2022年1月6日木曜日

漢字「盧」:主に名前に使われ「盧溝橋」がもっとも有名


漢字・盧が世界に広く知らしめるようになったには、盧溝橋という橋の名前からで、直接的・間接的に日本が係わっている
 盧溝橋は金代の明昌3年(1192年)に完成し、その後度々修復が施されている。全長266.5m、11幅のアーチからなり、各アーチは長さ11m、扁平率0.69の楕円形。橋の欄干には、それぞれが異なる表情や姿をした計501基の獅子の彫像が置かれている。(ウィキペディア)
 
マルコポーロの「東方見聞録」
 第3話 大ハーン(フビライハンのこと)はマルコポーロを西部の地方への使者として派遣した。ハンバリク(元の時代の大都、現在の北京)をたって16 km 行くと大きな川に着く。 ブリサンギン【盧溝】(現在の永定河)といい、大河に注いでいるので、商品を携えた商人が海から上ってくる、極めて美しい石橋がかかっている。長さ270M、十頭の馬が並んで通れるくらいだから、幅は7m 以上はあるだろう。 24のアーチと橋脚があるが、美しい大理石で堅固に作られている。両側に大理石製の手すりと柱があり、その根元に大理石製のライオンがある。柱の頂上にもライオンがおかれ、いずれも立派な彫刻だ。手すりは灰色の大理石である。(「東方見聞録」、現代教養文庫)

盧溝橋事件
 そして直接的にこの盧溝橋の橋が世界に大きく知られるようになったのは、1937年7月7日に引き起こされた盧溝橋事件である。この事件を皮切りに日本は中国との全面戦争の泥沼に嵌まり込んでいくことになった。

漢字「盧」の楷書で、常用漢字です。
 「卢」は盧の簡体字です。甲骨文は上下の構造が結びついた会意文字です。下部は炉身と炉足の火の炉のデッサンです。上部は虎の字の簡略形で、炉口が大きく張った様を表示している。事実炉の字は上古時代の精錬や製陶の高炉のことです。金文と甲骨文字の炉の字は似ていて、筆流れは滑らかに、形はさらに美観を呈している。小篆の炉の字の下部には「皿」が加えられ、中間炉の形は田に変って、盛んに蒸気が上がっており、生活からくる変化が加えられている。小篆のこの変化は盧の道具の変化であり、包括的な火盆からくるものだ。
盧・楷書


  
盧・甲骨文字
上古時代の精錬や製陶の高炉のこと
盧・金文
甲骨文字を引き継いでいる。筆流れは滑らかに、形はさらに美観を呈している
盧・小篆
「皿」が加えられ、中間炉の形は田に変って、盛んに蒸気が上がっており、生活からくる変化が加えられている。


    


「盧」の漢字データ
 

漢字の読み
  • 音読み   ロ
  • 訓読み   クロ

意味
     
  • 飯器
  •  
  • 高炉
  •  
  •  

同じ部首を持つ漢字     爐、鱸(スズキ)、蘆(アシ)
漢字「盧」を持つ熟語    




引用:「汉字密码」(P773、唐汉著,学林出版社)
唐漢氏の解釈
 「卢」は炉の初文です。焼き窯、銅の精錬用の高炉からきている。
 後期には、一般的に、暖房、調理、製錬に使用されるさまざまな形態のストーブを含む、火器を指します。《后汉书•五行志》に『魏郡男子张博 , 送铁卢诸太官。』とあるがその中の鉄の炉とは即ち製鉄炉を指す。
 後の時代には盧に旁の火を加え爐として、簡単化の過程で" 卢 "ではなく、户 "とした。現在では姓名に用いられるが、古代は大概冶金用の窯である



漢字「盧」の漢字源の解釈
 形声:皿+音符で、丸い壷の形をした飯器のこと。キョロなどという。中が黒いことから黒いという意味もある


漢字「盧」の字統の解釈
 説文では「飯器なり」とある。柳をもってこれを作るとされているが、その器は炒爐だとされている。




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2022年1月1日土曜日

漢字「虎」は実に威風堂々としている。荒々しいが、気品もある。古代人の表現力には舌を巻く


 来年の干支は寅年である。このような生物による紀年法が定着したのは、後漢になってからといわれているが、ウィキペディアによると「十二支と十二獣がいつから結びつけられたのかは不明であるが、1975年に湖北省雲夢睡虎地の秦代の墓から出土した竹簡には既に現在のように動物が配当されている様子が伺われる。

  後漢の王充が著した『論衡』物勢篇では、十二支を動物名で説明しており、これによって干支の本来の意味が失われ、様々な俗信を生んだ。ただし、日、月、時刻、方位などを干支で示す慣習が廃れた今日でもなお、干支紀年に限っては今なお民間で広く定着している要因ともなっている。日本の風習である年賀状などにも動物の絵柄が好んで描かれているが、下表のとおり、配当される動物には国によって違いが見られる。

 いずれにせよ、十二獣と干支との間には何の科学的根拠もないと考えられている。

 唐漢氏はこの寅を人間の出生の一過程を表現するとみなす説に立っている。
寅が十二支に占める位置は第3位である。これも会意文字である。
 甲骨文字の寅の字は繁簡両方の型式を持っている。その一は上部の矢の形に同じ符号である。これは臍の緒が繋がっている方向を示している。下部の符号「文(父)」は即ち母親の産門を示したものだ。そして中間の口は産門の内外を示したものである。三つの形の会意で、胎児が出産後、胎盤からまだ出ずに,臍帯がつながった状態を示している。

  虎は寅ではない。干支の寅歳に虎をあてたものだが、当てられた虎もハタッと困ったことであろう。「百獣の王」は獅子というが、私から言わせれば、百獣の王は紛れもなく虎だと思う。獅子と虎が同じ環境に住めば、間違いなく虎が君臨すると思う。


それ故、古代から虎は畏敬の念を以て人々に敬われ、恐れられてきた。
 虎を含む成語には数限りない。

漢字「虎」を含む成語、ことわざ
  • 不入虎穴,焉得虎子虎穴(虎穴に入らずんば、虎児を得ず):
    もっとも有名な成語。班超が西域で匈奴に囲まれ窮地に陥った時危機を脱出した時に入った言葉
    危険を避けていただけでは、成功は望めない
  • 虎視眈眈 :じっくりと機会を狙っている状態
  • 苛政猛虎:悪政は暴れる虎よりも恐ろしいことをいう
  • 暴虎馮河:血気にはやって、無謀な行動を起こすこと。孔子が弟子の振舞いに危惧の念を抱き、戒めた言葉
  • 狐仮虎威:権力のある者の威勢を借り、威張り散らすこと『戦国策』より
  • 画虎类狗: 虎を画きてならず、反りて狗に類す。『後漢書・馬援伝』素質のないものが優れた人のまねをして軽薄にふるまうことを戒めた 
  • 虎尾春冰:虎の尾を踏むことや春先に雪解けの時に凍った氷上を歩くこと。非常に危険な振る舞いであることの譬え
  • 騎虎之勢:隋の皇帝楊堅の皇后独孤が夫が隋という国を建てようとしたときに、
     夫を励ました言葉。虎に乗ったものは、途中で降りて虎に食われてしまうので、途中でやめるわけにはいかないという意味
  • 官虎吏狼:官は虎の如く、吏は狼のごとし。官吏が暴虐を貪ることの比喩
  • 虎頭蛇尾:最初は勢いがいいが尻すぼみになること。類語に『竜頭蛇尾』がある。
  • 虎渓三笑:あることに熱中して、他のことを忘れてしまうことの譬え
漢字「虎」の楷書で、常用漢字です。
 虎と言う古文字は実に芸術的だ。どれもこれも虎の荒々しさを余すところなく、生き生きと表現していいる。
寅・楷書


  
虎・甲骨文字
虎の全形そのもの
虎・金文
荒々しい虎の状態を表している漢字
虎・小篆
図形・象形から文字としての符号化の過程を示す


    


「虎」の漢字データ
 

漢字の読み
  • 音読み   コ
  • 訓読み   とら


同じ部首を持つ漢字     虎、虚、虜、號、膚
漢字「〇」を持つ熟語    虎杖、虎魚、虎巻、




引用:「汉字密码」(Page、唐汉著,学林出版社)
唐漢氏の解釈
 虎は」象形文字である。甲骨文字の虎の字は、上を向いて大きく口を開け体には美しい斑紋を持ち、尾と足まで全体が猛虎の形象を示している。字の全体は猛虎が立った側面の図である。
 実際上古の人々はこのように画を刻み、漢字の横に細く縦に長い漢字の構造に合わせた特徴を持っている。
 金文の虎の字は多く省略されてはいるが虎の形象を留めている。
 均整の取れた美観を志向し、すでに甲骨文と金文の特徴は失っているが、図形から符号に発展する過程に反映した文字になっている。

 虎は説文では「山獣の君。」とし、これは老虎を百獣の王と見立てている。食肉の猛獣として、林中の覇の称号と一致する。上古時代は東北と河南では皆常にみられる動物である。したがって成語を含め多くの言葉が虎を含んでいる。「虎口余生,虎视眈眈,狐假虎威,不入虎穴、焉得虎子,虎毒不食子」など等




漢字「虎」の漢字源の解釈
 象形:虎の全形を描いたもの


漢字「虎」の字統の解釈
 象形文字: 卜文は虎文をつけた象形字に作る。
 説文に『山獣の君なり』とあり虎足は人の足に象るとするが、その脚尾の形に過ぎない。
 金文の図象に虎形を用いるものもあるのは古くトラの飼養に関与した部族がいたのであろう。


まとめ
 会意文字であるようだが、甲骨文字にせよ、金文にせよ、まるで象形文字であるかのように生き生きとした人々の姿が描写されている。文字の形に簡略化し、無駄を省いたデッサンとなっており、実に素晴らしい記号化、抽象化がなされていると思う。



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