2012年6月6日水曜日

「夷」の漢字の起源と由来:「夷」は中国東部の民族が使っていた狩猟用具

中国では昔日本のことを夷人とよんだ

中国では日本のことを「倭」と呼んでいた。また「夷人」ともいう。この夷人は時には東の方の夷人という意味で「東夷」とも呼んでいた。この「夷」という意味は「野蛮」という意味であり、要は「野蛮人」ということであろう。この漢字は日本に対する侮辱であると論調もあるが、物事には歴史的経緯があり、太古の昔の話を現代の尺度でとらえてはいけないと思うのだが・・。もっともこの漢字を未だに用いるとすれば、太古の話を現代の尺度にあてはめようとするもので、逆に時代錯誤というそしりを受けるだろう。

日本で使われた「夷」という漢字の歴史
 日本でもこの漢字は古くから使われてきた。

  • 皇極天皇の時代、蘇我蝦夷という名の豪族が大和朝廷で力をふるう。
  • 大化の改新後大和朝廷は蝦夷を異民族とにみなし、征討の対象としている。
  • 658年阿倍比羅夫が蝦夷の征討開始
  • 平安初期、坂上田村麻呂、征夷大将軍の称号を受け、蝦夷征伐に赴く
 以降源頼朝以来、武家の棟梁として、征夷大将軍の称号は定着し、明治維新まで続く。古代、中国で日本のことを「東夷」と呼んだことは非難できるものではない。力関係からすればある意味当然だろう。

「夷」という漢字の起源と由来

 さて、本題の漢字の由来について調べよう。今日は「夷」である。

「夷」は綱が付いた矢のこと
 「夷」、これは象形文字である。甲骨文字で「夷」の字の矢の字の上「缴」(いぐるみ:矢に糸をつけて発射し鳥を絡め落とす狩猟具に用いる糸)が付け加えられている。即ち矢の端に細い縄が付いていて、飛んでいる鳥を射殺すのに用いる。
小篆の夷の字は最上部に横一線、元々矢頭が長い。楷書は金文を受け継いでいて、「夷」と書き既に矢の形象は失われている。

「夷」は中国東部にすむ民族が使っていた狩猟用具・・縄の付いた矢

 尻尾に縄の付いた夷は飛ぶ鳥を射穫する。的中した鳥は早く探し出せる。若し的中しない場合でも夷は縄を持っている為、湖沼にあったり草むらから探して回収するのに便利である。この種の矢は東部にすんでいた先民の発明である。渡り鳥が集い、沼沢に集まる環境から、この種の工具を算出する原動力になる。
  歴史上典籍では通常東部のこの民族を「夷人」とか「東夷」と呼んでいた。《説文》では「夷は東方の人なりとある。後日「夷」は少数民族を指すのに用いられた。「夷は殺すこと」と言っている。「夷」は動詞として用いられ、平たくする、平定するの意味である。また拡張され名詞の「峻嶮」に対し、「平坦」という意味に用いられる。

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2012年6月3日日曜日

尿の原義は「立ち小便」:漢字の起源と由来

古代人の感性

 古代の文字を見ていて、中国の古代人の描写能力と感性にはつくづく感心する。おそらく日本人もそうであったろうが、人間の能力や感性が、人間が社会で生活するようになってから急速に減退したのではないかと思う。
  ここに上げる「尿」や「屎」は、一見しただけで「そのまんまじゃないか」と感じるものなのだ。少し前に触れた「乳」という字もそうであったし、「孕」という字も実に言い得て妙があるものだ。

「尿」原義は立ち小便
   尿は象形文字である。甲骨文字の尿の字は、まるで一人の横向きに立った人が体の前に3点の尿線を噴出していることを表示している。一人に男性が立って排尿をしている意味である。但しこの絵からはこの「人」が男性であるかないかは判断のしようがない。むかしフランスの貴族の女性も、あのふわっとしたスカートの中へ出していたということもあり、中国の上古の女性が立ったまま用を足したということも十分あり得るのだ。(もっともこの点に関しては単なる想像の世界であり、もっと調べてみたい。)

 先民が野蛮な時代が終わって、後世の儒家はこの字を見て品がよくないと感じるだろう。因みに小篆では尾と水の会意で、排尿をしている動作を表している。実際上、この図はさらに母畜がさん尿をしている情景に非常に近いが、甲骨文字ほど明白で直接的ではない。図の示すところによれば、小篆の尿は甲骨文字の造形とは同じではないが、但し意味と文字の本義は完全に同じである。


屎の原義は糞便:字はそのまんま


  「屎」も象形文字である。まるで一人の人が跪いて大便をしている形である。人形の尻の部分の下から何点か小さい点は肛門から出てきた排泄物を表している。 

 このため、屎の本義は糞便である。


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