********************

漢字「陽と陰」の今

漢字「陽と陰」の解体新書

Sun positive
 漢字「陽」の楷書で、常用漢字だ。陰という漢字も並列したが、両者とも「阝」(こざとへん)を持っている。これは神梯を表しており、神と現世を繋ぐものと考えられ、神が現世に降りてくるもしくは神が天上に上るときの梯とも考えられている。
 そしてこれらの漢字の旁は、それぞれ、霊気を強めるものと霊気を封じ込めてしまうことをあらわす全く二つのことなる機能を表す漢字で構成されている。4000年前の人々はある意味このような世界観を持った人々だっただろうとも考えられる。
Negative, Shadow
陽・楷書陰・楷書






 陽は人の目に見えて甲骨文字が存在していた。
 一方かげには「影」と「陰」が存在するが、影は光が当たることによって生ずるカゲ(人の目に見える)を影と表現した。一方、人の目に見えないカゲは「陰」という文字で表現した。いずれも甲骨文字は存在せず、後世になって生まれた。   
陽・甲骨文字
陽・金文
陰・金文
陰の甲骨文字はなかった
 



**********************

「陽と陰」の漢字データ

・「陽」の漢字データ

漢字の読み
  • 音読み   ヨウ
  • 訓読み   ひ

意味
  • ひ(日)・・(例:太陽)、ひなた(日の当たる所)、陽光
  • 天・春・夏・日・天子・君主・父・夫などのように、主に積極的・男性的な性質を持つもの」(反意語:陰)
  • 現れる・・ 陽転
  • 明らか・・陽性
  • 目に見える・・陽動作戦
  • 高く、大きい
  • 男性の生殖器(反意語:陰)
使い方
  • 「ひ(日)」  太陽、陽光
  • 「現れる」・・陽転

熟語   陽炎、陽気、陽光、陽性、陽転、陽動、陽石、陽子

・「陰」の漢字データ

漢字の読み
  • 音読み   イン
  • 訓読み   かげ・かげ(る)

意味
  • かげ
  • おおう   
  • くらい
  • ひそかに物事が行われる様・人目に立たず
  • 男女の性器、特に女性の性器を指すことが多い

使い方
  • 「陰」・・・人には見えない、人のいない所(例:陰に隠れて悪口を言う、陰語
  • 「影」・・・光がさえぎられてできた黒い部分、はっきりしない象形(例:人影)

熟語   陰湿、陰部、日陰、陰険 陰徳、陰謀、陰気、陰性、光陰


**********************


漢字「陽と陰」成立ちと由来

漢字「陽と陰」の唐漢氏の解釈

引用:「汉字密码」(P273、唐汉著,学林出版社)
・陽の唐漢氏の解釈
 「陽」は会意文字である。甲骨文字の左辺「阜」の原本は上古時代の梯子の象形デッサンである。この表示にはいくつかの階段状の山波があり右側には「日」で、太陽だ。下部は陽光が反射する符号Tがある。字形全ての会意で、陽の光が山波の上に照射している状態だ。いわゆる陽の本義は陽光の照射だ。このことから拡張して、山の南面に向かって日の指すところ、山の丘の出っ張った場所を示している。小篆の「陽」の字は変化し阜と陽とで形声字となった。楷書はこの関係から「陽」簡体化して「阳」となった。

 
・陰の唐漢氏の解釈

 「陰」の左辺の記号は、丘の略記だ、もしくは高い大きな土の丘だ。右辺の上部は「今」の字でもとは男子の射精を示す。下部は「云」の簡略記号で、個々の陰の字は下に雨を降らせる雲だと表示できる。小篆の陰の字は二つの書き方に分離し、一款は「陰」の字で、説文では「陰、暗」と解釈する。もう1款は説文では雲が日を覆うなりとしている。
 

 「陰陽」は一対の概念で、中国文化の中でも非常に深遠な意味を含む。地理の概念を含み山と水に対して中国式の区分をなしている。これは山の南面、水の北面は陽をなし、山の北、水の南は即ち陰となる。この観念の深い影響は地名の呼称に出ている。

 中國人は山水には陰陽があるばかりではなく、人事万物全てに陰陽の共存しないところはない。互いに転化しかれこれ対立し統一する状態にある一陰一陽道と称する、陰があれば陽がある。陰陽は一つの範疇、古代哲学思想の中で最も早く芽生え、影響も深く、弁証法的色彩も濃く、最も広く使用されている。


漢字「陽と陰」の字統の解釈


 声符は昜(よう)。昜は玉光が下に放射する形。玉光には魂振りとしての呪能があるとされた。それを神梯の前に置く形である。陰陽はもと侌昜と記した。昜の日は珠玉の形、下はその光の放射する意。玉光によって清め、霊威を高めることを示す。その霊の働きをまた陽という。


漢字「陽と陰」の漢字源の解釈


会意兼形声文字 原字は侌で、「云(くも)+音符今(含む。とじこもる)」の会意兼形声文字。湿気がこもって鬱陶しいこと。陰は「阜+音符侌」で、陽(日のあたる丘の反対、つまり日の当たらないかげ地のこと。 中に閉じ込めてふさぐの意を含む。

漢字「陽と陰」の変遷の史観

文字学上の解釈

 甲骨文字の時代では、人々は目に見えるものを認識していたのであって、思考は抽象的ではありえなかったであろう。したがって、陽は目に見えるものとして文字化されたと考えられる。

 漢字「陰」は人間の目に見えない抽象的な『かげ』であって、「陰」という字は甲骨文字には存在しなかったであろう。つまり「陰と陽」という概念は時代が下って、人間が抽象的概念をもてあそぶようになってできた文字と考える。





まとめ

 陽と陰という漢字の史的変遷を跡付けた。しかし、人間の思考過程を考ええると初期はあくまでも目に見える、認識できるものを認識していたであろう。思考は具象的で抽象的な思考はとても考えにも及ばないものであったろう。陽と影という対句の概念を表す文字は、「陽と影」という表現が正しかったのではないだろうか。問題はその仮説の裏付けとなる使い方が卜文などに現れていたかどうかである。

  


「漢字考古学の道」のホームページに戻ります。