2023年10月28日土曜日

漢字「闘」の成立ちと由来:闘いと戦いはどう違う?戦争と闘争はどう違う?


漢字「闘」の成立ちと由来:闘いと戦いはどう違う?


「闘う」も「戦う」どちらも「たたかう」ですが、両者には明確な違いがあります。語源を見ればわかりますが、一口に言って「闘う」は武器を持たないで、争ったり、克服することです。

 一方「戦う」は武器をもって戦闘行為をすることです。ウクライナ戦争といいますが、ウクライナ闘争とは言いません。




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漢字「闘と戦」の今

漢字「闘と戦」の解体新書


 
漢字「闘」の楷書で、常用漢字です。
鬥は鬪(=闘)の原字。鬥と鬪の間には、闘いの在り方にかなりの変化があったと考える。それが何かは今はわからない。
 一方「戦」は明らかに盾と矛といった武具を使った構成で、「鬪」とは一線を画する「戦争」を表している。 

鬥・楷書闘・楷書戦・楷書


     
  
鬥・甲骨文字
鬥・金文
鬥・小篆
鬪・小篆



 

「闘と戦」の漢字データ

漢字の読み
  • 音読み   トウ
  • 訓読み   たたかう

意味
  • たたかう
     戦争する(例:戦闘)
     思想や利害の対立する者どうしが自分の利益や要求の獲得のために争う
     苦痛や障害を乗りきろうとする(病気と闘う)
  •  
  • たたかわせる(例:闘牛)
  •  
  • 競う、争う、試合をする

同じ部首を持つ漢字     鬥、鬪、鬭
漢字「闘」を持つ熟語    闘、闘争、闘志、闘犬、


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漢字「闘と戦」成立ちと由来

引用:「汉字密码」(Page、唐汉著,学林出版社)

唐漢氏の解釈

 「斗」は闘の簡体字である。甲骨文字の「斗」は二人の人が殴り合いをしているようだ。相手が自分の頭の髪の毛をつかみ、こちらは、相手の手を掴んでいる。二人組合っているが、金文と小篆の字形は二人が取っ組み合いをしているようには見えない。
 まるで甲骨文字を継承していない様に見える。闘いの字の形と意味を理解するのは難しい。楷書ではこの縁から「鬥」と書く。漢字の簡略化から升斗の「斗」から借りて、鬥の簡体字になった。




漢字「闘と戦」の字統の解釈

 正字は闘に作り、斲声。斲は 左手に盾を執り、右に斤を執って戦う形。鬥は手格(素手でたたかう。)の形で、この両字は声義近く、合せて一字となったが、字の構造法からいえば、斲(たく)の声義に従う字である。

 〔説文〕「遇ふなり」とは、相接して戦う意であろう。すべて闘争する意に用いて、競争することをいう。




漢字「闘と戦」の漢字源の解釈

 向かいあって、互いにゆずらずにたたかう。後へひかずにあらそう。
   象形。二人の人が手に武器をもち、たち向かってたたかう姿を描いたもの。鬥は鬪(=闘)の原字。



漢字「闘と戦」の変遷の史観

文字学上の解釈

 漢字「鬪」の甲骨文から簡体字までの変遷をまとめた。当初は殴り合いを生き生きしたタッチで表現していたが、時が経つにつれ戦い方が高度に?変化し、盾や矛を使ういわゆる戦闘へと変遷を遂げてくる。恐らく先頭に加わる人数、組織も文字が複雑になるにつれ変化したであろう。漢字からは文字の変化そのものの中に、そのものの在り方まで推察されて面白い。

まとめ

 たたかうという言葉は今では「戦う」、「闘う」と書いて同じような意味に使われる。しかし、古代では両者はある意味では厳然と区別されていたようである。

 戦うという漢字は。「盾」と「戈」からなり始めから武器をもって戦う、即ち戦争をするという意味に用いられていた。
 一方、闘うという文字は、今では変化しているが、元々は「鬥」と書き武器を使わず、争うという意味に使われていた。ある意味平和的な方法での解決が試みられていたようだ。それが、明確に変わったのは、古代社会で階級分化が進み、単も部族を侵略するようになってからではないかと想像する。
 Description


  


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2023年10月25日水曜日

中国語でクリスマスは「聖誕節」(簡体字:「圣诞节」)という。この「圣」の語源は? その成り立ちと由来を探る!


クリスマスのことを中国語で「圣诞节」という。この「圣」という字はどこから来たのか?







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漢字「聖&圣」の今

漢字「聖&圣」の解体新書


 
漢字「聖&圣」の楷書で、常用漢字である。圣は聖の簡体字となっている。
圣・楷書 聖・楷書



  
圣・甲骨文字
圣・小篆
圣・楷書


 

   

「聖&圣」の漢字データ

漢字の読み
  • 音読み   コツ・コチ、セイ
  • 訓読み  ー  

意味
  • 土を祀る
  •  
  • 聖の簡体字
  •  
  • 古代の墾田の儀をつたえる字

同じ部首を持つ漢字       圣、「巠」の簡体字ではないことに注意という説もある(「巠」の簡体字は「经・轻」の旁で、片仮名「ス」「エ」を組み合わせた形のもの)
漢字「聖&圣」を持つ熟語    聖&圣、圣诞节、圣地亚哥(サンチャゴ)


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漢字「聖&圣」成立ちと由来

引用:「字統」(P323、白川静著、平凡社)
現代では殆ど聖の異体字として説明されているが、字統には他のものとは全く異なるアプローチがなされている。確かに漢字「聖」と「圣」の甲骨文字には驚くべき相違がみられる。





漢字「圣」の字統の解釈P323

会意: 土と又とに従う。土は土主。又は手の形。
土を祀る意で、開墾のとき地霊を祀ることをいう。 ト辞に「圣田」をトする例が多く、その字は土の上に収(きょう)、すなわち左右の手を加えている。土主を奉じ、地霊を祀る意である。 【説文】に「汝穎の閒 じよえい (河南中央部)、力を地に致すを謂ひて圣といふ」とし、その音を窟とする。ト辞以後の用例はみえず、 古代の墾田の儀礼を伝える字である。


漢字「聖&圣」の漢字源の解釈P313

会意文字; 「土+又(手)」。怪の構成要素となる。
 現代中国で「聖」の簡体字に用いる。



漢字「圣」の古代の解釈

 昔は、最も高貴な人格と最も優れた知恵を備えたいわゆる人々を聖者と呼んだ。
 最も崇高であり、崇拝されるものの名​​誉称号、「神聖」。 聖なる。 聖地。 聖書。
 封建時代の皇帝を讃えた言葉「陛下」。 勅令。
知識と技術において極めて高い功績を持つと言われる技能者。 グランドマスター。



漢字「聖&圣」の変遷の史観

文字学上の解釈


 漢字の持つ機能を他の漢字から借りてくることを仮借というが、私にはこの二つの漢字には何の関係もなかったのではないかと感じられる。
 しかしそれなりの理由があったことかも知れない。今のところ全く不明なので、これ以上の言質は差し控える。





まとめ

 古代文字「圣」が3000年もの眠りから覚めてこの世に復活したのは、ほんの60~70年前のことであった。
 字統で、「ト辞以後の用例はみえず、 古代の墾田の儀礼を伝える字である」と述べているように、久しく人々の目に触れることがなかったようである。

 私は、その6,70年前には中国であったであろう「簡体字検討委員会」みたいなところでの議論を見てみたいものだ。
 中国でも、日本でも多くの人々が『漢字不要論』を提唱したと聞く。前島密、福沢諭吉などその先鋒に立っていたようである。また、中国においても、魯迅、毛沢東などが漢字廃止と存続との間で揺れていたと聞く。これらを認識論の面からももっと明らかになればいいと思う。

  


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