2021年8月26日木曜日

漢字「欠」の成り立ちと由来の秘密:「欠」の原義が「欠伸(あくび)」とは、いささかしまらない話


漢字・欠の成り立ちと由来:古代では欠伸をすることを表していた
 「欠」の字は、古くは欠伸の意味に用いられた様です。ところが現代では、「欠乏」の意味に用いられています。白川博士は「字統」の中で、形声:旧字は「缺」に作り「夬」声。缶は瓦器、「夬」は切断することで、説文に「器破るる也」とある。夬声に従うものは概ね缺失の義がある。今欠を缺の常用字とするが、欠は欠伸、背伸びをして欠伸をすることの意で、缺とはことなるとしており、甚だややこしい。

 ここでは現代の解釈に従わざるを得ないが、甲骨文字の時代には、全く異なる使い方をしていた事だけに留める。全く欠伸の出る議論である。 


漢字「欠」の楷書で、常用漢字です。
 現代ではあるものがなかったり、欠乏したりする意味に用いますが、象形文字や金文、小篆などの字形を見る限り、「欠乏する」という意味はどうしても窺い知ることはできません。確かに無いものを表現するのはむつかしい。認識の問題が存在するのかも知れません。
欠・楷書


  
欠・甲骨文字
人が口を大きく開けた状態を描写してます
欠・金文
甲骨文字を基本的に引き継いでいますが、人がひざまずいた姿勢から立位に変化しています。
欠・小篆
口気を吹き、言葉を発して歌い、叫ぶときの形であるとするが、抽象化されているのだろうか


    


「欠」の漢字データ
 

漢字の読み
  • 音読み   ケツ
  • 訓読み   かける

意味 
  • かける(かく)」(旧字:缺)  あるべきものがない。
     全体の一部が足りない(欠乏)
  •  
  • かけ  (同意語:缺)・・不足、不備
    定員などの空き、欠員
  •  
  • あくびする・・例:欠伸

漢字「欠」を持つ熟語    欠乏、欠落、欠席、欠如、欠伸




引用:「汉字密码」(Page、唐汉著,学林出版社)
唐漢氏の解釈
 「欠」は象形文字です。甲骨文の「欠」は人が欠伸をする様子です。金文と小篆、楷書の「欠」の字は変化しグラフィックテキストからブロックおよびシンボル化への漢字の進化プロセスが再現され、段階的な変更プロセスはかなり明確です。

 「欠」は説文で「欠、あくびの時の声なり」としています。口を開け欠伸をする

 欠の本義はあくびが出るとき、腕と腰を伸ばします。「わー」という言葉の証拠。このことから「欠」の字は身体の一部をのびのびと上に伸ばし、まるで体や脚が欠けたかのようです。 

 


漢字「欠」の字統の解釈
 字統P254(ケン、ケツ あくび)
象形文字:前に向かって口を開く形。口気を吹き、言葉を発して歌い、叫ぶときの形である。 この字は欠伸の意に用いる。説文に「口を張りて、気を悟るなり」とは欠伸のことであるらしい」   

字統では先の解釈とは全く異なる解釈を呈示でいている
形声:旧字は「缺」に作り「夬」声。缶は瓦器、「夬」は切断することで、説文に「器破るる也」とある。夬声に従うものは概ね缺失の義がある。今欠を缺の常用字とするが、欠は欠伸、背伸びをして欠伸をすることの意で、缺とはことなる。 


まとめ
 「欠」は現代普通に使われている使い方と異なる使い方・意味に古代では使われていたようだ。即ち今では痕跡として残っている欠伸の使い方が主なものではなかっただろうか。唐漢氏は「欠の本義はあくびが出るとき、腕と腰を伸ばします。「わー」という言葉の証拠。このことから「欠」の字は身体の一部をのびのびと上に伸ばし、まるで体や脚が欠けたかのようです。」としていますが、後付けのような気がしてなりません。



「漢字の起源と成り立ち 『甲骨文字の秘密』」のホームページに戻ります。

2021年8月22日日曜日

漢字「到」の成り立ちと由来:矢が到達した場所に人が到達することが原義である。しかし人間の認識が共通の認識に至るまでにどのくらいの時間が必要だったのか


漢字「到」の成り立ちと由来:矢が到達した場所に人が到達することが原義である。共通の認識に到達し合意に至るのは簡単ではないとアフガンの情勢から思い知る昨今である。


漢字「到」の楷書で、常用漢字です。
 左側は「至」で、右は「立刀」で語義は、到達するということです。
 「到」と「至」は到達することをいい、この為2文字は互いに読み合うことも可能で、説文は「到」は至なりとしています。
 「至」は事物の到達することを表し、「到」は専ら人が到達することをいいます。
到・楷書


  
到・甲骨文字
左辺は「至」という字で、右辺は跪いた人が横から見ている形です。
到・金文
将に跪いた人が直立した形です。
到・小篆
刀を持って人が到達したことの会意文字です


    


「到」の漢字データ
 

漢字の読み
  • 音読み   トウ
  • 訓読み   いた(る)

意味
     
  • いたる。行き着く。目的地に達する。・・他の意味、用法は基本的にこの意味から派生している
  •  
  • 至りつくす。極みに至る。「到底・到頭・味到」
  •  
  • 心配りが行き届く。

同じ部首を持つ漢字     到、至、倒、室、窒
漢字「到」を持つ熟語    到着、到達、殺到、周到、到来、到底




引用:「汉字密码」(Page、唐汉著,学林出版社)
唐漢氏の解釈
 「到」の右半分の形の変化は十分典型的です。十分な説明となっており象形文字が、漢字の歴史學の中ではこうした変異は間違っているというものも少なからず見られることです。

 「到」と「至」は到達することをいい、この為2文字は互いに読み合うことも可能で、説文は「到」は至なりとしています。

 


漢字「到」の字統の解釈
 字の初形は至と人に従う。至は矢の到達するところ、そこに人の立つ形である。「説文」に「至なりと訓し、刀声の字とするが、金文の字形は人に従う字を作る。到達と致送ともと同系の語より分化したものと思われる。


参考ページ
漢字「至」の起源と由来


まとめ
 「一見は百聞に如かず」という諺がある。確かにこの「至・到」にしても、原字を見ればその意味するところはたちどころに分かる。では、何故象形文字やエジプトのヒエログラフのような文字を人類は使わなかったのだろう。漢字やエジプトのヒエログラフなどは、稀有の文字体系である。どうして表音文字が優勢であったのか。人間の認識の発達に重要なヒントが隠されているような気がする。



「漢字の起源と成り立ち 『甲骨文字の秘密』」のホームページに戻ります。