2023年9月25日月曜日

神は「下る」とは決して言ってはいけない理由が今明らかになった!


神は「下りる」とは決して言ってはいけない理由が今明らかになった!


導入

前書き

 「下」は単に上下関係だけを言い表しているだけであるのに対し、「降」は何らかの意思が働く場合に使われるようだ。
 原字に遡って調べてみた。

目次




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漢字「下と降」の今

国語辞典 旺文社で「下りる・降りる」を引いてみた。

    結果は下記の通りだった
  • 「下りる」は、一般に物が上から下へ移動する場合に用いられ、「エレベーターが下りる」「錠が下りる」「認可が下りる」などと使われる。
  • 「降りる」は、人が意志的に高い所から 低い所へ移動する場合や乗り物に関して用いられ、「屋上から飛び降りる」「会長の座を降りる」「車から降りる」などと使 われる。また、露・霜についても「降りる」が用いられる。
つまり、「下」は単に上下関係だけを言い表しているだけであるのに対し、「降」は何らかの意思が働く場合に使われるようだ。
 そう考えると、「神は降臨する」のであって、「下臨」するのではない。確かに響きもよくない。腹は下すものであって、「降ろす」ものではない。
 左が、漢字「下」の楷書で、甲骨文字でも一目瞭然です。
 そして、右の字が「降」の楷書です。意味は共に、下に下がるです。「下と降」も、訓読みでは、「おりる」と読みます。原字では、単に位置をしたに下げるというのと、意識的に意志を持って下に降りるという違いがあるようで、そのニュアンスは現代にも引き継がれているようです。
 ここでは、同じように「下に下る」を意味する漢字が、果たしてどう違うのか、最初から違っていたのかの解明に努めます。
 
下・楷書


漢字「下」の解体新書

 甲骨文字、金文、小篆いずれも、見ただけで直観的に「下」とわかる。しかしこれらの文字のうち、金文が最も洗練され、文字としての記号化が完成されていると考えても違和感はない。文字の発展過程が直線的に進むとは限りないし、サンプリングの時期の問題もあろうから、やむを得ないものだろう。 
下・甲骨文字
下・金文
下・小篆


 

「下」の漢字データ

漢字の読み
  • 音読み   カ、ゲ
  • 訓読み   した、くだる、

意味
  • した
  •  
  • くだる :場所・順序・数量・地位等が低い事・遅い事・下方・後方へ移る。或いは、移す
  •  
  • くだす:判断など決断する。 下痢をする
  • おろす: 上から下に移動させる

同じ部首を持つ漢字     下、雫、
漢字「下と降」を持つ熟語    下、下降、下車、下痢


漢字「降」の解体新書

会意 阜と夅に従う。阜は神の陟降する神の梯の形。夅は歩の倒文で、歩は陟る、夅は降るときの左右の足。この解釈は、白川博士と唐漢氏とも全く同じである。 
下・甲骨文字
下・金文
下・小篆


「降」の漢字データ

漢字の読み
  • 音読み   コウ
  • 降訓読み   おりる、ふる

意味
  • 「くだる」、「おりる」:「高い所から低い所へ移る」
  •  
  • 負けて敵に従う
  •  
  • 雨や雪などがふる

同じ部首を持つ漢字     阪、隆、際、隣
漢字「降」を持つ熟語    降、降参、降下、降臨、


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漢字「下と降」成立ちと由来

引用:「汉字密码」(Page、唐汉著,学林出版社)

唐漢氏の解釈

 「下」もまた指示語である。言葉の意味は「上」と相反している。甲骨文の下は長い横線と下に短い弧線を加えて、位置が下にあることを指示している。金文の後期には「二」と区別をするために「縦の線」を一本加えている。 特別に長い縦ラインを追加しました。 楷書も同じ由来で「下」と書きます。 「下」の本来の意味は「上」の反対で、低い、下のという意味です。 「下」は、「下、下級、下流」など、低い、下から拡張して、品位や品質が劣るものを指すこともあり、また、順序や時間の遅れを意味することもあります。 「午後、次回」など。 「下」は動詞としても使われ、高いところから低いところへ降りることを意味し、「田舎に行く、解雇される、分散する、仕事を辞める」など。

漢字「下と降」の字統(P69)の解釈

 指事詞: 掌を伏せた、その下方を指示する。〔説文〕に「底なり」とは下方の意であろうが、篆文の字形は、一横線より、 直線の上に向かうものを上、下方に向かうものを下 とするが、文・金文の字形は掌上・掌下を示す形で、上は掌、下は覀覆(かふく)の意。覀はものを覆う蓋の形である。上下は場所・時間・身分など、 すべて対称的な関係のものを意味する。




漢字「下と降」の漢字源の解釈

 会意兼形声文字 夅は下向きの左足と右足を描いた象形文字で、下へ下ることを示す。
降は「阜+音符夅」で、丘を下ることを明示したもの。



 「下と降」の甲骨文字を示したが、一見したとき、これらの二つの字の間には、構成要素、字素、含まれている概念に大きな開きがあることは見て取れるだろう。下はやはり直感的で、象形的で見たままであるのに対し、「降」は字素も複雑で、成立ちも多くの要素・概念からなっている。これらの字の間には相当の時間の開きがなければならないと思う。すなわち、相当の経験、生活、認識の蓄積がなされたものだと思う。或いは二つの概念は全く異なる概念だともいえる。あるいは、全く別の見方をすると、下は単なる位置関係を示したに過ぎなかった。

 ところが下は移る行動を表現する必要があり、下の金文や小篆のように、上下二本の線をまたぐ縦線で、この行動を表したともいえる。降は初めから神が降臨する表現で、下とは全く別物と考えられた。考古学的には、これらの時間の空隙を埋める研究がなされることが期待される。



まとめ

  「下と降」は全く異なっていたのかも知れない。甲骨文字の時代に「神」が降臨するときだけに「阜」という立派な設備を使って降りてくるのであり、神は決して「下りてはこない」。この使い分けは今でも厳然と守られている。
 今ここにようやく古代の謎が解けたというのは、言い過ぎだろうか?
  


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2023年9月23日土曜日

漢字 合の原意は「合意」!上古の時代には「性交」そのものが「合意」であった?


漢字「合」にみる殷商の時代の性行為自体が合意であったのか?

 漢字「合」の原義は「性交」であるという説と、「合意」であるという説がある。
 このブログの基調となる「漢字の暗号」の著者である唐漢氏は漢字「合」は性交そのものだという。ところが字統では、漢字「合」は契約の成立即ち合意を意味するという。
 唐漢氏によれば、漢字「合」の原義は性交である。それから拡張され「合意」の意味が派生したと考えられる。

 ところが字統によると、合意が原義で性交という意味は出てきていない。

 現代の男女の問題で、裁判などで問題になる「性交」に合意があったかどうか等は、甲骨文字の時代には極めてややこしい問題になることになる。つまり、性交そのものが「合」ということであれば、合意という行為はどう解釈すればいいのだろう。
 甲骨文字の時代には、性交と合意とは一体であったのかも知れない。それが現代では、性行為は合意という行為と分化したことになる。
 こんな議論は「馬鹿馬鹿しい」と一笑に付されそうだ。




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「合」の漢字データ

漢字の読み
  • 音読み   ゴウ、ガッ
  • 訓読み   あ(う)

意味
  • ぴったりはまる。当てはまる。ごう。
  •  
  • 一緒になる
  •  
  • 一致する

同じ部首を持つ漢字     合、拾、閤
漢字「合」を持つ熟語    合意、合唱、合議、交合


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漢字「合」成立ちと由来

引用:「汉字密码」(P517、唐汉著,学林出版社)
上部の「A]のような図形は、万国共通の男性の性器を表す
下部の容器に見える図形は女性の性器を表している

唐漢氏の解釈

  「合」これは会意文字である。甲骨文字、金文、小篆で「合」の字の示すがごとく、構造的には同じで、上部の「A」の形は男性の生殖器の省略形であり、下部の容器のように見える図形は女性生殖器▽の異形である。両形の意味が合わさって、男女の性のつながりを表し、性交、合歓、性的関係の語の中の合の意味そのものである。

「合」の字は両性の性関係を表す場合を除いて、一般事物の符合、集合、会合など物体間のくっつき合うことを表すように拡張されて用いられる。

 後世には「合」は古代の容量単位で10勺で1合、10合で1升を表し、1合は1升の10分の1である。秦漢の時代には、1合は20CCだったようだ。


漢字「合」の字統(P317)の解釈

  祈祷を収める器である、サイの上に蓋をしている形である。上の図形はΛの下に横棒を加えたもので、集の意味である。意味は衆口を集めるを「合」とする。字は祝祷の器に蓋をする形で、約定が成り、これを載書として祈祷の器に収めることで、契約のなることを合という。


漢字「合」の漢字源の解釈

 会意文字:上部の△(かぶせる)+□(あな)で、穴に蓋を被せて、ぴたりと合わせることを示す。


漢字「合」の変遷の史観

漢字・合は甲骨文字から金文、小篆、楷書に至るまで、その形状は継承され、いささかの変化も出ていない。1000年以上も人々の間で用いられ、その変化がないというのは逆に驚くべきことではないか。その理由は、変化をする必要がなかった。最初から一貫して合理的であったということなのかもしれない。

 ここに至って、この字が、性交という意味も合意という意味もこの字は的確に表現しているのかも知れない。


まとめ

 字統の解釈は、確かに良く分かるが、文字というものは、このように抽象的な概念が先行して生まれるものかは分からない。とはいえ唐漢氏の解釈もあまりに突飛なきもするが、一方で、ダビンチコードに出てくる聖杯の説明と合致している部分もあり面白い。
 念のために付け加えておくが、ここで述べたことは、今現在様々な局面で話題になっている

 「性交は合意の上になされるものだ」「性交はそもそも合意されたものだ」等との卑怯な言い訳を弁護するものではない
ことは声を大にして言っておかねばならない。
  


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