2021年9月18日土曜日

「いなご・蝗」は大群となりて世界の人類を滅ぼすか、果てまた人類を救うたんぱく質の供給源となりうるか


漢字「蝗」の成り立ち:「虫+皇」から成る。蝗の大群はまるで皇帝のように傍若無人に振舞い人々を苦しめてきた
 つい2、3か月前イナゴの大群がアフリカ北部からトルコ、シリアのあたりに飛来し農作物を食い荒らしているというニュースが駆け巡りました。

 近年蝗の一種である、サバクトビバッタがアフリカに大発生し、それがアフリカ、中東、西南アジアに飛来し、20か国以上にも及ぶ国々の農業、食料に甚大な被害を与えていると報じられています。


  2021年5月11日付JICAのホームページには、その被害の状況を下記のように報告しています。
 さまざまな農作物を食い荒らすサバクトビバッタ。アフリカから中東、南西アジアまで広く分布しており、大発生すると大群が風に乗って一日に100km以上飛翔するため、その被害はこれまで約60カ国、地球陸地面積の約20%に及ぶといわれています。 なかでもパキスタンは被害が大きく、2019年末に大発生したサバクトビバッタの被害面積は約1800万ha(ヘクタール)と世界最大かつ過去最悪でした(世界銀行:2020年6月資料)。さらに2020年からは新型コロナウイルスの影響も重なり、パキスタンの主要産業である農業分野は甚大な被害を受けています。

パキスタンで、サバクトビバッタへの対応に取り組んできた国際連合食糧農業機関(FAO)はJICAと連携し、バッタ被害が深刻な小規模農家の生計向上や、バッタ防除を行う政府職員の能力強化など、農家をサポートする体制づくりを進めています。
  また蝗は豊富にたんぱく質を含むことから、飼料として利用する方法も開発が進んでいます。


 日本では昔から蝗の佃煮や、甘露煮、てんぷらなど蝗を食べていた地域もあります。今後気候変動や地球温暖化などで現在の食材では賄いきれなくなった時には、これや昆虫類も人類を救う重要な食糧源になることが期待されています。

漢字「蝗」の楷書で、常用漢字です。
 左側は「虫」で、右は「皇」という字で、四方に広がるという意味を持つ。
 この昆虫は、稲やありとあらゆる植物を食い荒らす害虫として人々に恐れられてきた。「蝗」は古代は、「水、火、兵、蝗」の四大災害の一つとして、古代の文献にもしばしば登場している。
蝗・楷書


  
蝗・甲骨文字
昆虫そのまんま、触覚、頭部本当に昆虫にしか見えない
蝗・金文
甲骨文から更に進化した
蝗・小篆
ここまでくると象形文字の率直さは失われて、文字としての体裁と買いやすさ、表現の統一性が際立ってくる


    


「蝗」の漢字データ
 

漢字の読み
  • 音読み   コウ
  • 訓読み   いなご

意味
     
  • 蝗 (イナゴ)   イナゴ科イナゴ属のバッタの総称。
  •  
  • ショウリョウバッタ(精霊蝗虫) 日本に分布するバッタの中では最大種で、斜め上に尖った頭部が特徴である。
  •  
  • トノサマバッタ

同じ部首を持つ漢字     凰、隍、蝗、篁
漢字「蝗」を持つ熟語    飛蝗、蝗害




引用:「汉字密码」(Page、唐汉著,学林出版社)
唐漢氏の解釈
  甲骨文と金文の「蝗」の字は象形字で、触覚と翅と足から成っている。蝗の各部分は全て具備している。小篆の蝗の字は虫と皇とからなり、会意兼形声字である。

古文字中「皇」と「王」の字はみな大きく強勢な意思を持っていた。イナゴの大軍が移動するとき天を覆い日を遮り、常々広いスペ-スをカバーし、人々は蝗の壮大な勢いに恐れをなし、蝗と名付けました。このほか蝗と同類で形も似た蚱蜢(ショウリョウバッタ)は突然発作のように猛烈に繁殖するという意味の突然変異の意味を持つ。ここで漢字の「蚱」は(急に出てくるという意味を持つ)。

 蝗の突然の発作で、農作物に災害を及ぼし、中国の歴史上でも害は大きい。甲骨文の中にも神に助けを求め、この害を取り除くよう求めたという記録があります。ということは今から3500年前~4000年前にはすでに蝗の被害は人々の生活に重大な影響を及ぼしていたことになります。



漢字「蝗」の漢字源の解釈
 会意兼形声:虫+音符「皇」(四方に広がる)


現代漢語中の漢字「蝗」
 現代漢語中、人の貪り食うさま、丸のみをするさま、きれいさっぱり一掃するようなとき、腐敗した役人が国境を超えるとき、地を三尺も削るとき等が、蝗の越境と例えられます(皮肉を交えて?)


まとめ
 甲骨文字の時代に、蝗の被害の被害の記述があったということは、その時代既にそれなりの農業が発達していたことの裏返しでもあります。
 しかし今日の蝗の被害は飛躍的に増大していることでしょう。また近年その被害が甚大となっている背景には、地球温暖化があるといわれております。温暖化の結果砂漠化が進み、蝗が飢餓と飽食のサイクルを繰り返すことで、爆発的な繁殖を生み出すことになっています。私たちは地球温暖化を防止すると同時に蝗の食材化と開発も同時に進めなければなりません。

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2021年9月17日金曜日

漢字の成り立ちと由来:漢字「盃、和」の成り立ちはほぼ同じ。「盃と和」が同じ意味であったとは新たな発見であった


漢字「盃」の成り立ちの意味するもの。日本では「盃を交わす」という言葉があるが、実は相和すということであった
 漢字「盃」は古代は「盉」と書いた。「禾」+「皿」の会意文字である。五穀を表す「禾」を「皿に入れる」というのが、素直な文字の解釈である。

 五穀で作った羹ものであろうという解釈が大方のものであるが、羹は同時に酒であったかもしれないという想像力は働く。盃は早くからあったのではないだろうか。

 聖徳太子の言ったといわれる「和を以て貴しとなす」という言葉の真意は、「盃を交わして親しくなろう」と同じことだったのかも知れない。

 今日は自民党の総裁選の出陣式が行われていたようだ。従来なら盃を掲げて、気勢を上げるという風景もこのコロナ禍で様変わりをしたようだ。
 しかし、おそらく2000年以上続いたこの文化的風習も形式こそ変わりつつあるものの、その精神的構造は変わっていない。そろそろ、変わる境目にいるのかも知れない。


左は漢字「盃」の楷書で、常用漢字です。
 右側は古代青銅製の酒燗器で、中国語では(he)と発音します。
日本語ではさかずきとして「杯」がもっぱら使われる。
盃・楷書
古代青銅製の酒燗器




  
古代文字「禾」古代文字「皿」
古代文字「盉」・「盃」とも書く


    


「盃」の漢字データ
 

漢字の読み
  • 音読み   ハイ パイ
  • 訓読み   さかずき

意味
  • さかずき。酒を飲むためのうつわ。
  • 容器に入れた液体などを数える語
  • たこ・いか・あわびの数詞

熟語   金盃・銀盃、乾盃、玉盃、献盃




引用:「汉字密码」(P668、唐汉著,学林出版社)
唐漢氏の解釈
 盉これは会意形声文字である。金文の「盉」の字は禾と皿から出来ている。皿はここでは代表的な食器である。禾は代表的な農作物の穀実である。両形の会意で、五穀は肉の羹の味を中和するか或いは程度を表す。小篆の字は金文を受け継ぎ、楷書はこの関係で盉と書く。 

 「盉」と「和」は同じ音を持って意味も近い。(金文の形態は十分似かよっている、両者は本義は同じ語源でありうる)この為に人々は「和」を仮借して「盉」の調味の意味を表示した。

 「和」の字は均しく調味を示している。調味はまた混ぜ合わせる意味が出てくる。液体中に粉や個体を混ぜ合わせることを表示している。混ぜて面状にする、あるいはどろどろにする。糖を加えて和える。


「盃」と「和」は、中国語での読みは近い。調味という意味から
和えるという意味も出てきて、使い方も同じようなものである。

漢字「盃」の漢字源の解釈
 会意兼形声。「不」は花の下の丸く膨らんだガク。または蕾を描いた象形字。杯は「木」+「不」でふっくらと膨らんだ形の噐。



漢字「和」の漢字源の解釈
 会意兼形声。「禾」は粟の穂の丸くしなやかに垂れた様を描いた象形文字。窩とも縁が近く、角が立たない意を含む。



まとめ
 古代の人々が実に闊達に想いを巡らせ、認識を発達させたかの後付けができて実に楽しい。



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