2020年8月29日土曜日

漢字「退」の成立ちと現実の「退」の姿を振り返る・・退職・退任


漢字「退」の成立ちと現実の「退」の姿
退職代行業
 最近、「退職代行業」という仕事が繁盛しているという。これは、新入社員が自分のきいていた条件と現実が違うので、それも、就職して間もない新入社員が、自分の退職の申請をなり替わって業者が代行する業務だという。
 私はこの業務にものすごく違和感を感じる。満を持して決断した筈のことを少し?の条件の食い違いがあったにせよそれほど簡単に手放していいのだろうか? しかも自分が相手方ときちんと話して詰めもせず、他人に任せていいのだろうか。

退任と辞任
2020年8月28日 安倍首相が記者会見で、首相を辞任すると発表した。首相としての任を退くことになった。

このことの評価は別として、同じような言葉に退任がある。では辞任とはどう違うのだろうか。辞書を引いてみた。大辞林によると、退任とは、今までついていた任務から退くこととある。

では辞任とは「職務を自分から辞めること」とある。退任と辞任は自らの意志を強調する度合いの違いということといえそうだ。

 さらに、辞職という言葉があるが、これは職を辞するということで、もうひとつ重い言葉だ。ある職の上に立った、任務を辞するのが辞任で、職とはおのずから異なる。




引用:「汉字密码」(P115、唐汉著,学林出版社)
漢字 退の各種書体
漢字・退には甲骨文字・金文は見当たらない

唐漢氏の解釈
 「退」は会意文字です。古代中国の「退」では、左上は道路を示し、その右は目標を示し、直ぐ下には離開を示す記号があります。そして下部は足を示す小さな「止」があります。全体としては、人の「逆行して離れる」ことを表現しています。

 字体には逆行があるため、小篆は、省略し退と書きます。隷書は変化の過程で訛が発生していますが、目標を意味する記号「日」と逆行を意味する記号とごちゃ混ぜにして楷書では「退」と書きます。



漢字「退」の字統の解釈

 「退」は日と彳とスイと呼ばれる後ろ 向きの足とからなる。日は毀キとよばれる祭器の形を略したもの。スイは後ろ 向きの足で、彳と併せて、辵の逆行の形となる 。すなわち字は撤饌の形、神に供えたものを下げる意である。



「退」の使われ方
 「退」の本義は逆行して離れることです。倒行退出は、また後ろ向きに移動することから后退、退兵之計、 退却 " 等のように使われ、また後退から拡張して離れることから退場、退位 " 等といいます。さらに拡張され減衰下降の意味で「退色、衰退、後退」などのように、それはまた、後退、長期にわたる後退という意味で、「引退、後退、後退」などにも拡張されます。





結び
 安倍首相の辞任には、いろいろの評価、憶測が飛んでいる。外国の首脳は、一般的には外交辞令をたっぷり含ませたコメントを発表しているが、当該国の国民としては、儀礼的な評価で終わらせるわけには行かない。このサイトの彼に対する評価はここで取り上げた漢字「退」そのものであるといいたい。つまり前向きであるものが何一つ見つからないのが残念だ。



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2020年8月28日金曜日

漢字「印」:人を力で押さえつけ仰臥させる行為を「印」という


印:人を力で押さえつけ仰臥させる行為
 われわれ日本人にとって、印と聞いて、まず頭に浮かぶのは、対馬で発見された金印であろう。
 漢委奴国王印は、日本で出土した純金製の王印(金印)である。国宝に指定されている。

 金95%、銀4.5%、重量108.73gの金印は、金が1グラム7320円から換算すると、79万2千円となるが、歴史的な価値は値段がつかない。




引用:「汉字密码」(P115、唐汉著,学林出版社)
唐漢氏の解釈
 「印」という言葉は、会意文字です。甲骨文の左上には大きな手があり、右には左に向いた小さな人が跪いている人、つまり手が小さな人圧服している形です。

 金文は更に明らかになって、上面の大きな手が下の人を押し下げ腰と背中を90度曲げざるを得ないようにしている。したがって、「印」という単語は「抑」という単語の元の文字です(「印」と「抑」の古代の音も通じています)。

 小篆の上部が手(爪)となり、人(下部)は人の形「卩」(セツと読む)に変じます。

 楷書は将に手(爪)を左に、人は右に受けて「印」と書きます。



印の本義は、また如何に使われたか
 「印」という言葉は「按」です。 「押す」の按から派生して人々は押さえつけられるものを「印」と呼びました。

 秦王朝以前は「印」は皆「璽」と呼ばれていましたが、秦始皇帝は「皇帝」の「印」のみを「璽」(xI)と呼ぶことができ、官民が使用する図章を「印」と呼びました。

 それ以来、漢代には「印章」という名前が登場し、「印章」が印刷に拡張されました。また痕跡を表示して「脚印、熔印」などもといいます。図章と印主を照合すること、また長く符合することを「心心 相印」などの言葉で言います



字統の解釈
 印という字について 手を以て人を抑え 仰臥させる意味である説文には 爪と卩とに従って、卩を押捺する意と解している。しかし卩は仰臥する人の形である。

 抑える人よりいえば抑、臥する人より言えば その臥するものに手を加えるのは印、印と抑とは頭音が同じく双声の語である。




結び
 刻印、印刷、印象のいずれの「印」も押さえつけるという意味を含んでいる。



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